鋼鉄の処女マリアの冒険

守 秀斗

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第9話:ケンとカイの喧嘩

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 次の日の朝。

 ベッドで寝ていたら、揺り動かされた。
 目を開けると、ケイティが焦っている。

「大変ですよ、マリアさん!」
「……うん、どうしたの」

「ケンさんとカイさんが大怪我したんですよ」
「えー、どうしたの、宿屋にドラゴンでも乱入したの」

 寝ぼけながらも、下らないことを言うあたしをあっさりと無視して、またケイティが焦って言った。

「それが、廊下で喧嘩して、そのまま階段から二人とも転げ落ちて、腰を打ったんです。どうやら骨に異常があるみたいでお二人とも動けないみたいです」
「ええ、何でそんなことに」

 ケイティが、ちょっと複雑な表情をして言った。

「アレックスさんをめぐって喧嘩したらしいです」

 あたしは慌てて、部屋を飛び出して、一階へ下りて行った。
 ケンとカイが廊下に倒れて、うめいている。

 宿屋のイケメン主人のイアンさんが心配そうに二人を介抱している。
 そして、それをアレックスが困ったような顔で見ている。

 イアンさんがあたしの顔を見て言った。

「あ、マリアさん、どうしましょうか。村の診療所にこのお二人をお連れしましょうか」
「いえ、すみませんでした。うちのパーティーは回復魔法が出来る者がおりますので、大丈夫かと思います」

「そうですか、では、また何かありましたら、遠慮なく受付に言ってください」
「はい、ありがとうございます」

 ああ、朝っぱらから何をやってんの、この二人は。

「ねえ、大変じゃない、アレックス。早く、二人を治癒してよ」
「それが、お二人とも腰の骨を折ってしまっているようなんで」
「だったら、なおさら早く治癒してよ」

 焦るあたしに、アレックスがまた困った顔で言った。

「けど、私はまだ魔力が完全に回復していないんですよ。お二人は治せませんね。どちらか一人ですね」
「二人は治せないの」

「そうですね、治せないことはないですけど、中途半端になって完全には治せません。また明日、私の魔力が回復したら、それで完全に治癒できますけど」
「うーん、とりあえず、二人とも治癒してくれないかしら」

「いいんですか、今日の仕事はどうなるんですか。ケンとカイのお二人はベッドに寝たまま、私は魔力を使い切って、仕事に出ても意味はありません。そうすると、マリアとケイティだけになりますよ」
「あ、そうか。けど、一人は完全に治癒出来るのね」
「そうですね」

 うーん、悩む。
 ケンとカイ。

 はっきり言って、どっちも実力は同じ程度なんだよなあ。
 どちらか一方だけ治すのは、治してもらえなかった方から文句がくるかもしれないし。

 ボリスの言葉を思い出す。

『リーダーは、常に公平でなくてはいけない』

 それに、今日も仕事はスライム退治。
 昨日のワイバーンみたいなのが何度もやって来るわけないわ。

 あたしとケイティだけで充分じゃないかしら。
 リーダーとして決めたぞ、ここは公平に行こう。

「アレックス、ケンとカイ、どっちも治癒してくれないかしら」
「よろしいでしょうか。痛みはおさえられますが、完全には治せませんよ。とりあえず、今日は二人ともベッドで寝ているしかないですけど、いいですか」
「それでいいわ」

 そういうわけで、アレックスがケンとカイの腰に手を当てる。
 どうやら、立ち上がることが出来たがフラフラしているケンとカイ。

 あたしやケイティで支えながら、部屋まで行ってベッドに寝てもらう。
 アレックスは魔力の回復をしなくてはならないとかで自分の部屋に戻ってしまった。

 ああ、疲れた。

 とりあえず解決したわね。
 って、解決してないわ。

 ケンとカイはお互いベッドに横たわりながらも、そっぽ向いている。
 理由は知っているけど、一応、聞いてみた。

「ねえ、なんで喧嘩したの」

 すると、ケンが不快そうな顔であたしに言った。

「マリアのせいだろ」
「ええ、何であたしのせいなのよ」
「アレックスに三人で愛し合えって言ったらしいじゃないか」

 おいおい、いつの間にそんな話になってんの。

「そんなこと言うわけないじゃない!」

 すると、カイもあたしを妙な方向から攻撃してきた。

「こっそりと覗き見るなんて、マリア、いやらしくないか」

 ちょっと、何でそんなことになってるのよ。

「ち、違うわよ、偶然窓から見ただけだし、すぐにカーテンを閉めたわよ」
「本当かよ。それにしては、俺とアレックスが帰って来るところを狙って、アレックスの部屋に入ったみたいだけど。ずっと見てたんじゃないのかよ」

 何だか、すっかりカイとアレックスがボートの上でやっているのをずっと見ていたいやらしい女って認定されているぞ、あたしは。

「だから、違うって。あなたたちが宿屋に帰ってきて、廊下を歩く足音を聞いて、アレックスの部屋に行ったの。いったい、あの人が何を考えているのかと思って」
「それで、俺とアレックスとケンの三人でやれって命令したのかよ、頭おかしくないか、マリア」

 そして、ケンにも非難される。

「俺たちをからかって、喜んでたのかよ、リーダー」

 どうなってんの、なんでそんなことになってんの。

「あたしは、そんなこと言ってないって。とりあえず、明日まではゆっくりしててくれないかしら」

 あたしはケンとカイの部屋を飛び出し、アレックスの部屋に行く。
 中に入ると、アレックスが長い銀色の髪をとかしている。

「ちょっと、アレックス。あたしが、あなたとケンとカイ、三人で愛し合えって言ったような話になっているんだけど」
「マリアがそう言ったんじゃないですか。パーティーみんなで仲良くしたいとか言ってませんでしたか。だから、今朝、ケンとカイに三人でボートの上で愛し合いましょうって言ったんですよ」
「こらこら、三人で寝ろなんて一言も言ってないわよ」

 すると、色っぽくため息をつくアレックス。

「まあ、私のために二人には争わないでほしかったですね。喧嘩はしてほしくなかったわ。誰かに止めてほしかったわ。ああ、違うタイプの人を好きになるってよくあるじゃない。別にケンとカイをもてあそぶつもりはなかったの。でも、仕方ないわね、私としては三人で仲良くしたかったのに。ああ、私は罪作りな男の娘ね」

 あれ、なんか、今、アレックスが言った内容に似たむかつく歌がなかったかしら。
 おっと、それはともかく。

 なんなの、この人。
 自分の美貌に酔ってるのかしら。

 ふざけんじゃないわよ。
 確かに超美人ではあるけどさあ。

 あたしなんて、誰も争ってくれたことがないぞ!
 路傍の石扱いしかされたことがないぞ!

 って、それはひがみか。

「とにかく、今日の仕事はあたしとケイティだけで行くから、あなたは二人の面倒をみてくれるかしら。あたしがあなたに何を言わなくても、そもそも、あなたが原因でしょ!」
「わかりました。お二人のお世話はおまかせください」

 やれやれ。

 そういうわけで、今日のスライム退治はあたしとケイティの二人だけで行くことになってしまった。
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