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第三話 魔者の花嫁編
3ー11 塩派、タレ派
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ガヤガヤと雑多な賑わいの中、ランスはポツンと場違い感を漂わせていた。
小汚い大衆居酒屋で、客も仕事帰りの労働者ばかり、ランスのような美形は掃き溜めに鶴の様相を呈している。
「ランスー、お前酒は?」
「あ、ちょっとなら」
「じゃあ、あの辺一通り。全部塩とタレ、両方持ってきて。あと枝豆と冷奴も!」
リュカが壁に貼られた品書きを指差しながら、慣れた感じで店員に酒とつまみを注文した。
「ここの焼き鳥絶品だから、食ってみ」
談笑やグラスのぶつかり合う音が、店内を満たしている。
未だ状況についていけず、ランスは落ち着かなかった。
ついさっきギルドのロビーでリュカに出くわしたのだが、奢ってやるからついて来い、と有無を言わさず、リュカ馴染みの居酒屋に連行されたのである。
明るく陽気な笑い声の中、ランスはどうしていいかわからない。
「そんな緊張すんな。ただの居酒屋だよ」
「こういう店は初めてで」
「だと思った」
来慣れてない感満載の後輩に、リュカは笑った。
影のある美青年は家族を失った悲しみから、自ら楽しみから身を引いている。まるで喪に服し、陽の当たる場所から遠ざかっているようだった。
悲しみと怒りに心を囚われ、復讐に生きようとしているが、非情には徹しきれないーーたぶん、それがランスだ。
「あ、あの、リュカさん、なんで自分を」
「この前の魔者討伐、頑張ったろ? オレからの褒美だとでも思っとけ」
「でも、リュカさんに褒美を貰う理由が」
レオあたりなら喜んでタダ飯にありつくだろうが、二属性持ち故に属性間にある先輩後輩の繋がりが薄いランスは、こういう状況に慣れていない。
リュカは、ランスが納得しそうな理由をこじつけた。
「じゃあ、オレの晩飯に付き合え」
リュカは、後輩の面倒見がいい。世話焼きでもある。そんなリュカが、一人復讐に生きようとするランスを放おっておけるわけがなかったのだ。
「焼き鳥なら、シノンじゃここが一番だぜ」
リュカ行きつけの居酒屋『つばめ』は、安くて美味いと評判である。一級魔法使いだからって、高級店に行くとは限らない。リュカはむしろ、こういう店の方が好きだった。
「オレのオススメはこれ」
言われるがまま、ランスはねぎまを一本手に取る。見様見真似で、一切れ串から引き剥がした。
まず、炭で炙られた皮の香ばしさが口内を満たす。次いでプリッとした歯応えと、しっかりとした肉の旨味がそれに混じり合った。甘いネギとの相性も抜群だ。
「次、これいってみ」
リュカがすかさずタレのかかったつくねを差し出した。
ランスは素直に手に伸ばす。
つくねは、ジューシーな肉汁と甘辛いタレが絶妙だった。ふっくらとした食感に、コリッとした軟骨の食感が堪らない。
「美味いだろ?」
「美味い、です」
「だろぉ? 塩とタレはどっちがいい?」
「……塩、かも。でも、タレも美味いです」
「そーなんだよ。甲乙つけ難いんだよなぁ。オレは塩派だが、つくねなんかはタレなんだよね」
「わかる気がします」
結局どちらも美味しいのである。
リュカはそれ以上なにも言わず、焼き鳥や枝豆を肴に酒を飲んでいた。元々口下手なのか無口なのか、ランスも黙々と焼き鳥を頬張っている。
気に入ったのならなによりだ。
「すんませーん! これ、おかわりー!」
空になったグラスを持ち上げ、酒を注文する。ランスは、とグラスを見れば、ほとんど減っていない。一口二口、飲んだ程度だ。どうやらリュカに付き合って頼んだだけらしい。
(その割に、顔赤いな)
飲み慣れていないのがよくわかる。
「ごはんも持ってきてー!」
それなら、とごはんも頼む。飲めないなら、米だろう。
「別にオレに付き合わなくていいから、食え食え」
焼き鳥をおかずに白飯を食べるランスを、リュカはグラスの向こうに眺めた。
(家族を奪われた怒りも、家族のいない寂しさも、酒で紛らわそうとしない。怒りも憎しみも悲しみも、全部魔族討伐に注いでんのか……)
復讐なんかやめちまえ、そんなことを言う気も、言う権利もリュカにはない。
ただ、たまには誰かと一緒にメシを食え、と思うのだ。
「あっれー? リュカさんとランス? めっずらしい組み合わせー」
そこに、食事を終え、会計に向かう魔法使いが声をかけてきた。
「お、トマスか。よお」
「ちぃーす」
その二級魔法使いは、ランスの魔法学校の先輩で、リュカの土使いとしての後輩にあたる。
「魔者討伐、お疲れっした!」
すでにできあがっているトマスは、まるで舞台挨拶のように片手を大きく前に回して大袈裟に頭を下げた。
「祝勝会っすか?」
「そんなところだ」
「よかったなー、ランス。リュカさんに連れてきてもらって。ここ美味いべ」
そこでトマスはイタズラっぽい笑みを浮かべると、ランスの肩に腕を回した。そして先輩らしい有益な助言を耳元で囁いたのである。
「いっぱい食って、リュカさんの財布空にしてやれよ。リュカさん、がっつり稼いでっから遠慮すんな」
「おい、聞こえてんぞ!」
ランスは反応に困っているが、それはトマスの冗談だ。白い歯を見せて、トマスも笑っている。
「おれのイチオシは焼き鳥茶漬け。絶対食えな。先輩命令だかんな!」
酔っ払いの戯言など適当に聞き流せばいいのに、ランスは焼き鳥茶漬けが腹に入るか真剣に悩んでいた。
それは、もしランスの家族が魔獣に殺されていなければ、当たり前だったかもしれない光景だ。
「砂肝は食ったか? あれもうんまいから食っとけよ」
しかし酔いに任せたトマスは、ランスにぐいぐい絡んだ。もともとノリのいいトマスだが、酔って距離感がおかしい。
リュカが苦笑し、止めに入るタイミングを見計らうーーその矢先だった。
「そーいやランス。お前、ねーちゃんいたのな。そっくりだから、すぐわかったわー」
なにかを思い出すように、トマスの視線が天井を見上げる。
それは、酔っ払いの戯言で片付けられるものではなく。
家族を魔獣に殺されたはずの青年は、その一言に凍りついたーー。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
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読んでくださり、ありがとうございます!
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「ランスー、お前酒は?」
「あ、ちょっとなら」
「じゃあ、あの辺一通り。全部塩とタレ、両方持ってきて。あと枝豆と冷奴も!」
リュカが壁に貼られた品書きを指差しながら、慣れた感じで店員に酒とつまみを注文した。
「ここの焼き鳥絶品だから、食ってみ」
談笑やグラスのぶつかり合う音が、店内を満たしている。
未だ状況についていけず、ランスは落ち着かなかった。
ついさっきギルドのロビーでリュカに出くわしたのだが、奢ってやるからついて来い、と有無を言わさず、リュカ馴染みの居酒屋に連行されたのである。
明るく陽気な笑い声の中、ランスはどうしていいかわからない。
「そんな緊張すんな。ただの居酒屋だよ」
「こういう店は初めてで」
「だと思った」
来慣れてない感満載の後輩に、リュカは笑った。
影のある美青年は家族を失った悲しみから、自ら楽しみから身を引いている。まるで喪に服し、陽の当たる場所から遠ざかっているようだった。
悲しみと怒りに心を囚われ、復讐に生きようとしているが、非情には徹しきれないーーたぶん、それがランスだ。
「あ、あの、リュカさん、なんで自分を」
「この前の魔者討伐、頑張ったろ? オレからの褒美だとでも思っとけ」
「でも、リュカさんに褒美を貰う理由が」
レオあたりなら喜んでタダ飯にありつくだろうが、二属性持ち故に属性間にある先輩後輩の繋がりが薄いランスは、こういう状況に慣れていない。
リュカは、ランスが納得しそうな理由をこじつけた。
「じゃあ、オレの晩飯に付き合え」
リュカは、後輩の面倒見がいい。世話焼きでもある。そんなリュカが、一人復讐に生きようとするランスを放おっておけるわけがなかったのだ。
「焼き鳥なら、シノンじゃここが一番だぜ」
リュカ行きつけの居酒屋『つばめ』は、安くて美味いと評判である。一級魔法使いだからって、高級店に行くとは限らない。リュカはむしろ、こういう店の方が好きだった。
「オレのオススメはこれ」
言われるがまま、ランスはねぎまを一本手に取る。見様見真似で、一切れ串から引き剥がした。
まず、炭で炙られた皮の香ばしさが口内を満たす。次いでプリッとした歯応えと、しっかりとした肉の旨味がそれに混じり合った。甘いネギとの相性も抜群だ。
「次、これいってみ」
リュカがすかさずタレのかかったつくねを差し出した。
ランスは素直に手に伸ばす。
つくねは、ジューシーな肉汁と甘辛いタレが絶妙だった。ふっくらとした食感に、コリッとした軟骨の食感が堪らない。
「美味いだろ?」
「美味い、です」
「だろぉ? 塩とタレはどっちがいい?」
「……塩、かも。でも、タレも美味いです」
「そーなんだよ。甲乙つけ難いんだよなぁ。オレは塩派だが、つくねなんかはタレなんだよね」
「わかる気がします」
結局どちらも美味しいのである。
リュカはそれ以上なにも言わず、焼き鳥や枝豆を肴に酒を飲んでいた。元々口下手なのか無口なのか、ランスも黙々と焼き鳥を頬張っている。
気に入ったのならなによりだ。
「すんませーん! これ、おかわりー!」
空になったグラスを持ち上げ、酒を注文する。ランスは、とグラスを見れば、ほとんど減っていない。一口二口、飲んだ程度だ。どうやらリュカに付き合って頼んだだけらしい。
(その割に、顔赤いな)
飲み慣れていないのがよくわかる。
「ごはんも持ってきてー!」
それなら、とごはんも頼む。飲めないなら、米だろう。
「別にオレに付き合わなくていいから、食え食え」
焼き鳥をおかずに白飯を食べるランスを、リュカはグラスの向こうに眺めた。
(家族を奪われた怒りも、家族のいない寂しさも、酒で紛らわそうとしない。怒りも憎しみも悲しみも、全部魔族討伐に注いでんのか……)
復讐なんかやめちまえ、そんなことを言う気も、言う権利もリュカにはない。
ただ、たまには誰かと一緒にメシを食え、と思うのだ。
「あっれー? リュカさんとランス? めっずらしい組み合わせー」
そこに、食事を終え、会計に向かう魔法使いが声をかけてきた。
「お、トマスか。よお」
「ちぃーす」
その二級魔法使いは、ランスの魔法学校の先輩で、リュカの土使いとしての後輩にあたる。
「魔者討伐、お疲れっした!」
すでにできあがっているトマスは、まるで舞台挨拶のように片手を大きく前に回して大袈裟に頭を下げた。
「祝勝会っすか?」
「そんなところだ」
「よかったなー、ランス。リュカさんに連れてきてもらって。ここ美味いべ」
そこでトマスはイタズラっぽい笑みを浮かべると、ランスの肩に腕を回した。そして先輩らしい有益な助言を耳元で囁いたのである。
「いっぱい食って、リュカさんの財布空にしてやれよ。リュカさん、がっつり稼いでっから遠慮すんな」
「おい、聞こえてんぞ!」
ランスは反応に困っているが、それはトマスの冗談だ。白い歯を見せて、トマスも笑っている。
「おれのイチオシは焼き鳥茶漬け。絶対食えな。先輩命令だかんな!」
酔っ払いの戯言など適当に聞き流せばいいのに、ランスは焼き鳥茶漬けが腹に入るか真剣に悩んでいた。
それは、もしランスの家族が魔獣に殺されていなければ、当たり前だったかもしれない光景だ。
「砂肝は食ったか? あれもうんまいから食っとけよ」
しかし酔いに任せたトマスは、ランスにぐいぐい絡んだ。もともとノリのいいトマスだが、酔って距離感がおかしい。
リュカが苦笑し、止めに入るタイミングを見計らうーーその矢先だった。
「そーいやランス。お前、ねーちゃんいたのな。そっくりだから、すぐわかったわー」
なにかを思い出すように、トマスの視線が天井を見上げる。
それは、酔っ払いの戯言で片付けられるものではなく。
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