やさしい魔法使いの起こしかた

青維月也

文字の大きさ
108 / 218
第三話 魔者の花嫁編

3ー11 塩派、タレ派

しおりを挟む
 ガヤガヤと雑多な賑わいの中、ランスはポツンと場違い感を漂わせていた。
 小汚い大衆居酒屋で、客も仕事帰りの労働者ばかり、ランスのような美形は掃き溜めに鶴の様相を呈している。

「ランスー、お前酒は?」
「あ、ちょっとなら」
「じゃあ、あの辺一通り。全部塩とタレ、両方持ってきて。あと枝豆と冷奴も!」
 リュカが壁に貼られた品書きを指差しながら、慣れた感じで店員に酒とつまみを注文した。
「ここの焼き鳥絶品だから、食ってみ」

 談笑やグラスのぶつかり合う音が、店内を満たしている。
 未だ状況についていけず、ランスは落ち着かなかった。
 ついさっきギルドのロビーでリュカに出くわしたのだが、奢ってやるからついて来い、と有無を言わさず、リュカ馴染みの居酒屋に連行されたのである。

 明るく陽気な笑い声の中、ランスはどうしていいかわからない。
「そんな緊張すんな。ただの居酒屋だよ」
「こういう店は初めてで」
「だと思った」
 来慣れてない感満載の後輩に、リュカは笑った。

 影のある美青年は家族を失った悲しみから、自ら楽しみから身を引いている。まるで喪に服し、陽の当たる場所から遠ざかっているようだった。
 悲しみと怒りに心を囚われ、復讐に生きようとしているが、非情には徹しきれないーーたぶん、それがランスだ。

「あ、あの、リュカさん、なんで自分を」
「この前の魔者討伐、頑張ったろ? オレからの褒美だとでも思っとけ」
「でも、リュカさんに褒美を貰う理由が」
 レオあたりなら喜んでタダ飯にありつくだろうが、二属性持ち故に属性間にある先輩後輩の繋がりが薄いランスは、こういう状況に慣れていない。
 リュカは、ランスが納得しそうな理由をこじつけた。
「じゃあ、オレの晩飯に付き合え」

 リュカは、後輩の面倒見がいい。世話焼きでもある。そんなリュカが、一人復讐に生きようとするランスを放おっておけるわけがなかったのだ。

「焼き鳥なら、シノンじゃここが一番だぜ」
 リュカ行きつけの居酒屋『つばめ』は、安くて美味いと評判である。一級魔法使いだからって、高級店に行くとは限らない。リュカはむしろ、こういう店の方が好きだった。

「オレのオススメはこれ」
 言われるがまま、ランスはねぎまを一本手に取る。見様見真似で、一切れ串から引き剥がした。
 まず、炭で炙られた皮の香ばしさが口内を満たす。次いでプリッとした歯応えと、しっかりとした肉の旨味がそれに混じり合った。甘いネギとの相性も抜群だ。

「次、これいってみ」
 リュカがすかさずタレのかかったつくねを差し出した。
 ランスは素直に手に伸ばす。
 つくねは、ジューシーな肉汁と甘辛いタレが絶妙だった。ふっくらとした食感に、コリッとした軟骨の食感が堪らない。

「美味いだろ?」
「美味い、です」
「だろぉ? 塩とタレはどっちがいい?」
「……塩、かも。でも、タレも美味いです」
「そーなんだよ。甲乙つけ難いんだよなぁ。オレは塩派だが、つくねなんかはタレなんだよね」
「わかる気がします」
 結局どちらも美味しいのである。

 リュカはそれ以上なにも言わず、焼き鳥や枝豆を肴に酒を飲んでいた。元々口下手なのか無口なのか、ランスも黙々と焼き鳥を頬張っている。
 気に入ったのならなによりだ。

「すんませーん! これ、おかわりー!」
 空になったグラスを持ち上げ、酒を注文する。ランスは、とグラスを見れば、ほとんど減っていない。一口二口、飲んだ程度だ。どうやらリュカに付き合って頼んだだけらしい。
(その割に、顔赤いな)
 飲み慣れていないのがよくわかる。

「ごはんも持ってきてー!」
 それなら、とごはんも頼む。飲めないなら、米だろう。
「別にオレに付き合わなくていいから、食え食え」
 焼き鳥をおかずに白飯を食べるランスを、リュカはグラスの向こうに眺めた。

(家族を奪われた怒りも、家族のいない寂しさも、酒で紛らわそうとしない。怒りも憎しみも悲しみも、全部魔族討伐に注いでんのか……)
 復讐なんかやめちまえ、そんなことを言う気も、言う権利もリュカにはない。
 ただ、たまには誰かと一緒にメシを食え、と思うのだ。 

「あっれー? リュカさんとランス? めっずらしい組み合わせー」
 そこに、食事を終え、会計に向かう魔法使いが声をかけてきた。
「お、トマスか。よお」
「ちぃーす」
 その二級魔法使いは、ランスの魔法学校の先輩で、リュカの土使いとしての後輩にあたる。
「魔者討伐、お疲れっした!」
 すでにできあがっているトマスは、まるで舞台挨拶のように片手を大きく前に回して大袈裟に頭を下げた。

「祝勝会っすか?」
「そんなところだ」
「よかったなー、ランス。リュカさんに連れてきてもらって。ここ美味いべ」

 そこでトマスはイタズラっぽい笑みを浮かべると、ランスの肩に腕を回した。そして先輩らしい有益な助言を耳元で囁いたのである。
「いっぱい食って、リュカさんの財布空にしてやれよ。リュカさん、がっつり稼いでっから遠慮すんな」
「おい、聞こえてんぞ!」
 ランスは反応に困っているが、それはトマスの冗談だ。白い歯を見せて、トマスも笑っている。

「おれのイチオシは焼き鳥茶漬け。絶対食えな。先輩命令だかんな!」
 酔っ払いの戯言など適当に聞き流せばいいのに、ランスは焼き鳥茶漬けが腹に入るか真剣に悩んでいた。

 それは、もしランスの家族が魔獣に殺されていなければ、当たり前だったかもしれない光景だ。

「砂肝は食ったか? あれもうんまいから食っとけよ」
 しかし酔いに任せたトマスは、ランスにぐいぐい絡んだ。もともとノリのいいトマスだが、酔って距離感がおかしい。
 リュカが苦笑し、止めに入るタイミングを見計らうーーその矢先だった。

「そーいやランス。お前、ねーちゃんいたのな。そっくりだから、すぐわかったわー」
 なにかを思い出すように、トマスの視線が天井を見上げる。

 それは、酔っ払いの戯言で片付けられるものではなく。
 家族を魔獣に殺されたはずの青年は、その一言に凍りついたーー。


 ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽

 ❖ お知らせ ❖

 読んでくださり、ありがとうございます!

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

精霊が俺の事を気に入ってくれているらしく過剰に尽くしてくれる!が、周囲には精霊が見えず俺の評価はよろしくない

よっしぃ
ファンタジー
俺には僅かながら魔力がある。この世界で魔力を持った人は少ないからそれだけで貴重な存在のはずなんだが、俺の場合そうじゃないらしい。 魔力があっても普通の魔法が使えない俺。 そんな俺が唯一使える魔法・・・・そんなのねーよ! 因みに俺の周囲には何故か精霊が頻繁にやってくる。 任意の精霊を召還するのは実はスキルなんだが、召喚した精霊をその場に留め使役するには魔力が必要だが、俺にスキルはないぞ。 極稀にスキルを所持している冒険者がいるが、引く手あまたでウラヤマ! そうそう俺の総魔力量は少なく、精霊が俺の周囲で顕現化しても何かをさせる程の魔力がないから直ぐに姿が消えてしまう。 そんなある日転機が訪れる。 いつもの如く精霊が俺の魔力をねだって頂いちゃう訳だが、大抵俺はその場で気を失う。 昔ひょんな事から助けた精霊が俺の所に現れたんだが、この時俺はたまたまうつ伏せで倒れた。因みに顔面ダイブで鼻血が出たのは内緒だ。 そして当然ながら意識を失ったが、ふと目を覚ますと俺の周囲にはものすごい数の魔石やら素材があって驚いた。 精霊曰く御礼だってさ。 どうやら俺の魔力は非常に良いらしい。美味しいのか効果が高いのかは知らんが、精霊の好みらしい。 何故この日に限って精霊がずっと顕現化しているんだ? どうやら俺がうつ伏せで地面に倒れたのが良かったらしい。 俺と地脈と繋がって、魔力が無限増殖状態だったようだ。 そしてこれが俺が冒険者として活動する時のスタイルになっていくんだが、理解しがたい体勢での活動に周囲の理解は得られなかった。 そんなある日、1人の女性が俺とパーティーを組みたいとやってきた。 ついでに精霊に彼女が呪われているのが分かったので解呪しておいた。 そんなある日、俺は所属しているパーティーから追放されてしまった。 そりゃあ戦闘中だろうがお構いなしに地面に寝そべってしまうんだから、あいつは一体何をしているんだ!となってしまうのは仕方がないが、これでも貢献していたんだぜ? 何せそうしている間は精霊達が勝手に魔物を仕留め、素材を集めてくれるし、俺の身をしっかり守ってくれているんだが、精霊が視えないメンバーには俺がただ寝ているだけにしか見えないらしい。 因みにダンジョンのボス部屋に1人放り込まれたんだが、俺と先にパーティーを組んでいたエレンは俺を助けにボス部屋へ突入してくれた。 流石にダンジョン中層でも深層のボス部屋、2人ではなあ。 俺はダンジョンの真っただ中に追放された訳だが、くしくも追放直後に俺の何かが変化した。 因みに寝そべっていなくてはいけない理由は顔面と心臓、そして掌を地面にくっつける事で地脈と繋がるらしい。地脈って何だ?

犬の散歩中に異世界召喚されました

おばあ
ファンタジー
そろそろ定年後とか終活とか考えなきゃいけないというくらいの歳になって飼い犬と一緒に異世界とやらへ飛ばされました。 何勝手なことをしてくれてんだいと腹が立ちましたので好き勝手やらせてもらいます。 カミサマの許可はもらいました。

「犯人は追放!」無実の彼女は国に絶対に必要な能力者で“価値の高い女性”だった

佐藤 美奈
恋愛
セリーヌ・エレガント公爵令嬢とフレッド・ユーステルム王太子殿下は婚約成立を祝した。 その数週間後、ヴァレンティノ王立学園50周年の創立記念パーティー会場で、信じられない事態が起こった。 フレッド殿下がセリーヌ令嬢に婚約破棄を宣言した。様々な分野で活躍する著名な招待客たちは、激しい動揺と衝撃を受けてざわつき始めて、人々の目が一斉に注がれる。 フレッドの横にはステファニー男爵令嬢がいた。二人は恋人のような雰囲気を醸し出す。ステファニーは少し前に正式に聖女に選ばれた女性であった。 ステファニーの策略でセリーヌは罪を被せられてしまう。信じていた幼馴染のアランからも冷たい視線を向けられる。 セリーヌはいわれのない無実の罪で国を追放された。悔しくてたまりませんでした。だが彼女には秘められた能力があって、それは聖女の力をはるかに上回るものであった。 彼女はヴァレンティノ王国にとって絶対的に必要で貴重な女性でした。セリーヌがいなくなるとステファニーは聖女の力を失って、国は急速に衰退へと向かう事となる……。

巻き込まれた薬師の日常

白髭
ファンタジー
神に選ばれ、魔素の循環する界へと送り込まれたのは――現代の薬師。 剣も魔法も扱えない彼が憑依したのは、戦闘力ゼロの商人見習いの少年だった。 彼の武器は、知識と経験。商品を生み出し、人脈を築き、産業を広げていく。 「居場所を見つけたい」その願いが、やがて世界を変える力となる。 これは、一人の薬師が紡ぐ研究と開発、そして成長の物語。 【カクヨムでも掲載しています】 表紙は紹介文をもとに、ai【adobe firefly】で作成したものです。(参考程度に……)

「追放された雑用係の俺、《真理の鑑定眼》で隠れた天才を集めたら最強パーティになっていた」

きりざく
ファンタジー
ブラック企業で過労死した男は、異世界に転生し《真理の鑑定眼》を授かった。 それは人や物の“本当の価値”、隠された才能、そして未来の到達点までを見抜く能力だった。 雑用係として軽視され、ついには追放された主人公。 だが鑑定眼で見えたのは、落ちこぼれ扱いされていた者たちの“本物の才能”だった。 初見の方は第1話からどうぞ(ブックマークで続きが追いやすくなります)。 評価されなかった剣士、魔力制御に欠陥を抱えた魔法使い、使い道なしとされた職業―― 主人公は次々と隠れた逸材を見抜き、仲間に迎え入れていく。 やがて集ったのは、誰もが見逃していた“未来の最強候補”たち。 鑑定で真価を示し、結果で証明する成り上がりの冒険が始まる。 これは、見る目のなかった世界を置き去りに、 真の才能を集めて最強パーティへと成り上がる物語。

拝啓。私を追い出した皆様へ! 化け物と噂の辺境伯に嫁がされましたが噂と違い素敵な旦那様と幸せに暮らしています。

ハーフのクロエ
恋愛
 公爵家の長女のオリビアは実母が生きている時は公爵家令嬢として育ち、8歳の時、王命で王太子と婚約して12歳の時に母親が亡くなり、父親の再婚相手の愛人だった継母に使用人のように扱われていた。学園の卒業パーティーで婚約破棄され、連れ子の妹と王太子が婚約してオリビアは化け物と噂のある辺境伯に嫁がされる。噂と違い辺境伯は最強の武人で綺麗な方でオリビアは前世の日本人の記憶持ちで、その記憶と魔法を使い領地を発展させて幸せになる。

【完結】儚げ超絶美少女の王女様、うっかり貧乏騎士(中身・王子)を餌付けして、(自称)冒険の旅に出る。

buchi
恋愛
末っ子王女のティナは、膨大な魔法力があるのに家族から評価されないのが不満。生まれた時からの婚約者、隣国の王太子エドとも婚約破棄されたティナは、古城に引きこもり、魔力でポーションを売り出して、ウサギ印ブランドとして徐々に有名に。ある日、ティナは、ポーションを売りに街へ行ってガリガリに痩せた貧乏騎士を拾ってきてしまう。お城で飼ううちに騎士はすっかり懐いて結婚してくれといい出す始末。私は王女様なのよ?あれこれあって、冒険の旅に繰り出すティナと渋々付いて行く騎士ことエド。街でティナは(王女のままではまずいので)二十五歳に変身、氷の美貌と評判の騎士団長に見染められ熱愛され、騎士団長と娘の結婚を狙う公爵家に襲撃される……一体どう収拾がつくのか、もし、よかったら読んでください。13万字程度。

処理中です...