やさしい魔法使いの起こしかた

青維月也

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第三話 魔者の花嫁編

3ー1 メソメソ王子

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 しくしくと効果音が聞こえてくる、悲壮感漂った背中はロワメールのものだ。
 セツの隣で、ソファの背に顔を埋めて力なく倒れ込んでいる。

 しくしく、しくしくしくしく。

 司との協議が合意に達し、新法案発布にようやく動き出せるというのに、当の発案者が悲嘆に暮れている。
「なあ、ロワメール、元気出せ。な?」
 昨日から、ずっとこの調子だった。

「そんなにキヨウは嫌か?」
「ううん……。帰りたくないだけ」
 ロワメールは、セツと離れたくないのだ。しかしどうも、そこのところがイマイチわかっていない名付け親は、悲しみに暮れるロワメールをどうしていいかわからない。
「帰りたくない、か。……うーん……」
 ロワメールが王子でなければここに住めばいいだけの話だが、王子である以上そうもいかない。

「なあ、カイ。そんなに急いでキヨウに戻らないとマズいのか?」
 協議の終了は突然だった。セツだけでなく、ロワメールもこんなに早く決まると思っていなかったに違いない。
 せっかくここでの生活にも慣れてジュールとも仲良くなれたのに、このままキヨウへ帰っては心残りもあろう。

 カイは腰に手を当て、これ見よがしに溜め息を吐いてみせる。
「セツ様は、またロワ様を甘やかす」
「甘やかしてるわけでは……あるが」
 さすがに否定できずに認めてしまうが、こんなに悲しんでいるロワメールを放っておけるはずもなかった。

(さて、どうしたものか……)
 カイにとってなにより問題なのは、こんなロワメールは見たことがない、ということである。

(セツ様は、本当に偉大だ)
 セツがいるから、ロワメールは素の自分を晒けだす。
(敵わないなぁ……)
 主従の絆が、『親子』の絆に勝るわけがないけれど。後何年お仕えすれば、自分にもこんな姿を見せてくれるのだろうか。

「ロワ様、シノンに滞在するのは協議が終わるまで、そういう約束だったでしょう?」
 カイは感情に流されず、あえて厳しい態度で側近の役目を果たす。

「わかってるよ。でも……こんなに早く帰らなきゃいけないなんて思わなくて」
 例えそんなつもりは微塵もなかったとしても、ロワメールの演説に魔法使いは心を打たれたのだ。自業自得である。まったく、罪作りな王子様だった。

「だって、だってさ、早すぎるよ! まだ全然話し足りないし、もっと色んなとこにも行きたかったし!」
 ロワメールがベソベソと泣き言を言う。
「もっと時間かかると思ってたんだもん。こんなに早く、決まると思ってなかったんだもんーー!」
 いくつだ、と言いたくなる駄々のコネぶりである。

(やれやれ……)
 セツが起きていることになって、なまじ欲が出たのだろう。
 これまで叶わなかったセツと過ごせる時間を、夢見てしまったのだ。

「あのな、もうすぐギルドで祭りがあるんだ。それが終わってからじゃダメか?」
「祭りですか?」
 見かねたセツが、助け舟を出す。

「ロワメールが祭りに行きたがってたんだ。王宮に戻れば、そんな簡単に遊びに行けないだろう?」
 だからせめて、その祭りが終わるまで帰るのを延ばせないか、ということらしい。
 徹頭徹尾、甘い名付け親である。

「いつするんですか?」
「夏祭りだって言うし、陽月だと思うんだが……」
 自信なさげなのは、長期間氷室で眠るセツが世事に疎いからだ。

「祭り……?」
 もぞもぞと動いて、ロワメールがようやく顔を見せる。
「地域住民への感謝を込めて、ギルドが祭りを開催するらしいんだ。だから、普通の祭りとはちょっと違うかもしれないが、ロワメール、どうだ?」
 祭りとは、神殿が神への感謝を捧げる祭事である。だが、ギルドの祭りも屋台が出るので、ロワメールも満足するはずだった。

「好きなだけ、買い食いしていいぞ」
 極甘なことを言って、ロワメールの機嫌を取る。
「セツも行きたい?」
「ん? そうだなぁ、祭りなんて、子供の時以来だな。一緒に行こうな」
 セツは笑って、ロワメールの頭をポンポンと優しく叩く。

 カイは、内心で溜め息を吐いた。
(これは、セツ様でなくても子供扱いしてしまうな)
 それくらい、ロワメールはセツの前ではてんで子供だった。

「行っていい?」
 カイは、ロワメールに祭りに行きたいなんて言われたことはない。
(致命的に鈍い、この名付け親はわかってないでしょうけど……)
 ロワメールは、セツと一緒に、祭りを回ってみたいのだ。

「しようがないですね。祭りが終われば、ちゃんと帰るんですよ? 約束してくださいますね?」
「うん。ありがとう」
 ロワメールは少しバツが悪そうに、はにかんだ微笑みを浮かべる。

 ロワメールの目の下にはクマができ、絶世の美貌が台無しだった。
 こんな状態のロワメールをキヨウに連れて帰れば、国王と王太子だけでなく、宮の者にもカイが袋叩きにされてしまう。その上ロワメールを可愛がる重臣達にもどんな叱責を受けるか、わかったものではなかった。

 カイは素早く計算した。
 来月、月待月の満月に開催される月神大祭には、ロワメールにどうしても参加してもらわなければならない。ラギ王家の守護たる月神の祭事だけに、絶対に欠席できなかった。
(例えギルド祭が月末でも、間に合うか)

 セツはロワメールの笑顔に心底ホッとし、お茶とお菓子を用意する。甘いもので、更に機嫌を取ろうという作戦だった。
 いつも明るい青年の落ち込みように、内心ではずいぶんオロオロしていたに違いない。

(セツ様、どこまでも甘いなぁ)
 ついでにお茶をもらいながら、カイが今後の予定を立てる。
 合意が前倒しで決まって計画に狂いが生じたのは、カイも同じだった。祭りまでの数日で、調整せねばならない。
(あれとあれとあれ、ああ、それから例の件も詰めないと……)
 滞在延長は、カイにとっても渡りに船である。残りの期間で、抱える案件に目処を立てねばならなかった。
(これは、私の腕の見せ所ですね)
 側近筆頭の本領を発揮せねばなるまい。



 ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ 

❖ お知らせ ❖

 読んでくださり、ありがとうございます!

 3ー2 お見舞い は来週7/10(水)の夜に投稿を予定しています。
 あわせて第一話野望編、第二話ギルド本部編の加筆修正を行っております。
 重ね重ねご迷惑をおかけし、申し訳ありません。

 せっかくお時間を使って読んでくださる皆様に、少しでも面白いと思っていただけるよう、全力で書いております!
 どうかお付き合いいただけますよう、よろしくお願い致しますm(_ _)m
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