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第三話 魔者の花嫁編
3ー59 四属性対抗試合5 兄弟対決
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「えー、昼休憩を挟み第四試合、この試合を楽しみにしていた方も多いのではないでしょうか」
始まった午後の部、闘技場は熱気と期待に包まれていた。
「魔法学校を卒業してから八年連続出場! 人気実力共に兼ね備えた男! もはや多くを語る必要はないでしょう! 炎使いジスラン・キャトル・レオール!」
きゃあー! と黄色い歓声が湧き上がる。心なしか、女性客が増えていた。
「えー、対するは、初出場ながら第一試合で勝利を収めた弟! その実力は兄姉に迫るのか! 水使いジュール・キャトル・レオール!」
ジュールくーん! と、どこからか声援が飛ぶ。恥ずかしがるジュールに、きゃあ! と更に声が上がった。
ただ、ジスランの時は圧倒的に女性からの声援が多かったが、ジュールには男性からも熱い声援が入る。男女共に人気があって結構なことである。
「兄が意地を見せるのか! はたまた弟が兄を超えていくのか! お待たせいたしました! レオール兄弟対決! 第四試合、これより開始いたします!」
「兄さん。お願いがあるんだ」
「どうした?」
歓声に包まれながら、ジュールがジスランに呼びかける。
ジスランは試合前だというのに、相変わらず気怠げだ。兄はジュールだけでなく、誰に対しても本気にならない。だけど。
「手を抜かないでほしい」
真剣な表情のジュールを、兄は黙って見つめ返した。
以前ジスランがジルと対戦した時も、本気で戦わなかった。
ジスランに巧妙に手を抜かれ、試合に勝った後、ジルはジスランを殴り飛ばした。
――馬鹿にするな!
あんな派手な兄妹ゲンカを、ジュールは初めて見た。ジルは決して後に引くタイプではないが、その後しばらくジスランと口を利かなかったほどだ。
その時の姉の気持ちが、今ならジュールもわかる。
自分では、兄に敵わない。でも、勝ちを譲ってもらうなんて絶対嫌だった。
「……わかった」
試合の合図が鳴る。
ひょっとしたら最初で最後になるかもしれない、兄との真剣勝負が始まった。
ジュールが攻めあぐねるなか、瞬く間に時間は過ぎていく。
刻一刻と制限時間が迫っていた。
ジュールはハァハァと荒い息を繰り返す。
「これが、兄さんの本気……」
ジスランの防御には一部の隙もなく、ジュールのどんな攻撃も届かない。
兄を覆う赤い防御壁は、ほとんど無傷だった。
対して炎は変幻自在に形をかえてジュールを翻弄し、巧みに結界を削り続ける。ジュールの青い防御壁は大半が失われ、機能を失いつつあった。どころか、開始直後からほとんどかわっていてないジスランの立ち位置が、圧倒的実力差を物語っている。
すでに勝敗は明らかだった。
「これまでの試合とは打ってかわり、果敢に攻めるジュール選手! しかし! 兄は偉大だ! 攻撃がどうしても届かないー!」
明暗が分かれても諦めず、全力で兄にぶつかっていく弟の姿に観客も手に汗握る。
万策尽きてなお、がむしゃらに、汗まみれになってジュールは戦った。恥も外聞もかなぐり捨てる。
属性の相性で言えば、ジュールが有利。けれど、どれだけの水魔法を放とうと跡形もなく炎に飲み込まれてしまう。
だが、もう後がないジュールは、魔力残量を無視して特大の魔法を放った。
(この試合さえ乗り切れたら、どうなったっていい……!)
水の奔流がフィールドをうねり、大地を抉る。竜巻のような水の渦は新人のものとは思えぬ速度と威力を併せ持ち、兄に襲いかかった。
起死回生の一撃。
これで逆転しなければ、ジュールに勝ちはない。
しかし――炎の壁は、立ちはだかる兄そのもののようにビクともしなかった。
「試合終了ー! ここで、試合終了です!」
制限時間を告げる無常な合図が鳴り響く。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
足を止めた途端、パタタッと一気に汗が流れ落ちた。ガクン! と膝から力が抜ける。慌てて両手を膝についた。
ガンガンと脈打つ血流の音が耳を塞ぐ。
心臓が爆発しそうだった。
(なに、これ……)
この戦いでジュールの価値を証明しなければ、ロワメールのそばにはいられない。
カイに言われた通り、試合に出場した。一勝もした。しかし、ジュール以上に優秀な人材なんていくらでもいる。
だから少しでも、兄に近付きたかった。
そうすれば、ジュールの価値を証明できると思ったのに。
「勝者、炎使いジスラン!」
勝利したジスランだけでなく、兄に挑み続けた弟の健闘を称え、惜しみない拍手が贈られる。ジュールには、その拍手の音すら遠かった。
(こんなの、ボクの弱さを証明しただけじゃないか!!)
全身全霊で戦った。
それでも兄には勝てない。手が届かない。
兄は強すぎる。
知ってたけど。わかってたけど!
(悔しい悔しい悔しい悔しい悔しいっ!!!)
ギッ、と奥歯を噛みしめる。
膝を掴む両手が、着物に爪を立てた。
「すっごい悔しい……っ!」
項垂れる視界に、長い足が映る。
見上げれば、兄が手を差し伸べていた。
「強くなったな」
妹弟がにしか見せないジスランの笑顔に、黄色い悲鳴が闘技場を埋め尽くした。
闘技場の盛り上がりは、最高潮に達しようとしていた。
ここまでの熱戦に、満員の観客席はいやが上にも期待が高まる。
第一試合、風使いジュヌヴィエーヴ 対 水使いジュール
勝者、水使いジュール
第二試合、風使いジュヌヴィエーヴ 対 土使いフレデリク
勝者、風使いジュヌヴィエーヴ
第三試合、土使いフレデリク 対 水使いジュール
勝者、土使いフレデリク
第四試合、炎使いジスラン 対 水使いジュール
勝者、炎使いジスラン
第五試合、炎使いジスラン 対 風使いジュヌヴィエーヴ
勝者、炎使いジスラン
ギルド祭四属性対抗試合、午前中から続いた試合は、いよいよ最後の試合を残すのみとなった。
炎使いジスランと土使いフレデリクの戦い。
次期司候補同士の戦いは、まさにトリを飾るに相応しい大一番である。
どちらが勝ってもおかしくない、ギルド有数の戦力を誇る二人の戦いが、今まさに、幕を切って落とされようとしていた。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
❖ お知らせ ❖
読んでくださり、ありがとうございます!
3ー60 四属性対抗試合6 目覚めし獅子 は1/29(水)の夜、21時頃に投稿を予定しています。
始まった午後の部、闘技場は熱気と期待に包まれていた。
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きゃあー! と黄色い歓声が湧き上がる。心なしか、女性客が増えていた。
「えー、対するは、初出場ながら第一試合で勝利を収めた弟! その実力は兄姉に迫るのか! 水使いジュール・キャトル・レオール!」
ジュールくーん! と、どこからか声援が飛ぶ。恥ずかしがるジュールに、きゃあ! と更に声が上がった。
ただ、ジスランの時は圧倒的に女性からの声援が多かったが、ジュールには男性からも熱い声援が入る。男女共に人気があって結構なことである。
「兄が意地を見せるのか! はたまた弟が兄を超えていくのか! お待たせいたしました! レオール兄弟対決! 第四試合、これより開始いたします!」
「兄さん。お願いがあるんだ」
「どうした?」
歓声に包まれながら、ジュールがジスランに呼びかける。
ジスランは試合前だというのに、相変わらず気怠げだ。兄はジュールだけでなく、誰に対しても本気にならない。だけど。
「手を抜かないでほしい」
真剣な表情のジュールを、兄は黙って見つめ返した。
以前ジスランがジルと対戦した時も、本気で戦わなかった。
ジスランに巧妙に手を抜かれ、試合に勝った後、ジルはジスランを殴り飛ばした。
――馬鹿にするな!
あんな派手な兄妹ゲンカを、ジュールは初めて見た。ジルは決して後に引くタイプではないが、その後しばらくジスランと口を利かなかったほどだ。
その時の姉の気持ちが、今ならジュールもわかる。
自分では、兄に敵わない。でも、勝ちを譲ってもらうなんて絶対嫌だった。
「……わかった」
試合の合図が鳴る。
ひょっとしたら最初で最後になるかもしれない、兄との真剣勝負が始まった。
ジュールが攻めあぐねるなか、瞬く間に時間は過ぎていく。
刻一刻と制限時間が迫っていた。
ジュールはハァハァと荒い息を繰り返す。
「これが、兄さんの本気……」
ジスランの防御には一部の隙もなく、ジュールのどんな攻撃も届かない。
兄を覆う赤い防御壁は、ほとんど無傷だった。
対して炎は変幻自在に形をかえてジュールを翻弄し、巧みに結界を削り続ける。ジュールの青い防御壁は大半が失われ、機能を失いつつあった。どころか、開始直後からほとんどかわっていてないジスランの立ち位置が、圧倒的実力差を物語っている。
すでに勝敗は明らかだった。
「これまでの試合とは打ってかわり、果敢に攻めるジュール選手! しかし! 兄は偉大だ! 攻撃がどうしても届かないー!」
明暗が分かれても諦めず、全力で兄にぶつかっていく弟の姿に観客も手に汗握る。
万策尽きてなお、がむしゃらに、汗まみれになってジュールは戦った。恥も外聞もかなぐり捨てる。
属性の相性で言えば、ジュールが有利。けれど、どれだけの水魔法を放とうと跡形もなく炎に飲み込まれてしまう。
だが、もう後がないジュールは、魔力残量を無視して特大の魔法を放った。
(この試合さえ乗り切れたら、どうなったっていい……!)
水の奔流がフィールドをうねり、大地を抉る。竜巻のような水の渦は新人のものとは思えぬ速度と威力を併せ持ち、兄に襲いかかった。
起死回生の一撃。
これで逆転しなければ、ジュールに勝ちはない。
しかし――炎の壁は、立ちはだかる兄そのもののようにビクともしなかった。
「試合終了ー! ここで、試合終了です!」
制限時間を告げる無常な合図が鳴り響く。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
足を止めた途端、パタタッと一気に汗が流れ落ちた。ガクン! と膝から力が抜ける。慌てて両手を膝についた。
ガンガンと脈打つ血流の音が耳を塞ぐ。
心臓が爆発しそうだった。
(なに、これ……)
この戦いでジュールの価値を証明しなければ、ロワメールのそばにはいられない。
カイに言われた通り、試合に出場した。一勝もした。しかし、ジュール以上に優秀な人材なんていくらでもいる。
だから少しでも、兄に近付きたかった。
そうすれば、ジュールの価値を証明できると思ったのに。
「勝者、炎使いジスラン!」
勝利したジスランだけでなく、兄に挑み続けた弟の健闘を称え、惜しみない拍手が贈られる。ジュールには、その拍手の音すら遠かった。
(こんなの、ボクの弱さを証明しただけじゃないか!!)
全身全霊で戦った。
それでも兄には勝てない。手が届かない。
兄は強すぎる。
知ってたけど。わかってたけど!
(悔しい悔しい悔しい悔しい悔しいっ!!!)
ギッ、と奥歯を噛みしめる。
膝を掴む両手が、着物に爪を立てた。
「すっごい悔しい……っ!」
項垂れる視界に、長い足が映る。
見上げれば、兄が手を差し伸べていた。
「強くなったな」
妹弟がにしか見せないジスランの笑顔に、黄色い悲鳴が闘技場を埋め尽くした。
闘技場の盛り上がりは、最高潮に達しようとしていた。
ここまでの熱戦に、満員の観客席はいやが上にも期待が高まる。
第一試合、風使いジュヌヴィエーヴ 対 水使いジュール
勝者、水使いジュール
第二試合、風使いジュヌヴィエーヴ 対 土使いフレデリク
勝者、風使いジュヌヴィエーヴ
第三試合、土使いフレデリク 対 水使いジュール
勝者、土使いフレデリク
第四試合、炎使いジスラン 対 水使いジュール
勝者、炎使いジスラン
第五試合、炎使いジスラン 対 風使いジュヌヴィエーヴ
勝者、炎使いジスラン
ギルド祭四属性対抗試合、午前中から続いた試合は、いよいよ最後の試合を残すのみとなった。
炎使いジスランと土使いフレデリクの戦い。
次期司候補同士の戦いは、まさにトリを飾るに相応しい大一番である。
どちらが勝ってもおかしくない、ギルド有数の戦力を誇る二人の戦いが、今まさに、幕を切って落とされようとしていた。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
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