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第三話 魔者の花嫁編
3ー66 魔主の加護
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「で、花、俺もいい加減聞きたいことがあるんだがな」
「なんじゃ」
辛うじて冷静さを保っているが、セツの声は剣呑極まりなかった。
「俺にお前の印がついてるってどういうことか、きっちり説明してもらおうか」
やや目つきの悪いアイスブルーの瞳が、危険な色を帯びる。知らぬ間に、魔族に所有の印を入れられていたセツには、怒る権利があるはずだった。
「なんじゃ、今更。というか、ようやく気が付いたのか?」
「お、ま、え、はぁー!!!」
しかし花緑青は悪びれないどころか、逆にふてぶてしく聞き返してきた。
「今すぐ消せ!」
「嫌じゃ」
「消せ!!」
掴みかからんばかりの剣幕に、ロワメールが宥めにかかる。
「ま、まあ、セツ、落ち着いて」
「これが落ち着いていられるか!」
セツからしたらもっともであった。
「花ちゃん、そもそもそんな印、いつつけたの?」
「セツがまだ小さい時じゃ。かわゆうてかわゆうて」
「じゃ、三百年くらい前?」
うむ、と花緑青が頷く。
「三百年気付かなんだくせに、なにを今頃言うておる」
ぐむむ、とセツが反論できずにいるところに、花緑青はたたみかけた。
「そもそも、その印が付いていて、なにか不都合があるのか? この三百年、なにもなかったじゃろう?」
「不都合とか、そういう問題じゃない!」
「その印は、わしのものだという印。なればこそ、そなたには利益しかない。不利益は一切ないのに、消せとは不可解極まりないのお」
「利益?」
花緑青はわざとらしく首を振るが、なんのことか、セツには皆目見当がつかない。
「左様。その印があれば、我が眷族、同胞はそなたを襲わぬ」
「いや、そんなわけあるか! 俺は何度も魔獣を退治してるぞ!」
「その獣は、本当にそなたを襲うたか?」
「………」
そう言われれば、セツは強くは言い返せない。つ、と目を逸らした。
「いや、飛びかかってくる前に倒してるから……」
「そなたも大概物騒よな」
「しょうがないだろ! 人が襲われてるのに、悠長にしてられるか!」
白い目で見られ、セツが反論する。
第三者であるロワメールは、セツより遥かに冷静だった。
「セツが魔獣や魔者に負けるとは思わないけど、襲われないに越したことはないんじゃない?」
名付け親が大事なロワメールにとって、その効果は無視できない。
しかも、花緑青はしれっと付け加える。
「他島の王もじゃ」
その一言には、ロワメールも二色の瞳を見開いた。
ならばそれは、対魔族の万能護符ではないか!
「花ちゃんの印があれば、魔主も手を出せないの?」
「無論じゃ。人のものに手を出すのは礼儀知らずであろう。それに、わしにケンカを売る命知らずがいるとも思えん」
花緑青の口ぶりからするに、強制力はないのだろう。だが、牽制はできると言ったところか。
「俺がいつ、お前のものになった?」
低い恫喝は、セツが本気で怒っている証拠だが、ロワメールも花緑青も取り合わなかった。この場にいるのがこの二人以外だったら話は違ったが、花緑青がセツの機嫌に構うわけもなく、ロワメールにはセツの安全が第一だった。
「セツが嫌なのは、所有の印って言葉だからでしょう? その単語は、一旦ちょっと忘れようよ」
ロワメールが花緑青の味方につく。
魔主除けにもなる最強のお守りを手放すなんて、以ての外だった。
「その印の本質はさ、大切だから守りたいってことなんじゃないかな?」
「そうじゃ、そうじゃ」
「だから、うーんと、加護の印? とかならどう? それならそんなに嫌じゃないでしょう?」
「……なんでマスターが、魔主の加護なんか」
はあ、と特大の溜め息を吐きながらも、ロワメールには大甘なセツが強く言えずに黙り込む。
その勝機を、花緑青は見逃さなかった。
「ロワメールは若いだけあって、思考が柔軟じゃの。それに比べてセツときたら」
「なっ……! 俺だってまだ若いわ!」
「例え体は若かろうが、そのガッチガチの石頭に、若人の臨機応変さはないではないか」
「そんなことあるか! 俺は心身共に二十代だ!」
「ならばロワメールのように柔軟に、わしの加護を受ければよかろう?」
「もういい! お茶を淹れ直してくる!」
完全に言い負け、セツが不貞腐れてしまった。
花ちゃん上手いなー、と感心しながら、ロワメールは頭の片隅にメモするのを忘れない。
(セツにはこの手が有効、っと)
さり気なく問題の主軸をズラし、しかもセツが無視できない方向に持っていくあたり、さすがであった。
「……それで? なにがあった?」
一人怒りながらお茶を淹れ直しているセツを横目に見、花緑青かロワメールに問いかける。
「花ちゃんには敵わないなー」
「じゃろう?」
ロワメールが緑の目に誤魔化すことを諦めれば、花緑青はふふんと笑った。
この少年魔主には、ロワメールの魂胆などお見通しである。
「実はさ……」
先月の裏切り者の魔法使いの捕縛、その裏で暗躍していた黒い男、そして先日の、黒の王配下の魔者によるソウワ湖襲撃――ロワメールは、かいつまんで説明した。
「……セツが、魔者に負けるとは思ってない。でも、守りは多いに越したことはない」
口にするのは憚られたけれど、裏切り者の件も黒城の件も、ロワメールは魔主が裏で糸を引いているのではないかと危惧している。
セツの力は魔主と同等、ということは、魔主相手ならば万が一もありえるのだ。
だからこそ、ロワメールはセツに花緑青の『刻印』をつけたがった。
「なるほどの……。よう話してくれた。その話、わしもしかと心に留め置こう」
「なんの話だ?」
そこに、盆を片手にセツが戻ってくる。お茶を淹れ直している間に、機嫌は直ったようだ。
さっきとは違うお茶の匂いを嗅ぐところ、わざわざ違う茶葉にしたらしい。
「最近あったことを話してただけだよ。色々あったでしょ」
「色々あったなぁ」
この二ヶ月は驚くほどに目まぐるしい日々だった。
しかし、そのセツと過ごす特別な日々は、もうすぐ終わる。
ロワメールは一人キヨウに戻り、また王子として政務に追われることとなるだろう。
自身の言葉に現実を突きつけられ、ロワメールの心は一気に沈み込んだ。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
❖ お知らせ ❖
読んでくださり、ありがとうございます!
3ー67 一緒にいたい は2/26(水)の夜、21時頃に投稿を予定しています。
第四話の都合上、定期的投稿ができることを優先し、ここから一週間に一度の投稿とさせていただきます。
申し訳ありませんm(_ _)m
※第四話の始まりまで、まだ微調整が入る可能性がございます。その時はまた、きちんとお知らせさせていただきます。
「なんじゃ」
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「俺にお前の印がついてるってどういうことか、きっちり説明してもらおうか」
やや目つきの悪いアイスブルーの瞳が、危険な色を帯びる。知らぬ間に、魔族に所有の印を入れられていたセツには、怒る権利があるはずだった。
「なんじゃ、今更。というか、ようやく気が付いたのか?」
「お、ま、え、はぁー!!!」
しかし花緑青は悪びれないどころか、逆にふてぶてしく聞き返してきた。
「今すぐ消せ!」
「嫌じゃ」
「消せ!!」
掴みかからんばかりの剣幕に、ロワメールが宥めにかかる。
「ま、まあ、セツ、落ち着いて」
「これが落ち着いていられるか!」
セツからしたらもっともであった。
「花ちゃん、そもそもそんな印、いつつけたの?」
「セツがまだ小さい時じゃ。かわゆうてかわゆうて」
「じゃ、三百年くらい前?」
うむ、と花緑青が頷く。
「三百年気付かなんだくせに、なにを今頃言うておる」
ぐむむ、とセツが反論できずにいるところに、花緑青はたたみかけた。
「そもそも、その印が付いていて、なにか不都合があるのか? この三百年、なにもなかったじゃろう?」
「不都合とか、そういう問題じゃない!」
「その印は、わしのものだという印。なればこそ、そなたには利益しかない。不利益は一切ないのに、消せとは不可解極まりないのお」
「利益?」
花緑青はわざとらしく首を振るが、なんのことか、セツには皆目見当がつかない。
「左様。その印があれば、我が眷族、同胞はそなたを襲わぬ」
「いや、そんなわけあるか! 俺は何度も魔獣を退治してるぞ!」
「その獣は、本当にそなたを襲うたか?」
「………」
そう言われれば、セツは強くは言い返せない。つ、と目を逸らした。
「いや、飛びかかってくる前に倒してるから……」
「そなたも大概物騒よな」
「しょうがないだろ! 人が襲われてるのに、悠長にしてられるか!」
白い目で見られ、セツが反論する。
第三者であるロワメールは、セツより遥かに冷静だった。
「セツが魔獣や魔者に負けるとは思わないけど、襲われないに越したことはないんじゃない?」
名付け親が大事なロワメールにとって、その効果は無視できない。
しかも、花緑青はしれっと付け加える。
「他島の王もじゃ」
その一言には、ロワメールも二色の瞳を見開いた。
ならばそれは、対魔族の万能護符ではないか!
「花ちゃんの印があれば、魔主も手を出せないの?」
「無論じゃ。人のものに手を出すのは礼儀知らずであろう。それに、わしにケンカを売る命知らずがいるとも思えん」
花緑青の口ぶりからするに、強制力はないのだろう。だが、牽制はできると言ったところか。
「俺がいつ、お前のものになった?」
低い恫喝は、セツが本気で怒っている証拠だが、ロワメールも花緑青も取り合わなかった。この場にいるのがこの二人以外だったら話は違ったが、花緑青がセツの機嫌に構うわけもなく、ロワメールにはセツの安全が第一だった。
「セツが嫌なのは、所有の印って言葉だからでしょう? その単語は、一旦ちょっと忘れようよ」
ロワメールが花緑青の味方につく。
魔主除けにもなる最強のお守りを手放すなんて、以ての外だった。
「その印の本質はさ、大切だから守りたいってことなんじゃないかな?」
「そうじゃ、そうじゃ」
「だから、うーんと、加護の印? とかならどう? それならそんなに嫌じゃないでしょう?」
「……なんでマスターが、魔主の加護なんか」
はあ、と特大の溜め息を吐きながらも、ロワメールには大甘なセツが強く言えずに黙り込む。
その勝機を、花緑青は見逃さなかった。
「ロワメールは若いだけあって、思考が柔軟じゃの。それに比べてセツときたら」
「なっ……! 俺だってまだ若いわ!」
「例え体は若かろうが、そのガッチガチの石頭に、若人の臨機応変さはないではないか」
「そんなことあるか! 俺は心身共に二十代だ!」
「ならばロワメールのように柔軟に、わしの加護を受ければよかろう?」
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完全に言い負け、セツが不貞腐れてしまった。
花ちゃん上手いなー、と感心しながら、ロワメールは頭の片隅にメモするのを忘れない。
(セツにはこの手が有効、っと)
さり気なく問題の主軸をズラし、しかもセツが無視できない方向に持っていくあたり、さすがであった。
「……それで? なにがあった?」
一人怒りながらお茶を淹れ直しているセツを横目に見、花緑青かロワメールに問いかける。
「花ちゃんには敵わないなー」
「じゃろう?」
ロワメールが緑の目に誤魔化すことを諦めれば、花緑青はふふんと笑った。
この少年魔主には、ロワメールの魂胆などお見通しである。
「実はさ……」
先月の裏切り者の魔法使いの捕縛、その裏で暗躍していた黒い男、そして先日の、黒の王配下の魔者によるソウワ湖襲撃――ロワメールは、かいつまんで説明した。
「……セツが、魔者に負けるとは思ってない。でも、守りは多いに越したことはない」
口にするのは憚られたけれど、裏切り者の件も黒城の件も、ロワメールは魔主が裏で糸を引いているのではないかと危惧している。
セツの力は魔主と同等、ということは、魔主相手ならば万が一もありえるのだ。
だからこそ、ロワメールはセツに花緑青の『刻印』をつけたがった。
「なるほどの……。よう話してくれた。その話、わしもしかと心に留め置こう」
「なんの話だ?」
そこに、盆を片手にセツが戻ってくる。お茶を淹れ直している間に、機嫌は直ったようだ。
さっきとは違うお茶の匂いを嗅ぐところ、わざわざ違う茶葉にしたらしい。
「最近あったことを話してただけだよ。色々あったでしょ」
「色々あったなぁ」
この二ヶ月は驚くほどに目まぐるしい日々だった。
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ロワメールは一人キヨウに戻り、また王子として政務に追われることとなるだろう。
自身の言葉に現実を突きつけられ、ロワメールの心は一気に沈み込んだ。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
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