鋼鉄の処女マリアの冒険

守 秀斗

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第18話:休日に湖でケイティとボートに乗る

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 翌朝。

 昨夜、アレックスに誘われたこと。
 いまだに気持ち悪いけど、変態と呼んだのはまずいかなとあたしは思い返した。

 もう、そういう時代じゃないのかもしれない。

 一応、謝っておくとするか。
 ヘソ曲げて、回復役がいなくなっても困るし。

 アレックスの部屋を叩く。
 扉が開くと、ちょっとアンニュイって言葉がぴったりとのアレックスが立っている。

 ああ、羨ましいなあ。
 あたしもこんな美人に生まれたら、もう、男とやりまくってたのに。

 って、なにを考えているのかしら、あたしは。

「なんでしょうか、リーダー、こんな朝早く」
「いえ、昨夜、あの、あなたに変態とか言ってしまって、その、謝罪しようかなあと思って、とにかくごめんなさい、急に言われたからびっくりしただけなのよ」
「全然、気にしていませんわ。それに、究極の変態は童貞と処女って話もありますしね。じゃあ、今日は休日ってことなんで、私はゆっくりと部屋で休ませてもらいます」

 扉がバタンとしまる。

 ぐぬぬ。
 あたしは究極の変態なのかよ!

 ああ、謝らなきゃよかった。
 おっと、いけない。

『リーダーは常に冷静に行かなくてはいけない』

 ああ、けど、疲れるわ。
 部屋に戻って、ケイティと朝食をとる。

「マリアさん、何か元気が無いですねえ」
「うん、いや、もう疲れちゃってねえ。リーダーは大変なのよ」
「けど、今日は休みじゃないですか、ちょっとボートに乗ってみませんか。そして、釣りでもしてみませんか」

 ボートかあ、あんまり気が乗らないなあ。
 おまけにボートと言うと、連日のあの秘め事が思い出されるわね。
 不愉快だわ、そして、なぜか興奮する。

 ああ、わけがわからなくなってきたわ。

 けど、実はあたしは、ああいう小さいボートって乗ったことがないんだよなあ。
 冒険者生活、四年も経つのに。
 子供の頃も乗った事がないわねえ。

 それに、このど田舎の村は他に娯楽は無いのよねえ。
 釣りかあ。

「けど、釣り道具はどうするの」
「宿屋の主人のイアンさんが貸してくれるそうなんです」

「イアンさんは釣りが趣味なの、それとも宿屋の食材でも釣っているのかしら」
「いや、そこら辺はわかりませんが、釣り道具は揃っているみたいです」

「じゃあ、ちょっとボートに乗って、釣りでもしてみましょうか」
「はい、そうしましょう」

 朝食後、ケイティと一緒に湖畔のボート小屋に行く。
 何隻かボートがあったのに、今は一隻しかないわ。

 先端には、ロウソクの残りかす。
 ボートの横にはあたしたちが宿泊している宿屋のマーク。

 例のボートじゃないの。

 あんまり気分がよくないわ。
 けど、仕方がない。

 そのボートに乗ってみることにした。
 あたしが櫂を漕いでみた。

 あら、案外うまく漕げる。
 弓使いで腕を鍛えているからかしら。

 湖自体は水が澄んでいて非常に美しいし、周囲の風景もきれい。
 少し気分も落ち着いてきたわ。

 宿屋の受付で借りた釣り竿から釣り糸を垂らす。
 あたしは、あんまり釣りとかしたことがないけど。

「ケイティは釣りとか得意なの」
「あの、浮浪児生活の時、よく川で釣ってました」

 そう、この娘、かなりの苦労人なのよねえ。

 それにしては、なんというか、あまりすれてないというか、純真な感じがする。
 生来の人格者なのかしらね。

 ケイティがひょいひょいと次々に魚を釣った。

「これはワカサギですよ。これはニジマス。塩で焼いて食べると美味しいです。まあ、湖とかに住んでいるほとんどの魚は食べれますけど」
「そうなんだ、美味しそうね」

 気の無い返事をするあたし。
 あたしは全然釣れない。

 一匹も釣れない。
 魚にも相手にされないわけね。

 ああ、釣りより素敵な男性と二人でボートに乗ってみたいわ。

 相手いないけどさあ。

 ケイティは釣りをしながら、ニコニコと周囲のきれいな風景を見ている。

「このボート、けっこう幅が広くて大きいですねえ」
「そうねえ、それにしてはけっこう櫂は漕ぎやすいわ」

 ふーん、ケンとカイ、アレックスはこのボートに乗ってやってたのよねえ。
 割と幅が広くて、これはやりやすいわね。
 まあ、それでも、ケンとカイはボートから落ちてたりしたけど。

 どんな感じなのかなあ、夜中にこのボートの上で愛し合うのって。

 って、また、あたしは何を考えているのかしら。
 そんなことより、あたしはこのパーティーのリーダーとしてちゃんと務まるのかしらと気になった。またまた、ケイティに聞いてしまう、自信の無いあたし。

「ねえ、ケイティ、やっぱりあたしはリーダーには向いていないんじゃないかしら」
「いえ、やはり、マリアさんが一番向いていると思います」

「何でそう思うの」
「公平だし、それに私を参加させてくれて嬉しいんです。ボリスさんにはずっと見学してろって言われてたので。すぐに使ってくれて、冒険者として認めてくれたので嬉しいんです。情報収集の仕事も与えてくれるし、私、嬉しかったです」

 仕事の目的はスライム退治だったし、ケイティでも大丈夫だろうと思っただけなんだけど。
 情報収集も何気に頼んだだけなんだけどなあ。

「それに、勇敢でもあるじゃないですか」
「そうかしら」
「ドラゴンタートルに向かって矢を射ったじゃないですか」

 うーん、あの時はもうヤケクソ状態だったんだけどなあ。

「けど、疲れてきたなあ、ああ、誰か別のメンバーにリーダーをやってもらいたいわ」
「いや、マリアさん以外いませんよ、ボリスさんが帰って来るまでは」

 そう、ボリスよ、ボリス。
 急にあの男らしい無精ひげのボリスの顔を思い出す。

 そう、わかったわ、あたしのこの空しさの原因。
 ボリスがいなくなったからよ。

 ああ、あの男らしい胸に抱き着きたい。
 抱きしめてもらいたい。

 急にそわそわするあたし。
 ああ、櫂を落としてしまった。

 あわてて、拾い上げる時に右ひじをひねる。

「イタタ」
「どうしたんですか、マリアさん」
「うん、ちょっと右ひじをひねっちゃった」

 あれ、ちょっと痛いなあ。

「アレックスさんに回復してもらえればいいんじゃないですか」
「うん、でも、あの人に近寄りたくないのよのねえ」

「どうしたんですか」
「昨夜なんだけど、自分と寝ましょうとか言うのよ、あの人。何か気持ち悪いわ、あ、ごめん、変な事を言って」

 しばらく、黙り込むケイティ。

「うーん、やはりアレックスさんの存在がこのパーティーをかき回しているようにも感じますねえ。以前も言いましたが、あんまりそういうことをしてほしくはないです。いずれボリスさんが戻ってくれば、アレックスさんは必要ないですね。申し訳ありませんが態度が改まらない場合は辞めてもらうしかないように思います。ただ、ご本人に悪意とか感じられないんですけどね。悪い人ではないと思いますが」

 かわいい顔して、アレックスに対して首切り宣言。
 けっこう、厳しいと言うか、真面目な娘よね、ケイティは。

「けどねえ、アレックスは優秀な人でもあるのよねえ、ちょっと身体が弱いけど」
「マリアさん、リーダーは決断力も必要ですよ」

 また、ボリスに言われたことを思い出した。

『リーダーは、常に的確な決断をしなくてはいけない』

「けど、うーん、そんなにあたしは割り切れないわね」
「そうですか。けど、私はそんなやさしいマリアさんが大好きですね」
「え、大好き?」

 ケイティが慌てて、手を振る。

「大好きと言っても、アレックスさん的なことじゃないです。私としてはやっぱりマリアさんがリーダーでいてもらいたいですね」
「ありがとう。まあ、ボリスが帰って来るまでだけどね」

 ああ、またボリスの顔を思い浮かべてしまう。
 胸がドキドキする。

 早く帰ってこないかしら。
 ああ、告白しよう、リーダーには決断力も必要だけど、恋愛にも決断力が必要だわ。

 そして、このボートの上で愛し合うの。
 いや、さすがにボートの上はちょっとまずいかしら。

 さて、ボート遊びの後、釣った魚は宿屋に寄付して、その後、冒険者ギルドに行った。
 ドラゴンタートル退治の報酬貰って、そして、明日の仕事を貰う。

 しかし、仕事の依頼が、また、スライム退治。
 あたしは冒険者ギルドの主人に文句を言った。

「ドラゴンタートルを倒したのよ。もっといい仕事はないんですか」
「それが、ろくな仕事がなくてね。実はすごい仕事があったんだけどね。もう他のパーティーたちに頼んじゃったよ」

 やれやれ。
 機会損失だったわ。

「どんな仕事ですか」
「フェンリルが現れたんだ」

 おお、フェンリルって狼に似ているモンスターじゃなかったっけ。
 神獣とも言われている。

 普通の狼の十倍はあるって聞いているけど。
 すごい強いモンスターじゃないの。

 こんなど田舎に珍しいわね。
 ど田舎だから現れたのかしら。

「そのフェンリルなんだが、普通の奴よりかなり大きいらしい」
「ますます強そうですね」
「うん、だから、何組かのパーティーに依頼したよ、共同作戦だな。総勢二十名だ」

 うーん、これはあたしらのパーティーには無理ね。
 太刀打ちできないだろう。

 まあ、仕方がない。
 それに、最近、大物モンスターを続いて退治したので、結構、お金が潤っている。

 ボリスが帰って来るまで、スライム退治でもいいかなとあたしは思った。
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