破壊神の終末救世記

シマフジ英

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08 幕間:魔物退治

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「ただいま~」
 ルーツは家に帰ってきた。特訓の疲労のせいか、荷物が重く感じられ、その足に覇気はない。

「あ、ルーツ、こんにちは」
「サナ、来てたんだ」
「うん。ちょっとおば様に用があって。……疲れた顔して、今日は剣の稽古?」
「ああ。鍛冶屋のおっちゃんにね」
「そう、お疲れ様。何か飲む?」
「うん、お願いしたい」
「ちょっと待ってて」
 客であるはずのサナにそんなことをしてもらうのは気の引けることだったが、ルーツも疲労困憊で頼めるならお願いしたかったのだ。

「はい、どうぞ」
「ありがとう。……くぅ~、生き返る~!!」
 ルーツは甲高い声を上げ、コップを机に置いた。

「なあ、サナ。明日、長老に呼ばれているだろ?」
「そうなんだよね。でも最近は長老の特訓にも慣れたよ」
「そっか、器用だな、サナは。ちなみに明日、俺も一緒」
「あ、ホントに! 良かった、頼りにしてるよ!」
「こちらこそ。でもさ、二人でやる特訓って、難易度高い傾向があるよな」
「そうかもね……」
 空気がどんよりしたが、何だかんだルーツはサナと一緒に何かをするのが楽しいのだ。特訓の厳しさへの不安より、嬉しさの方がまさっていた。

「ね、ルーツ。とにかく横になりなよ」
「え?」
「マッサージ!」
「いや、そこまでやってもらうわけには」
「いいから、いいから」
 サナはルーツの腕を掴むと、慣れた様子で客間まで連れていき、うつ伏せに寝かせた。サナはルーツの足の裏からマッサージを開始した。

「うげ、痛ててて!」
「随分と踏ん張ったのね。筋肉こわばってるよ」
「ホントに? 鍛冶屋のおっちゃんはヘッチャラそうなのにな。何が違うんだろ」
「年季じゃない? やっぱり」
 サナのマッサージは下腿に進み、太ももの方へ移動する。筋肉がほぐれていってルーツにはとても気持ちよく感じられた。

 しばらく雑談をしながらその状態が続く。上半身までケアが済むと、サナはルーツの背中を叩いた。

「はい、終わり!」
「ありがと、よく効いたよ」
「どういたしまして。おば様、帰ってこないねぇ」
「まだ仕事忙しい時期だからな」
「そっか。私の方は急用じゃないから、明日また来るね」
「ああ、分かった。じゃあ、また明日な」
「うん、バイバイ」
 ルーツはサナを見送ると、自室で特訓の日誌をつけた。それは長老のアドバイスだった。その方が成長が早いと。

「うーん、長老が凄い魔道士なのはイメージ通りだけど、鍛冶屋のおっちゃん、何であんなに剣できるんだろ」
 ルーツは湧き出る疑問を呟きつつも、日誌を使って復習をした。母の帰宅後に夕食を済ませ、夜は早く寝ることにした。翌日にサナとの特訓が待っているのだから。


    ◇


 翌日。

 サナは朝からルーツの家を訪れ、ルーツの母と何やら話をしていた。ルーツも寝ぼけまなこで横にいると、どうやら近々行う村の祭りについてだった。その話はすぐに終わり、3人で朝食を取った後、ルーツとサナは長老の家に向かった。

「今日は転移魔法でお主らをある村に送る」
「て、転移魔法……?」
「長老、そんなこともできるんですね……」
「ほっほっほ、実戦という奴じゃ。たまにはの。その村はあることに困っている。ルーツにサナ、これまでに蓄えた力で見事、解決してみよ」
「は、はぁ……」
「ではゆくぞ」
 長老が手を合わせると、ルーツとサナの周りに紫色の光がほとばしった。ルーツもサナもたまらず目を閉じる。

 目を開けると、そこは今までいた長老の家とは全く違う場所だった。

「えええ、本当に転移したのね」
「サナ、ほら、きっとあの村だよ」
 ルーツが指差す先には確かに村があった。二人で中に入ってみると、音がしない。生活音がやけに小さいのだ。

「どうしたんだろ、ずいぶんと暗い雰囲気だね」
「まったくだなぁ」
「おや、お前さんたちは?」
 ルーツたちが歩いていると、老人に声をかけられた。

「よそ者がいるということは、君たちが私たちの依頼を受けたということか?」
 ルーツとサナは顔を見合わせた。もう伝わっているのなら話は早い。サナが肯定すると、老人は二人をすぐそこにあった家に案内した。

「私はこの村の村長じゃ」
「私はサナです。こっちはルーツ」
「よろしくお願いします。それで、依頼というのは?」
「何と、内容が伝わっておらんのか! 二人とも若いようじゃが、本当に大丈夫なのかのぉ……」
 村長は不安そうな表情をしながら説明してくれた。

 一月ほど前から、この村と街を繋ぐ山の街道に大きな魔物が出没するようになったそうだ。せっかく畑で作物が取れても売りに行くことができず、また物資も入ってこない。今は売るはずの作物で飢えを凌いでいるが、このまま物資を買うことができなければいずれ限界が来てしまうという。

「魔物は街道を行く者を襲う。討伐を依頼して大丈夫か?」
「はい、大丈夫です」
「早速、行ってきますよ」
 ルーツもサナも楽観的に引き受けた。長老はスパルタな特訓をすることもあるが、二人のレベルに見合わない無茶なことをやらせはしないだろうという信頼だった。ルーツとサナは準備をし、街道に入っていった。

「さて、まずはその魔物を見つけないといけないけど」
「こういう時は、探知魔法よね」
「その通りじゃ。基本は身についておるようじゃの」
「う、うわ!?」
「ち、長老!?」
 不意に声が響き、ルーツとサナは共に声を上げた。

「一体どうやって会話してるんですか?」
「そうですよ。私たちはこんな魔法知らない……」
「魔法ではない。ここにある特別なアイテムを使っておる。それに、普通の人間には使いこなせんよ」
「う、うーん……」
 長老が暗に自分は人間ではないと言っているような気がして、ルーツは項垂うなだれた。

「そんなことより、さっさとその依頼をこなしてみよ」
「は、はい」
 ルーツは魔力を展開し、周囲に飛ばした。すると、山の中腹にドス黒い気配を感じ取ることができた。

「山の中腹だ」
「行ってみよう」
 ルーツとサナは頷き合った。サナは風魔法インビジブルを唱えて自分たちの姿を消し、ルーツはサナをお姫様抱っこの形で抱きかかえた。風魔法で一気に距離を詰めるのだ。

 その魔法により、ルーツたちの身体が風の力で高く舞い上がる。風はさらに二人の身体を押し流し、あっという間に魔物のいる中腹まで飛んだ。

 ルーツはサナを下ろし、二人で様子を伺うと、四本脚で黒いオーラに覆われた熊のような生物の存在を確認できた。

「あれね。闇の魔力に取り憑かれているんだわ……」
「そうだな。だったらやることは一つ」
 ルーツは持ってきた剣を抜いた。そして、左手を剣に向ける。

 たちまち剣に紫のオーラが宿る。これは魔法剣だ。長老曰く、難しいから使い手はほとんどいない。ルーツがこれを使えるのは、長きに渡る長老のしごきの成果でもあった。

「やるよ」
「うん」
 小声で話した二人だったが、その気配を感じ取ったのか、魔物が咆哮を上げて二人の方に走り寄ってきた。

「来た!」
 ルーツは叫ぶと、魔物をおびき寄せるように走り出した。サナは別方向に走り、援護のために火魔法を連続で撃ち始めた。連続で魔法を放つのもかなり高度な技だが、これも訓練の賜物たまものだった。

 サナの攻撃に気を取られ、魔物の動きが鈍る。そのスキをついて、ルーツが剣で斬りつけた。斬撃そのものが目的ではない。魔法剣で魔物に取り憑いている闇の魔力を吸収するためだ。

 一度の斬りつけで全てを吸収することはできず、魔物が腕を振り抜いてくる。ルーツは足に風魔法を発動させ、大きく後ろにジャンプした。しかし、振り抜いた魔物の腕から黒いオーラが伸び、ルーツを追いかけてくる。

「うお、何だそりゃ!?」
 ルーツは横に避けようとしたが間に合わず、黒いオーラにまとわり付かれた。その時、サナの援護攻撃が黒いオーラを撃ち抜き、ルーツはオーラを払いのける。

 今度はサナを視認した様子の魔物は、黒いオーラをサナの方に飛ばした。サナは横に飛び退いてそれを回避する。しかし、そのオーラが向きを変えて戻ってきてサナにぶつかった。

「ぅあ!?」
 サナの身体が吹き飛ばされ、木に衝突した。ぶつかる直前に土魔法で身体を強化したらしく、大ダメージには至っていない。

 その間にもルーツは何回か、魔物に斬撃を入れた。1回斬りつけるだけでかなりの量の闇の魔力を吸い取れるため、魔物の身体が小さくなったように見える。

 サナが風魔法で大ジャンプし、ルーツの隣まで戻ってきた。

「はぁ、はぁ、サナ、大丈夫?」
「はぁ、はぁ、うん、問題ない」
 サナの無事を確認すると、なおもコンビネーションを取りながら二人は攻撃を続けた。魔物も反撃を続けたが、ルーツの剣が闇の魔力を吸い取る度に力が減衰し、ルーツたちがどんどん有利になっていく。

 最後には魔物は動かなくなり、ルーツが剣を当てるだけになった。それで、全ての闇の魔力を吸収することができた。

「終わったぁぁぁ!」
 ルーツとサナは座り込み、手をタッチし合った。

「でも、こんな小さな魔物があんな大きくなってたんだね」
「多分、まだ子供の魔物よね?」
 闇の魔力が抜けたその魔物は、力を使い果たして眠っているようだった。

「よくやった二人とも」
「あ、長老……」
「お疲れ様です」
「見事、実戦をこなすことができたな、さすがじゃよ」
「疲れました……」
「でも、この魔物、どうしましょう?」
「放っておけば良い。元々賢い種族じゃ。今後は無駄に人に危害を加えることもないじゃろう。むしろ、今までのことに罪悪感を覚えて、街道を行く者を守ってくれる可能性もある」
「え、そうなんですね」
「なら、村長さんに伝えてあげないと」
「いや、今回の実戦はこれまでだ。戻ってきなさい」
「ええ、ちょっと……!?」
 長老の声と共に、ルーツとサナに転移魔法が生じ、二人は長老の家に戻った。

「二人とも疲労困憊のようじゃの。どうじゃった、初めての実戦は?」
「あの魔物、素早くて捉えるのが大変で……」
「自在に伸びる闇の魔力も厄介でした」
「そうじゃな。人間の力は弱い。お主らは必死に私の課題をこなしてきたから何とかなったが、魔物と関わるというのはそういうことじゃ。今後も決して油断をせぬように」
「「は、はい」」
 ルーツとサナは長老に挨拶をし、帰路についた。

「痛ててて。体中あちこちやられてるよ」
「私も……。魔力も消耗したよね」
「だな」
 そのまま雑談をしていると、ルーツの家の前まで着いた。

「ちょっと寄っていくわ。ケアし合いましょう」
「うん、分かった」

 前日と違い、この日は魔法を盛大に使ったので、魔力疲れをほぐすケアをした。微量な魔力を身体のあちこちに通すのだ。マッサージと同じように足から始める。

 もう一つ前日と違うのは、ルーツからサナへのケアも行ったことだ。下腿、太ももの順に、ルーツは手からうつ伏せのサナの脚に微量な魔力が流す処置をしていく。

 綺麗な脚だと、ルーツは心の底から思った。細いというより美脚。戦いの中でルーツがサナの身体を抱きかかえた時は戦いに夢中で気にならなかったが、こうしてじっくりと見られる機会に恵まれてしまうと、ルーツの心は乱れる。

「う~、効く~」
 などと言いながらサナはルーツを信頼して身を任せているし、ルーツはよこしまな感情を抱くのをこらえなければならなかった。

「小さい頃はこうじゃなかったんだけどなぁ……」
「ん、どういうこと?」
「……何でもない」
「そう? 変なの?」

 ルーツはもう自分の恋心を自覚している。サナがルーツをどう思っているのだろうかといつも夢想している。

(いつか、この想いを伝える日が来るんだろうか……)
 ルーツはそう思いながらケアを続けた。
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