赤き翼の万能屋―万能少女と死霊術師―

文海マヤ

文字の大きさ
72 / 161
四章『死別という病』編

第十七話「襲撃、そして」-2

しおりを挟む
「――ねえ、ドラコ!」

 その声に呼応するようにして。

 辺り一帯を吹き飛ばすほどの壮絶な爪撃が放たれる。もちろん、その狙いは人影とリトラ。自らの主を傷付けた敵を許すまいと、最強種の猛撃が繰り出される。

 景気の悪いリトラの顔が、さらに引きる。間一髪で攻撃を避けた彼は、懐から杖のようなものを取り出すと、それを目前に構えた。


「……竜種か! しかし、竜騎士は倒れたはず……!」

「馬鹿ね、私は万能屋。ラティーンほどじゃなくても、操竜術式の心得はあるわ」


 口にすると同時、足元の地面伝いに励起した紋様が、ドラコに向かって伸びているのが見えた。

 歴戦の使い手であるラティーンと同じく、人竜一体――とまではいかないが、その動きを操ることは造作もないのだろう。
 そして、その戦力は僕たちも身を以て知っている。


「……なるほどな、今、ここで戦うのはリスクが高いか」

「ええ、そうよ。わかったのならお帰りいただける? 私、とっても疲れてるの」


 うっかり、あなたたちを踏み潰してしまいそうなくらいに――。

 そう結んだリタの台詞に、リトラは不敵な笑みを返す。暫しの間睨み合った二人は、やがて鍔迫りが弾けるように、視線を外した。

「――ふむ、私はそれで構わんよ。宿願を果たしたとしても、野蛮な竜種に殺されたのでは敵わんからな」

 すんなりと、リトラは背を向ける。あまりにも呆気なく。その様に、僕も思わず眉を寄せる。逆転を許したこの状況を鑑みてだろうか、それとも何か、他に意図があるのかと訝った僕の思考が、順転するよりもさらに早く。

「――ああ、そうだ。君たちは少しばかり、急いだほうがいい」

 不吉な予感は的中し、彼はピタリと足を止め、上体だけで振り返った。


「急ぐってなんだよ、ケツまくって逃げるのはそっちだ、急いで逃げるのなら、お前こそ急いだほうがいいぜ」

「フフフ……そうではないさ、坊っちゃん。私は逃げるのではなく、機を待つだけのことだ」

「はっ、どうだかな。逆転を許して、内心焦ってるんじゃないのか? 弱ってる僕らを見つけて、チャンスだと思っただろうにな!」

「どうとでも、勝手に取るといい。しかし――そこの竜騎士に時間が無いのは事実だ」


 竜騎士。
 その言葉に、僕は腕の中のラティーンを確認する。酷い出血、苦悶の表情、否、それだけではない。

 彼の傷口、その辺りに何やら黄色みがかった褐色の液体――身近なもので例えるなら、膿に近い――が付着しているのが見えた。

 これは、と三文字を浮かべるまでもなく、僕はその正体に至る。


「まさか――毒か!?」

「御名答、即効性の致死毒だ。すぐに治療をすれば命は助かるだろうが、遅れれば……」


 一瞬で、全身を激情が支配した。

 僕の家族たちだけでなく、【壁の街】ではマキナを襲い、今回はラティーンまで。一体こいつらは、どれだけのものを傷付ければ気が済むのだろうか。

「リ、ト、ラぁぁぁぁぁあッ!!!」

 ラティーンを抱き留めていなければ、恐らく僕は駆け出していただろう。

「――ッ!」

 そして、それは僕だけではなかったようだ。リタが一歩を踏み出す。体の傷にも構わぬ、それは激情に任せた突撃。

 声にならぬ叫びとともに放たれた羽弾は正確にリトラの体を捉える。

 しかし。

「――また会おう、坊っちゃん。そう遠くないうちに、ね」

 細身の人影が、全ての羽弾を叩き落とす。たったの一発も、たったの一撃も、彼には届かない。

 歯噛みする僕らを尻目に、黒いスータンは闇に溶けていく。そうして、瞬く間に彼は姿を消してしまった。

 残されたのは、傷ついた僕たち。交戦の熱も冷めぬまま、ゆっくりと息を整え、彼が消えていった闇を睨み続ける。

「くそっ、リトラ、あいつ、どうして」

 呟くも、答えはない。相容れない敵に答えを求めることほど滑稽なこともないだろう。
 理由はない。あっても、理解できない、彼と自分はそういう存在だとわかっていても、それを抑えることはできない。

「……ひとまずこの場を凌いだことで、よしとしましょう」

 羽を畳んだリタが近付いてくる。らしくない弱気な発言は、消耗の具合を伺わせる。
 屈み込んだ彼女は、ラティーンの傷に手を添えた。鎧を貫通した刺し傷は、決して浅くはない。

「……う、り、リタ……悪い、な……」

 弱々しく漏らす彼の言葉には、普段見せていた豪快さは無い。年相応に――否、それよりもはるかに萎んだ彼の様子は、不安感をこれでもかと煽り立ててくる。

「大丈夫よ、私が手当てするわ。すぐに【壁の街】に戻りましょう――」

 穏やかに口にした彼女は、何事もなかったかのように撤退の準備を始めた。

 その手が、僅かに震えているように見えたのは――気のせいだったのだろうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。 異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。 一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。 娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。 そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。 異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。 娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。 そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。 3人と1匹の冒険が、今始まる。 ※小説家になろうでも投稿しています ※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!  よろしくお願いします!

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

商人でいこう!

八神
ファンタジー
「ようこそ。異世界『バルガルド』へ」

処理中です...