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第17話:アレックスに誘われる
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とにかく、ドラゴンタートルを倒したあたしらのパーティー。
宿屋に帰ることにした。
このベスタ村の冒険者ギルドは、夕方五時には閉まってしまうので、報告は明日ね。
ケンがやたらケイティを誉めそやす。
「ケイティ、すごいなあ、巨大イノシシ、ワイバーン、サイクロプス、そしてドラゴンタートル、全部、お前が倒したんじゃないか」
「いえ、皆さんのご協力もありましたけど」
少し恥ずかしそうに謙遜するケイティちゃん。
あたしなら大威張りするところだけど。
この娘は人格者だなあ、まだ十三才なのに。
実際のところケイティ一人で倒したようなもんなんだけどなあ。
「今回のドラゴンタートルなんて、俺、何もしてないぞ」
「ケンさんはドラゴンタートルをひきつけてくれたじゃないですか」
「あれは転んだだけだよ、いや、すごいね、ケイティ」
すると、アレックスもにこやかな顔でなぜかあたしの顔を見ながら言った。
「私もそう思いますわ。いっそ、ケイティさんがこのパーティーのリーダーをやってはどうってくらいですね」
さりげなく、またあたしに嫌味を言ってくるアレックス。
何か、あたしに恨みでもあんの、この人。
とは言え、この嫌味はあたしにはさほど気にならなかった。
あたしも、ケイティがリーダーやってくれと思ってしまったくらいだもん。
そんなケイティに聞かれた。
「明日はどうするんですか」
「そうねえ、もう冒険者ギルドも閉まっているし、明日、早朝に行って、仕事を貰いにいくわ」
それを聞いたケンが文句を言い出した。
「おい、たまには休もうぜ、ドラゴンタートルを倒したんだぞ」
あんたはただ逃げていただけで、その上、スっ転んでやられる寸前だったじゃないのとケンに嫌味を言おうとしたが、やめた。
ただ、正直、あたしも疲れてきた。
「わかったわ、明日はお休みね。各自、自由にしていいわ」
「そうそう、休むも仕事さ」
あんたはろくに仕事してないじゃないと再度ケンに言おうかと思ったが、やっぱりやめた。
宿屋まで、一時間近くかかって帰る。
夕食はもう別々にした。
あたしはカイに報告にいった。
一階の一人部屋でつまんなそうにベッドで寝転んでいたカイだが、ケイティの活躍を聞くと素直に驚いている。
「あの娘、すごいねえ」
「そうなのよ、将来、大物冒険者確定ね」
「俺もそのドラゴンタートルってのを見たかったなあ」
「まあ、明日は休みにしたんで、ゆっくりしててよ。それから、そろそろケンと仲直りしてくれないかなあ」
「うーん、仲直りしたいんだが、何かきっかけがないかなあって思っているんだけどね」
お、カイの方はケンと仲直りはしたいのか。
まあ、明日は休みなので、そっとしておくことにした。
さて、宿泊している部屋に戻り、小さいテーブルの上で夕食をケイティと取る。
あたしはケイティに謝った。
「ごめんなさい、ちゃんとあなたの話を聞かないで。申し訳ありません」
「いえ、さすがに絵本の内容をモンスター攻略に使うのはどうかと自分でも思っていたので、別に気にしていません」
「けど、正直、あなたがいなかったら、もうスライム退治ばっかりで飢え死にしてたかも」
「そんなことないですよ。マリアさんがリーダーなら、このパーティーはうまくいきますよ」
ふう、十三才のケイティに励まされるあたし。
実際のところ、ケイティも内心は、早くボリスが戻って来てほしいと思っているんじゃないかなあ。
その夜。
また、ケイティのいびきで起きてしまった。
鼻をつまんで、静かにさせる。
そして、窓の外が気になってしまうあたし。
なんだか、夜中に起きるのが習慣になってきたなあ。
ちょっと窓から、外の湖を見る。
さすがに、今夜は誰も湖にボートを浮かべてないわね。
すると、突然、後ろから話しかけられた。
「今夜も覗き見ですか、マリア」
「うわ!」
びっくりして振り返るとアレックスが立っていた。
「な、何よ、こっそりと部屋に入ってこないでよ」
「こっそりと、毎晩、他人の秘め事を見ているマリアには言われたくはないですね」
「毎晩見てないわよ! 今まで、全て偶然よ!」
「そうかしら、ああいう行為に興味があったから窓の外を見たんじゃないのかしらね」
無表情で嫌味を言うアレックス。
ああ、むかつく。
「で、何のご用。アレックス」
「ちょっとお話があるんですけど、私の部屋で話しませんか」
仕方がないので、隣のアレックスの部屋に行った。
何だろう、ケンとカイとのことかしら。
「前にいいましたよね、私、毎日男性と寝ないと疲れが取れないんです」
「ああ、聞いたわよ、それはそれは大変ですわねえ」
本当なのかなあ、かえって、疲れないのかなあ。
前にも思ったけど。
「それに男性に抱きしめられないと眠れなくて落ち着かなくって。女性ってそういうものでしょう。まあ、私は男ですけど、心は女なのでね」
そ、そういうものなのかしら。
うざくならないのかしら。
ああ、経験がないからわからないわ。
「それでケンとカイを誘ったんですけどね、断られてしまいました」
「ふーん、けど、やっぱり三人でするってまずいんじゃないの」
「いえ、ケンとカイ、それぞれに声をかけたんですけど、断られました」
「あら、振られたの、残念でしたわねえ」
「そうですね、残念ですね。お互い、牽制しているかもしれませんけど」
どうもケンとカイを手玉に取って楽しんでいるような気がするなあ、このアレックスって人。
それとも、単純に男性と寝たいだけなのかな。
疲労回復のために。
うーん、そこら辺がよくわからないのよ、処女のあたしには。
「で、どうしようって言うのよ」
「まあ、ケンとカイからは断られたんで、どうですか、マリア、ボートに乗りませんか」
何言い出すの、この男の娘は。
「え、ボートに乗るってどういう意味よ」
「そのままですよ、ボートの上でしましょうってことですね。ロマンチックじゃないの、月夜のボートの上で処女から卒業するんですよ、あなたは。素敵とは思いませんか」
「はあ、何てこと言ってんの、あんた。ちょっと何を考えているのよ、あたしは女なんだけど」
「そうですね、でも、リーダーを務めていらして、なかなか男っぽいし、そして、処女。私、処女の人と寝たことがないので、失礼かと思いますが、ちょっと興味があるんですよね。処女の方と愛し合いたいなあと思って。どうですか。湖の上にボートを浮かべて、愛し合いませんか。イライラもおさまるかもしれませんよ。前にも言いましたけど、あなたを馬鹿にしているわけじゃないんです。マリアのことを考えて誘っているんですよ。野外が恥ずかしかったら、この部屋でもいいですけど」
また、妙に真面目な顔で、とんでもないことをあたしに言うアレックス。
あたしは背筋に怖気が走るとともに、怒りも感じた。
好きでリーダーやってるわけじゃないし、好きで処女のままでもないわよ。
ああ、腹が立つ。
「ふざけないで、気持ち悪い! この変態!」
すると、また不機嫌な顔をするアレックス。
「何が気持ち悪いんですか、そんなこと言って、いろいろとこだわってばかりだから、処女をこじらせて、いつまでたっても処女なんですよ、マリアは。一度、経験すれば落ち着くと思うんですけど。別に悪意は無いわよ、私はあなたの事を考えて誘ったんですけど。これからもリーダーとして大変なんでしょう」
「う、うるさい! そんなにしたかったら一人ですればいいじゃない、ボートの上でも湖の中でも食堂でも廊下でも」
あたしは激怒して、部屋に戻った。
ああ、イライラする。
ベッドに潜り込む。
とは言え、アレックスの言ったこと。
『いろいろとこだわってばかりだから、いつまでたっても処女なんですよ』
そうかもしれない。
だからと言って、あんな男の娘に初めてを捧げられないわよ。
あたしの理想の男らしい男性はいつ現れるのかしら。
思いっ切り抱きしめてもらいたいわ。
けど、まさか、一生、現れないのかしら。
ああ、不安になってくる。
なんてことを考えていたら、隣のアレックスの部屋から、喘ぎ声が聞こえていた。
すごく色っぽい。
どうやら、一人でしているらしい。
ああ、いやらしい。
けど、ちょっと興奮してしまう、あたし。
ああ、あたしもいやらしいわ。
そしたら、今度はケイティがまたいびきをかきはじめる。
ああ、うるさい。
布団を被って、なんとか寝た。
それにしても、何か空しいのよねえ。
宿屋に帰ることにした。
このベスタ村の冒険者ギルドは、夕方五時には閉まってしまうので、報告は明日ね。
ケンがやたらケイティを誉めそやす。
「ケイティ、すごいなあ、巨大イノシシ、ワイバーン、サイクロプス、そしてドラゴンタートル、全部、お前が倒したんじゃないか」
「いえ、皆さんのご協力もありましたけど」
少し恥ずかしそうに謙遜するケイティちゃん。
あたしなら大威張りするところだけど。
この娘は人格者だなあ、まだ十三才なのに。
実際のところケイティ一人で倒したようなもんなんだけどなあ。
「今回のドラゴンタートルなんて、俺、何もしてないぞ」
「ケンさんはドラゴンタートルをひきつけてくれたじゃないですか」
「あれは転んだだけだよ、いや、すごいね、ケイティ」
すると、アレックスもにこやかな顔でなぜかあたしの顔を見ながら言った。
「私もそう思いますわ。いっそ、ケイティさんがこのパーティーのリーダーをやってはどうってくらいですね」
さりげなく、またあたしに嫌味を言ってくるアレックス。
何か、あたしに恨みでもあんの、この人。
とは言え、この嫌味はあたしにはさほど気にならなかった。
あたしも、ケイティがリーダーやってくれと思ってしまったくらいだもん。
そんなケイティに聞かれた。
「明日はどうするんですか」
「そうねえ、もう冒険者ギルドも閉まっているし、明日、早朝に行って、仕事を貰いにいくわ」
それを聞いたケンが文句を言い出した。
「おい、たまには休もうぜ、ドラゴンタートルを倒したんだぞ」
あんたはただ逃げていただけで、その上、スっ転んでやられる寸前だったじゃないのとケンに嫌味を言おうとしたが、やめた。
ただ、正直、あたしも疲れてきた。
「わかったわ、明日はお休みね。各自、自由にしていいわ」
「そうそう、休むも仕事さ」
あんたはろくに仕事してないじゃないと再度ケンに言おうかと思ったが、やっぱりやめた。
宿屋まで、一時間近くかかって帰る。
夕食はもう別々にした。
あたしはカイに報告にいった。
一階の一人部屋でつまんなそうにベッドで寝転んでいたカイだが、ケイティの活躍を聞くと素直に驚いている。
「あの娘、すごいねえ」
「そうなのよ、将来、大物冒険者確定ね」
「俺もそのドラゴンタートルってのを見たかったなあ」
「まあ、明日は休みにしたんで、ゆっくりしててよ。それから、そろそろケンと仲直りしてくれないかなあ」
「うーん、仲直りしたいんだが、何かきっかけがないかなあって思っているんだけどね」
お、カイの方はケンと仲直りはしたいのか。
まあ、明日は休みなので、そっとしておくことにした。
さて、宿泊している部屋に戻り、小さいテーブルの上で夕食をケイティと取る。
あたしはケイティに謝った。
「ごめんなさい、ちゃんとあなたの話を聞かないで。申し訳ありません」
「いえ、さすがに絵本の内容をモンスター攻略に使うのはどうかと自分でも思っていたので、別に気にしていません」
「けど、正直、あなたがいなかったら、もうスライム退治ばっかりで飢え死にしてたかも」
「そんなことないですよ。マリアさんがリーダーなら、このパーティーはうまくいきますよ」
ふう、十三才のケイティに励まされるあたし。
実際のところ、ケイティも内心は、早くボリスが戻って来てほしいと思っているんじゃないかなあ。
その夜。
また、ケイティのいびきで起きてしまった。
鼻をつまんで、静かにさせる。
そして、窓の外が気になってしまうあたし。
なんだか、夜中に起きるのが習慣になってきたなあ。
ちょっと窓から、外の湖を見る。
さすがに、今夜は誰も湖にボートを浮かべてないわね。
すると、突然、後ろから話しかけられた。
「今夜も覗き見ですか、マリア」
「うわ!」
びっくりして振り返るとアレックスが立っていた。
「な、何よ、こっそりと部屋に入ってこないでよ」
「こっそりと、毎晩、他人の秘め事を見ているマリアには言われたくはないですね」
「毎晩見てないわよ! 今まで、全て偶然よ!」
「そうかしら、ああいう行為に興味があったから窓の外を見たんじゃないのかしらね」
無表情で嫌味を言うアレックス。
ああ、むかつく。
「で、何のご用。アレックス」
「ちょっとお話があるんですけど、私の部屋で話しませんか」
仕方がないので、隣のアレックスの部屋に行った。
何だろう、ケンとカイとのことかしら。
「前にいいましたよね、私、毎日男性と寝ないと疲れが取れないんです」
「ああ、聞いたわよ、それはそれは大変ですわねえ」
本当なのかなあ、かえって、疲れないのかなあ。
前にも思ったけど。
「それに男性に抱きしめられないと眠れなくて落ち着かなくって。女性ってそういうものでしょう。まあ、私は男ですけど、心は女なのでね」
そ、そういうものなのかしら。
うざくならないのかしら。
ああ、経験がないからわからないわ。
「それでケンとカイを誘ったんですけどね、断られてしまいました」
「ふーん、けど、やっぱり三人でするってまずいんじゃないの」
「いえ、ケンとカイ、それぞれに声をかけたんですけど、断られました」
「あら、振られたの、残念でしたわねえ」
「そうですね、残念ですね。お互い、牽制しているかもしれませんけど」
どうもケンとカイを手玉に取って楽しんでいるような気がするなあ、このアレックスって人。
それとも、単純に男性と寝たいだけなのかな。
疲労回復のために。
うーん、そこら辺がよくわからないのよ、処女のあたしには。
「で、どうしようって言うのよ」
「まあ、ケンとカイからは断られたんで、どうですか、マリア、ボートに乗りませんか」
何言い出すの、この男の娘は。
「え、ボートに乗るってどういう意味よ」
「そのままですよ、ボートの上でしましょうってことですね。ロマンチックじゃないの、月夜のボートの上で処女から卒業するんですよ、あなたは。素敵とは思いませんか」
「はあ、何てこと言ってんの、あんた。ちょっと何を考えているのよ、あたしは女なんだけど」
「そうですね、でも、リーダーを務めていらして、なかなか男っぽいし、そして、処女。私、処女の人と寝たことがないので、失礼かと思いますが、ちょっと興味があるんですよね。処女の方と愛し合いたいなあと思って。どうですか。湖の上にボートを浮かべて、愛し合いませんか。イライラもおさまるかもしれませんよ。前にも言いましたけど、あなたを馬鹿にしているわけじゃないんです。マリアのことを考えて誘っているんですよ。野外が恥ずかしかったら、この部屋でもいいですけど」
また、妙に真面目な顔で、とんでもないことをあたしに言うアレックス。
あたしは背筋に怖気が走るとともに、怒りも感じた。
好きでリーダーやってるわけじゃないし、好きで処女のままでもないわよ。
ああ、腹が立つ。
「ふざけないで、気持ち悪い! この変態!」
すると、また不機嫌な顔をするアレックス。
「何が気持ち悪いんですか、そんなこと言って、いろいろとこだわってばかりだから、処女をこじらせて、いつまでたっても処女なんですよ、マリアは。一度、経験すれば落ち着くと思うんですけど。別に悪意は無いわよ、私はあなたの事を考えて誘ったんですけど。これからもリーダーとして大変なんでしょう」
「う、うるさい! そんなにしたかったら一人ですればいいじゃない、ボートの上でも湖の中でも食堂でも廊下でも」
あたしは激怒して、部屋に戻った。
ああ、イライラする。
ベッドに潜り込む。
とは言え、アレックスの言ったこと。
『いろいろとこだわってばかりだから、いつまでたっても処女なんですよ』
そうかもしれない。
だからと言って、あんな男の娘に初めてを捧げられないわよ。
あたしの理想の男らしい男性はいつ現れるのかしら。
思いっ切り抱きしめてもらいたいわ。
けど、まさか、一生、現れないのかしら。
ああ、不安になってくる。
なんてことを考えていたら、隣のアレックスの部屋から、喘ぎ声が聞こえていた。
すごく色っぽい。
どうやら、一人でしているらしい。
ああ、いやらしい。
けど、ちょっと興奮してしまう、あたし。
ああ、あたしもいやらしいわ。
そしたら、今度はケイティがまたいびきをかきはじめる。
ああ、うるさい。
布団を被って、なんとか寝た。
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