鋼鉄の処女マリアの冒険

守 秀斗

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第19話:フェンリル退治

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 さて、翌日。
 スライム退治に出発。

 カイもアレックスに治癒されて、元気になっている。

 場所は、シネゴ森。
 歩いて一時間。

 カイに文句を言われる。

「また、スライム退治かよ、マリア」
「しょうがないじゃない。休んでたから、いい仕事は他のパーティーにもってかれたのよ」

 すると、ケンがカイをいさめてくれた。

「いいじゃねえか、カイは二日寝てたようなもんだから、肩ならしってことでさ」
「言われてみたら、そうかな」

 お、ケンとカイが仲直りしているじゃないの。
 あたしとしては嬉しいな。

 で、ケンに聞かれた。

「そのいい仕事って、どんな内容だよ」
「シネゴ山にフェンリルが出現したみたいよ」

「え、フェンリルって狼が巨大化したような、すごい強いモンスターじゃないか」
「うん、だから、大勢のパーティーが共同で行ったみたいね」

「あれ、俺たちが行くのもシネゴ山じゃないのか」
「違うわよ、シネゴ森よ。ちょっとした崖の上にある森よ」

「でも、近くじゃないのか」
「言われてみれば、そうよね」

 ううむ、ちょっとやばいかな。
 フェンリルなんかが現れたら勝てるわけない、このパーティーで。

 すると、ケイティが言った。

「あの、マリアさん、フェンリルが現れたのはシネゴ山の頂上付近らしいですよ」
「あれ、誰から聞いたの」

「冒険者ギルドの主人からです」
「そう、じゃあ、大丈夫ね。シネゴ山ってかなり高いもんね。あたしらは麓でスライム退治するだけだから、フェンリルは他のパーティーにまかせればいいわ」

 あたしらは、いつものようにだらだらと歩いていく。
 まあ、休むも仕事ではないけど、なるべく穏便に行きたいな。
 
 今のあたしの頭の中はボリスのことでいっぱいよ。
 急に恋愛モードに入ったあたし。

 スライム退治はさっさと終わらせようっと。

 いい加減だなあって?
 女って、そんなものよ。

 ああ、早く帰って来ないかなあ。

 あたしは、今、冒険よりも恋愛に挑戦したくなってきたのよ。

 それに、今日は相手は最弱スライムだし、みんな仲良く、だらだらとお仕事。
 そんなことを考えていたら、アレックスに声をかけられた。

「マリア、昨日ボートに乗ってましたね」
「ええ、気晴らしにね、釣りもしたわ」

「乗り心地はいかがでした」
「まあ、普通かなあ」

「じゃあ、今度は五人で乗りません」
「あのねえ、あたしにはそんな趣味はないわよ。いやらしいわね」
「何言ってんですか、ただ、昼間にパーティー全員で仲良く乗りましょうってことよ。やっぱり、経験ない人って、妙な妄想をしてすぐにいやらしいことを考えるのかしらね。ねえ、やっぱりマリア、あなたには経験が必要だわ。それの方が、冷静に行動できるわよ」

 ぐぬぬ。
 引っかかってしまった。

 いや、リーダーは常に冷静に。
 落ち着いて対処する。

「これは失礼しましたわね。けど、さすがに五人も乗れないんじゃあ、ございませんか」
「言われてみればそうね。まあ、マリアは一人で乗るのが好きなんでしょうけど」

 ぐぬぬ。
 また処女のあたしをからかって、楽しんでいるのか、この男の娘は。
 ああ、イライラしてきたわ。

 すると、先を歩いていたケンが振り返って言った。

「アレックス、今は仕事中なのでボートの件とか無駄話はやめないか」

 ケンに言われて黙ってしまうアレックス。

 おお、ケンが珍しく厳しいことを言った。
 あたしをかばってくれたのかしら。

 まあ、普段は一番無駄話をしている人ではあるけれど。
 
 さて、シネゴ森に到着。

 なにやら鬱蒼とした森ね。
 ちょっと不気味な雰囲気。

 けっこう、スライムがいる。
 最弱スライムだけど。

 ケンが剣を振り、スライムを難なく倒していく。
 カイも弓矢を射って、珍しくこっちも好調。
 すぐ目の前にいるスライムだけど。

 あたしも久々にモンスターに矢を当てて、倒せた。
 まあ、三歩くらい歩いたくらいの目の前にいたスライムだけど。

 ただ、ひじが痛いな。
 昨日、ボートの上でひねったひじがまだ治っていない。
 大した痛みじゃないけど。

 ただ、もうアレックスには、あまり近寄りたくない。
 大怪我したときだけに治癒は頼もうっと。

 午後過ぎまでに最弱スライムを三十匹倒した。
 これくらいでいいかな。

 あら、狼の遠吠えが聞こえる。
 まあ、狼くらい大した事ないかな。

「さて、そろそろ帰りましょうか」

 あたしがパーティーのメンバーに声をかけていると、ボロボロの冒険服を着た血まみれの男性がこっちへ走って来た。

「おい、大変だぞ、あんたらも逃げろ」
「どうしたんですか」

「山中でモンスターのフェンリルが大暴れしてるんだ。討伐にいったパーティーはほぼ全滅したよ、こっちへ下りてくるかもしれないぞ」

 そう言って、男性は走って逃げて行った。
 え、やばい。

「みんな、もう撤退よ!」 

 すると、モンスターの咆哮が聞こえてきた。
 え、フェンリルが来るの?

 あたしが周囲を見渡すと、森の木を倒しながら、バカでかい巨大な狼みたいなモンスターが物凄い速度で走って来る。かなり怒っているぞ。

 普通の狼の二十倍はあるわ。
 これフェンリルじゃないの。

 矢が何本か身体に刺さっている。
 ありゃ、片目にも矢が刺さっている。

 頂上のパーティーを全滅させたけど、怒りがおさまらず山を下りて来たのかしら。
 そりゃ、片目を潰されたらモンスターも怒るだろうけど。
 
 やばい。
 あたしらにはかなわないぞ、このモンスター。

 けど、逃げる暇がない。

「クソ!」

 ケンが剣を振るが、空振り。
 フェンリルに吹っ飛ばされて、木に叩きつけられた。
 カイも矢を射るが、外してしまった。

「やばい、逃げろ!」

 カイがそう叫びながら、みずから、崖から転げ落ちちゃった。
 こりゃ、まずいわ。

 ケイティが例のブーメラン風のナイフを投げる。
 おお、見事、フェンリルの顔の側面に命中。

 ああ、けど、刺さったけど、フェンリルは興奮状態なのか、さらに暴れて、そのナイフも地面に落ちた。

 ケイティが逃げようとして転んだ。
 目の前にはフェンリル。

 ケイティに襲いかかろうとしている。

 ますます、まずいわ。
 あたしは弓矢を構える。

 もう、残ったもう一方の目に当てるしかない。
 あたしは、ケイティに襲いかかろうとしているフェンリルの目を狙った。

 どうか、当たって!
 矢を射る。

 シュッ!

 やったわ、フェンリルの目に刺さった。

 フェンリルが悲鳴をあげて、暴れている。
 両目が見えなくなったんだから暴れるのも当然ね。

 そして、暴れているうちに、そのフェンリルは誤って、そのまま、崖の下へ落ちて行った。
 ケイティが立ち上がってあたしにお礼を言った。

「マリアさん、ありがとうございます。もう少しで命を落とすとこでした。すごいですね、フェンリルを倒すなんて」
「いや、まぐれよ、まぐれ」

 ああ、よく当たったなあ。
 ひじが痛いのに。

 それともひじが故障している方が、あたしは調子がいいのだろうか。

 ジンクスかしら。
 ひじが痛いほうが上手くいく。

 なら、恋愛もひじが痛い方がうまくいくのかしら。
 なんて下らないことを考えてしまう。

 あたしは崖の近くまで行って、下をうかがった。
 フェンリルがはるか崖の下で倒れている。
 ピクリとも動かない。

 よし、完全に倒せたわね。
 あれ、よく見るとカイが崖の途中に突き出た木の根っこにぶら下がっている。

 ケイティが持ってきたロープをカイに投げて、みんなでなんとか引き上げた。

 カイは脚を負傷している。
 ケンも吹っ飛ばされた時に脚を怪我。

「アレックス、二人を治してよ」
「いいですけど、どちらにしますか」

「え、二人とも治してよ」 
「あたしは一人分しか回復出来ません」

「またですかあ」
「しょうがないじゃないですか、前に言ったでしょ。私は毎晩男性に抱かれないと身体の回復が遅れるんだって、あなたと違って」

 あなたと違ってって、どういう意味じゃい。
 しかし、ここはアレックスの嫌味を聞いている場合じゃないな。

「ねえ、カイ、あなたの脚を治すから、宿屋までケンをおぶってくれないかしら」
「ああ、いいよ」

「ケンもいいよね」
「うん、すまない、カイ」

 どうやら、ケンとカイは完全に仲直りしたらしい。
 リーダーとしては嬉しいわ。

「じゃあ、カイの脚を治してよ」
「わかりました」

 アレックスがカイの脚に光を当てた。
 すっかり元気になるカイ。

「じゃあ、戻りましょうか」

 ケンをおぶって宿屋に戻るカイ。
 二人ともおしゃべりしながら、仲良くしている。

 それを見て、なんだか不機嫌な顔をしているアレックス。

 なんだろう、また、わけのわからないトラブルを起こさないでほしいけど。
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