破壊神の終末救世記

シマフジ英

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48 最後の挨拶(ルーツ視点)

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 夢の中で見た老婆を、コピーのルーツとサナは長老と呼んだ。夢の通りだ。もしかすると、この人が俺にあの夢を見させていたのか。

「言った通りであったろう、オーデルグ。お主の夢は儚く散った」
「そうか……、あなたは、破壊神トコヨニか」
「いかにも。情けないことに、創造神サカズエは吸収されて消えてしまったが、私はそうはいかなかった。結末を見届けたかったのでな」
 ルーツとサナがトコヨニに近づき、抱きつく。サカズエだったら考えられないその関係に、俺は驚いてしまう。これのどこが破壊神なのだろうか。

「長老は破壊神だったのでしょう?」
「だったらオーデルグが目的を完遂した方が良かったのでは?」
「いいや、私は何があってもお主らの選択を見届けるつもりじゃった。そうすることに決めておったからな。破壊神の使命に向き合うのは、今ではなかった」
 ルーツたちの会話に俺は苦笑する。この状況を見れば、世界を救ったのは破壊神だ。

「そうだ、ブラストと皆は!?」
「心配するな。ブラストは俺の敗北を悟り、あの場を去った。もう戦いは終わっている」
 俺はルーツに答えた。感知は出来ている。ブラストはもうあの場にいない。紫の水晶を壊してしまったので、もう向こうからここへは転移もできないだろうが。

「さて、オーデルグよ。力を使ってしまったな? その様子では、もう長くはない」
「元々あと半年も生きられない身体だった。それが早まったというだけです」
「最後に、話したい者はいるか? 転移で呼んでやろう」
「何ですか、それは? あなたは本当に破壊神なのか?」
 その恩情は、冷酷な創造神サカズエと全く違う。二人は逆だったのではないかとも思ってしまう。

「話したい相手、か。同志たちは友達ではないし、俺にそういう相手がいるとしたら……」
 3年前だったらサナ王女とジャックとリリィだろう。今はもうサナ王女は除外だが。今ならブルーニーもか。きっと殴られるだろうが。

「そういえば、さっきブルーニーがリーダーを引き継いだとか言っていたな? バスティアンに何があった?」
「バスティアンにあの状況でリーダーが務まったと思いますか?」
 サナが呆れたような声で言った。その様子に俺は少し興味が湧いた。

「当たりが強いな。コピーのサナ、君はバスティアンをどう見た?」
「あの人はダメでしょう、自分本位だし。私がオリジナルだったらどうしていたとか、よく分からないことを言ってきたので、あなたは好みではないと伝えてあげました」
「な……!?」
 なんということだ! 君が、バスティアンにそう言ったのか……。サナ王女の完全上位互換のような君が、バスティアンに、お前はタイプではない、と!

「ぷっ、くっくっく!!」
「え?」
「あーーっはっはっはっはっは!! それは傑作だ!! バスティアンの顔が見ものだったな!! あっはっはっはっは!!」

 俺は思わず爆笑してしまう。きっとバスティアンは、サナ王女をダメにしたのは自分なのではないかと思ったのだろう! サナ王女に比べて強く真っ直ぐに生きているコピーのサナを見て、自分のせいだったのか確認したかったに違いない! そこにお前はタイプではないと告げるとは! それはさぞかしバスティアンに効いただろうな!

「オ、オーデルグ?」
「ど、どうしたんですか?」
「いやなに、よくやってくれた!! こんなに痛快なのは、本当に久しぶりだ! あっはっはっは!!」
 復讐、世界の変革など、重いことばかり考えていた俺の心に、シンプルで子供のような心が蘇ってしまった。ただバスティアンに、いい気味だと、そう思ってしまう!

 ひとしきり笑った後、俺はトコヨニに目を向けた。

「トコヨニ。転移で人を呼んで下さるというのなら、ブルーニー、ジャック、リリィ、そしてサナ王女を頼みます」
「え!?」
「オ、オーデルグ……! サナ王女も……?」
「構わない……。俺も、彼女と話してみたいことができた……」

 トコヨニは転移魔法で彼らを呼び出してくれた。サナ王女は面食らっていた。まさか自分が呼ばれるとは思っていなかったのだろう。トコヨニは、俺の寿命が長くないことを彼らに説明してくれた。

「よお、オーデルグ。いや……ルーツ!」
「やあ、ブルーニー。しばらくだな……」
 予想通り、ブルーニーに一発殴られた。覚悟の上だった。俺の胸ぐらをつかんだまま、ブルーニーは言葉を続ける。

「ルーツ……。てめえはもっと人を頼るべきだったんだよ……。嘘ばっかついて、一人で勝手に決めやがって……」
「すまなかった……。お前と出会えて、本当に良かった……」
「墓参りには行ってやる……。美味い酒でも差し入れてやるよ……」
「ありがとう……。本当にすまなかった……」
 今になって心から謝罪する。お前は俺が裏切る直前にも俺を気にしてくれていたというのに……。

 ブルーニーが歩き去り、次にジャックとリリィが俺の前でしゃがみ込んだ。二人には、ブラストとの激闘の痕が身体中に残っている。

「ルーツ……」
「オーデ……ルーツ……」
「そんな顔するな、二人とも……。全部、俺がしでかした悪事のせいなんだから……」
「そんなことないよ、ルーツ。俺たちは気づくべきだったんだ、君の苦しみに」
「俺は嘘をついていたんだ。ジャックやリリィが気づくべきだったなんて、そんなはずはない。人を助けるには、助けられる側も手を差し出さないと無理だ。俺はそれをしなかった……」
「ルーツ……、相変わらず優しい……。昔と、変わらないわ……」
 リリィはそのまま顔を覆って泣き始めた。

「リリィ、君はジャックと一緒にニーベ村の事件まで自力で辿り着いた。そんな調査をしていた君こそ、本当に優しい人だよ……。すまなかった……」
 泣いているリリィやジャックに俺は頭を下げた。

「あと、サナ王女のことだよ……。俺たち、何のフォローもしなかった……」
「しようとしてただろう?」
「え?」
「サナを叱ろうとか、二人で相談していたじゃないか」
 そう、そんなことがあった。飛空艇の中でだ。二人は確かにその相談をしていた。

「聞いていたのか……」
「ああ、聞いてしまった……。それだけで十分じゅうぶんだよ……」
「そっか……」
「ニーベ村の跡地には皆の墓が作ってある。墓参りしてあげてくれると嬉しい」
「……必ず、行くよ」
 俺はジャックとリリィと握手をした。ジャックとリリィが歩き去る。

 遠目にサナ王女を見た。コピーのルーツとサナが何か念押ししているようだ。二人とも、心配性だな。今更、サナ王女に何かやらかされたところで、何にもならないから大丈夫だというのに。

 サナ王女は静かに俺の前に来た。ジャックやリリィよりも怪我が酷い。顔に腫れができていた。

「ルー……ツ……」
「再起不能だと思っていた。よくここまで来たな、サナ……」
「もう一人のサナが、回復魔法で治してくれた……」
「そういうことだったのか、回復魔法の使い手がいたとは……。あのは凄いな……」
「凄いよ……。私なんかと全然違う……」
 サナ王女は下を向いた。

「ルーツが、私を呼ぶとは、思わなかった」
「うん。呼ぶつもりはなかった」
「!?」
 サナ王女がビクっとしたのを感じる。だが、フォローの類はしない。

「ただ、君にも聞いてみたかったんだよ……。コピーの二人が俺たちだったら、どうだったと思う?」
「え……?」
「考えたこと、無かったか?」
「……あるよ」
「どうだったんだろうな、あのルーツが俺だったら……。復讐や世界変革より、泥をすすってでも、君を救い出すことを優先したのかもな……」
「……違うよルーツ。その前に、あのサナが私だったら……。お父様の計画を察知して、ニーベ村を助けに行ってた……」
「そうか……」
「そうだよ……」
 全ては想像。コピーの二人の人格は、彼らの生きてきた環境がはぐくんだのだろうから、俺たちに置き換えるのは違うんだと思う。でも、想像せずにはいられなかった。それは、サナ王女も一緒だったのだ。

「ルーツ……もう一つだけ、聞いてくれる?」
「……いいよ」
 見ればサナ王女は涙を流している。

「私がやってしまったことについては何も言わない……。私がルーツにその許しを乞うのは、卑怯なことだから……」
 君がそんな心境になるとは。さっきコピーの二人に念を押されていたのは、これか。

「でも、これだけは、伝えさせてほしい。私は、昔の方が幸せだった……!」
「昔?」
「そうよ! ルーツがいて、ジャックとリリィがいて、ニーベ村の皆がいて! 皆優しかった! 楽しかった! 皆と一緒に生きていられればそれで良かったのに! どうして……こうなっちゃったの……?」
「……」
 本心だと思う。きっとこの言い方は。俺にとっても、思い出は本物だった。

「戦乱に翻弄されてしまったな。俺も、君も……」
「……」
 しかし、俺はサナ王女に共感は示さなかった。俺と君の道は、分かたれたのだから。

「今度こそ、本当にさよならだ、サナ……」
「うん……。聞いてくれて、ありがとう……」
 サナ王女は手で顔を覆い、声を上げて泣きながら歩き去った。

 コピーのルーツとサナが俺の元まで来た。

「最後の最後にサナ王女と向き合うとは……」
「大丈夫でしたか、オーデルグ……?」
「問題ないさ、ありがとう。彼女に色々と念押ししたのは君たちだろう?」

 トコヨニはブルーニーたちを転移魔法で元の場所に送り、俺たちのところまでやって来た。

「私たちは村に戻る。オーデルグ、お主も来るが良い」
「え……?」
「お主には見届ける・・・・義務がある」
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