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第二機
寝起き
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篤の部屋は無駄なものが一切なかった。まるで生活するためと武器を整備するだけの無駄のない個性の感じられない部屋だった。
だからか、ツバキは一瞬入るのを躊躇った。兵士の部屋――生活感の全くないこの空間はその言葉があまりにもしっくりくる。
篤がこんな空間にしているのには何か意味があるのではないかと考えさせる。
しかしそんな空間にもひとつだけ生活感があった。それは武器を整備する机の上にある三つの写真。
緊張が解けて部屋の中へと入る。
写真には少しばかり若い穂摘さんと篤が映るものや外で食事をしているサクラの写真と、見知らぬ男の人と肩を組む篤の写真があった。
でもその中には家族らしき写真がなかった。写真を撮ったことがないのか、それとも意図的に飾っていないのか定かではないもののツバキは少し寂しくなった。
鉄製のベッドに横になる篤に目を向けながら――
(この人の幸せは何なのかな……? どこか陰りを感じる。この人はあまりにも上手に人と距離をとるから気づけない。この人は癒せない傷がいくつもあることに。すべてとまではいかないにしても癒してあげたい。癒せなくとも一緒に背負いたい。でもそれは……たかが一昨日会ったような私がしていいことではない。慎まないと)
篤を起こすためにベッドの元へと行ってしゃがむ。
顔を覗き込むと、寝顔が子供っぽくてつい笑顔になってしまう。
(寝顔を見て笑ったなんて知ったら、さっきの私がしたみたいに怒るかも……)
「篤さん……起きてください。朝ですよ。早く起きて朝ご飯を食べないと仕事に送れちゃいますよ」
声をかけたものの全く反応がない。
ツバキは第二段階へと移行した。
「篤さん。起きてください」
肩を揺らしながら声を掛けると篤は薄っすらと目を開けてツバキを見る。見たところ八割夢の中といった感じだ。
篤の表情は卵から生まれた鳥が初めて母親を見るようで、釘付けとなる。そんな篤は口をゆっくりと動かし始めた。
「おは……よう? 今日も……綺麗だね」
ツバキの頭を撫でながら篤は柔らかな笑顔を見せる。初めて見る表情にツバキはドッキッとする。何より綺麗だと言われたことなど一度もなかったためツバキの感情メーターは融点に達した。
「なッ……何を言っているんですか⁉」
「何って……見たままの感想だ。ん? 運動でもしてきたのか?」
ツバキの首元に顔を使づけてすんすんと匂いを嗅ぐ仕草をする。
ツバキは融点を通り越して沸点へと到達。あらゆる感情が交差、混じり合って正しい形を形成しない。
「汗の……匂いだ。女性らしい匂いに混ぜって……嫌いじゃない」
と篤はツバキにトドメを刺した。
ツバキは寝ぼけている篤を押し倒して、お風呂場へと直行した。
だからか、ツバキは一瞬入るのを躊躇った。兵士の部屋――生活感の全くないこの空間はその言葉があまりにもしっくりくる。
篤がこんな空間にしているのには何か意味があるのではないかと考えさせる。
しかしそんな空間にもひとつだけ生活感があった。それは武器を整備する机の上にある三つの写真。
緊張が解けて部屋の中へと入る。
写真には少しばかり若い穂摘さんと篤が映るものや外で食事をしているサクラの写真と、見知らぬ男の人と肩を組む篤の写真があった。
でもその中には家族らしき写真がなかった。写真を撮ったことがないのか、それとも意図的に飾っていないのか定かではないもののツバキは少し寂しくなった。
鉄製のベッドに横になる篤に目を向けながら――
(この人の幸せは何なのかな……? どこか陰りを感じる。この人はあまりにも上手に人と距離をとるから気づけない。この人は癒せない傷がいくつもあることに。すべてとまではいかないにしても癒してあげたい。癒せなくとも一緒に背負いたい。でもそれは……たかが一昨日会ったような私がしていいことではない。慎まないと)
篤を起こすためにベッドの元へと行ってしゃがむ。
顔を覗き込むと、寝顔が子供っぽくてつい笑顔になってしまう。
(寝顔を見て笑ったなんて知ったら、さっきの私がしたみたいに怒るかも……)
「篤さん……起きてください。朝ですよ。早く起きて朝ご飯を食べないと仕事に送れちゃいますよ」
声をかけたものの全く反応がない。
ツバキは第二段階へと移行した。
「篤さん。起きてください」
肩を揺らしながら声を掛けると篤は薄っすらと目を開けてツバキを見る。見たところ八割夢の中といった感じだ。
篤の表情は卵から生まれた鳥が初めて母親を見るようで、釘付けとなる。そんな篤は口をゆっくりと動かし始めた。
「おは……よう? 今日も……綺麗だね」
ツバキの頭を撫でながら篤は柔らかな笑顔を見せる。初めて見る表情にツバキはドッキッとする。何より綺麗だと言われたことなど一度もなかったためツバキの感情メーターは融点に達した。
「なッ……何を言っているんですか⁉」
「何って……見たままの感想だ。ん? 運動でもしてきたのか?」
ツバキの首元に顔を使づけてすんすんと匂いを嗅ぐ仕草をする。
ツバキは融点を通り越して沸点へと到達。あらゆる感情が交差、混じり合って正しい形を形成しない。
「汗の……匂いだ。女性らしい匂いに混ぜって……嫌いじゃない」
と篤はツバキにトドメを刺した。
ツバキは寝ぼけている篤を押し倒して、お風呂場へと直行した。
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