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第4話:司教の陰謀
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あたしが荷車を運んでいると、町の通りでジョヴァンニが大勢の人をつれて歩いているのに出くわした。
「やあ、レーナ。久しぶりだね」
ジョヴァンニの方から声をかけてきた。
ニコニコと微笑んでいる。
澄みきった瞳。
宗教にのめり込んで、世俗から離れた人はこういう目をしているのかなあとあたしは思った。
「君も僕たちの教会に来ないか」
「……あたしは、今、仕事が忙しいから」
「そうなんだ。君の仕事の邪魔をしちゃいけないな。けど、いつでも歓迎するよ。僕たちの仲間に入ってもいいよ」
誰が入るかよと思ったが、ジョヴァンニの後を楽しそうについていく人たちを見て、少し羨ましくも感じた。
仕事を終えて、粗末な自分の家に帰る。
家にある唯一の銀製の小さい皿で自分の目を映してみた。
すっかり濁りきった目。
ジョヴァンニの教会に行く資格なんてないなあとあたしは思った。
……………………………………………………
ある日、あたしが町の教会の礼拝に行くと、金持ちたちはいつもの通り前方にいるが、貧しい人たちが全然いない。みんな、ジョヴァンニたちの教会へ行っているそうだ。金持ちの中にもジョヴァンニたちの方にお供え物を持って行ったりしている人が出てきているみたい。
あたしはジョヴァンニたちの教会なんかへ行くつもりは毛頭ないけどね。あたしを汚物まみれにしてあざ笑った連中の説教なんて誰が聞くもんか。みんながジョヴァンニの方へ行って、あたし一人になっても、絶対に行かないわ。
司教の説教が、がらんとした教会に空しく響く。
こんな腐敗した司教の空疎な説教を聞くくらいだったら、ジョヴァンニの教会に行ったほうがいいと思う人たちが出てくるのも理解できる。
それでも、あたしはジョヴァンニたちの説教なんて聞きに行かないけどね。
教会の後方をちらりと見て、貧しい階級の人たちがほとんどいないのを確認して、司教がイライラしているのがわかった。
……………………………………………………
その日の夕方。
あたしが無縁墓地で、町で行き倒れになった人を埋葬して一息ついていると、二人組の男たちがやって来た。
こんな場所、めったに人が来ないのだけど。
墓あらしかと思って墓石の陰に隠れる。
よく見ると、やって来たのは司教ともう一人は町一番の大金持ちの有力者だった。
この有力者の男は、町の行政官に任じられていたはずだ。
司教が行政官にひそひそと話しかけている。
「ジョヴァンニたちはけしからん。見せしめに、あのような者たちは全員火あぶりにすべきだと思う。あの教会も破壊してやる。軍隊を出す準備をしよう」
行政官は困惑している。
「司教様、いくらなんでも火あぶりは過激すぎやしませんか。それにジョヴァンニたちの教会にはかなりの人々が集まって来ていて、それなりに支持を得ているようです。けっこうな騒ぎになるんじゃないでしょうか。そうすると教皇庁にも話が伝わって、我々にも何かしら不都合な結果になるかもしれません」
「いや、彼らは異端だ。やむをえん。悪魔の使徒は火あぶりにするしかない」
司教の言葉にあたしは驚いた。
ジョヴァンニたちを火あぶりにするつもりなのか。
けど、軍隊なんかに勝てるわけがない。
どうにかしてジョヴァンニたちを助けないと。
何かいい方法はないかと、あたしは、しばらく考えてある事を思いついた。
隠れていた場所から、二人の男の前にゆっくりと進み出て話しかけた。
「あの、司教様。あたしに良い考えがあるのですが」
いきなり現れたあたしに二人はうろたえているようだ。
行政官に聞かれる。
「お前は何者だ」
「この無縁墓地で埋葬の仕事をしているものです」
あたしの返事に行政官が怒り出した。
「お前のような下賤の者が司教様に話しかけるとは、この無礼者が!」
「申し訳ございません」
あたしは膝まづいて謝罪した。
怒っている行政官を抑えて、司教があたしに話しかける。
「良い考えとはどのようなことだ」
「軍隊が教会を破壊するのはまずいのではないでしょうか。司教様やこの町の行政官様に責任がいくかもしれません。もし教皇庁に知られたら、ジョヴァンニたちが勝手に作ったとは言え、教会を壊した件をとがめられる可能性もあります。そこで、あたしが仲間を募って教会の建物を壊します。そうすれば司教様たちに教皇庁が難癖をつけてくることもないと思います。教会がなくなればジョヴァンニたちも、一旦、おとなしくなるんじゃないでしょうか」
司教は少し考えた後、ニヤニヤと笑いながら言った。
「ならず者たちが勝手に教会を壊したことにすれば、我々には全然関係ないことになるな。それはいい考えかもしれん。とりあえずそれで様子を見るとするか」
司教は再び行政官の男と相談した後、無縁墓地を去っていく。
行政官は、金貨を何枚かあたしが膝まづいている場所にゴミのように放った。
「これが支度金と礼金だ。せいぜい頑張れよ」
あたしは屈辱を感じながら金貨を拾った。
そんなあたしを軽蔑のまなざしで見る行政官の男。
「ふん、下賤の者が」
男が去り際にあたしに向かって言った。
「私と司教がジョヴァンニたちを火あぶりにしようと話していたことを、もし他人に喋ったら、お前には死んでもらう。火あぶりみたいに大勢の前で見せしめに殺すことはしない。秘密裏に汚物置き場で死んでもらうとするかな。下賤の者にふさわしい死に場所だな。誰も気にしないだろう。それが嫌だったら、絶対に他人には言わないことだな。胆に銘じておけよ」
「やあ、レーナ。久しぶりだね」
ジョヴァンニの方から声をかけてきた。
ニコニコと微笑んでいる。
澄みきった瞳。
宗教にのめり込んで、世俗から離れた人はこういう目をしているのかなあとあたしは思った。
「君も僕たちの教会に来ないか」
「……あたしは、今、仕事が忙しいから」
「そうなんだ。君の仕事の邪魔をしちゃいけないな。けど、いつでも歓迎するよ。僕たちの仲間に入ってもいいよ」
誰が入るかよと思ったが、ジョヴァンニの後を楽しそうについていく人たちを見て、少し羨ましくも感じた。
仕事を終えて、粗末な自分の家に帰る。
家にある唯一の銀製の小さい皿で自分の目を映してみた。
すっかり濁りきった目。
ジョヴァンニの教会に行く資格なんてないなあとあたしは思った。
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ある日、あたしが町の教会の礼拝に行くと、金持ちたちはいつもの通り前方にいるが、貧しい人たちが全然いない。みんな、ジョヴァンニたちの教会へ行っているそうだ。金持ちの中にもジョヴァンニたちの方にお供え物を持って行ったりしている人が出てきているみたい。
あたしはジョヴァンニたちの教会なんかへ行くつもりは毛頭ないけどね。あたしを汚物まみれにしてあざ笑った連中の説教なんて誰が聞くもんか。みんながジョヴァンニの方へ行って、あたし一人になっても、絶対に行かないわ。
司教の説教が、がらんとした教会に空しく響く。
こんな腐敗した司教の空疎な説教を聞くくらいだったら、ジョヴァンニの教会に行ったほうがいいと思う人たちが出てくるのも理解できる。
それでも、あたしはジョヴァンニたちの説教なんて聞きに行かないけどね。
教会の後方をちらりと見て、貧しい階級の人たちがほとんどいないのを確認して、司教がイライラしているのがわかった。
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その日の夕方。
あたしが無縁墓地で、町で行き倒れになった人を埋葬して一息ついていると、二人組の男たちがやって来た。
こんな場所、めったに人が来ないのだけど。
墓あらしかと思って墓石の陰に隠れる。
よく見ると、やって来たのは司教ともう一人は町一番の大金持ちの有力者だった。
この有力者の男は、町の行政官に任じられていたはずだ。
司教が行政官にひそひそと話しかけている。
「ジョヴァンニたちはけしからん。見せしめに、あのような者たちは全員火あぶりにすべきだと思う。あの教会も破壊してやる。軍隊を出す準備をしよう」
行政官は困惑している。
「司教様、いくらなんでも火あぶりは過激すぎやしませんか。それにジョヴァンニたちの教会にはかなりの人々が集まって来ていて、それなりに支持を得ているようです。けっこうな騒ぎになるんじゃないでしょうか。そうすると教皇庁にも話が伝わって、我々にも何かしら不都合な結果になるかもしれません」
「いや、彼らは異端だ。やむをえん。悪魔の使徒は火あぶりにするしかない」
司教の言葉にあたしは驚いた。
ジョヴァンニたちを火あぶりにするつもりなのか。
けど、軍隊なんかに勝てるわけがない。
どうにかしてジョヴァンニたちを助けないと。
何かいい方法はないかと、あたしは、しばらく考えてある事を思いついた。
隠れていた場所から、二人の男の前にゆっくりと進み出て話しかけた。
「あの、司教様。あたしに良い考えがあるのですが」
いきなり現れたあたしに二人はうろたえているようだ。
行政官に聞かれる。
「お前は何者だ」
「この無縁墓地で埋葬の仕事をしているものです」
あたしの返事に行政官が怒り出した。
「お前のような下賤の者が司教様に話しかけるとは、この無礼者が!」
「申し訳ございません」
あたしは膝まづいて謝罪した。
怒っている行政官を抑えて、司教があたしに話しかける。
「良い考えとはどのようなことだ」
「軍隊が教会を破壊するのはまずいのではないでしょうか。司教様やこの町の行政官様に責任がいくかもしれません。もし教皇庁に知られたら、ジョヴァンニたちが勝手に作ったとは言え、教会を壊した件をとがめられる可能性もあります。そこで、あたしが仲間を募って教会の建物を壊します。そうすれば司教様たちに教皇庁が難癖をつけてくることもないと思います。教会がなくなればジョヴァンニたちも、一旦、おとなしくなるんじゃないでしょうか」
司教は少し考えた後、ニヤニヤと笑いながら言った。
「ならず者たちが勝手に教会を壊したことにすれば、我々には全然関係ないことになるな。それはいい考えかもしれん。とりあえずそれで様子を見るとするか」
司教は再び行政官の男と相談した後、無縁墓地を去っていく。
行政官は、金貨を何枚かあたしが膝まづいている場所にゴミのように放った。
「これが支度金と礼金だ。せいぜい頑張れよ」
あたしは屈辱を感じながら金貨を拾った。
そんなあたしを軽蔑のまなざしで見る行政官の男。
「ふん、下賤の者が」
男が去り際にあたしに向かって言った。
「私と司教がジョヴァンニたちを火あぶりにしようと話していたことを、もし他人に喋ったら、お前には死んでもらう。火あぶりみたいに大勢の前で見せしめに殺すことはしない。秘密裏に汚物置き場で死んでもらうとするかな。下賤の者にふさわしい死に場所だな。誰も気にしないだろう。それが嫌だったら、絶対に他人には言わないことだな。胆に銘じておけよ」
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