やさしい魔法使いの起こしかた

青維月也

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第三話 魔者の花嫁編

3ー60 四属性対抗試合6 目覚めし獅子

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「えー、お待たせいたしました。これよりギルド祭四属性対抗試合、最終戦、炎使いジスラン対土使いフレデリクの試合を開始いたします」
 実況のサミュエルが、闘技場に朗々と声を響かせる。

「全国でも屈指の実力を持つ二人の対戦! 最終戦に相応しい、強者同士の対決です!」
 サミュエルの実況に、いやが上にも興奮が高まった。

「この二人、過去に五度、この四属性対抗試合で対戦経験があります! 結果は土使いフレデリクの三勝二敗。このままフレデリクが勝ち越すのか! それともジスランの巻き返しなるか! 注目の一戦が、今、始まろうとしています!」
 ロワメールも、貴賓席から闘技場を見下ろす。これまでの試合で荒れた地面は、その都度土使いにより修復され、平らに保たれている。

 歓声の中、ジスランとフレデリクが静かに闘技場に立っていた。相変わらず気怠げなジスランと、余裕の表情を崩さないフレデリク。
 どちらも闘志を剥き出すタイプではないが、緊張感は静かに闘技場に渦巻いている。
 どちらが勝つのか、誰にも予測できない。

「では、これより、ギルド祭四属性対抗試合、最終試合、炎使いジスラン対土使いフレデリクの試合を開始いたします!」

 試合開始の合図が、闘技場に鳴り響いた。





 試合開始直後、最初に動いたのはフレデリクだった。
 フレデリクからジスランに向かい、一直線に地面が隆起する。まるで、巨大な生物が地中を突進しているかのように地表が割れる。
「おおっーと! これは! フレデリクの先制攻撃だ! ジスランの足場を壊すつもりか!?」

 ジスランは眉ひとつ動かさず、口の中で短縮詠唱を唱えた。すると突如、うねる地面が火柱を上げて爆発する。
「しかしジスラン、涼しい顔で迎え撃つ! 両者初手から激しい撃ち合いです!」

「へえー、どうしたんだい? めずらしくやる気じゃないか」
「………」

 面白そうに笑うフレデリクを無視し、ジスランが間髪入れずに炎の槍を放った。
 半円に展開した十本の炎槍が、フレデリクに迫る。通常、戦闘時に魔法使いが用いる魔法槍は一本。そこからもジスランの桁違いの攻撃力がわかる。

 しかしフレデリクも瞬時に反応し、土の壁が危なげなく炎槍を受けきった。
 すると今度はジスランの頭上に、大きな岩の塊が出現した。その岩がジスラン目掛けて落下する。

 お互いの実力を知っているからこその容赦のない激しい応酬に、闘技場は大歓声に包まれた。
 
「巨大な岩石が、ジスランを狙うー! あんなものを食らったらただではすまないぞ! さあ、どうするジスラン!?」

 ジスランは動じることなく、右腕を上空に薙いだ。それと同時に複数の炎の刃が出現し、巨岩石を無数の破片に砕いていく。
 だがそれを見越していたのか、拳大の礫となってなお、岩石はジスランに襲いかかった。
 それを、立ち昇った炎の壁が飲み込む。

「目まぐるしい……! まさに息吐く暇もない攻防だ!」
 激しい攻撃の応酬に、サミュエルも実況が追いつかなかった。熱戦に、観客席がわく。

「そして、ジスランが防御から反転、そのままフレデリクを攻撃する!」 
 礫を消した炎の壁が、次は津波のようにうねり、フレデリクに押し寄せた。

「五メトルにも及ぶ炎の高波が、フレデリクを飲み込む! ……しかぁーし、フレデリク、これを耐え凌いだあああッ!」
「うわあああああっ!!」
 一步も引かぬ戦いに、闘技場を歓声が揺るがす。

「その鉄壁の防御から名付けられた『金剛』の二つ名は伊達ではない! フレデリク、ノーダメージです!」
 土の防御壁を解除し、フレデリクは炎の波から無傷で現れた。
 ここまで、両者のポイントはゼロ。二人共に、自分の防御壁を守りきっている。

「だが『炎麗』ジスラン、攻撃の手を休めない! 無数の炎が流星雨のごとく降り注ぐ! それを阻止すべく、フレデリクも応戦!」
 ドドドドドドドドッー! と激しい撃ち合いが続いた。

「ねえ、これ、どっちが勝つの?」
「ふむ」
 身を乗り出して観戦していたロワメールがセツに問うも、セツも腕を組み唸るのみ。
 今現在、二人の実力は伯仲している。

「防御の『金剛』フレデリクか! それとも圧倒的攻撃力を誇る火力の『炎麗』ジスランか! 勝利を手にするのは果たしてどちらかーーッ!?」
 手に汗握る白熱した戦い、ロワメールやカイ、そしてセツも勝負の行方を見守った。
 




 一進一退が続くかに思われた攻防は、徐々に形勢を変えつつあった。
 ジスランが押し、フレデリクの顔に焦りが見え始める。
 
 フレデリクの絶対的防御を、ジスランの高火力の炎が削り取っていた。炎は獅子の牙と化し、強靭な顎で鉄壁の防御を噛み砕く。
 そしてフレデリクの黄色い防御壁が、半分を失った時――。
 
「勝者、炎使いジスラン!!」
 四属性対抗試合、全六試合は炎使いジスランの勝利で幕を閉じた。

「強い! 強い! 強いです! ジスラン、圧倒的強さ! くじ運の悪さで午後の部三連戦をこなしながら、ものともせずに三選三勝! なんという強さでしょう!」
 実況のサミュエルが、ジスランの偉業に興奮してまくし立てている。

「水使いジュール、風使いジュヌヴィエーヴ、そして土使いフレデリクまでも下して見せました!」
 目にかかる前髪を掻き上げるジスランは、涼しい顔で実況にも無関心だ。
「弟との対戦を経て、ついに眠れる獅子が目を覚ましたか!」

「だってさ。眠れる獅子は、目を覚ましたのかい?」
 フレデリクがジスランを揶揄う。ジスランは相変わらず気怠げだが、確かに去年までとは決定的になにかが違う。

「ジュールに勝ったのに、他の奴に負けるわけにはいかない」
「本当に、ジスランは可愛くないな。リュカかジュールの爪の垢でも煎じたらいい」

 去年までは本気ではなかった、ということだ。大方師匠の炎司に尻を叩かれ、嫌々出場していたに違いない。
(これはうかうかしてられないな。このままでは来年以降、負けっぱなしになるぞ)

 覚醒した眠れる獅子を、フレデリクは嫌がるどころか喜んで迎え入れた。
 強い敵との戦いは、フレデリクを強くしてくれる糧だ。

 フレデリクも、これまで以上に強くならねばならない。
 幸運にも、彼を強くしてくれる存在は目を覚ましている。
(マスターに、なんとしても教えを請わなければ!)

 秘書はいらないと頑なだが、優しいマスターはフレデリクを無碍にはしない。
 フレデリクは、試合に負けた後だと言うのに、セツに教えを請える現在の状況にウキウキしていた。





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 3ー61 人に歴史あり は1/31(金)の夜、21時頃に投稿を予定しています。
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