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第三話 魔者の花嫁編
3ー31 一兎を追って二兎を得る
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「どこー? 出ておいでー」
小さな女の子が、路地を覗き込みながら半べそで呼びかけている。
通りすがりの人が心配して声をかけると、女の子は何事か一生懸命訴えていた。
「あの子が飼い主でしょうか?」
「かもしれないね」
ロワメールはジュールに頷いてから、少女に近付く。
「こんにちは。君が探しているのは、ひょっとしてこの子かな?」
ロワメールが話しかけると、少女は青年の腕の中にいる子ネコに飛び上がった。
「ミエル! 良かった! ずっと探してたんだよ!」
子ネコを渡すと、少女はわんわんと泣き出した。
「お兄ちゃんたち、ミエルを見つけてくれてありがとう」
鼻をグズグズさせながらもお礼を言う。まだ六歳くらいなのに、しっかりした子だった。
「ぼくはロワメール。君のお名前は?」
「フルール」
ロワメールが少女と目の高さを合わせれば、涙に濡れた青灰色の瞳が答える。くすんだ金髪の、可愛い女の子だった。
「それで、君の名前はミエルっていうのか」
ロワメールが頭を撫でると、子ネコはギュッと目を瞑る。
「ミエル?」
まるでなにかに耐えるようなその反応に、ロワメールは慌てて手を引っ込めた。
「どうしたの? どこか痛――」
「にゃーーーーーーん!」
子ネコは少女の手の上で四本の足ですっくと立ち上ると、遠吠えのように、大きく長く鳴く。
そしてブルブルッと体を震わせると少女の手から飛び降り、今度はロワメールの周りをグルグルと走り出した。
「急になに? どうしたの?」
突然のミエルの行動に戸惑って、ロワメールがジュールとジスランに助けを求めるも、魔法使いたちは警戒態勢で子ネコを凝視していた。
〈兄さん、今……〉
〈ああ、子ネコの魔力が跳ね上がった〉
ミエルは未だ興奮冷めやらない様子で走り回っていたが、あっさり体力が底をついてへばってしまう。
「ほら、もう、そんなに走るから、疲れちゃったんでしょ?」
ロワメールがひょいと抱き上げれば、ミエルも何事もなかったようにペロペロと毛繕いを始める。
「なにか問題が?」
警戒を解かない魔法使いに、カイが囁いた。
ジュールが兄に視線を送る。
(飼い主に会って魔力が増えた? いやタイミング的には、王子に名を呼ばれたから……?)
ジスランが可能性を検証するが、魔獣の生態は謎だ。しかも子ネコは毛繕いを終えると、ゴロゴロと喉を鳴らしてロワメールに甘えている。どう見ても、問題はなさそうだった。
「……いや」
ジスランはミエルから目を離さず、短く答えた。
「ミエル、お兄ちゃんにすごく懐いてる」
「なんかね」
ロワメールの指をペロペロ舐めているミエルに、フルールが感心する。
「フルール、あのね、ミエルなんだけど」
地面に片膝をつけたまま、ロワメールが本題に入った。
心は痛むが、この子からミエルを取り上げねばならない。
「この子は、実は特別なネコなんだ」
言葉を選んで、フルールにもわかりやすく伝える。
「それでこの子のことを、できればフルールのお父さんかお母さん、大人の人に相談したいんだけど、お家に行ってもいいかな?」
フルールは少し考えた。二人は魔法使いだし、もう一人も優しそうな人だ。この国で魔法使いを疑う人間はいないし、そしてなにより、目の前の青年はすごく綺麗で、お姫様のようだった。
「お兄ちゃんたち、悪い人じゃない?」
「うん。悪い人じゃない」
(知らない人について行っちゃいけませんって、言われてるけど……)
ついて行くのではない。連れて行くのである。
「こっち」
少女は青年の手を引いて歩き出した。その歩みに迷いはないが、ロワメールは逆に困惑した。
「道、こっちで合ってる?」
フルールは一直線に街を抜け、どんどん山の中に入っていく。
「フルールのお家、お山の中にあるの」
両親が林業や狩猟を生業としているのかと思ったが、違った。
「フルールのママ、薬師なの」
「薬師……」
ロワメールは手を繋いだまま、少女をマジマジと見つめる。くすんだ金髪と青灰色の瞳は、見覚えがあった。
「ねえ、ママの目元にホクロはない?」
「ある! えっとね、ここ!」
フルールは左目の下を指す。
「じゃあ、ママに魔法使いの弟はいる?」
「あのね、ママ、パパと結婚する前に、魔獣に家族を殺されちゃったの」
決定打とも思える証言に、ロワメールは核心をついた。
「フルールのママの名前、ひょっとしてファイエット?」
「お兄ちゃん、ママを知ってるの!?」
ロワメールたちは、まさかの当たりを引き当てたようだった。
山の中に一軒の家が見えてきた頃、フルールの足取りが急に重くなった。
「フルール、どうしたの?」
「あ、あのね」
表情から明るさが消えた少女に、ロワメールは足を止める。
「えっとね、その……そう! こんなにいっぱいお客さんを連れて行ったら、ママもパパもビックリしちゃう、から」
「それもそうだね。じゃあ、どうしようか」
これは配慮が足りなかった。フルールの言う通り、見知らぬ男四人で突然お邪魔するのは失礼である。
「お兄ちゃんだけでいい?」
フルールは、ロワメールを見上げる。
ロワメールは一人でも構わなかったが、他の者は納得しなかった。
「ボクも一緒に行っていい?」
「えっと、その……」
ジュールがニッコリと笑ったが、フルールは困ったように俯いてしまった。
「いきなり魔法使いがお邪魔しては、お家の方は驚かれるかな? 私ならいいかい?」
「……お兄ちゃんなら、大丈夫」
カイの同行には、フルールは悩まず頷く。
ジュールとジスランは、家の手前で待機となった。
「ごめんなさい……」
「フルールちゃんはなにも悪くないよ。ボクたちが、急にお家に行かせてってお願いしたんだから、気にしないで」
一行は二手に別れたが、ロワメールの手を握るフルールの指には不自然に力が籠もっていた。
「フルール、まだなにか言いたいことがあるんじゃない?」
玄関の前で、ロワメールが再び足を止める。
フルールはもじもじとロワメールを見上げた。
「あのね、ミエルは本当は――」
「そいつは魔者だ! おれが殺す!」
家の中から聞こえてきた怒声が、少女の声を掻き消した。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
❖ お知らせ ❖
読んでくださり、ありがとうございます!
3ー32 ぶち壊すにゃーん は10/23(水)の夜、21時頃に投稿を予定しています。
小さな女の子が、路地を覗き込みながら半べそで呼びかけている。
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「あの子が飼い主でしょうか?」
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ロワメールはジュールに頷いてから、少女に近付く。
「こんにちは。君が探しているのは、ひょっとしてこの子かな?」
ロワメールが話しかけると、少女は青年の腕の中にいる子ネコに飛び上がった。
「ミエル! 良かった! ずっと探してたんだよ!」
子ネコを渡すと、少女はわんわんと泣き出した。
「お兄ちゃんたち、ミエルを見つけてくれてありがとう」
鼻をグズグズさせながらもお礼を言う。まだ六歳くらいなのに、しっかりした子だった。
「ぼくはロワメール。君のお名前は?」
「フルール」
ロワメールが少女と目の高さを合わせれば、涙に濡れた青灰色の瞳が答える。くすんだ金髪の、可愛い女の子だった。
「それで、君の名前はミエルっていうのか」
ロワメールが頭を撫でると、子ネコはギュッと目を瞑る。
「ミエル?」
まるでなにかに耐えるようなその反応に、ロワメールは慌てて手を引っ込めた。
「どうしたの? どこか痛――」
「にゃーーーーーーん!」
子ネコは少女の手の上で四本の足ですっくと立ち上ると、遠吠えのように、大きく長く鳴く。
そしてブルブルッと体を震わせると少女の手から飛び降り、今度はロワメールの周りをグルグルと走り出した。
「急になに? どうしたの?」
突然のミエルの行動に戸惑って、ロワメールがジュールとジスランに助けを求めるも、魔法使いたちは警戒態勢で子ネコを凝視していた。
〈兄さん、今……〉
〈ああ、子ネコの魔力が跳ね上がった〉
ミエルは未だ興奮冷めやらない様子で走り回っていたが、あっさり体力が底をついてへばってしまう。
「ほら、もう、そんなに走るから、疲れちゃったんでしょ?」
ロワメールがひょいと抱き上げれば、ミエルも何事もなかったようにペロペロと毛繕いを始める。
「なにか問題が?」
警戒を解かない魔法使いに、カイが囁いた。
ジュールが兄に視線を送る。
(飼い主に会って魔力が増えた? いやタイミング的には、王子に名を呼ばれたから……?)
ジスランが可能性を検証するが、魔獣の生態は謎だ。しかも子ネコは毛繕いを終えると、ゴロゴロと喉を鳴らしてロワメールに甘えている。どう見ても、問題はなさそうだった。
「……いや」
ジスランはミエルから目を離さず、短く答えた。
「ミエル、お兄ちゃんにすごく懐いてる」
「なんかね」
ロワメールの指をペロペロ舐めているミエルに、フルールが感心する。
「フルール、あのね、ミエルなんだけど」
地面に片膝をつけたまま、ロワメールが本題に入った。
心は痛むが、この子からミエルを取り上げねばならない。
「この子は、実は特別なネコなんだ」
言葉を選んで、フルールにもわかりやすく伝える。
「それでこの子のことを、できればフルールのお父さんかお母さん、大人の人に相談したいんだけど、お家に行ってもいいかな?」
フルールは少し考えた。二人は魔法使いだし、もう一人も優しそうな人だ。この国で魔法使いを疑う人間はいないし、そしてなにより、目の前の青年はすごく綺麗で、お姫様のようだった。
「お兄ちゃんたち、悪い人じゃない?」
「うん。悪い人じゃない」
(知らない人について行っちゃいけませんって、言われてるけど……)
ついて行くのではない。連れて行くのである。
「こっち」
少女は青年の手を引いて歩き出した。その歩みに迷いはないが、ロワメールは逆に困惑した。
「道、こっちで合ってる?」
フルールは一直線に街を抜け、どんどん山の中に入っていく。
「フルールのお家、お山の中にあるの」
両親が林業や狩猟を生業としているのかと思ったが、違った。
「フルールのママ、薬師なの」
「薬師……」
ロワメールは手を繋いだまま、少女をマジマジと見つめる。くすんだ金髪と青灰色の瞳は、見覚えがあった。
「ねえ、ママの目元にホクロはない?」
「ある! えっとね、ここ!」
フルールは左目の下を指す。
「じゃあ、ママに魔法使いの弟はいる?」
「あのね、ママ、パパと結婚する前に、魔獣に家族を殺されちゃったの」
決定打とも思える証言に、ロワメールは核心をついた。
「フルールのママの名前、ひょっとしてファイエット?」
「お兄ちゃん、ママを知ってるの!?」
ロワメールたちは、まさかの当たりを引き当てたようだった。
山の中に一軒の家が見えてきた頃、フルールの足取りが急に重くなった。
「フルール、どうしたの?」
「あ、あのね」
表情から明るさが消えた少女に、ロワメールは足を止める。
「えっとね、その……そう! こんなにいっぱいお客さんを連れて行ったら、ママもパパもビックリしちゃう、から」
「それもそうだね。じゃあ、どうしようか」
これは配慮が足りなかった。フルールの言う通り、見知らぬ男四人で突然お邪魔するのは失礼である。
「お兄ちゃんだけでいい?」
フルールは、ロワメールを見上げる。
ロワメールは一人でも構わなかったが、他の者は納得しなかった。
「ボクも一緒に行っていい?」
「えっと、その……」
ジュールがニッコリと笑ったが、フルールは困ったように俯いてしまった。
「いきなり魔法使いがお邪魔しては、お家の方は驚かれるかな? 私ならいいかい?」
「……お兄ちゃんなら、大丈夫」
カイの同行には、フルールは悩まず頷く。
ジュールとジスランは、家の手前で待機となった。
「ごめんなさい……」
「フルールちゃんはなにも悪くないよ。ボクたちが、急にお家に行かせてってお願いしたんだから、気にしないで」
一行は二手に別れたが、ロワメールの手を握るフルールの指には不自然に力が籠もっていた。
「フルール、まだなにか言いたいことがあるんじゃない?」
玄関の前で、ロワメールが再び足を止める。
フルールはもじもじとロワメールを見上げた。
「あのね、ミエルは本当は――」
「そいつは魔者だ! おれが殺す!」
家の中から聞こえてきた怒声が、少女の声を掻き消した。
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