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フェールの花-価値のない王子は完璧な王に愛される-
第6章・価値 42 王と王位継承者
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「何をぼうっとしんだよ!」
静まり返った城内に、突然セラスの怒鳴り声が響いた。高さがあるせいか、ひどく反響している。
「おい、しっかりしろ!」
静かなイメージがあっただけに、何度も声を荒げているのは異常事態であるのがわかる。声がする方に向かい、壁を曲がったところで足を止めた。
ずっと上に続く螺旋階段が見え、四人が階段の下にいる。けれど一人は床に倒れ、深々と剣が刺さっている。
会ったことがある。間違いなくフェールの王だ。
目的を達せしたはずのクリースを、なぜかセラスが庇っている。斬られたのか、右腕から血が流れているのが見える。
「呪われた子が王殺しとは! 私の邪魔ばかりして!」
ふくよかな腹を揺らしながら、ポーリスが滅茶苦茶に剣を振り回す。動かなくなってしまっているクリースを庇って、セラスが刃を受け止めている。
クリースが負けるはずがないことはわかっていたが、なぜ刺した剣を抜かなかったのかがわからない。身を守るものがない状態で、ただ何もせずに立ち尽くしているのは危険だ。
セラスがクリースを押しているのが見えるが、よろっと一歩下がっただけで意味がない。すぐに走り寄り、振り回すポーリスの刃をはじく。
反動に耐えられなかったのか、ポーリスの体が傾きよろめくのが見える。
「おまえは……アラガスタの! なぜここに!」
「答える必要はない」
さっと剣を振ると、受け止めることができなかったポーリスが悲痛な声をあげる。もし答えてやったとしても、ポーリスにはもう意味がないだろう。
倒れたまま、いまだに何か暴言を吐こうとしているようだが音になっていない。後はもう、ゆっくりと動かなくなっていくだけだ。
ポーリスから目を放して、フェールの王に近づく。上を見たまま、すでにこと切れている。
綺麗に心臓を刺した剣には、迷いがなかったのがわかる。
「そのままにしてください」
王に刺さった剣を抜こうとすると、ぼうっとしていたクリースに止められる。特別に作られた剣だとわかるだけに、意図を理解した。
剣が残ることで、クリースが王を殺したとわかるようにするためなのだろう。クリースはもう二度とフェールに戻ることはしないと決めているのだろう。
もしくはポーリスに抵抗しなかったところを見ると、全てを終わりにしたかったのかもしれない。
「成したいことを成したのに、なぜ浮かない顔をする」
本当は気持ちがわかる気がする。叔父の命を奪った時、自分がなすべきことだと信じていたのに虚無感に支配された。
例え必要なことだったとしても、誰かの命を奪いたい者などいないはずだ。
「終わった……という実感が湧かないせいかもしれません」
落ちついていて大人に見えても、まだ十五歳であることは変わらない。目標がある間は前だけ見て走れるが、何もなくなってしまうと道を見失う。
「しばらくアラガスタでゆっくりするのはどうだ? 歓迎しよう」
「……ありがとうございます」
急に迷子の子供のように見えて、ずっと気を張りつめながら生きてきたのだとわかる。自分にはスリアやネイト、キール、リンクスもいる。
頼れる相手がクリースにいないことが、本当に残念だと思う。
「コール様、私は正しかったと思いますか?」
答えのでない質問だ。同じように悩んだが、わかったのは結局答えはでないということだった。
自分がしたことの結果は、自分で折り合いをつけるしかない。
「愚問だな。オレも叔父上の命を奪ったことを、死ぬまで考え続けるだろう」
あまり考えすぎなければいいと、頭を撫でてやる。色は違うが、クライスと同じ柔らかい髪だ。
珍しく驚いた顔を見せたクリースが、瞳を閉じて息を吐く。再び目を開けた時には、無駄な力が抜けている。
クライスと同じでとても強いのがわかる。
「もう、大丈夫です」
しっかりと瞳を合わせた後、クリースが頷く。もう心配はいらないのがわかる。
「そっちは大丈夫か?」
「はい、ありがとうございます」
セラスの腕の血は止まらず、落ちた滴を床石が吸って赤黒くなっている。主人を主人と思わない物言いをしていると思ったが、クリースを庇ったことで二人の関係性がどういうものか決まった気がする。
両親を殺した者の親族を守るということは、少なくともクリースの敵にはなっていない。同じように、クライスのことを恨んだりはしていないだろう。
「腰紐を寄こせ。縛ってやる」
早くクライスを探したいが、放っておくわけにもいかない。後でクライスに悲しい顔をされるのは困る。
自分が泣かせるのはいいが、他人にクライスが泣かされると思うと不愉快でしょうがない。
「いいえ、大丈夫なのでクライスを……」
「セラスのことは私がします。兄のことをお願いします」
自らの腰紐をクリースが解くのを見て、任せて大丈夫だと確信して階段に足をかける。クライスはすでにフェールの王と会ってしまっただろうか。
上にいるであろうクライスの状態が心配で仕方なかった。
静まり返った城内に、突然セラスの怒鳴り声が響いた。高さがあるせいか、ひどく反響している。
「おい、しっかりしろ!」
静かなイメージがあっただけに、何度も声を荒げているのは異常事態であるのがわかる。声がする方に向かい、壁を曲がったところで足を止めた。
ずっと上に続く螺旋階段が見え、四人が階段の下にいる。けれど一人は床に倒れ、深々と剣が刺さっている。
会ったことがある。間違いなくフェールの王だ。
目的を達せしたはずのクリースを、なぜかセラスが庇っている。斬られたのか、右腕から血が流れているのが見える。
「呪われた子が王殺しとは! 私の邪魔ばかりして!」
ふくよかな腹を揺らしながら、ポーリスが滅茶苦茶に剣を振り回す。動かなくなってしまっているクリースを庇って、セラスが刃を受け止めている。
クリースが負けるはずがないことはわかっていたが、なぜ刺した剣を抜かなかったのかがわからない。身を守るものがない状態で、ただ何もせずに立ち尽くしているのは危険だ。
セラスがクリースを押しているのが見えるが、よろっと一歩下がっただけで意味がない。すぐに走り寄り、振り回すポーリスの刃をはじく。
反動に耐えられなかったのか、ポーリスの体が傾きよろめくのが見える。
「おまえは……アラガスタの! なぜここに!」
「答える必要はない」
さっと剣を振ると、受け止めることができなかったポーリスが悲痛な声をあげる。もし答えてやったとしても、ポーリスにはもう意味がないだろう。
倒れたまま、いまだに何か暴言を吐こうとしているようだが音になっていない。後はもう、ゆっくりと動かなくなっていくだけだ。
ポーリスから目を放して、フェールの王に近づく。上を見たまま、すでにこと切れている。
綺麗に心臓を刺した剣には、迷いがなかったのがわかる。
「そのままにしてください」
王に刺さった剣を抜こうとすると、ぼうっとしていたクリースに止められる。特別に作られた剣だとわかるだけに、意図を理解した。
剣が残ることで、クリースが王を殺したとわかるようにするためなのだろう。クリースはもう二度とフェールに戻ることはしないと決めているのだろう。
もしくはポーリスに抵抗しなかったところを見ると、全てを終わりにしたかったのかもしれない。
「成したいことを成したのに、なぜ浮かない顔をする」
本当は気持ちがわかる気がする。叔父の命を奪った時、自分がなすべきことだと信じていたのに虚無感に支配された。
例え必要なことだったとしても、誰かの命を奪いたい者などいないはずだ。
「終わった……という実感が湧かないせいかもしれません」
落ちついていて大人に見えても、まだ十五歳であることは変わらない。目標がある間は前だけ見て走れるが、何もなくなってしまうと道を見失う。
「しばらくアラガスタでゆっくりするのはどうだ? 歓迎しよう」
「……ありがとうございます」
急に迷子の子供のように見えて、ずっと気を張りつめながら生きてきたのだとわかる。自分にはスリアやネイト、キール、リンクスもいる。
頼れる相手がクリースにいないことが、本当に残念だと思う。
「コール様、私は正しかったと思いますか?」
答えのでない質問だ。同じように悩んだが、わかったのは結局答えはでないということだった。
自分がしたことの結果は、自分で折り合いをつけるしかない。
「愚問だな。オレも叔父上の命を奪ったことを、死ぬまで考え続けるだろう」
あまり考えすぎなければいいと、頭を撫でてやる。色は違うが、クライスと同じ柔らかい髪だ。
珍しく驚いた顔を見せたクリースが、瞳を閉じて息を吐く。再び目を開けた時には、無駄な力が抜けている。
クライスと同じでとても強いのがわかる。
「もう、大丈夫です」
しっかりと瞳を合わせた後、クリースが頷く。もう心配はいらないのがわかる。
「そっちは大丈夫か?」
「はい、ありがとうございます」
セラスの腕の血は止まらず、落ちた滴を床石が吸って赤黒くなっている。主人を主人と思わない物言いをしていると思ったが、クリースを庇ったことで二人の関係性がどういうものか決まった気がする。
両親を殺した者の親族を守るということは、少なくともクリースの敵にはなっていない。同じように、クライスのことを恨んだりはしていないだろう。
「腰紐を寄こせ。縛ってやる」
早くクライスを探したいが、放っておくわけにもいかない。後でクライスに悲しい顔をされるのは困る。
自分が泣かせるのはいいが、他人にクライスが泣かされると思うと不愉快でしょうがない。
「いいえ、大丈夫なのでクライスを……」
「セラスのことは私がします。兄のことをお願いします」
自らの腰紐をクリースが解くのを見て、任せて大丈夫だと確信して階段に足をかける。クライスはすでにフェールの王と会ってしまっただろうか。
上にいるであろうクライスの状態が心配で仕方なかった。
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