箱庭系譜

たき

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リーヴァ

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 砂浜を歩く少女がいた。手にはナイフを握りしめ、ふらふらと星を見ながら歩いていた。
 目は虚ろで遠くを見つめ、足取りは頼りなく、それでもナイフだけはしっかりと手の内に包み込み歩いていた。
 静かな海岸にサクサクと砂を踏む音だけが響く。
 月明かりが鈍く世界を照らし、銀色の帳が少女の周りを包んでいた。それはまるで少女に何かが宿っているかのような、そんな輝きを放っていた。
 8月の終わり、海に還る者の唄が鳴る。此方側に迷い込んでいたモノ達が彼方側へと還る…。海はその扉の一つだった。角笛を細く裂いたような、か細くも耳に残る旋律が砂浜に響く。
 少女は海へと足を踏み入れた。
 細い足先を白波が浚う。

「………あ……」

 虚ろだった目にうっすらと光が宿った。
 彼方側の住民の力は、人の子1人を連れていけるほど強くはないのだ。あくまでも道案内、あわよくば扉を開く贄にするくらいの力しか持たない。
 しかしそれだけでも彼方側の住民達にとっては十分だったし、少女にとっては致命的だった。
 ナイフが手首を撫でる。
 薄い星空に扉が1枚、割れた。
 それはまるで硝子細工を砕くように小気味良く、それか濃く澄んだ空気が張り裂けるようにさっぱりと割れた。
 海が赤く染まる。
 彼女の体を包む帳は、もう消え去っていた。

ー星野夢ヶ原街警察署 9月3日 某時刻ー

「これで5年目か……」

「同じ日に同じ場所で同じ方法で自殺……祟りっすかねぇ」

「んなわけあるか…つっても証拠も何もねぇしなぁ…」

「ほら、この地域には昔から『海還り』の伝承があるって言うじゃないですか」

「海還りぃ?」

「あれっすよあれ、この時期に『宿り子』が海に身投げするっていう…」

 海に還る者達。
 宿り子達の悲しみの声が星空に響く海岸があるという。
 昔々あるところに、砂浜を歩く女の子がいましたとさ。
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