鍛えよ、侯爵令嬢! ~オレスティアとオレステスの入れ替わり奮闘記~

月島 成生

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第八十四話 揺れ動く評価(オレスティア視点)

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 モンスターよ、とルシアは断言した。かもしれない、などと言う可能性の示唆ではない。
 きょとんと見つめ返すオレスティアに、ルシアは軽く肩を竦める。

「だって、あんなの人がするわけないじゃない」
「けれど乱暴な荒くれ者なら――」
「できない、とは言っていないの。するわけがないって言ったのよ」

 オレスティアの思考を読んだのだろう、ルシアが続ける。

「意味がないもの。街道を荒らして、なんの利益があるの?」
「それは――盗賊対策で護衛に雇えだとか、荒れた道を無事に通れるように案内すると旅の商人相手に買って出るとか――悪と正の二役みたいな」
「あるあるの手段だけど、違うと思うわ」

 だって、とルシアは先ほどのように目線を物陰へと向ける。

「あんな連中よ? 護衛を申し出られたとして、あんな弱そうなの信用する?」

 ルシアの視線を追い、オレスティアも改めて、それでもなるべく控えめに男達を見てみる。

 オレステスと比べるまでもない、貧相な体格。一般人とまったく変わらない。
 むしろ細ければ敏捷だったりする可能性もあるが、そういった風にも見えなかった。

「たぶん落ちぶれた商品とかじゃないかしら。元々質は悪くなさそうな服だけど、着古してくたびれた感じだし。決して動きやすさを重視した服装でもないし」
「たしかにな」

 ルシアの推測に頷いたのは、オレステスだった。

「ちみちみ小銭をかすめ取って、それこそモンスター対策の護衛を雇って仕入れに出発とか――まぁそこまで考えられればまだマシか」
「そうね。単純に、旅人が行き来できなくなったせいで商売ができずに店をたたみ、食うに困って――とかもありえそう」

 そう言われてみればと、ぐるりと街並みを見渡す。大きく、繁盛していそうな店もある一方、戸が閉まったままの、元はなにかの店だったと思われる建物もちらほら見えた。

「あー、なるほどな」

 オレスティアほどあからさまにではないけれど、オレステスもさっと周囲に目を走らせたあとぽつりと呟く。

「辺境伯が領地を離れられなくなった理由。おかしいとは思ってたんだよな」
「というと?」
「ここんところ別に国家間での戦の話なんか聞かないのにってな」
「――あ」

 指摘に、思わず声が洩れる。

 辺境伯領がキナ臭い、とは言われていた。だからこそ両家の顔合わせを首都で行うことも適わず、迎えに来ることすらできず、支度金を送るにとどまったのだと。
 使者をよこすことは辛うじてできた。だが護衛兵を送れなかったのは、わずかな戦力すら出し惜しむ事態だったということかもしれない。

 ――いや、侯爵令嬢を迎えるのだからと理由をつけて、領地を代理人に任せて首都に逃げることもできたはずなのに、それをしなかったということは。

「今のところ街中までは襲われてないようだが、街道まで来てるとなれば時間の問題だ。モンスター討伐に駆られてるんだろうな」
「――辺境伯が自ら?」
「元々そんな話してたじゃねぇか。戦陣切って戦う御仁だと」

 もしかして、と、やはり、の間で問いかけるように言うと、オレステスがさも当然のように頷いた。

「けれど、人間を相手にするよりはるかに危険なのでは」
「そりゃそうだろうな」

 こちらにもあっさりと首肯する。

「人間の方が戦略だの戦術だの、『戦争』となれば先が読めずにやっかいな点があるのは事実だ。けどよ、単純に個体との戦いで言えば人間とモンスターは比べるまでもない」
「――ですよね」

 オレスティアのような素人にだってわかる話だ。

 けれど――だからこそ。

「それなのに?」

 トップに立つ人間が、自らモンスターと戦うのか。
 部下や配下の兵たちに任せるのではなく、危険も省みずに――

「それなのに、だ」

 オレスティアの思いを読み取ったのだろう。オレステスは力強く断言した。

 長たる者、自分の身を守るのは義務ですらある。
 なにかあれば後々に影響があるのだから、本来は忌避すべきことかもしれない。

 それでも、自分ひとり安全を確保しながら指揮するだけの人間ではないということは――

 以前ルシアとオレステスが話していた「優良物件」の見解が、実は正しかったのではないか。
 なにも知らずにただ怖がっていた愚かしさが見えた気がして、自己嫌悪が湧く。
 同時に、まだ見ぬ辺境伯への期待めいたものが浮かんできてしまうのを否定できなかった。
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