47 / 161
三章『竜の慟哭と壁の町』編
第十一話「壁の街」-1
しおりを挟む
【壁の街】は、大陸の中央近くに位置する、巨大な城塞国家だ。
『呪い』によって迫りくる魔物たちに対抗するため建設された、名前の通り巨大な壁に四方を囲まれた街は、大陸の物流・交通の要衝ともなっている。
と、いうことくらいは、僕も本や風聞で見聞きして知っていた。知っていた、つもりだったのだが――。
「――こりゃ、すごいな」
僕は思わず、感嘆の息を漏らしてしまった。
ここは【壁の街】、中央の大通り。道沿いに並んだ露店や屋台、それに、レンガ造りの建物が軒を連ねている。
あの後、走行不能になった列車を降りた僕たちは、ラティーンの駈る龍種――ドラコの背に乗って、無事に街まで到着することができた。
竜種の乗り心地は――少なくとも、ここ数日で一番快適な遊覧飛行だったということを書き添えておこう。
ともかく、僕たちは街に着き、ドラコを街外れの竜舎に置いて、ラティーンの家を目指すことになったのだ。
僕は、視線をぐるりと見渡す。
広い道幅。そこをいっぱいに満たすように、人々が犇めいているのが印象的だ。【夕暮れの街】も人が多かったが、道も細く、入り組んでいるあの街は、もっと雑多でゴミゴミとしていた。
その点、こちらはどこか祭りや催し物に近いような、健全な賑やかさを感じた。
「ガハハ、そうだろ坊主。おめえさん、都会は初めてかい」
前を歩くラティーンが、豪快に笑いながらそう語りかけてくる。竜種に跨っていたときには気が付かなかったが、彼の体躯は成人男性の倍ほども大きいように思える。
いや、実際には僕と頭二つほどしか変わらないのだろうが、丸太のように太い腕と分厚い胸、全身に余す所なく筋肉が搭載された体を、白銀の甲冑で覆っているため、威圧感が増しているのだろう。
「……ああ、まあ、【昏い――】いや、大陸の端の方の出身でな、こんなに大きな街は、初めて見る」
「そうかそうか、まあ、それもこれから嫌というほど見ることになるだろうよ、何せお前さん、リタの付き人なんだろう?」
僕は視線を、横合いに向ける。半ば人混みに埋もれてしまって、姿は見えづらくなっているものの、ラティーンの直ぐ側をリタは歩いていた。
印象的な赤髪が無ければ、見失っていたかもしれない。そんな矮躯でありながら、彼女の大きな瞳は、僕たちを紛うことなく見据えている。
「……ええ、そうよ。私も色々と、忙しくなってきたから、人手がいるの」
「ガハハ、そうかよ。あのリタが忙しくとはなあ、昔はこーーんなにちっこかったのによ」
指先を丸めるようにして示した彼の腿を小突きながら、「そんなに小さくないわよ!」と抗議する彼女は、まるで久しぶり親戚に会うかのような、柔らかい表情をしていた。
付き合いが長いのだろう。そこは僕の知らない、知る由もない、彼女の過去についての話だ。ただの護衛対象としては、突っ込んで聞くようなことでもないだろう。
「私のことはいいじゃない、それよりも、仕事の話を聞かせて頂戴」
「馬鹿、こんな往来でできるかよ。もうちょい待てっての、まったく」
むくれるリタ。どうやら、自分の話はあまり好みではないらしい。
察した僕は、助け船を出すことにした。
「あ、じゃあ、代わりになんだが、竜種について聞かせてもらえないか? 竜騎士になるのって、確かものすごく難しい資格が必要になるんだよな?」
僕も詳しくは知らない。昔、親父がそんな話をしていたのを聞いたくらいだ。
スペクター家には様々な職業、立場の人間が出入りしていたが、竜種に騎乗できる人間を生で見るのは初めてだ。それに対する、純粋な興味が無いといえば嘘になる。
「よく知ってるな、坊主。竜騎許可証は、この大陸でたった十人しか持ってねえ、貴重な貴重な免許なんだぜ」
「加えて言えば、ラティーンは大陸で初めて竜騎士になった男よ。それまで、竜種は恐ろしい魔物――恐怖の対象でしかなかった」
「……そんな、とんでもない人だったのかよ、あんた」
僕の言葉に、ラティーンは再び豪快に笑う。未だ、その素顔は拝めていないものの、少し酒に焼けたその声色は彼の人柄を表情以上に表しているかのようだ。
「そこまで大したもんじゃねえよ。竜種だろうが馬だろうが、根気よく付き合えば、気持ちがわかるようになる。それに――」
そこで、彼はぴたりと足を止めた。すぐ脇を歩いていたリタが、太腿の辺りにぶつかって悪態を吐く。
「――誰かが、やらなきゃいけなかったからな」
彼は、ゆっくりと振り返ると、僕らの顔を見回した。戸惑う僕、不機嫌そうなリタ、それを順番に見つめてから、さらに続ける。
「……そうだ、お前ら。よけりゃちょっと、こっちについてこい。今回の仕事の話をする前に、見せときてえもんがある」
「見せておきたいもの、って」
「おう、【壁の街】の現状、ってとこか。おら、こっちだぜ」
『呪い』によって迫りくる魔物たちに対抗するため建設された、名前の通り巨大な壁に四方を囲まれた街は、大陸の物流・交通の要衝ともなっている。
と、いうことくらいは、僕も本や風聞で見聞きして知っていた。知っていた、つもりだったのだが――。
「――こりゃ、すごいな」
僕は思わず、感嘆の息を漏らしてしまった。
ここは【壁の街】、中央の大通り。道沿いに並んだ露店や屋台、それに、レンガ造りの建物が軒を連ねている。
あの後、走行不能になった列車を降りた僕たちは、ラティーンの駈る龍種――ドラコの背に乗って、無事に街まで到着することができた。
竜種の乗り心地は――少なくとも、ここ数日で一番快適な遊覧飛行だったということを書き添えておこう。
ともかく、僕たちは街に着き、ドラコを街外れの竜舎に置いて、ラティーンの家を目指すことになったのだ。
僕は、視線をぐるりと見渡す。
広い道幅。そこをいっぱいに満たすように、人々が犇めいているのが印象的だ。【夕暮れの街】も人が多かったが、道も細く、入り組んでいるあの街は、もっと雑多でゴミゴミとしていた。
その点、こちらはどこか祭りや催し物に近いような、健全な賑やかさを感じた。
「ガハハ、そうだろ坊主。おめえさん、都会は初めてかい」
前を歩くラティーンが、豪快に笑いながらそう語りかけてくる。竜種に跨っていたときには気が付かなかったが、彼の体躯は成人男性の倍ほども大きいように思える。
いや、実際には僕と頭二つほどしか変わらないのだろうが、丸太のように太い腕と分厚い胸、全身に余す所なく筋肉が搭載された体を、白銀の甲冑で覆っているため、威圧感が増しているのだろう。
「……ああ、まあ、【昏い――】いや、大陸の端の方の出身でな、こんなに大きな街は、初めて見る」
「そうかそうか、まあ、それもこれから嫌というほど見ることになるだろうよ、何せお前さん、リタの付き人なんだろう?」
僕は視線を、横合いに向ける。半ば人混みに埋もれてしまって、姿は見えづらくなっているものの、ラティーンの直ぐ側をリタは歩いていた。
印象的な赤髪が無ければ、見失っていたかもしれない。そんな矮躯でありながら、彼女の大きな瞳は、僕たちを紛うことなく見据えている。
「……ええ、そうよ。私も色々と、忙しくなってきたから、人手がいるの」
「ガハハ、そうかよ。あのリタが忙しくとはなあ、昔はこーーんなにちっこかったのによ」
指先を丸めるようにして示した彼の腿を小突きながら、「そんなに小さくないわよ!」と抗議する彼女は、まるで久しぶり親戚に会うかのような、柔らかい表情をしていた。
付き合いが長いのだろう。そこは僕の知らない、知る由もない、彼女の過去についての話だ。ただの護衛対象としては、突っ込んで聞くようなことでもないだろう。
「私のことはいいじゃない、それよりも、仕事の話を聞かせて頂戴」
「馬鹿、こんな往来でできるかよ。もうちょい待てっての、まったく」
むくれるリタ。どうやら、自分の話はあまり好みではないらしい。
察した僕は、助け船を出すことにした。
「あ、じゃあ、代わりになんだが、竜種について聞かせてもらえないか? 竜騎士になるのって、確かものすごく難しい資格が必要になるんだよな?」
僕も詳しくは知らない。昔、親父がそんな話をしていたのを聞いたくらいだ。
スペクター家には様々な職業、立場の人間が出入りしていたが、竜種に騎乗できる人間を生で見るのは初めてだ。それに対する、純粋な興味が無いといえば嘘になる。
「よく知ってるな、坊主。竜騎許可証は、この大陸でたった十人しか持ってねえ、貴重な貴重な免許なんだぜ」
「加えて言えば、ラティーンは大陸で初めて竜騎士になった男よ。それまで、竜種は恐ろしい魔物――恐怖の対象でしかなかった」
「……そんな、とんでもない人だったのかよ、あんた」
僕の言葉に、ラティーンは再び豪快に笑う。未だ、その素顔は拝めていないものの、少し酒に焼けたその声色は彼の人柄を表情以上に表しているかのようだ。
「そこまで大したもんじゃねえよ。竜種だろうが馬だろうが、根気よく付き合えば、気持ちがわかるようになる。それに――」
そこで、彼はぴたりと足を止めた。すぐ脇を歩いていたリタが、太腿の辺りにぶつかって悪態を吐く。
「――誰かが、やらなきゃいけなかったからな」
彼は、ゆっくりと振り返ると、僕らの顔を見回した。戸惑う僕、不機嫌そうなリタ、それを順番に見つめてから、さらに続ける。
「……そうだ、お前ら。よけりゃちょっと、こっちについてこい。今回の仕事の話をする前に、見せときてえもんがある」
「見せておきたいもの、って」
「おう、【壁の街】の現状、ってとこか。おら、こっちだぜ」
0
あなたにおすすめの小説
最強の異世界やりすぎ旅行記
萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。
そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。
「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」
バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!?
最強が無双する異世界ファンタジー開幕!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る
ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。
異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。
一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。
娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。
そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。
異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。
娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。
そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。
3人と1匹の冒険が、今始まる。
※小説家になろうでも投稿しています
※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!
よろしくお願いします!
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる