やさしい魔法使いの起こしかた

青維月也

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第四話 王都次代編

4ー34 魔法使いの価値

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 駆けつけた魔法使いたちは、現場の惨状に思わず立ち尽くす。

 工事は老朽化の進んだ旧館の補修工事というものだったが、同じく工事中だった隣家の建物が倒壊、孤児院に倒れ込んできて、組んでいた足場を直撃したという不運なものだった。そして足場が壊れた衝撃で、旧館の一部が崩落しているという状況だ。

「ジュヴィ様、来てくださったのですね!」
「子どもたちに被害は!?」
 ジュヌヴィエーヴが、孤児院の院長に確認する。院長は優しい面差しの年配の女性だった。

「子どもたちは全員無事です。ただ、工事の方たちが……」
 倒壊現場は事故の大きさを物語り、いまだもうもうと砂埃が舞っている。院長は痛ましげに視線を伏せた。

「下敷きになったのは何人だ?」
「三人だ」
 現場監督がセツに答える。

 迂闊に手を出せばさらなる崩壊を招き、慎重に作業を進めねばならず、救出に手間取っていた。
 下敷きになった者以外にも、巻き込まれて何人ものケガ人が出ている。

 セツは頷くと、背後にいる魔法使いたちを振り返った。
「風使い! 砂塵を制御、視界を確保しろ! 土使いは孤児院、隣家の建物のこれ以上の倒壊を防げ!」
「はい!」
 セツが、矢継ぎ早に指示を出していく。

「水使いはケガ人の手当て! 炎使い、いるか!?」
「はい、います!」
「炎使いは野次馬の整理! 二次被害が出ないようにしろ!」
 セツの指示に従い、魔法使いたちがテキパキと動き出した。

「この資材、使えなくなってもいいか?」
「仲間の命には代えられねえ。やってくれ!」
 足場もタダではないが、現場監督は即決する。

「追加の費用は、ローズ家が負担しますわ!」
 ジュヌヴィエーヴも声を上げた。元々この孤児院は、ジュヌヴィエーヴの生家ローズ男爵家が支援している。今回の補修工事費用も援助していた。

「よし」
「ま、待て! なにをする気だ!?」
 魔法を発動しようとするセツに、制止の声がかかる。遅れて到着した、魔法使いギルド、キヨウ支部長モルガンであった。

「下敷きになった人間を助ける」
「魔法を使ってか!?」
 モルガンはズカズカと足を踏み鳴らし、セツに詰め寄る。

「ならん! 北辰伯への対価を、この者たちに一生かかって支払わせるつもりか! 子や孫に、借金を背負わせるつもりか!」
 息を整える間も惜しみ、食ってかかる。
 それは、金にがめつい支部長の言葉にしては違和感のあるものだった。

「それとも対価を取らず、無償で魔法を使うおつもりか? あなたのその身勝手な行いが、魔法使いの価値を下げるとわからないのか!?」
 最強の魔法使いを恐れることなく、モルガンは真っ向から非難する。

「後にしろ。今は救助が先だ」
「いいや! あとにはできない! 身の丈に合わぬ契約を結べは、莫大な借金を背負わせることになる! 魔法を使うのは許しませんぞ!」
 モルガンは、ギリギリとセツを睨みつけた。

「なにを勘違いしている? たかが一支部長が、俺に命令できると思うなよ」
 セツはモルガンを一蹴し、反論を封じる。

「対価を得ずに、魔法を使うべからず。ただし、人助けはその限りにあらず。まさか、この大前提を忘れてないよな?」
 三百年を生きるアイスブルーの目には、有無を言わせぬ力があった。
 モルガンは、グッと言葉を飲み込む。

「崩れた外壁と足場を粉砕する。風使い、砂塵と木片を片付けろ!」
 言葉と同時に崩れた壁が細かな砂に、足場が木片となり、それを風使いが空中に舞い上がらせ、建物から離れた場所に再度集めた。
 下敷きになった人たちが露わになり、手の空いている者が救い出す。

 とそこに、事故の一報を受けた騎士隊が駆けつけた。彼らは魔法使いが現場にいることよりも、その場にいた色違いの瞳にギョッとする。

「あ、あなた様が、どうしてここに!?」
 ロワメールは近衛騎士隊だけでなく、キヨウ騎士隊の訓練にも混ざっており、騎士隊員全員と顔見知りだ。

 騎士たちは第二王子が時々お忍びで城下を散歩していることは知っていたが、まさかよりによって危険な事故現場にいるとは思いもしない。

「ぼくのことはいいから、手伝って!」
 怪我人の手当てをしながら、ロワメールは一隊を率いる騎士隊長に命令した。

「魔法使いと協力して怪我人の処置、通行人の整理、それからお医者さん呼んできて! 隣家の倒壊は、土使いが防いでくれてる!」
「了解しました!」
 思わぬ事態に立ち尽くしていた騎士たちだが、その命令に我を取り戻す。王子のそばには専属護衛が、群衆の中には私服の近衛騎士もいて安全は確保されている。
 すぐさま散開した。

 ロワメールも怪我人の手当てに戻る。騎士になるべく育った王子には、応急処置の心得もあった。

 セツを睨みつけているモルガンも気になるが、今は他にやるべきことがある。
 後はセツに任せるしかなかった。

「どういうおつもりか!」
 ロワメールの背後で、モルガンは激昂している。

「あなたはそうして、たまに起きて罪人を粛清する傍ら善行を施し、気分がいいかもしれませんが、無償での魔法の行使は魔法使いの価値を下げるものだ!」

「魔法使いの価値?」
「そうです。あなたほどの魔法使いが無償で魔法を使えば、他の魔法使いが正当な対価を得られなくなる!」
 ふむ、とセツが腕を組んだ。

「モルガンのいう魔法使いの価値は、高額な対価か?」
「当たり前でしょう! あなたのようなことをしていては、対価の相場が崩れ、魔法使いを守れなくなる!」 
 
 モルガンは常日頃、貧乏人とは契約するなと、口うるさくキヨウの魔法使いに言い聞かせていた。
 金、金、金――モルガンにとり、魔法使いは金を稼ぐ道具ではなかったのか。
 モルガンの口ぶりでは、まるで魔法使いを守っているようだ。

「自覚を持たれよ! あなたはもはや魔法使い殺しであるだけでなく、国王陛下がお認めになられた魔法使い、北辰伯なのですぞ!」
 顔を紅潮させ、モルガンはセツを叱責した。
  
 もはや支部長とマスターの対立は、誰の目にも明白であった。





 ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽


❖ お知らせ ❖

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 4ー35 その男、モルルン は、11/19(水)21時頃に投稿を予定しています。
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