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最終話:あんたは剣を持っていた方がかっこよかった
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数日後、あたしは数人の男たちを金で集めてジョヴァンニたちの教会へ向かった。
こいつらは、この町では乱暴者で知られた下層階級出身のろくでなしどもだ。
あたしの同僚もいる。
男たちに聞かれた。
「なんで急に教会を破壊するなんて思いついたんだよ」
「ちょっとした恨みがあってね。それにあいつら、なんだかむかつくじゃない」
「しかし、教会を破壊して罰せられないのか」
「町の金持ちどもは、ジョヴァンニたちの教会の活動に腹を立てているから大丈夫よ」
そして、あたしは全員に強く念を押した。
「目的はジョヴァンニたちの教会を破壊すること。但し、信者たちには絶対に手を出さない。わかったわね。連中も暴力は振るってこないはず。教義に反するからね」
一人の男が答えた。
「ああ、わかってるよ。俺も前々からあの連中、気に食わなかったんだ。もともと金持ちだったんだろ。何の資格もないのに偉そうに説教して、貧乏人からの寄付で食べてるなんて、いい気なもんだよな」
あたしたちは、荒れ地に立っている教会に近づく。
以前は廃墟同然だったが、今はちゃんと石が積まれて綺麗なこじんまりとした教会だ。
教会の扉の上部に泥を固めて造ったのか、へたくそな十字架像が飾ってある。
あたしは、教会の扉を乱暴に開いた。
すると、中には若い修道女が一人いるだけだ。
ジョバンニの姿がない。
その女に聞いた。
「ジョヴァンニはどこにいるの」
「今、ジョヴァンニ様たちは重い病気で森に追放された人たちのお世話に行ってますが、あの、何のご用でしょうか」
あたしは、教会の一番前にある祭壇へ近づく。
お供え物がたくさん置いてあった。
だいぶ信者が増えたみたいね。
粗末な蝋燭の燭台が置いてある。
それを取り上げて言った。
「あんたらの教えとやらがむかつくんでね。この教会を壊しに来たのよ」
あたしは思いっきり力を入れて、それを壁に投げつけた。
修道女はびっくりして教会から出て行った。
ジョヴァンニを呼びに行ったらしい。
それを見て、ならず者の一人が言った。
「あの女、けっこういい尻してたなあ」
「ちょっと、さっき言ったでしょ。信者たちは傷つけないって」
「ああ、わかってるよ」
供え物は全部窓から放り出してやった。
その後、男たちとあたしは一旦外に出て、教会の壁を破壊することにした。
持ってきた木材で壁を叩いてみたり、教会の天井に使われている石材を落としてみるが、なかなか崩すことが出来ない。
「けっこう頑丈だなあ」
「いっそ火でも点けちまえば」
あたしたちが相談していると、大男がなにごとかわめきながらこっちへやって来た。
見覚えがある。
たしか頭が弱いのでいじめられて、あたしらの仕事仲間から追い出された奴だ。
「きょ、教会を、こ、壊すな!」
そう叫んで、あたしらの破壊活動をとめようとする。
「なんだ、こいつは、あの頭の弱いやつか」
一人の男が落とした石材を放り投げる。
「ほら、お前の大事な教会の天井の石材だ」
大男がそれを追いかけるが、もう一人の男がそれを分捕り、他の奴にまた投げて渡す。
大男がいちいち追いかけるのが面白いのか、男たちがふざけて投げ合っているとさきほどあたしたちが壊そうとしていた付近に石材が落ちた。
大男が近づいて石材を掴もうとする。
その時、壁の一部が崩れてその男が下敷きになった。
まずいと思ったあたしが崩れた石をどけて大男を介抱するが、頭から血が流れている。
すでに死んでいた。
「やばい、死んでるよ、こいつ。これ罪に問われるのか」
「教会なんてどうでもいい、もう逃げようぜ」
男どもはさっさと教会から逃げて行った。
信者を傷つけるつもりはなかったあたしは、呆然と大男の死体を見つめていた。
遠くからジョヴァンニたちがこちらへ向かって走ってくる。
あたしはとっさに教会の陰に隠れて、こっそりと様子をうかがった。
ジョヴァンニたちが教会に到着すると、信者の一人が崩れた壁の近くで死んでいる大男を見つけた。
ジョヴァンニが、その死体にすがって泣いているのが見えた。
他の信者たちも悄然としている。
悪いことをしてしまったと思ったあたしは連中の前に出ることにした。
あの大男が死んだ責任を取らなければいけないと思ったから。
しかし、こいつらには絶対に謝りたくはない。
あたしが、ゆっくりと連中の前に現れると、あの修道女が叫んだ。
「あいつよ、あの女が男たちを引き連れて教会を破壊しにきたの!」
信者の一人に聞かれた。
「お前が殺したのか」
あたしはわざと憎まれ口を叩いてやった。
「人聞きの悪い事言わないでくれる。殺しなんかしてないわよ。あたしたちがふざけていたら、壁の一部が崩れて下敷きになっただけ。単なる事故よ。どうせそいつは何の役にも立たない奴だったんだから、死んでも何の問題もないでしょ。木偶の棒の馬鹿が一人いなくなったところでなんで騒いでんの。何の必要もない人間が死んであんたらも清々してんじゃないの」
大男にすがりついて泣いていたジョヴァンニがあたしを見る。
この前、会ったときのように澄んだ瞳じゃない。
その瞳は怒りと憎しみに満ちていた。
あたしは、腰のベルトに差していた仕事用のナイフを抜いた。
信者たちが騒然とするが、あたしは片手をあげて言った。
「別にあんたらを殺す気はないわ」
そして、ナイフの刃先を掴んで、柄の部分をジョヴァンニに向ける。
「その木偶の棒の仇を討ちたかったら、別にかまわないわ。このナイフをあげる。どうぞ、あたしを刺し殺したら」
ジョヴァンニはただ黙ってあたしを見つめている。
その瞳には、さきほどの怒りと憎しみが徐々に消え去り、憐れむような感じであたしを見た。
なんでそんな目で見るのよ。
怒りにまかせたジョヴァンニに刺し殺された方がまだましよ。
あたしを馬鹿にしているのか。
いらついたあたしは、思わず叫んだ。
「あんたは剣を持っていた方がかっこよかったよ!」
ジョヴァンニが立ち上がって、ナイフを掴む。
しかし、そのナイフをすぐに地上に捨ててしまった。
「レーナ、君の怒りはわかるよ」
「な、何を言ってるの」
「確か君が仕事をしているときに、僕たちは馬鹿にしたことがあるね。本当に悪いことをしたよ、許してくれないか」
ジョヴァンニがあたしの前にひざまずく。
「ちょっと、あんたは貴族でしょ。そんなことやめてよ、似合わないよ」
あたしがうろたえていると、ジョヴァンニが教会の扉の方に行って、上部に飾ってあった十字架像を外してあたしに渡した。
「レーナ、君は彼を役立たずと言ったがこれを見てくれないか。それは、彼が一生懸命作ったものなんだ。泥をこねて何度も失敗してやっと出来上がったんだよ」
このへたくそな十字架像はあの大男が造ったものだったのか。
「教会の扉の上に飾ったら、彼はものすごく喜んでくれた。僕たちも嬉しかった。彼は決して役立たずでもなく、必要のない人間じゃなかったんだよ。この世に必要のない人間なんていないよ」
渡された十字架像を持って、あたしは居たたまれない気分になった。
再び、ジョヴァンニがあたしの前にひざまずいた。
「君には謝罪したい。君の怒りに気づかなかった自分が恥ずかしいよ」
あたしがどうしようかと困っていると、信者の一人があたしに叫ぶ。
「ジョヴァンニが謝っているんだ。お前も我々の仲間を殺した責任を取るために謝れ!」
こいつはあたしが運んでいた家畜の糞が入った桶を蹴り落とした奴じゃないか。
ふざけんな!
「こんなのただの出来損ないでしょ!」
あたしはジョヴァンニの目の前で十字架像を地面に投げつけて、叩き割った。
それを見て動揺したのか、ジョヴァンニは教会の壁のがれきの側で座り込んでしまった。
そんなジョヴァンニにあたしは聞いた。
「あんた、こないだ誘ってくれたじゃん。これでもあたしをあんたらの仲間にいれてくれるのかしら」
彼はうつむいて黙っている。
他の信者から叫び声があがった。
「お前のようなろくでなしを仲間に入れるわけないだろ」
「さっさと帰れ!」
「この教会に二度と来るな!」
ジョヴァンニは何も言わず、うつむいたままだ。
「あたしには似合わない場所ってことね」
信者の敵意に満ちた視線を浴びながら、あたしはその場を立ち去ることにした。
しかし、あたしはジョヴァンニに大事なことを伝える必要があった。
教会から少し離れたところで、あたしは大声でジョヴァンニに呼びかけた。
「ジョヴァンニ! このままだと大変なことになるわよ。司教たちが密談しているのを聞いたのよ。あんたらを異端者として火あぶりにするって。このままだと、いずれは軍隊がやって来るわ。今のうちに逃げないと皆殺しにされちゃうよ!」
ジョヴァンニが顔を上げて答えた。
「レーナ、教えてくれてありがとう。感謝するよ」
しかし、信者たちは動揺しているようだ。
「どうすればいいのでしょうか、ジョヴァンニ様」
ジョヴァンニが少し考えた後、皆に言った。
「教皇様に会いに行こう。そしてこの教会の存在を認めてもらおう」
背後で信者たちが相談しているのを聞きながら、あたしは教会から離れて荒れ地を一人で歩く。
教皇になんて会えるのだろうか。
しかも、あの教会の存在を認めてもらうなんてことを。
しかし、ジョヴァンニなら出来るのではとあたしは思った。
ジョヴァンニの人生は栄光に包まれて、後世に語り継がれるんだろうな。
腐敗した教会に逆らって清貧を貫いた聖者として。
そして、行政官の男の言葉があたしの頭の中に浮かんできた。
『私と司教がジョヴァンニたちを火あぶりにしようと話していたことを、もし他人に喋ったら、お前には死んでもらう。火あぶりみたいに大勢の前で見せしめに殺すことはしない。秘密裏に汚物置き場で死んでもらうとするかな。下賤の者にふさわしい死に場所だな。誰も気にしないだろう』
汚物まみれで誰にも知られずに死んでいくのか。
それも運命なら仕方がない。
一人さびしく、荒れ地を歩きながら、ジョヴァンニの笑顔を思い出し、あたしは呟いた。
「今のあんたもかっこいいよ」
〔END〕
こいつらは、この町では乱暴者で知られた下層階級出身のろくでなしどもだ。
あたしの同僚もいる。
男たちに聞かれた。
「なんで急に教会を破壊するなんて思いついたんだよ」
「ちょっとした恨みがあってね。それにあいつら、なんだかむかつくじゃない」
「しかし、教会を破壊して罰せられないのか」
「町の金持ちどもは、ジョヴァンニたちの教会の活動に腹を立てているから大丈夫よ」
そして、あたしは全員に強く念を押した。
「目的はジョヴァンニたちの教会を破壊すること。但し、信者たちには絶対に手を出さない。わかったわね。連中も暴力は振るってこないはず。教義に反するからね」
一人の男が答えた。
「ああ、わかってるよ。俺も前々からあの連中、気に食わなかったんだ。もともと金持ちだったんだろ。何の資格もないのに偉そうに説教して、貧乏人からの寄付で食べてるなんて、いい気なもんだよな」
あたしたちは、荒れ地に立っている教会に近づく。
以前は廃墟同然だったが、今はちゃんと石が積まれて綺麗なこじんまりとした教会だ。
教会の扉の上部に泥を固めて造ったのか、へたくそな十字架像が飾ってある。
あたしは、教会の扉を乱暴に開いた。
すると、中には若い修道女が一人いるだけだ。
ジョバンニの姿がない。
その女に聞いた。
「ジョヴァンニはどこにいるの」
「今、ジョヴァンニ様たちは重い病気で森に追放された人たちのお世話に行ってますが、あの、何のご用でしょうか」
あたしは、教会の一番前にある祭壇へ近づく。
お供え物がたくさん置いてあった。
だいぶ信者が増えたみたいね。
粗末な蝋燭の燭台が置いてある。
それを取り上げて言った。
「あんたらの教えとやらがむかつくんでね。この教会を壊しに来たのよ」
あたしは思いっきり力を入れて、それを壁に投げつけた。
修道女はびっくりして教会から出て行った。
ジョヴァンニを呼びに行ったらしい。
それを見て、ならず者の一人が言った。
「あの女、けっこういい尻してたなあ」
「ちょっと、さっき言ったでしょ。信者たちは傷つけないって」
「ああ、わかってるよ」
供え物は全部窓から放り出してやった。
その後、男たちとあたしは一旦外に出て、教会の壁を破壊することにした。
持ってきた木材で壁を叩いてみたり、教会の天井に使われている石材を落としてみるが、なかなか崩すことが出来ない。
「けっこう頑丈だなあ」
「いっそ火でも点けちまえば」
あたしたちが相談していると、大男がなにごとかわめきながらこっちへやって来た。
見覚えがある。
たしか頭が弱いのでいじめられて、あたしらの仕事仲間から追い出された奴だ。
「きょ、教会を、こ、壊すな!」
そう叫んで、あたしらの破壊活動をとめようとする。
「なんだ、こいつは、あの頭の弱いやつか」
一人の男が落とした石材を放り投げる。
「ほら、お前の大事な教会の天井の石材だ」
大男がそれを追いかけるが、もう一人の男がそれを分捕り、他の奴にまた投げて渡す。
大男がいちいち追いかけるのが面白いのか、男たちがふざけて投げ合っているとさきほどあたしたちが壊そうとしていた付近に石材が落ちた。
大男が近づいて石材を掴もうとする。
その時、壁の一部が崩れてその男が下敷きになった。
まずいと思ったあたしが崩れた石をどけて大男を介抱するが、頭から血が流れている。
すでに死んでいた。
「やばい、死んでるよ、こいつ。これ罪に問われるのか」
「教会なんてどうでもいい、もう逃げようぜ」
男どもはさっさと教会から逃げて行った。
信者を傷つけるつもりはなかったあたしは、呆然と大男の死体を見つめていた。
遠くからジョヴァンニたちがこちらへ向かって走ってくる。
あたしはとっさに教会の陰に隠れて、こっそりと様子をうかがった。
ジョヴァンニたちが教会に到着すると、信者の一人が崩れた壁の近くで死んでいる大男を見つけた。
ジョヴァンニが、その死体にすがって泣いているのが見えた。
他の信者たちも悄然としている。
悪いことをしてしまったと思ったあたしは連中の前に出ることにした。
あの大男が死んだ責任を取らなければいけないと思ったから。
しかし、こいつらには絶対に謝りたくはない。
あたしが、ゆっくりと連中の前に現れると、あの修道女が叫んだ。
「あいつよ、あの女が男たちを引き連れて教会を破壊しにきたの!」
信者の一人に聞かれた。
「お前が殺したのか」
あたしはわざと憎まれ口を叩いてやった。
「人聞きの悪い事言わないでくれる。殺しなんかしてないわよ。あたしたちがふざけていたら、壁の一部が崩れて下敷きになっただけ。単なる事故よ。どうせそいつは何の役にも立たない奴だったんだから、死んでも何の問題もないでしょ。木偶の棒の馬鹿が一人いなくなったところでなんで騒いでんの。何の必要もない人間が死んであんたらも清々してんじゃないの」
大男にすがりついて泣いていたジョヴァンニがあたしを見る。
この前、会ったときのように澄んだ瞳じゃない。
その瞳は怒りと憎しみに満ちていた。
あたしは、腰のベルトに差していた仕事用のナイフを抜いた。
信者たちが騒然とするが、あたしは片手をあげて言った。
「別にあんたらを殺す気はないわ」
そして、ナイフの刃先を掴んで、柄の部分をジョヴァンニに向ける。
「その木偶の棒の仇を討ちたかったら、別にかまわないわ。このナイフをあげる。どうぞ、あたしを刺し殺したら」
ジョヴァンニはただ黙ってあたしを見つめている。
その瞳には、さきほどの怒りと憎しみが徐々に消え去り、憐れむような感じであたしを見た。
なんでそんな目で見るのよ。
怒りにまかせたジョヴァンニに刺し殺された方がまだましよ。
あたしを馬鹿にしているのか。
いらついたあたしは、思わず叫んだ。
「あんたは剣を持っていた方がかっこよかったよ!」
ジョヴァンニが立ち上がって、ナイフを掴む。
しかし、そのナイフをすぐに地上に捨ててしまった。
「レーナ、君の怒りはわかるよ」
「な、何を言ってるの」
「確か君が仕事をしているときに、僕たちは馬鹿にしたことがあるね。本当に悪いことをしたよ、許してくれないか」
ジョヴァンニがあたしの前にひざまずく。
「ちょっと、あんたは貴族でしょ。そんなことやめてよ、似合わないよ」
あたしがうろたえていると、ジョヴァンニが教会の扉の方に行って、上部に飾ってあった十字架像を外してあたしに渡した。
「レーナ、君は彼を役立たずと言ったがこれを見てくれないか。それは、彼が一生懸命作ったものなんだ。泥をこねて何度も失敗してやっと出来上がったんだよ」
このへたくそな十字架像はあの大男が造ったものだったのか。
「教会の扉の上に飾ったら、彼はものすごく喜んでくれた。僕たちも嬉しかった。彼は決して役立たずでもなく、必要のない人間じゃなかったんだよ。この世に必要のない人間なんていないよ」
渡された十字架像を持って、あたしは居たたまれない気分になった。
再び、ジョヴァンニがあたしの前にひざまずいた。
「君には謝罪したい。君の怒りに気づかなかった自分が恥ずかしいよ」
あたしがどうしようかと困っていると、信者の一人があたしに叫ぶ。
「ジョヴァンニが謝っているんだ。お前も我々の仲間を殺した責任を取るために謝れ!」
こいつはあたしが運んでいた家畜の糞が入った桶を蹴り落とした奴じゃないか。
ふざけんな!
「こんなのただの出来損ないでしょ!」
あたしはジョヴァンニの目の前で十字架像を地面に投げつけて、叩き割った。
それを見て動揺したのか、ジョヴァンニは教会の壁のがれきの側で座り込んでしまった。
そんなジョヴァンニにあたしは聞いた。
「あんた、こないだ誘ってくれたじゃん。これでもあたしをあんたらの仲間にいれてくれるのかしら」
彼はうつむいて黙っている。
他の信者から叫び声があがった。
「お前のようなろくでなしを仲間に入れるわけないだろ」
「さっさと帰れ!」
「この教会に二度と来るな!」
ジョヴァンニは何も言わず、うつむいたままだ。
「あたしには似合わない場所ってことね」
信者の敵意に満ちた視線を浴びながら、あたしはその場を立ち去ることにした。
しかし、あたしはジョヴァンニに大事なことを伝える必要があった。
教会から少し離れたところで、あたしは大声でジョヴァンニに呼びかけた。
「ジョヴァンニ! このままだと大変なことになるわよ。司教たちが密談しているのを聞いたのよ。あんたらを異端者として火あぶりにするって。このままだと、いずれは軍隊がやって来るわ。今のうちに逃げないと皆殺しにされちゃうよ!」
ジョヴァンニが顔を上げて答えた。
「レーナ、教えてくれてありがとう。感謝するよ」
しかし、信者たちは動揺しているようだ。
「どうすればいいのでしょうか、ジョヴァンニ様」
ジョヴァンニが少し考えた後、皆に言った。
「教皇様に会いに行こう。そしてこの教会の存在を認めてもらおう」
背後で信者たちが相談しているのを聞きながら、あたしは教会から離れて荒れ地を一人で歩く。
教皇になんて会えるのだろうか。
しかも、あの教会の存在を認めてもらうなんてことを。
しかし、ジョヴァンニなら出来るのではとあたしは思った。
ジョヴァンニの人生は栄光に包まれて、後世に語り継がれるんだろうな。
腐敗した教会に逆らって清貧を貫いた聖者として。
そして、行政官の男の言葉があたしの頭の中に浮かんできた。
『私と司教がジョヴァンニたちを火あぶりにしようと話していたことを、もし他人に喋ったら、お前には死んでもらう。火あぶりみたいに大勢の前で見せしめに殺すことはしない。秘密裏に汚物置き場で死んでもらうとするかな。下賤の者にふさわしい死に場所だな。誰も気にしないだろう』
汚物まみれで誰にも知られずに死んでいくのか。
それも運命なら仕方がない。
一人さびしく、荒れ地を歩きながら、ジョヴァンニの笑顔を思い出し、あたしは呟いた。
「今のあんたもかっこいいよ」
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