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第三話 魔者の花嫁編
3ー58 四属性対抗試合4 四者四様
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ロワメールたちは、フレデリクとジスランの控室にも顔を出したが、何故かフレデリクは元気がなく、熟睡のジスランは起こされても起きなかった。リュカには気にするなと苦笑され、ギルド職員のベンジャミンには謝り倒された。
両者共、大事な試合を控えた選手には見えなかったが、魔法使いらしいと言えば魔法使いらしい。
「ジスランは大物感満載だよね」
ロワメールはジスランの怠惰を無礼と捉えず、個性として認識している。
雑談しながら通路を歩いていると、ジュヌヴィエーヴと出くわした。傍らにはメイドと思われる女性を連れている。
ジュヌヴィエーヴは壁際に下がり、淑女の礼を取った。
(こういう時、なにか声かけた方がいいんだよね)
王子であるロワメールが声をかけなければ、男爵令嬢からは話しかけられない。
ロワメールはチラリとカイに視線を送った。心得たカイが、ジュヌヴィエーヴに歩み寄る。
「ジュヌヴィエーヴ嬢、お久しぶりです。いつぞやの夜会以来ですね」
「ニュアージュ卿、ご機嫌麗しゅうございます」
試合会場とは別人のような、淑やかな口調は紛れもなく貴婦人のものだった。
「試合見事でした。午後からも頑張ってください」
不自然にならないよう声を掛けるが、ロワメールはどこか及び腰である。というのも過去、似たような状況で令嬢に挨拶をし、倒れられたことが一度や二度ではないからだ。
麗しの王子様に突然話しかけられ、その笑顔の美しさに卒倒した令嬢たちに罪はないが、ロワメールにはトラウマである。
兄には「顔面凶器だから」と笑われるが、ロワメールには笑い事ではなかった。
「ロワメール殿下、初めてお目もじつかまつります。ローズ男爵が娘、ジュヌヴィエーヴにございます。弟カミーユにおきましては、常日頃よりお声がけいただき、誠にありがとうごさいまする」
王子様の美貌には微動だにせず、ジュヌヴィエーヴは淡々と型通りの向上を述べる。たいした胆力である。
「マスター、お初にお目にかかります。風使いジュヌヴィエーヴ・シス・ローズと申します。以降お見知り置きくださいませ」
そしてセツに対しても魔法使いとして完璧に振る舞ってみせたが、そこでジュヌヴィエーヴはセツとロワメールをうっとりと見上げた。
「本当に、仲の良い親子のようでございますね」
その一言に、ロワメールは一瞬喜んだ。しかしながら、その後の雲行きはどうも怪しい。
「マスターと殿下のお話をお伺いした時は、胸が締め付けられる思いでした。一緒にいたい、けれど殿下はお立場のため、マスターはお役目のため、それは叶わぬ願い。ああ、おいたわしい。なんと悲劇的な運命!」
「……はあ」
両手を天に向け、嘆くジュヌヴィエーヴについていけず、ロワメールは気の抜けた返事を返してしまう。
ロワメールの戸惑いをよそに、ジュヌヴィエーヴは一人盛り上がっていた。
まるでスポットライト浴びた舞台女優ように、熱く語り続ける。
「それでも運命を跳ね除け、こうして共にいらっしゃる。素晴らしい! 素晴らしいですわ! わたくし、感動いたしました!」
「う、うん?」
「わたくし、お二人を応援しております!」
「え、ええと、ありがとう?」
なにを応援されているのかわからず、ロワメールの頭の中で大量の疑問符が舞うのだった。
「ご覧になって、マリアンヌ?」
「はい、しかとこの目で」
ロワメールとセツを見送り、ジュヌヴィエーヴはメイドのマリアンヌと手を取り合う。
「お噂通りでございました」
「ええ、本当に仲睦まじいご様子。心洗われますわぁ」
悲劇の王子様と魔法使いの話は、吟遊詩人によって多くの人に知られている。
その上で、耳聡い一部の乙女たちは、ウルソン伯爵の一件から新法案を巡るギルドでの出来事を聞き、想像の翼を広げた。
そして、こう結論付けたのである。
第二王子殿下は、命の恩人である名付け親のために、新法案を考えたのではないか、と。
第二王子が成人して、初めて着手した大きな仕事が今回の法案である。
いやが上にも妄想は膨らんだ。
血の繋がらない親子の、二人の絆と愛情。
(なんて尊い……!)
主従でありながら同志でもある乙女たちは、心を熱く震わせるのだった。
「しっかし、『秋雲』の弁当美味かったなー」
「すごく高待遇よね。選手だけじゃなく、ワタシたちのもあるなんて」
「それだけこの四属性対抗試合に、ギルドは力を入れてるんだろうね~」
普段通りの仲間の様子が、ジュールの心を落ち着かせた。三人の会話を聞きながら、考えを巡らせる。
ここまでの戦績は、一勝一敗。
ジュヌヴィエーヴにはなんとか勝てたが、フレデリクの防御は破れなかった。
フレデリクの鉄壁の守りを崩すには、ジュールの火力では不足だったのだ。
(午後からは、兄さんとの試合)
正直、ジュールに勝ち目はなかった。
ボクなんか、なんて卑下するつもりはない。そんなことを思えばジュールに負けた人たちを貶めることになる。
だが、卑屈でも謙遜でもなく、彼我の実力差は歴然とした事実だった。
それだけジスランは強い。
八年前はアナイスに負けたが、今、ジスランとアナイスが戦ったらどうなるかわからない、とジュールは思っている。
それはつまり、マスターを除く全魔法使いの中でも、最強クラスの強さと言うことだ。
(ボクに利があるとしたら、最終戦であること。魔力残量を気にせず、全力で戦える)
そして、弟であること。
ジスランはきっと、ジュールを本気で攻撃しない。ジュールを下に見ているからではなく、弟に怪我をさせてしまうことを恐れて本気を出せないはすだ。なら、防御は最低限。後は攻撃に全力を注げる。
(注げるけど……)
ジュールはキュッと眉毛を寄せた。
本当にそれでいいのか、ジュールはまだ迷っていた。
(ボクに残ってるのは、兄さんとの試合だけ)
その一試合で、ジュールは自分の価値を証明しなければならない。
例え負けるとしても、どんな試合内容にするかはジュール次第だった。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
❖ お知らせ ❖
読んでくださり、ありがとうございます!
3ー59 四属性対抗試合5 兄弟対決 は1/24(金)の夜、21時頃に投稿を予定しています。
2025/02/14、加筆修正しました。
両者共、大事な試合を控えた選手には見えなかったが、魔法使いらしいと言えば魔法使いらしい。
「ジスランは大物感満載だよね」
ロワメールはジスランの怠惰を無礼と捉えず、個性として認識している。
雑談しながら通路を歩いていると、ジュヌヴィエーヴと出くわした。傍らにはメイドと思われる女性を連れている。
ジュヌヴィエーヴは壁際に下がり、淑女の礼を取った。
(こういう時、なにか声かけた方がいいんだよね)
王子であるロワメールが声をかけなければ、男爵令嬢からは話しかけられない。
ロワメールはチラリとカイに視線を送った。心得たカイが、ジュヌヴィエーヴに歩み寄る。
「ジュヌヴィエーヴ嬢、お久しぶりです。いつぞやの夜会以来ですね」
「ニュアージュ卿、ご機嫌麗しゅうございます」
試合会場とは別人のような、淑やかな口調は紛れもなく貴婦人のものだった。
「試合見事でした。午後からも頑張ってください」
不自然にならないよう声を掛けるが、ロワメールはどこか及び腰である。というのも過去、似たような状況で令嬢に挨拶をし、倒れられたことが一度や二度ではないからだ。
麗しの王子様に突然話しかけられ、その笑顔の美しさに卒倒した令嬢たちに罪はないが、ロワメールにはトラウマである。
兄には「顔面凶器だから」と笑われるが、ロワメールには笑い事ではなかった。
「ロワメール殿下、初めてお目もじつかまつります。ローズ男爵が娘、ジュヌヴィエーヴにございます。弟カミーユにおきましては、常日頃よりお声がけいただき、誠にありがとうごさいまする」
王子様の美貌には微動だにせず、ジュヌヴィエーヴは淡々と型通りの向上を述べる。たいした胆力である。
「マスター、お初にお目にかかります。風使いジュヌヴィエーヴ・シス・ローズと申します。以降お見知り置きくださいませ」
そしてセツに対しても魔法使いとして完璧に振る舞ってみせたが、そこでジュヌヴィエーヴはセツとロワメールをうっとりと見上げた。
「本当に、仲の良い親子のようでございますね」
その一言に、ロワメールは一瞬喜んだ。しかしながら、その後の雲行きはどうも怪しい。
「マスターと殿下のお話をお伺いした時は、胸が締め付けられる思いでした。一緒にいたい、けれど殿下はお立場のため、マスターはお役目のため、それは叶わぬ願い。ああ、おいたわしい。なんと悲劇的な運命!」
「……はあ」
両手を天に向け、嘆くジュヌヴィエーヴについていけず、ロワメールは気の抜けた返事を返してしまう。
ロワメールの戸惑いをよそに、ジュヌヴィエーヴは一人盛り上がっていた。
まるでスポットライト浴びた舞台女優ように、熱く語り続ける。
「それでも運命を跳ね除け、こうして共にいらっしゃる。素晴らしい! 素晴らしいですわ! わたくし、感動いたしました!」
「う、うん?」
「わたくし、お二人を応援しております!」
「え、ええと、ありがとう?」
なにを応援されているのかわからず、ロワメールの頭の中で大量の疑問符が舞うのだった。
「ご覧になって、マリアンヌ?」
「はい、しかとこの目で」
ロワメールとセツを見送り、ジュヌヴィエーヴはメイドのマリアンヌと手を取り合う。
「お噂通りでございました」
「ええ、本当に仲睦まじいご様子。心洗われますわぁ」
悲劇の王子様と魔法使いの話は、吟遊詩人によって多くの人に知られている。
その上で、耳聡い一部の乙女たちは、ウルソン伯爵の一件から新法案を巡るギルドでの出来事を聞き、想像の翼を広げた。
そして、こう結論付けたのである。
第二王子殿下は、命の恩人である名付け親のために、新法案を考えたのではないか、と。
第二王子が成人して、初めて着手した大きな仕事が今回の法案である。
いやが上にも妄想は膨らんだ。
血の繋がらない親子の、二人の絆と愛情。
(なんて尊い……!)
主従でありながら同志でもある乙女たちは、心を熱く震わせるのだった。
「しっかし、『秋雲』の弁当美味かったなー」
「すごく高待遇よね。選手だけじゃなく、ワタシたちのもあるなんて」
「それだけこの四属性対抗試合に、ギルドは力を入れてるんだろうね~」
普段通りの仲間の様子が、ジュールの心を落ち着かせた。三人の会話を聞きながら、考えを巡らせる。
ここまでの戦績は、一勝一敗。
ジュヌヴィエーヴにはなんとか勝てたが、フレデリクの防御は破れなかった。
フレデリクの鉄壁の守りを崩すには、ジュールの火力では不足だったのだ。
(午後からは、兄さんとの試合)
正直、ジュールに勝ち目はなかった。
ボクなんか、なんて卑下するつもりはない。そんなことを思えばジュールに負けた人たちを貶めることになる。
だが、卑屈でも謙遜でもなく、彼我の実力差は歴然とした事実だった。
それだけジスランは強い。
八年前はアナイスに負けたが、今、ジスランとアナイスが戦ったらどうなるかわからない、とジュールは思っている。
それはつまり、マスターを除く全魔法使いの中でも、最強クラスの強さと言うことだ。
(ボクに利があるとしたら、最終戦であること。魔力残量を気にせず、全力で戦える)
そして、弟であること。
ジスランはきっと、ジュールを本気で攻撃しない。ジュールを下に見ているからではなく、弟に怪我をさせてしまうことを恐れて本気を出せないはすだ。なら、防御は最低限。後は攻撃に全力を注げる。
(注げるけど……)
ジュールはキュッと眉毛を寄せた。
本当にそれでいいのか、ジュールはまだ迷っていた。
(ボクに残ってるのは、兄さんとの試合だけ)
その一試合で、ジュールは自分の価値を証明しなければならない。
例え負けるとしても、どんな試合内容にするかはジュール次第だった。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
❖ お知らせ ❖
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3ー59 四属性対抗試合5 兄弟対決 は1/24(金)の夜、21時頃に投稿を予定しています。
2025/02/14、加筆修正しました。
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