84 / 87
第八十四話 揺れ動く評価(オレスティア視点)
しおりを挟むモンスターよ、とルシアは断言した。かもしれない、などと言う可能性の示唆ではない。
きょとんと見つめ返すオレスティアに、ルシアは軽く肩を竦める。
「だって、あんなの人がするわけないじゃない」
「けれど乱暴な荒くれ者なら――」
「できない、とは言っていないの。するわけがないって言ったのよ」
オレスティアの思考を読んだのだろう、ルシアが続ける。
「意味がないもの。街道を荒らして、なんの利益があるの?」
「それは――盗賊対策で護衛に雇えだとか、荒れた道を無事に通れるように案内すると旅の商人相手に買って出るとか――悪と正の二役みたいな」
「あるあるの手段だけど、違うと思うわ」
だって、とルシアは先ほどのように目線を物陰へと向ける。
「あんな連中よ? 護衛を申し出られたとして、あんな弱そうなの信用する?」
ルシアの視線を追い、オレスティアも改めて、それでもなるべく控えめに男達を見てみる。
オレステスと比べるまでもない、貧相な体格。一般人とまったく変わらない。
むしろ細ければ敏捷だったりする可能性もあるが、そういった風にも見えなかった。
「たぶん落ちぶれた商品とかじゃないかしら。元々質は悪くなさそうな服だけど、着古してくたびれた感じだし。決して動きやすさを重視した服装でもないし」
「たしかにな」
ルシアの推測に頷いたのは、オレステスだった。
「ちみちみ小銭をかすめ取って、それこそモンスター対策の護衛を雇って仕入れに出発とか――まぁそこまで考えられればまだマシか」
「そうね。単純に、旅人が行き来できなくなったせいで商売ができずに店をたたみ、食うに困って――とかもありえそう」
そう言われてみればと、ぐるりと街並みを見渡す。大きく、繁盛していそうな店もある一方、戸が閉まったままの、元はなにかの店だったと思われる建物もちらほら見えた。
「あー、なるほどな」
オレスティアほどあからさまにではないけれど、オレステスもさっと周囲に目を走らせたあとぽつりと呟く。
「辺境伯が領地を離れられなくなった理由。おかしいとは思ってたんだよな」
「というと?」
「ここんところ別に国家間での戦の話なんか聞かないのにってな」
「――あ」
指摘に、思わず声が洩れる。
辺境伯領がキナ臭い、とは言われていた。だからこそ両家の顔合わせを首都で行うことも適わず、迎えに来ることすらできず、支度金を送るにとどまったのだと。
使者をよこすことは辛うじてできた。だが護衛兵を送れなかったのは、わずかな戦力すら出し惜しむ事態だったということかもしれない。
――いや、侯爵令嬢を迎えるのだからと理由をつけて、領地を代理人に任せて首都に逃げることもできたはずなのに、それをしなかったということは。
「今のところ街中までは襲われてないようだが、街道まで来てるとなれば時間の問題だ。モンスター討伐に駆られてるんだろうな」
「――辺境伯が自ら?」
「元々そんな話してたじゃねぇか。戦陣切って戦う御仁だと」
もしかして、と、やはり、の間で問いかけるように言うと、オレステスがさも当然のように頷いた。
「けれど、人間を相手にするよりはるかに危険なのでは」
「そりゃそうだろうな」
こちらにもあっさりと首肯する。
「人間の方が戦略だの戦術だの、『戦争』となれば先が読めずにやっかいな点があるのは事実だ。けどよ、単純に個体との戦いで言えば人間とモンスターは比べるまでもない」
「――ですよね」
オレスティアのような素人にだってわかる話だ。
けれど――だからこそ。
「それなのに?」
トップに立つ人間が、自らモンスターと戦うのか。
部下や配下の兵たちに任せるのではなく、危険も省みずに――
「それなのに、だ」
オレスティアの思いを読み取ったのだろう。オレステスは力強く断言した。
長たる者、自分の身を守るのは義務ですらある。
なにかあれば後々に影響があるのだから、本来は忌避すべきことかもしれない。
それでも、自分ひとり安全を確保しながら指揮するだけの人間ではないということは――
以前ルシアとオレステスが話していた「優良物件」の見解が、実は正しかったのではないか。
なにも知らずにただ怖がっていた愚かしさが見えた気がして、自己嫌悪が湧く。
同時に、まだ見ぬ辺境伯への期待めいたものが浮かんできてしまうのを否定できなかった。
0
あなたにおすすめの小説
ハズレスキル『自動販売機』を授かって婚約破棄されましたが、 実は回復薬も魔力食も出せる最強スキルでした
暖夢 由
ファンタジー
十八歳の成人儀式で授かったのは、誰も聞いたことのない《自動販売機スキル》。
役立たずと嘲られ、婚約者レオンには即座に婚約を破棄され、人生が崩れ落ちたように思えた。
だがそのスキルには、食べ物を作り、摂取すれば魔力を増やし、さらに“治癒効果”を付与できるという隠された力があった。
倒れた母を救い、王都の名門・ヴァルセイン伯爵夫人を救ったことで、カミーラは“呪詛”という闇の存在を知る。伯爵邸で出会った炎の力を持つ公爵家次男レグナスとの出会いが、彼女の運命を大きく変えていく。
やがて王都全体に“謎の病”が蔓延。カミーラは治癒スープの炊き出しを行い、人々を次々と回復へ導く。
一方、病の裏で糸を引いていたのは………。
“無価値”と嘲られたスキルが、いま世界を癒し、未来を照らす光となる――。
ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします
ランド犬
ファンタジー
異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは
――〈ホームセンター〉
壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。
気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。
拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?
最強すぎて無職になりましたが、隣国の姫が勝手に嫁入りしてきました
eringi
ファンタジー
平凡なサラリーマン・佐藤亮は、満員電車で謎の光に包まれ異世界へ転移する。神様から「世界最強の力」を授かったはずが、本人はただの無職ニートとしか思っていない。冒険者ギルドで雑用を請け負う日々。そんな亮の周囲に、冷徹な騎士姫、天才魔導士、元盗賊の少女、竜人族の戦士など個性豊かな美少女たちが自然と集まってくる。一方、彼を「ただの運のいい凡人」と侮る貴族や悪徳商人たちは次々と痛快なざまぁ展開に。亮は「俺なんて大したことないのに」と呟きながら、気づけば国を揺るがす陰謀を解決し、世界を救うことに――。無自覚最強主人公による、爽快ハーレムファンタジー開幕!
ガチャで領地改革! 没落辺境を職人召喚で立て直す若き領主
雪奈 水無月
ファンタジー
魔物大侵攻《モンスター・テンペスト》で父を失い、十五歳で領主となったロイド。
荒れ果てた辺境領を支えたのは、幼馴染のメイド・リーナと執事セバス、そして領民たちだった。
十八歳になったある日、女神アウレリアから“祝福”が降り、
ロイドの中で《スキル職人ガチャ》が覚醒する。
ガチャから現れるのは、防衛・経済・流通・娯楽など、
領地再建に不可欠な各分野のエキスパートたち。
魔物被害、経済不安、流通の断絶──
没落寸前の領地に、ようやく希望の光が差し込む。
新たな仲間と共に、若き領主ロイドの“辺境再生”が始まる。
冷遇された没落姫は、風に乗せて真実を詠う ─残り香の檻─
あとりえむ
恋愛
「お前の練る香など、埃と同じだ」
没落した名家の姫・瑠璃は、冷酷な夫・道隆に蔑まれ、極寒の離れに追いやられていた。夫の隣には、贅を尽くした香料を纏う愛人の明子。
しかし道隆は知らなかった。瑠璃が魂を削って練り上げた香は、焚く者の心根を映し出す「真実の鏡」であることを。
瑠璃が最後に残した香の種を、明子が盗み出し、手柄を偽って帝の前で焚き上げた瞬間。美しき夢は、獣の死臭が漂う地獄へと変貌する。
「この香りの主を探せ。これほど澄み切った魂が、この都に在るはずだ」
絶望の淵で放たれた一筋の香りに導かれ、孤独な東宮が泥の中に咲く白蓮を見つけ出す。
嘘と虚飾にまみれた貴族社会を、ひとりの調香師が浄化する、雅やかな逆転劇。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛
タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】
田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。
辺境の落ちこぼれと呼ばれた少年、実は王も龍も跪く最強でした
たまごころ
ファンタジー
村で「落ちこぼれ」と呼ばれた少年アレン。魔法も剣も使えず、追放される運命だった。
だが彼の力は、世界の理そのものに干渉する“神級スキル”だった。
自覚のないまま危機を救い、美女を助け、敵を粉砕し、気づけば各国の王も、竜すらも彼に頭を下げる。
勘違いと優しさと恐るべき力が織りなす、最強無自覚ハーレムファンタジー、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる