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フェールの花-価値のない王子は完璧な王に愛される-
最終章・夜明け前 45 想い
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迎えに来てくれたのに、なぜかクリースとセラスと一緒になったら距離を取られた気がした。クリースのことを面白いと言っていたから、もう自分には興味がなくなったのかもしれないと思い始める。
クリースに頼まれたから一緒に来ただけで、迎えに来てれたわけではないのかもしれない。部屋で汚いからと言ったのに、口付けをくれた。
同じ気持ちになったんじゃないかと期待してしまったのに、コールとは会話がないままアラガスタの城まで戻ってきてしまった。もしかすると、おかしくなってしまった王の話を聞いたせいなのだろうか。
息子であった自分でさえ理解できず、嫌悪感を抱いた。いや、嫌悪感なんて言葉だけでは片づけられない。
だからコールの中で、もう価値がなくなってしまったのかもしれない。そもそも最初から何も価値がなかったのだから……。
「オレは好きじゃないから放っておけと思うけど、伝えたいことがあるなら言える時にちゃんと言ってこい」
去って行くコールの背をじっと見ていると、セラスに言われた。けれど足が動かない。
どうせ鈍い足で追っても追いつかない。なぜか全てのことに対して疑心暗鬼になってしまっている。
動けないでいると、強く背を押される。
「んっ……!」
びっくりして慌てて杖を持つ手に力を入れる。完全に油断していたことに気づく。
フェールにいた頃は、どんな時でも右足に体重をかけるようにしていた。でも今は何も考えず、無意識に足と杖、両方に均一に力を置いている。
「おい、クリース!」
咎めるようなセラスの声が聞こえたが、何だか目が覚めたような感覚がある。ここはフェールじゃない。
たった一ヵ月いただけなのに、ここにいれば安心できると体が覚えていたらしい。こんなにも気を抜いていい場所いなっている。
間違いなくコールの影響だ。
「ちゃんと話してこい。オレはもう兄さんから何も奪いたくない」
王位継承権のことを言っているのだろうか。けれど奪ったのはクリースではなく王だ。
「話してくる……けど、僕はクリースから何も奪われたことはないよ」
「……追い付かなくなる。早く行け」
ぶっきらぼうというか、本当に自分のことを兄だと思っていないのかもしれない。兄さんと呼ぶのに、態度は全く兄に対するものとは思えない。
「また後で話そう」
微妙な顔をされたが、頷くまで待っていると渋々小さく頷いてくれる。
「行ってくる」
走ることはできないけれど、できる限り必死に足を動かす。知っている道だ。
ネイトが言うには、塔への最短ルート。城壁をくぐり抜けて、コールの姿を探す。
背が見えてほっとしたのに、距離が広がっていくのがわかる。急がないとと思うのに、いつも左足に裏切られる。
「コー、ル様……」
無理に足を動かそうとするせいか、息が上がってしまって大きな声が出ない。あの角を曲がってしまったら、もう見えなくなってしまう。
城壁に囲まれて周りは見えず、衛兵がいるはずなのに姿も見えない。コールが見えなくなったら本当に一人になってしまう気がする。
足のことを気にする余裕がなくなってくる。
「……って、待ってくださっ!」
大きく視界が崩れるのがわかる。地面に体がぶつかって、痛みがだんだんと強くなっていく。
何とか上半身を起こすけれど、我慢できない怒りが湧いてくる。生まれつきならまだ我慢できたのに、実の父に潰された足のせいで全てが上手くいかない気がした。
堪えられずに左手で拳を作って、左腿を強く叩く。何のためにいろいろなことを諦めたのか。
生まれつき足が悪いのだから、外に出てはいけないと父は何度も言った。城から出てはいけない。
無様な姿を貴族に見せたらいけない。だからクライスの記憶にあるフェールは、自室とセラスと行くラルゴ平野、そして内緒で本当に稀に出かけた王都フェデルの町並みだけだ。
自分のことを心配してくれているのだからと、素直に聞いていたのが本当に馬鹿みたいだ。さらに叩こうとした拳を大きな手で包まれる。
「自分を傷つけるな」
低く落ち着いたコールの声は、いつもすっと体に溶け込むように入ってくる。杖を握らされたけれど、じっとコールを見てしまう。
あんなに自分が嫌がっていたくせに、今はコールの手が欲しい。まるで欲しいものが手に入らなくてぐずっている子供みたいだと思う。
でもコールは何もしてくれない。当たり前だと思う。
差し出してくれた手や、見せてくれた優しさを素直に受け取らないで嫌がっていたのはクライスだ。いつまでも同じものが与えられるなんて思うのは傲慢だ。
「もう僕はいりませんか?」
まるでコールの気持ちを試すようなことばかりしている。もう顔を見るのもつらくなって、下を向く。
コールは何も悪くないのに、問い詰めるような言葉ばかり口にしてしまう自分が嫌になる。ふっと目の前に手を差し出された時、何も考えずに手が伸びていた。
暖かい手に引き上げられて、思わずほっとしたけれど何も解決していない。家族だと思うセラスと一緒にいていいのだと言われて、目の前が真っ暗になる。なぜかセラスが関わると、コールは冷たくなる気がする。
「僕は……好きだと言いました」
伝えた状況が悪かったのはわかるけれど、気持ちがちゃんと伝わっていないのは悲しい。
「その答えならば、手に入れたいと先に言ったはずだ」
胸がぎゅっとなる感覚がする。けれど不安な気持ちは全然消えなくて、無駄な質問を重ねてしまう。
意味のない言葉を吐く口が、コールに塞がれる。柔らかな舌が入り込んでくるのを感じて、素直に口を開いていた。
促されるまま一生懸命に答えると、褒めるように舌がゆっくりと擦り合わされる。痺れるような感覚が腰に走って、体から力が抜けてしまう。
「ふぅ……っぁ……」
コールの腕に支えられているのを感じる。服の下に入り込んできたコールの手によって、肌が刺激されて体が熱くなってくるのがわかる。
このまま身を任せてしまいたいと思ってはっとする。場所がどこか思い出して、慌ててコールを止める。
なぜかコールの口元が緩んでいるのがわかる。何だかとても恥ずかしくなってきて、頬が熱くなる。
ともかくここでするのがダメな理由を言わなければと、また無駄に言葉を続けてしまう。けれど全くわかっていなさそうなコールに、駄々っ子のように言われてムッとする。
反論しようとすると、今度は抱き上げられてしまう。どうしようかと思うが、コールに抱かれるのは心地いいともう体が知ってしまっている。
首に腕を回して素直に体を預ける。
「……コール様はずるいです」
せめてもと思って口にした言葉は、コールの楽しそうな笑い声にかき消された。
クリースに頼まれたから一緒に来ただけで、迎えに来てれたわけではないのかもしれない。部屋で汚いからと言ったのに、口付けをくれた。
同じ気持ちになったんじゃないかと期待してしまったのに、コールとは会話がないままアラガスタの城まで戻ってきてしまった。もしかすると、おかしくなってしまった王の話を聞いたせいなのだろうか。
息子であった自分でさえ理解できず、嫌悪感を抱いた。いや、嫌悪感なんて言葉だけでは片づけられない。
だからコールの中で、もう価値がなくなってしまったのかもしれない。そもそも最初から何も価値がなかったのだから……。
「オレは好きじゃないから放っておけと思うけど、伝えたいことがあるなら言える時にちゃんと言ってこい」
去って行くコールの背をじっと見ていると、セラスに言われた。けれど足が動かない。
どうせ鈍い足で追っても追いつかない。なぜか全てのことに対して疑心暗鬼になってしまっている。
動けないでいると、強く背を押される。
「んっ……!」
びっくりして慌てて杖を持つ手に力を入れる。完全に油断していたことに気づく。
フェールにいた頃は、どんな時でも右足に体重をかけるようにしていた。でも今は何も考えず、無意識に足と杖、両方に均一に力を置いている。
「おい、クリース!」
咎めるようなセラスの声が聞こえたが、何だか目が覚めたような感覚がある。ここはフェールじゃない。
たった一ヵ月いただけなのに、ここにいれば安心できると体が覚えていたらしい。こんなにも気を抜いていい場所いなっている。
間違いなくコールの影響だ。
「ちゃんと話してこい。オレはもう兄さんから何も奪いたくない」
王位継承権のことを言っているのだろうか。けれど奪ったのはクリースではなく王だ。
「話してくる……けど、僕はクリースから何も奪われたことはないよ」
「……追い付かなくなる。早く行け」
ぶっきらぼうというか、本当に自分のことを兄だと思っていないのかもしれない。兄さんと呼ぶのに、態度は全く兄に対するものとは思えない。
「また後で話そう」
微妙な顔をされたが、頷くまで待っていると渋々小さく頷いてくれる。
「行ってくる」
走ることはできないけれど、できる限り必死に足を動かす。知っている道だ。
ネイトが言うには、塔への最短ルート。城壁をくぐり抜けて、コールの姿を探す。
背が見えてほっとしたのに、距離が広がっていくのがわかる。急がないとと思うのに、いつも左足に裏切られる。
「コー、ル様……」
無理に足を動かそうとするせいか、息が上がってしまって大きな声が出ない。あの角を曲がってしまったら、もう見えなくなってしまう。
城壁に囲まれて周りは見えず、衛兵がいるはずなのに姿も見えない。コールが見えなくなったら本当に一人になってしまう気がする。
足のことを気にする余裕がなくなってくる。
「……って、待ってくださっ!」
大きく視界が崩れるのがわかる。地面に体がぶつかって、痛みがだんだんと強くなっていく。
何とか上半身を起こすけれど、我慢できない怒りが湧いてくる。生まれつきならまだ我慢できたのに、実の父に潰された足のせいで全てが上手くいかない気がした。
堪えられずに左手で拳を作って、左腿を強く叩く。何のためにいろいろなことを諦めたのか。
生まれつき足が悪いのだから、外に出てはいけないと父は何度も言った。城から出てはいけない。
無様な姿を貴族に見せたらいけない。だからクライスの記憶にあるフェールは、自室とセラスと行くラルゴ平野、そして内緒で本当に稀に出かけた王都フェデルの町並みだけだ。
自分のことを心配してくれているのだからと、素直に聞いていたのが本当に馬鹿みたいだ。さらに叩こうとした拳を大きな手で包まれる。
「自分を傷つけるな」
低く落ち着いたコールの声は、いつもすっと体に溶け込むように入ってくる。杖を握らされたけれど、じっとコールを見てしまう。
あんなに自分が嫌がっていたくせに、今はコールの手が欲しい。まるで欲しいものが手に入らなくてぐずっている子供みたいだと思う。
でもコールは何もしてくれない。当たり前だと思う。
差し出してくれた手や、見せてくれた優しさを素直に受け取らないで嫌がっていたのはクライスだ。いつまでも同じものが与えられるなんて思うのは傲慢だ。
「もう僕はいりませんか?」
まるでコールの気持ちを試すようなことばかりしている。もう顔を見るのもつらくなって、下を向く。
コールは何も悪くないのに、問い詰めるような言葉ばかり口にしてしまう自分が嫌になる。ふっと目の前に手を差し出された時、何も考えずに手が伸びていた。
暖かい手に引き上げられて、思わずほっとしたけれど何も解決していない。家族だと思うセラスと一緒にいていいのだと言われて、目の前が真っ暗になる。なぜかセラスが関わると、コールは冷たくなる気がする。
「僕は……好きだと言いました」
伝えた状況が悪かったのはわかるけれど、気持ちがちゃんと伝わっていないのは悲しい。
「その答えならば、手に入れたいと先に言ったはずだ」
胸がぎゅっとなる感覚がする。けれど不安な気持ちは全然消えなくて、無駄な質問を重ねてしまう。
意味のない言葉を吐く口が、コールに塞がれる。柔らかな舌が入り込んでくるのを感じて、素直に口を開いていた。
促されるまま一生懸命に答えると、褒めるように舌がゆっくりと擦り合わされる。痺れるような感覚が腰に走って、体から力が抜けてしまう。
「ふぅ……っぁ……」
コールの腕に支えられているのを感じる。服の下に入り込んできたコールの手によって、肌が刺激されて体が熱くなってくるのがわかる。
このまま身を任せてしまいたいと思ってはっとする。場所がどこか思い出して、慌ててコールを止める。
なぜかコールの口元が緩んでいるのがわかる。何だかとても恥ずかしくなってきて、頬が熱くなる。
ともかくここでするのがダメな理由を言わなければと、また無駄に言葉を続けてしまう。けれど全くわかっていなさそうなコールに、駄々っ子のように言われてムッとする。
反論しようとすると、今度は抱き上げられてしまう。どうしようかと思うが、コールに抱かれるのは心地いいともう体が知ってしまっている。
首に腕を回して素直に体を預ける。
「……コール様はずるいです」
せめてもと思って口にした言葉は、コールの楽しそうな笑い声にかき消された。
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