破壊神の終末救世記

シマフジ英

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39 異変の始まり

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 ルーツは、サナ、ネロ、シンディと共にオーデルグについて話していた。

「住んでいた村が虐殺被害か……」
「酷い話ね……」
 ルーツとサナが順に呟く。

「その結果が、復讐と世界の破壊、か」
「復讐は何となく分かるんだが、何で世界の破壊になっちまうんだ?」
 シンディとネロが言った。

「人間そのものに絶望してしまったのかも」
「そうだな。俺がオーデルグだったとして、もし村が滅ぼされたら、そう考えてしまう可能性はあるよ」
 ルーツは自分の村のことを思い出す。もしかしたら、あったかもしれない未来を想像してしまう。

 会話していると、ドアがノックされた。サナがドアを開けると、そこにはジャックとリリィがいた。

「ちょっと、話をさせてくれないか?」
「いいですよ。入ってください」
 二人を招き入れ、6人で椅子に座る。

「ルーツとサナ王女、そして俺たちは4人で幼馴染みたいなものだったからさ。君たちと話しているのは不思議だよ」
「仲良かったんですか?」
「ええ。サナ王女に連れられて、よくニーベ村に遊びに行っていたものよ。ルーツは、ううん、オーデルグは幼い頃から凄い魔道士だった」
 リリィが悲しそうな顔をする。痛ましい話だと、ルーツは思った。

「俺たち、言っても貴族だからさ、優遇されてたはずなんだよ、あの戦争の時も。けど、ルーツはそうじゃなかった」
「ミストロア王国と帝国の戦争の時、前線はあっという間に敗れ去り、王は早期に降伏宣言をした。ニーベ村は前線からは遠い場所だった。だからまさか、虐殺事件があったなんて……」
 ジャックとリリィは状況をまとめるように言った。

「オーデルグは、お二人に何も言わなかったんですか?」
 ルーツが尋ねた。

「ああ。調査結果が届いた時にはもう遅すぎたんだ……」
「戦争の時の話をしたことは、勿論あったよ。嘘をつかれていることに気づくべきだったんだろうけど……。本音を言えば、言ってほしかった……。私たちじゃ、頼りにならなかったのかもしれないけれど……」
 リリィは下を向いて涙声になっていった。

「でも、立ち向かわないわけにはいかねぇぞ」
「そうね。彼の境遇に同情はできるけど、やろうとしていることは許容できない」
「そうなんだ。それが、何よりも、辛い……」
 ネロ、シンディ、ジャックが順に言った。

 ふと、サナが口を開く。

「気になっていることがあるんです。オーデルグは、事件の主謀者への復讐やミストロア王の陰謀については語ったんですよね?」
「ええ、そうよ」
「でも、世界破壊の動機については頑なに語ろうとしない。それって、もしかすると、迷いがあるんじゃないでしょうか」
 サナのその指摘はもっともだと、ルーツも思った。

「なるほど。確かに人間に絶望したとして、じゃあ人間を皆殺しにする大義に自信を持てるかと言ったら、そうではないよな」
「うん。だから動機を語って議論に持ち込みたくはない。それを恐れているのなら、彼にも引き返したい想いが残っているんじゃないかな」
「そうだな。心の底では止めてほしがっているのかも。話してみたくはあるな、オーデルグ次第ではあるけどさ」
 ルーツとサナが思い思いに言った。

 ルーツは、ふとジャックとリリィがサナを見て目を瞬かせているのに気づいた。

「君は、サナ王女のコピー人間なんだよな?」
「私も聞かされただけですが、そうらしいです」
「鋭い物言いをするのね。全くの別人よ……」
「え? サナ王女って、どういう人なんですか?」
 サナが興味本位のような顔でジャックたちに聞いた。

「これは懺悔ざんげかもしれない。もう一つ話すわ。オーデルグとサナ王女との間にあったことを……」
 そしてジャックとリリィは語った。

 ミストロア王国と帝国の戦争前、オーデルグとサナ王女は明らかに好き合っていたこと。二人が再会した時にはサナ王女には別の想い人ができていたこと。サナ王女が、その件でオーデルグに酷い言動、行動を繰り返してしまったことを。

 ルーツは手で頭を抑えた。サナもだった。

「それは、キツい……。自分と置き換えて想像するのも嫌ですね……」
「ただ3年離れ離れだっただけならまだしも、オーデルグの境遇を考えると、もしかすると最後にすがった希望だったかもしれません。私がオーデルグだったらきっとそう思う」
 ルーツとサナが項垂うなだれながら言った。

 何という運命なのだろうか。サナ王女も3年の軟禁で心を病んだ可能性はあるが、そうだったとしても、やはり同情はできても、起こしてしまった結果に見合う理由ではないとルーツは思った。

 ジャックもリリィもサナ王女に苦言を呈そうか迷っていたらしい。最初にサナ王女を叱ったのはブルーニーだったそうだ。リリィもその後、サナ王女とその話をしたというが、何もかも遅すぎたのだ。

「そうか、それが俺たちの敵なんだな」
「苦しみと共に生きてきたような人ね、オーデルグは。やりきれない……」
 ルーツとサナが呟いた。

 その時、飛空艇の館内放送が響いた。緊急事態を告げるメッセージが流れる。

 ルーツたちは急いで甲板に出ると、遥か彼方に紫色の光が見えた。

「あ、あれって!?」
「宗教国家スオードを覆った闇の魔力!?」
 ルーツとサナが叫んだ。

「あの方向は……」
「……帝国の方よ」
 ネロとシンディが言った。

 闇の魔力が発動されたというのなら、犯人はオーデルグ一味だ。それが帝国の方向で発生したというなら、帝国がオーデルグの攻撃を受けたということだった。

「どうなっているんだ!?」
 甲板に出てきたバスティアンが怒鳴る。しかし、答える者はいなかった。


    ◇


 その後、帝国に通信を呼び掛けても応答は返ってこなかった。チームメンバーとルーツたちが、大会議室に集まる。

「帝国はどうなっているんだ?」
「応答がない。通信が封じられている」
「いえ、それだけではないかもしれません。帝国内はもっと酷いことになっているのかも」
 暗い雰囲気が漂う。創造神サカズエとコンタクトを取れないまま、事態がどんどん悪化していく。誰もが参っているようだとルーツは思った。

「俺たちが帝国を見てきます」
 ルーツが言った。

「ええ!?」
「大丈夫なのか!?」
 メンバーたちは口々に心配する。宗教国家スオードであの魔法を発動された時、誰もが身動きできない状況に追い込まれたから、危険さは分かっているのだ。

「私たちなら、あの中でも何とか動けます」
「俺たちもな」
「ええ、装備が良いからね」
 ルーツ、サナ、ネロ、シンディの4人で帝国を見てくることになった。

 サナがルーンドラゴンを召喚し、空から帝国方面に向かう。

「首都が、全部覆われている……?」
「魔力の圏内に入るぞ。気をつけて」
 ルーツとサナは魔力で自衛を、ネロとシンディはダンジョンの魔物から貰った装備で防御をして圏内に入った。

「う、これは……!?」
「人が、倒れている!?」
 大地に人々が倒れているのが見えた。近づいてみると、硬い石像のようになっていた。

「なんだこりゃ! 一体どうなってんだ!?」
「生きてはいる。眠っているみたいだ」
 ルーツが倒れている人を魔法で解析しながら言った。

「スオードで見たあの魔力結界の大型版ってことね」
「この結界、どんどん広がってるよね?」
「まさか、これで世界全部を包んでしまおうということなのか!?」
 世界の破壊。すなわち人間の滅亡。ついに実行に移されたのだ。

「ついに始めやがったな、オーデルグの野郎!」
「虐殺の被害者である彼自身が虐殺に手を染める。まさに連鎖ね……」
 ネロとシンディが呟く。

 ルーツは石化している人々をさらに解析する。時の流れが緩やかになっている。このままでも、しばらくは生きていられるだろう。しかし、だからこそ、考えが確信に至った。

「なあ、さっきの話の続きだ。オーデルグの動機」
「うん、私もそれ言いたかった」
「この消極的な殺し方……。悩みに悩み抜いた結果だよ、きっと」
「ええ。世界を破壊することに躊躇が無かったら、結界に入った人間を即死させるようにすれば済むことよ」
「ああ! こんなの、誰かにめてほしがっているようなもんだ!」
 だから、めなければならない。世界の未来だけでなく、オーデルグ自身のためにも。ルーツはそう思った。
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