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第6話:モンスターのシルルス・アストゥス
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準備運動が終わったのか、おもむろに巨体のモンスターが俺たちの方を向いた。
あらためて見るとやはり間抜けな顔をしている。
なんてことを考えている場合じゃない、逃げないと。
って、俺は足をケガしてるんだ。
走れない。
それに爺さんは腰を抜かしたまま、ダンカンは気絶してるし。
リーダーとして見捨てるわけにもいかない。
この状況をどうすればいいのか。
困っている俺にたいして、スカーレットの奴はさっさと中庭の出入口の方へ走っていった。
「ここは兄貴にまかせて、あたしは先に逃げるから、あとはよろしくねー!」
ひでー奴だ。
モンスターが近づいてきた。
ヤケクソになって剣を抜こうとしたが、足首のねんざのせいですっ転んでしまった。
肝心な時にすっ転ぶ俺。
「痛い!」
足をおさえながら、こんなしょぼい宿屋のごみ溜めのような中庭でモンスターにやられて俺の人生は終わるのだろうかと思う。
なんだかしょぼくれた人生だったなあ。
俺が嘆いているところに、モンスターがおもむろにでかい口を開いて話しかけてきた。
「さて、反逆の大魔王はどこにいる」
「は?」
「反逆の大魔王を倒したいんだろ、奴はどこだ」
モンスターがきょろきょろと周囲を見まわしている。
黒い大ナマズのようなモンスターの意外な発言に俺は戸惑った。
「えーと、あんたがその大魔王って聞いているんだけど」
「へ? 何言ってるんだよ、おいらは奴がよみがえったときに、対抗するために封印されたんだぞ」
なんだか宿屋の主人が言っていた伝説と違うぞ。
「主人、これどうなってんの。このモンスターについては何か伝わってないんですか」
俺はなんとか立ち上がって、腰を抜かしたまんまの爺さんに聞く。
「わしも知らんよ。千年前に四人の勇者たちが反逆の大魔王を倒して封印したとしか聞いていない」
爺さんも俺と同様に困惑している。
主人がそう言うのを聞いて黒いナマズのモンスターが教えてくれた。
「こらこら、おいらは反逆の大魔王じゃないよ。そいつを倒した方だぞ。千年前にお前ら人間たちに頼まれて魔王を勇者たちと一緒に倒したんだ」
何やら黒ナマズのモンスターが自慢げに胸を張る。
「それじゃあ、こいつは大魔王じゃないってわけ。ただのヘンテコな黒ナマズのモンスターなの」
いつの間にか戻ってきたスカーレットが俺に聞く。
俺はスカーレットに嫌味を言ってやった。
「なんだ、お前逃げたんじゃないのかよ」
「う、うるさい! 逃げたふりして反撃の機会を狙うつもりだったのよ!」
スカーレットがわめきちらす。
こいつは絶対自分の非を認めようとはしない。
「おい、そこの人間の女、ヘンテコな黒ナマズのモンスターはひどいんじゃないか。おいらにはシルルス・アストゥスって名前がちゃんとあるんだぞ」
「シルルス・アストゥスって言いにくいんだけど」
「しょうがねえだろ、そういう名前なんだから」
「それで、本当に千年前に勇者たちと反逆の大魔王とやらを倒すのに協力したの?」
「本当だぞ、まあ、実際のところ敵はおいら一人で倒したようなもんだがな。おいらはこの世で一番強いからな。世界最強だぞ」
「なんか胡散臭い、そんなけったいな姿なのに」
「失礼な女だなあ、事実だって。ただ前回の戦いの時、反逆の大魔王の肉体は倒したが奴の魂には逃げられたんだよな。まあ、わざと逃がしてやったんだけどな」
「なんで逃がしたのよ」
「敵ながらあっぱれな奴だったからさ」
「なにカッコつけたこと言ってんの、そんな間抜けな顔で」
「間抜けな顔はねーだろ」
妹に間抜けな顔なんて言われても襲ってこないところ、どうやらこの巨大な黒ナマズに似たモンスターと言うかシルルス・アストゥスなる生き物は俺たちに危害を加えるつもりはないらしい。
俺は黒ナマズのモンスターに聞いた。
「じゃあ、とりあえず人間の味方ってことか」
「まあ、そういうことだな。で、何度も聞くが魔王はどこにいるんだ」
シルルス・アストゥスなるモンスターが再び周りを見回している。
俺は妹が発した言葉が偶然封印を解く呪文だったことを話した。
モンスターがあきれた顔をして、俺に文句を言った。
「なんだよ、間違いでおいらをよみがえらしたのかよ」
「そうなんだけど。間違ってよみがえらされて怒らないのか」
「仕方がない。まあ、誰にも間違いはあるからな。許してやるよ」
そう言いつつ台座にのんびりと座るナマズの化け物。
なんだか人が好さそうなモンスターだ。
モンスターが人が好さそうって、変な表現だけど。
「思い出したぞ。アゴラにフォビック、ノーズ、ブリード。それからピッグデストロイヤー。一緒に戦った五人組の人間の男たちの名前だ。千年前の話だから、寿命を考えるとあいつらはもうとっくの昔にみんなこの世にはいないんだな。人間の命とは儚いなあ」
なんだか遠い目で夕焼け空を見るモンスター。
そんなモンスターに俺は聞いてみた。
「それって、人の名前だったのか。アゴラとかって」
「そうさ、おいらと一緒に数々の冒険をしたあとに、反逆の大魔王を打ち破ったんだ。冒険か。ああ、なにもかもが懐かしい」
シルルス・アストゥスは短い腕を組んで目をつぶってなにやらうなずいている。
千年前の思い出にひたっているのかね。
そんな追憶にひたっているモンスターにスカーレットがケチをつけた。
「けど、伝説では四人の勇者と反逆の大魔王とかは出てくるけど、シルルスなんとかって変なナマズは出てこないわよ」
「ナマズじゃねーって言ってるだろ。千年も経つと忘れられちまうのか。あんなに協力してやったのに。なんだか寂しくもあるな。まあ、おいらには虚栄心なんてないからいいけどさ」
虚栄心がないわりには、自分一人で魔王を倒したようなもんだとか、この世で一番強いとか、世界最強とか虚栄心の固まりみたいなこと言ってたな、このモンスター。
スカーレットがもっと突っ込みをいれた。
「みっともない外見だから伝説から省略されたんじゃないの」
「なんだよ、みっともない外見って。ひどいこと言う女だなあ」
妹の口の悪さにモンスターもあきれている。
スカーレットとシルルス・アストゥスの会話に割って入り、俺は一番肝心の質問をした。
「結局のところ、反逆の大魔王ってのはどこにいったんだ」
「知らんよ。奴は『千年後によみがえってやる』って捨て台詞を吐いて消えたけどな。だからその時のためにおいらは封印されたんだ。封印を解く呪文は勇者たちの名前をつなげただけらしいな」
「あれ、さっき五人の名前言ってたけど」
「さあ、知らんよ。長くなりすぎるから四人分にしたんじゃね」
回廊の四隅にあるブロンズ像は四人の勇者たちを模したものなのだろうか。
なんで五人いないんだろう。
それにしても、禁断の呪文に自分たちの名前をただ適当につなげるなんて、俺のいかれた妹と発想は変わらないな。
シルルス・アストゥスが立ち上がり、俺たちを誘ってきた。
「まあ、どうやら千年経ったようだし、もしかしたら奴もよみがえっているかもしれん。反逆の大魔王を探すための冒険に行くことにしたぞ。お前らも一緒に来るか」
「あんたみたいな不格好な姿をしたモンスターを連れて冒険なんしてしたくないよ、恥ずかしい」
「不格好で恥ずかしいってなんだよ。おい、人間の女、いいかげんおいらも怒るぞ」
「あ、いや~俺の妹はいかれてるんで相手にしないほうがいいです」
「なにー! あたしがいかれてるって」
俺たちが下らない会話をしていると、いつの間にか背後に気絶していたはずのダンカンが立っていた。そして、普段のぼんやりとした顔ではなく、鋭い目つきをしながらこう言った。
「探す必要はない。ここにいるぞ」
あらためて見るとやはり間抜けな顔をしている。
なんてことを考えている場合じゃない、逃げないと。
って、俺は足をケガしてるんだ。
走れない。
それに爺さんは腰を抜かしたまま、ダンカンは気絶してるし。
リーダーとして見捨てるわけにもいかない。
この状況をどうすればいいのか。
困っている俺にたいして、スカーレットの奴はさっさと中庭の出入口の方へ走っていった。
「ここは兄貴にまかせて、あたしは先に逃げるから、あとはよろしくねー!」
ひでー奴だ。
モンスターが近づいてきた。
ヤケクソになって剣を抜こうとしたが、足首のねんざのせいですっ転んでしまった。
肝心な時にすっ転ぶ俺。
「痛い!」
足をおさえながら、こんなしょぼい宿屋のごみ溜めのような中庭でモンスターにやられて俺の人生は終わるのだろうかと思う。
なんだかしょぼくれた人生だったなあ。
俺が嘆いているところに、モンスターがおもむろにでかい口を開いて話しかけてきた。
「さて、反逆の大魔王はどこにいる」
「は?」
「反逆の大魔王を倒したいんだろ、奴はどこだ」
モンスターがきょろきょろと周囲を見まわしている。
黒い大ナマズのようなモンスターの意外な発言に俺は戸惑った。
「えーと、あんたがその大魔王って聞いているんだけど」
「へ? 何言ってるんだよ、おいらは奴がよみがえったときに、対抗するために封印されたんだぞ」
なんだか宿屋の主人が言っていた伝説と違うぞ。
「主人、これどうなってんの。このモンスターについては何か伝わってないんですか」
俺はなんとか立ち上がって、腰を抜かしたまんまの爺さんに聞く。
「わしも知らんよ。千年前に四人の勇者たちが反逆の大魔王を倒して封印したとしか聞いていない」
爺さんも俺と同様に困惑している。
主人がそう言うのを聞いて黒いナマズのモンスターが教えてくれた。
「こらこら、おいらは反逆の大魔王じゃないよ。そいつを倒した方だぞ。千年前にお前ら人間たちに頼まれて魔王を勇者たちと一緒に倒したんだ」
何やら黒ナマズのモンスターが自慢げに胸を張る。
「それじゃあ、こいつは大魔王じゃないってわけ。ただのヘンテコな黒ナマズのモンスターなの」
いつの間にか戻ってきたスカーレットが俺に聞く。
俺はスカーレットに嫌味を言ってやった。
「なんだ、お前逃げたんじゃないのかよ」
「う、うるさい! 逃げたふりして反撃の機会を狙うつもりだったのよ!」
スカーレットがわめきちらす。
こいつは絶対自分の非を認めようとはしない。
「おい、そこの人間の女、ヘンテコな黒ナマズのモンスターはひどいんじゃないか。おいらにはシルルス・アストゥスって名前がちゃんとあるんだぞ」
「シルルス・アストゥスって言いにくいんだけど」
「しょうがねえだろ、そういう名前なんだから」
「それで、本当に千年前に勇者たちと反逆の大魔王とやらを倒すのに協力したの?」
「本当だぞ、まあ、実際のところ敵はおいら一人で倒したようなもんだがな。おいらはこの世で一番強いからな。世界最強だぞ」
「なんか胡散臭い、そんなけったいな姿なのに」
「失礼な女だなあ、事実だって。ただ前回の戦いの時、反逆の大魔王の肉体は倒したが奴の魂には逃げられたんだよな。まあ、わざと逃がしてやったんだけどな」
「なんで逃がしたのよ」
「敵ながらあっぱれな奴だったからさ」
「なにカッコつけたこと言ってんの、そんな間抜けな顔で」
「間抜けな顔はねーだろ」
妹に間抜けな顔なんて言われても襲ってこないところ、どうやらこの巨大な黒ナマズに似たモンスターと言うかシルルス・アストゥスなる生き物は俺たちに危害を加えるつもりはないらしい。
俺は黒ナマズのモンスターに聞いた。
「じゃあ、とりあえず人間の味方ってことか」
「まあ、そういうことだな。で、何度も聞くが魔王はどこにいるんだ」
シルルス・アストゥスなるモンスターが再び周りを見回している。
俺は妹が発した言葉が偶然封印を解く呪文だったことを話した。
モンスターがあきれた顔をして、俺に文句を言った。
「なんだよ、間違いでおいらをよみがえらしたのかよ」
「そうなんだけど。間違ってよみがえらされて怒らないのか」
「仕方がない。まあ、誰にも間違いはあるからな。許してやるよ」
そう言いつつ台座にのんびりと座るナマズの化け物。
なんだか人が好さそうなモンスターだ。
モンスターが人が好さそうって、変な表現だけど。
「思い出したぞ。アゴラにフォビック、ノーズ、ブリード。それからピッグデストロイヤー。一緒に戦った五人組の人間の男たちの名前だ。千年前の話だから、寿命を考えるとあいつらはもうとっくの昔にみんなこの世にはいないんだな。人間の命とは儚いなあ」
なんだか遠い目で夕焼け空を見るモンスター。
そんなモンスターに俺は聞いてみた。
「それって、人の名前だったのか。アゴラとかって」
「そうさ、おいらと一緒に数々の冒険をしたあとに、反逆の大魔王を打ち破ったんだ。冒険か。ああ、なにもかもが懐かしい」
シルルス・アストゥスは短い腕を組んで目をつぶってなにやらうなずいている。
千年前の思い出にひたっているのかね。
そんな追憶にひたっているモンスターにスカーレットがケチをつけた。
「けど、伝説では四人の勇者と反逆の大魔王とかは出てくるけど、シルルスなんとかって変なナマズは出てこないわよ」
「ナマズじゃねーって言ってるだろ。千年も経つと忘れられちまうのか。あんなに協力してやったのに。なんだか寂しくもあるな。まあ、おいらには虚栄心なんてないからいいけどさ」
虚栄心がないわりには、自分一人で魔王を倒したようなもんだとか、この世で一番強いとか、世界最強とか虚栄心の固まりみたいなこと言ってたな、このモンスター。
スカーレットがもっと突っ込みをいれた。
「みっともない外見だから伝説から省略されたんじゃないの」
「なんだよ、みっともない外見って。ひどいこと言う女だなあ」
妹の口の悪さにモンスターもあきれている。
スカーレットとシルルス・アストゥスの会話に割って入り、俺は一番肝心の質問をした。
「結局のところ、反逆の大魔王ってのはどこにいったんだ」
「知らんよ。奴は『千年後によみがえってやる』って捨て台詞を吐いて消えたけどな。だからその時のためにおいらは封印されたんだ。封印を解く呪文は勇者たちの名前をつなげただけらしいな」
「あれ、さっき五人の名前言ってたけど」
「さあ、知らんよ。長くなりすぎるから四人分にしたんじゃね」
回廊の四隅にあるブロンズ像は四人の勇者たちを模したものなのだろうか。
なんで五人いないんだろう。
それにしても、禁断の呪文に自分たちの名前をただ適当につなげるなんて、俺のいかれた妹と発想は変わらないな。
シルルス・アストゥスが立ち上がり、俺たちを誘ってきた。
「まあ、どうやら千年経ったようだし、もしかしたら奴もよみがえっているかもしれん。反逆の大魔王を探すための冒険に行くことにしたぞ。お前らも一緒に来るか」
「あんたみたいな不格好な姿をしたモンスターを連れて冒険なんしてしたくないよ、恥ずかしい」
「不格好で恥ずかしいってなんだよ。おい、人間の女、いいかげんおいらも怒るぞ」
「あ、いや~俺の妹はいかれてるんで相手にしないほうがいいです」
「なにー! あたしがいかれてるって」
俺たちが下らない会話をしていると、いつの間にか背後に気絶していたはずのダンカンが立っていた。そして、普段のぼんやりとした顔ではなく、鋭い目つきをしながらこう言った。
「探す必要はない。ここにいるぞ」
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