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第三話 魔者の花嫁編
3ー29 ちょいちょい
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「ふーッ!」
ロワメールに近付こうとする男に、子ネコが牙を剥いて威嚇する。
今にも体毛が黒く染まり、子ネコは恐ろしい魔獣に豹変するかもしれない――そんな未来が頭をよぎり、ロワメールはおびえた。
「待って! ダメだよ!」
このままでは、子ネコが退治されてしまう。
子ネコを助けたい一心でロワメールが制止するも、子ネコはちょいちょいとおててを繰り出す。
「………?」
ちょいちょい、ちょいちょい。
「しゃーッ!」
どうもネコパンチ、らしい。
なにその可愛い攻撃。
子ネコは凶暴化したわけではなく、純粋に男を嫌い、「近付くな、あっち行け」と全身で怒りを表しているのだ。
しかし、よちよち歩きの子ネコの攻撃は愛らしいだけである。
「ひょっとして、ご主人様を守ってるつもりかい? でも、大丈夫。私たちは、怪しいものではないよ」
男はエセ紳士ぶりを発揮するが、子ネコは騙されなかった。
小さなおててで、必死にちょいちょい攻撃する。
「しゃーッ!」
「こら、ダメだよ!」
一応、ロワメールが子ネコをたしなめた。うっかり人間を傷付けて、討伐対象になったらたまったものではない。
だが、なにを勘違いしたのか男が感激した。
「私のことを庇ってくれるんだね!」
いい加減イラッとする。
ロワメールが心配したのは、男ではなく子ネコである。
男は子ネコの威嚇をものともせず、ロワメールに手を伸ばす。
しかしロワメールがその手を払い除けるより前に、男の腕がギクリと止まった。
「時間稼ぎ、上出来です。よくロワ様を守りました」
二本の短剣が、男の腕を絡め取る。
「なっ……!?」
「その汚い手で、指一本でもこの方に触れてみろ。その腕は、永遠に胴体から離れるぞ」
側近筆頭は、薄ら寒い迫力に満ちていた。カイの本気を示し、男の腕からはうっすらと血が滲んでいる。
それと同時に、もう一人の男の着物が突如として燃え上がった。
「おれの弟になんの用だ?」
「うわあ! 火、火が!!」
「まったく、レオがいないとすぐ虫が寄って来るな」
ジュールに腕を回していた男は、驚いて手で火を払い除ける。
「弟って、ホントに男だったのか!?」
ジスランは、慌てふためく男を冷ややかに見下ろした。カイ程ではないが、ジスランも十分長身だ。
「それから、そっちのお前も安心しろ。傷口は火で綺麗に焼いてやる」
「なにをするか! 私たちの父親は子爵だぞ! カヤ領主ブレロー伯爵とも懇意で――」
男たちは物騒すぎる二人に怒り心頭で、泡を飛ばして怒鳴り散らした。たかが従者と護衛の魔法使いと侮り、身分を笠に着る。
「子爵?」
だがそんなものは、この二人には一切通用しなかった。
カイが鼻で笑う。
「自らの愚行に父親を巻き込むか。結構。ならご希望通り、お前たちの父親に責任を取らせよう」
「な、なにを……」
最初こそ強気だったが、カイの台詞に当初の勢いが失われる。
責任を取ってもらう、ではなく、取らせる、というのは、明らかに上の立場の人間が使う言葉だった。
つまり、従者と見下したこの男は、それだけの地位にあるということだ。しかも改めて見れば、男の身なりは彼らより良い。
そこで、もう一人の男が思い出す。
「ま、待て、こいつ、まさか、ジスラン・キャトル・レオール!?」
「それにこの子も、よく見たら金ボタン……!」
ジスランといえば、誰もが知るギルドトップクラスの実力者だ。そのジスランに加え、さらにもう一人、一級魔法使いを護衛につける……。
この美人は、それだけの資産があり、なおかつそこまでして守らなければならない人物、ということだ。
「し、失礼しましたー!」
男たちは自分たちの愚かさを理解すると、一目散に逃げ出した。
「ふん。保身だけは一人前か」
「ロワ様、あのような輩は、不敬罪で斬ってお捨てください!」
「二人共、やりすぎ」
ロワメールが、二人まとめて注意する。
「なにを仰いますか! 王族に許可なく触れるのは、立派な不敬罪です!」
「触られてないから」
カイは未だ怒り冷めやらず、ジスランに至ってはそっぽを向いて全く反省していなかった。
ロワメールはやれやれ、と小さく溜め息を吐く。
(結局、ぼくは女と思われたままだろうな)
ジュールは、ジスランの弟発言で誤解が解けたが、ロワメールについては誰もなにも言ってくれなかった。
どうにも面白くないロワメールである。
両脇を抱えられ、ぶらーんと宙に持ち上げられた子ネコは、絶対にロワメールと目を合わせようとはしなかった。
「ダメだよ、人を攻撃しちゃ。聞いてるの?」
絶賛怒られ中である。
「君は魔獣なんだから、人を攻撃してしまったら、退治されちゃうんだよ」
ロワメールが顔を動かしても、スッと目を背ける。
「わかってるのかなぁ?」
「わかってますよ。ネコが目を合わせないのは、反省してる証拠です」
「そうなんだ」
「って、兄が言ってました」
ジュールのうんちくにロワメールは感心したが、ジスランの受け売りらしい。
「あと叱る時は、その場で短く、ですって。ね、兄さん?」
ジュールと共にロワメールが目を向ければ、ジスランは不機嫌だ。
王子なんかと関わりたくない、という思いがありありと顔に出ている。
ロワメールは素直にアドバイスを受け入れ、今度は子ネコを優しく抱きしめた。
「ぼくのこと、守ろうとしてくれたんだよね。ありがとう」
背中を撫でてやると、シッポを嬉しそうに振って、ゴロゴロと喉を鳴らす。
目を閉じて、幸せそうだ。
「ネコの身で、ロワ様を守ろうとは感心ですね。ただの野良ネコなら、宮で飼ってもいいんですが」
カイもおおいに子ネコを褒めた。
ロワメールは子ネコを撫でながら、正直、少し困っていた。子ネコが可愛くてしかたなかったからだ。
でも、この子ネコは人様のネコ。とどめに魔獣だ。飼い主にも手放させないといけない。
漏れそうになる溜め息を飲み込み、ロワメールは気合いを入れ直した。
「とりあえず、あっちに行ってみよう。ひょっとしたら、この子の飼い主がいるかもしれない」
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
❖ お知らせ ❖
読んでくださり、ありがとうございます!
3ー30 義兄 は10/16(水)の夜、21時頃に投稿を予定しています。
2024/10/18 エピソード名、変更いたしました。
ロワメールに近付こうとする男に、子ネコが牙を剥いて威嚇する。
今にも体毛が黒く染まり、子ネコは恐ろしい魔獣に豹変するかもしれない――そんな未来が頭をよぎり、ロワメールはおびえた。
「待って! ダメだよ!」
このままでは、子ネコが退治されてしまう。
子ネコを助けたい一心でロワメールが制止するも、子ネコはちょいちょいとおててを繰り出す。
「………?」
ちょいちょい、ちょいちょい。
「しゃーッ!」
どうもネコパンチ、らしい。
なにその可愛い攻撃。
子ネコは凶暴化したわけではなく、純粋に男を嫌い、「近付くな、あっち行け」と全身で怒りを表しているのだ。
しかし、よちよち歩きの子ネコの攻撃は愛らしいだけである。
「ひょっとして、ご主人様を守ってるつもりかい? でも、大丈夫。私たちは、怪しいものではないよ」
男はエセ紳士ぶりを発揮するが、子ネコは騙されなかった。
小さなおててで、必死にちょいちょい攻撃する。
「しゃーッ!」
「こら、ダメだよ!」
一応、ロワメールが子ネコをたしなめた。うっかり人間を傷付けて、討伐対象になったらたまったものではない。
だが、なにを勘違いしたのか男が感激した。
「私のことを庇ってくれるんだね!」
いい加減イラッとする。
ロワメールが心配したのは、男ではなく子ネコである。
男は子ネコの威嚇をものともせず、ロワメールに手を伸ばす。
しかしロワメールがその手を払い除けるより前に、男の腕がギクリと止まった。
「時間稼ぎ、上出来です。よくロワ様を守りました」
二本の短剣が、男の腕を絡め取る。
「なっ……!?」
「その汚い手で、指一本でもこの方に触れてみろ。その腕は、永遠に胴体から離れるぞ」
側近筆頭は、薄ら寒い迫力に満ちていた。カイの本気を示し、男の腕からはうっすらと血が滲んでいる。
それと同時に、もう一人の男の着物が突如として燃え上がった。
「おれの弟になんの用だ?」
「うわあ! 火、火が!!」
「まったく、レオがいないとすぐ虫が寄って来るな」
ジュールに腕を回していた男は、驚いて手で火を払い除ける。
「弟って、ホントに男だったのか!?」
ジスランは、慌てふためく男を冷ややかに見下ろした。カイ程ではないが、ジスランも十分長身だ。
「それから、そっちのお前も安心しろ。傷口は火で綺麗に焼いてやる」
「なにをするか! 私たちの父親は子爵だぞ! カヤ領主ブレロー伯爵とも懇意で――」
男たちは物騒すぎる二人に怒り心頭で、泡を飛ばして怒鳴り散らした。たかが従者と護衛の魔法使いと侮り、身分を笠に着る。
「子爵?」
だがそんなものは、この二人には一切通用しなかった。
カイが鼻で笑う。
「自らの愚行に父親を巻き込むか。結構。ならご希望通り、お前たちの父親に責任を取らせよう」
「な、なにを……」
最初こそ強気だったが、カイの台詞に当初の勢いが失われる。
責任を取ってもらう、ではなく、取らせる、というのは、明らかに上の立場の人間が使う言葉だった。
つまり、従者と見下したこの男は、それだけの地位にあるということだ。しかも改めて見れば、男の身なりは彼らより良い。
そこで、もう一人の男が思い出す。
「ま、待て、こいつ、まさか、ジスラン・キャトル・レオール!?」
「それにこの子も、よく見たら金ボタン……!」
ジスランといえば、誰もが知るギルドトップクラスの実力者だ。そのジスランに加え、さらにもう一人、一級魔法使いを護衛につける……。
この美人は、それだけの資産があり、なおかつそこまでして守らなければならない人物、ということだ。
「し、失礼しましたー!」
男たちは自分たちの愚かさを理解すると、一目散に逃げ出した。
「ふん。保身だけは一人前か」
「ロワ様、あのような輩は、不敬罪で斬ってお捨てください!」
「二人共、やりすぎ」
ロワメールが、二人まとめて注意する。
「なにを仰いますか! 王族に許可なく触れるのは、立派な不敬罪です!」
「触られてないから」
カイは未だ怒り冷めやらず、ジスランに至ってはそっぽを向いて全く反省していなかった。
ロワメールはやれやれ、と小さく溜め息を吐く。
(結局、ぼくは女と思われたままだろうな)
ジュールは、ジスランの弟発言で誤解が解けたが、ロワメールについては誰もなにも言ってくれなかった。
どうにも面白くないロワメールである。
両脇を抱えられ、ぶらーんと宙に持ち上げられた子ネコは、絶対にロワメールと目を合わせようとはしなかった。
「ダメだよ、人を攻撃しちゃ。聞いてるの?」
絶賛怒られ中である。
「君は魔獣なんだから、人を攻撃してしまったら、退治されちゃうんだよ」
ロワメールが顔を動かしても、スッと目を背ける。
「わかってるのかなぁ?」
「わかってますよ。ネコが目を合わせないのは、反省してる証拠です」
「そうなんだ」
「って、兄が言ってました」
ジュールのうんちくにロワメールは感心したが、ジスランの受け売りらしい。
「あと叱る時は、その場で短く、ですって。ね、兄さん?」
ジュールと共にロワメールが目を向ければ、ジスランは不機嫌だ。
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ロワメールは素直にアドバイスを受け入れ、今度は子ネコを優しく抱きしめた。
「ぼくのこと、守ろうとしてくれたんだよね。ありがとう」
背中を撫でてやると、シッポを嬉しそうに振って、ゴロゴロと喉を鳴らす。
目を閉じて、幸せそうだ。
「ネコの身で、ロワ様を守ろうとは感心ですね。ただの野良ネコなら、宮で飼ってもいいんですが」
カイもおおいに子ネコを褒めた。
ロワメールは子ネコを撫でながら、正直、少し困っていた。子ネコが可愛くてしかたなかったからだ。
でも、この子ネコは人様のネコ。とどめに魔獣だ。飼い主にも手放させないといけない。
漏れそうになる溜め息を飲み込み、ロワメールは気合いを入れ直した。
「とりあえず、あっちに行ってみよう。ひょっとしたら、この子の飼い主がいるかもしれない」
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
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