赤き翼の万能屋―万能少女と死霊術師―

文海マヤ

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一章『万能屋と死霊術師』編

第一話「万能屋【赤翼】」-4

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 頭も押さえつけられていた僕は、最初、視界の端に映ったそれが何なのか、認識できなかった。ただ僕を拘束している連中の意識が何か別のものに向けられたことには気づくことができた。

 ざわめく男たち。何だ、と、口にするより早く、それは聞こえた。


「なんだ、良かった。間に合ったみたい」


 それは少女の声に聞こえた。まさか、こんな所に女の子などいるはずもない。聞き間違いだろうか。眉をひそめる僕が、どうにか首を動かそうとして、瞬間、鈍い音が聞こえた。

ふっ、と。頭にかかっていた力が、突然消失した。遅れて衝撃音が続き、次々と体から重さが剥がれ落ちた。僕の両腕を掴んでいる男以外は、僕に触れているものはいない。ここまで来てようやく、僕は振り返ることができた。

 まず見えたのは、大きな二対の翼だった。幼い頃図鑑で見た、どの鳥とも違う真っ白な双翼。ただ、おかしなことに、その持ち主は鳥などではなかった。

 真っ赤なローブに身を包んだ人間。翼はそいつの背中から生えていた。頭から爪先までをすっぽり覆っているので性別も背格好もはっきりとしない。

 そいつは僕らの頭上、二メートルくらいのところにいた。バサバサと羽ばたきながら、僕らを見下ろしている。


「おい、何やってんだ!」黒ずくめのうちの一人が叫んだ。しかし答えは返ってこない。よく見ると、彼らの人数が一人減っていた。さっき聞こえた音から察するに、あのローブの奴がやったのだろうか。

「くそっ……おい、あいつから仕留めるぞ!」


 動き出したのは、男たちのほうが早かった。濁った気合の声とともに、拳を握って駆けていくが、それは相手の体に届くことはなかった。バサッ。大きく空気の動く音がして、翼が閃く。

 交差した二対。その隙間から放たれたのは、激しい突風。同時、あちこちで悲鳴が上がった。向かっていった連中の腕に深く、何かが突き刺さっている。よく見るとそれは羽根だった。元々は真っ白だっただろうそれは、血を吸って半ばほどまで赤く、その色を変えている。

「あんたたち、0点」再び、聞こえる少女の声。今度こそ空耳ではない。確かにその声はあのローブの奴の方から聞こえてきた。
「なんで、飛んでる相手にまっすぐ殴りかかってくるのよ。馬鹿なんじゃないの――」

 と、そこまで言おうとして、言葉は銃声にさえぎられた。放たれた弾は、フードの部分を掠めて、そのままどこかに飛んでいってしまった。見れば、連中の一人が銃を向けていた。銃口から細く煙が立ち上っている。彼が撃ったのだろう。

「うん、それはまあまあ正解ね。空中にいる相手に対して、飛び道具は非常に有効だわ」

 ふわり。撃たれたフードが、ゆっくりと降りて行く。しかしそれより早く、そいつは銃との距離を詰めた。撃鉄を起こす暇も、照準を合わせる暇もない。一瞬で至近まで迫り、一撃。横薙ぎの蹴りが正確に銃を叩き落とした。

「相手が私じゃなかったら、の話だけどね。銃口を見ればどこに来るかわかるし、撃つまでに時間もかかる。まあ、所詮は魔術の一つも使えないアマチュア向けの武器よね」

 そしてアッパーカット気味の拳が顎を打つ。それはたった一撃で、過不足なく意識を刈り取った。男が倒れるまでに、三秒ほど。それを待つことなく、そいつは動いた。

 激しく回転する体。狙いは僕を押さえつけている男。彼は不運にも両手が塞がっていた。だから自分の顔面に飛来した、その鋭い膝をモロに食らうことになった。そして、最後の拘束が外れた僕はようやく、自由の身になった。

 突然投げ出されてぐらついた体を、どうにか立て直す。残っているのは背後で指示を出していたリトラ神父、ただ一人だった。

「で、もうあんたしか残ってないみたいね。抵抗するって言うなら――消し炭にするわよ」

 ローブのそいつは、そこでようやく地面に降り立った。が、意外にも小さい。僕の胸元より少し下くらいの背丈。そいつはすぐにフードを被りなおしたが、僕にはその下の顔がはっきりと見えていた。

 少女。
 僕よりも、たぶん年下。深紅の髪を後ろでひとまとめにしていた。
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