鋼鉄の処女マリアの冒険

守 秀斗

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第10話:ケイティと二人でソヌグ森へスライム退治に向かう

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 今日の仕事の場所は、村の近くのソヌグ森。

 近くと言っても、歩いて四十分くらいかかる。
 背の高い大木が多いらしい。

「ケイティ、今日はあたしと二人だけだから、よろしくね」
「はい、よろしくお願いいたします」

「ところで、今朝の大騒ぎ、どう思う、あたしにはリーダーの役って務まらないんじゃないかしら」
「うーん、いえ、今のメンバーだと、やはりマリアさんが一番リーダーに相応しいと思います」

「何でそう思うの」
「公平だからです。ケンさんとカイさんを同時に治癒するようにアレックスさんに言いましたよね」

 まあ、あの二人どっちでも似たようなもんだからねえ。
 持っている武器が違うだけで。

 スライム退治なら、剣でも弓矢でも同じだしね。

「それに、マリアさんって、一番真面目な感じがするんです。ケンさんとカイさんって、少しいい加減な感じがしますし、アレックスさんはなにを考えているのかよくわからないところがあるんです。だから、私としてはマリアさんがリーダーに一番相応しいと思います」
「真面目ねえ、そう言われると嬉しいわ、ありがとう。まあ、今日はあたしとあなた二人しかいないからスライム退治とは言え、慎重に仕事しましょうね」

「わかりました。ただ冒険者ギルドで他の冒険者の方から聞いたんですが、ソヌグ森で一つ目の巨人を見たって噂があるみたいですよ」
「ええ、一つ目の巨人のモンスターを見たって、まさかサイクロプスかしら。そんなわけないわよねえ、人間の五、六倍はあるモンスターよね」

「わかりませんが、そういう情報はありました」
「ケイティ、あなたって、何て言うか、そういう情報集めとか好きなの」
「ボリスさんが、冒険者にとって大切なことのひとつは、正確な情報収集だって言ってましたよ」

 ああ、そう言えば、以前、ボリスがそんなことを言ってたような覚えがある。

 そうだよなあ、あたし、それにケンとカイとかもそうだけど、ボリスに全部おまかせ状態だったよなあ。その結果、ボリスがいなくなって、パーティーがジリ貧状態になったんだ。

 反省しないと。

「けど、サイクロプスが出現するなら、他の冒険者も探索に来ないかしら」
「何度か行ったみたいですけど、現れなかったみたいですね」

「そうなんだ。けど、なんであなたに教えてくれたのかしら、その冒険者の人は」
「多分、私を子供だと思って自慢したくて言ったと思います」

 ああ、その可能性ありだな。
 いい報酬の得ることが出来る情報はあまり他人には教えないもんなあ。
 相手がケイティちゃんだから、つい教えてしまったのか。

 正確な情報収集か。
 ううむ、しかし、あたしもパーティーの人間関係の調整で疲れてんのよ。

 よし、ここはケイティにまかせるぞ。

「ねえ、ケイティ、今度から情報収集はあなたにまかせていい」
「いいですよ。是非、私にまかせてください。ありがとうございます、マリアさん」

 ニコニコ顔のケイティ。

「別にお礼を言うことないのに」
「ボリスさんは、私に全然、仕事をさせてくれなかったんです。見学してろって、そればかり。けど、マリアさんは任せてくれるんで、私も嬉しいんです」

 そうなんだよなあ、ボリスは全ての仕事を全部自分で引き受けていたようなもんだったわね。
 本人ばかりが走り回って。

 それじゃあ、パーティーは成長しないわよね。

 そう、仕事って、自分がやってしまうのが一番早いのよね、実は。
 部下に任せると仕事が遅くてイライラするとか言ってたリーダーが前のパーティーにいたなあ。

 そのイライラを我慢して、部下に任せるのがリーダーの仕事よね。
 ケイティの話を聞いて、肝に銘じるあたしではあった。

 まあ、あたしには部下はいないけどさあ。
 どんぐりの背比べよ、ケンとカイも冴えないし。
 十三才のケイティが一番のエースだからね。

 おっと、もうひとつケイティに聞きたいことがあったぞ。

「ねえ、ケイティ、アレックスってどう思う。治癒能力はすごいけど、なんか、あの性格がねえ」
「そうですね。悪い人には見えませんが、正直、何を考えているのかよくわからない方ですね」
「そうよねえ、男五人で一緒に寝たとか言ってるのよ、あの人」

 すると、ケイティが顔を赤くして黙ってしまう。
 おっと、やばい、子供にする話じゃなかった。

「ごめんなさい、変な話をして」
「……いえ、別に、かまいません。その、アレックスさんがそういうことが好きならいいのではないでしょうか……」

「けど、今回のケンとカイの喧嘩もあの人が原因でしょう、三人でボートの上で愛し合いましょうなんて、あなたはどう思うの。って、また変な事を聞いてごめんなさい、忘れて」

 すると、ますます顔を赤くするケイティちゃん。
 かわいい。

「いえ、その話はアレックスさんから聞きましたので……ただ、私としてはやっぱり、相手は一人の方がいいです……その、純愛と言うか……愛する人とひとつになりたいです……」

 おお、そうよね、その年なら純愛に憧れるのが普通よね。
 ケイティちゃん、やっぱり女の子ね。

 あたしは嬉しいわ。

 そうよ、やっぱり純愛よ、純愛。
 世界は二人のためだけにあるのよ!

 いまだに相手がいないけどさあ。

 しかも、全然、現れる気配もないけど。
 どうなってんのよ、恋愛の神様!

 さて、そんなこんなで、やっとソヌグ森に到着。
 空が曇ってきた。

「なんだか天気が悪いわねえ」
「今日は豪雨かもしれないと宿屋のご主人のイアンさんが言ってましたよ。お天気とか当てるのが得意なんだそうです。雨が降る前は古傷が痛むって言ってました。かなり痛いから、雷雨かもしれないとか言ってましたよ。ところでマリアさんはどう考えておられるのですか」

「え、何の事」
「例のサイクロプスの件です。もし出現したら、どうしますか」
「そうねえ、目を狙うしかないわね。一つ目だから」

「失敗したら、どうしますか」
「いや、今からそんな失敗したことを考えても」

「……あの、大変申し訳ありませんが、この前、失敗したときのことを考えておけって言ってませんでしたか。失礼ですが、マリアさん、あまり弓矢での攻撃の調子が良くないようですが」
「そう言えば、そんな事、あたし言ったわねえ」

 すっかり忘れていたなあ。
 ケンがいい加減だから、思わず口に出てしまったけど。

 自分でも忘れているとは、あたしもいい加減だわね。
 失敗したときか。

 うーん、悩むあたし。

「相手がサイクロプスじゃあ、逃げるしかないんじゃないの」
「そうですか、私にいい考えがあるのですが」

「え、どういう方法で倒すの」
「サイクロプスの足元にマリアさんが矢を射ってくれませんか」

「それでどうするの」
「当たっても、当たらなくても、サイクロプスは足元を見ると思うんです。今から行くソヌグ森は高い木がいっぱいあるから、私が木に登って、サイクロプスが足元を見るためにかがんだところで後ろの首筋にナイフを投げます」

「うーん、うまくいくかしら」
「わかりませんが、確かサイクロプスって、鈍感で、動きも鈍いってことですから、失敗したら、マリアさんの言う通り全速力で走って逃げればいいと思います」
「そうねえ、まあ、サイクロプスが現れたら、その作戦でいきましょう」

 あたしとしてはサイクロプスなんて出ないと思ったんだけど。

 と言うわけで、あたしとケイティはソヌグ森の中に入っていった。
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