赤き翼の万能屋―万能少女と死霊術師―

文海マヤ

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四章『死別という病』編

第十七話「襲撃、そして」-1

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 リトラ・カンバール。
 思えば彼が父の門下に入ったのは、随分と最近のことだった。

 とはいえ、ゆうに十年以上前の話ではあるのだが、それでも幼少期から訓練を積むことが多い死霊術師にとって、それは十分に最近の出来事なのだ。

「ジェイ、紹介しよう。今日から新しく、うちに入門したカンバールさんだ」

 父にそう紹介されたときに、僕は少なからず驚いていた。最近、街外れの教会に赴任してきたという神父様。それが、門下生として目の前に立っていたからだ。

「よろしく、ジェイくん。確か……先週末の集会を手伝ってもらって以来だったね」

 握手を求めてくる若き日の彼は、柔和な笑みと、人好きのする声色――けれど、目元のクマが酷く、心に何か抱えていることを匂わせるような。

 そんな、どこにでもいる青年だったことを覚えている。

「よし、それでは、邸内を案内しよう。主に、修行場として使うのはこちらの部屋でね……」

 父の後をついて、その場を立ち去ろうとした彼が、振り返るその刹那。首元に揺れる真鍮製のロケットが、鈍く光っていたのを覚えている――。


「――リトラ、神父っ……!」

 心に湧き出してくる憎しみと恐怖、それらを押さえつけて、どうにか絞り出した僕の呼びかけを、彼は余裕の笑みで受け止めた。


「いかにも、私だが……少し違うね、神父の地位はもう辞してしまったから、ただのリトラ・カンバールが正しい」

「そうかよ、それにしちゃ気合の入った服装をしているみたいじゃないか」

 言葉を交わしながら、僕は少しずつ頭を冷やしていく。
 焦っても、恐れても、状況は一つとして好転しない。冷静に思考を回して、現状を把握する。

 僕は霊符を吐き出しきっている。リタの傷も、決して浅いものではない。そして言うまでもなく――ラティーンには、今すぐにでも手当てが必要だ。

 状況は考え得る限りで最悪。それでも、どうにかこの場を乗り切る方策を練らなければならない。


「フフフ、人を弔うのなら、この服装の方が適しているかと思ってね。葬送には礼を払ってしかるべき、君のお父様から教わったことだよ」

「はっ、なんだそりゃ。まだマトモな葬式なんてやってたのか? てっきり、屍者や悪霊作りにお熱なもんだと思ってたぜ」

「ああ、弔う必要があるだろう――およそ、三人ほどね」


 彼がそこまでを口にするのと同じタイミングで、傍らに控えていた人影が動き出す。

 最初に感じたのは、"細長い"だった。恐らく身の丈は、ラティーンと変わらない程になるだろうか。けれど、体つきは細く、最低限の筋骨しか無いようにすら見える。

 人影は、まるで一条の風のように、再び飛来する。尋常ではないその速度は、僕では目で追うことすら叶わない――。

 ――だが、彼女にとっては、止まっているも同然だろう。

「――無視、しないでくれる?」

 鋭い刃での一撃を、鉄の翼が受け止める。自然、鳴り響く金属音。

 衝突の衝撃は凄まじいものの、リタは微動だにしなかった。体格差などものともせず、細身の影を払い除ける。

 勢いよく後方に吹き飛ばされた人影は、地面を擦るようにして滑っていくと、緩慢な調子で立ち上がる。
 その様を目にしたリトラが、おどけるように手を打ち鳴らした。


「やるな、【赤翼】。かなり消耗したものだと思っていたが、まだそこまで動けるか」

「あんたたちみたいな三下なら、いつ来られても一緒よ。何度だって消し炭にしてやるわ」

「強がるのはやめろ。魔力の出力は下がり、全身に打撲と擦過傷。それでは、普段の半分も力は出せるまい」


 リタの顔が、僅かに歪む。
 図星だったのか、仮にそうでなくとも、彼女が万全の態勢でないことは間違いないだろう。その証左として、僅かに翼の位置が下がっている。

 それに、このまま戦えば、仮に勝てたとしてもラティーンが手遅れになる可能性が高い。むしろ重要なのはそちらの方だ。


「……ふうん、じゃあ、あなたたちは今、ここで私たちと戦うっていうのね」

「ああ、勿論だ。まさか屍竜と戦っているとは思わなかったが――この一ヶ月で、今が間違いなく一番弱ったタイミングだ。違うか?」

「そうね、確かに、ここひと月では一番の窮地だわ」


 僕はそこで、違和感を覚える。

 返すリタの口ぶりが、いやに静かだったのだ。動揺を見せたくないというのは、わかる。けれど、そうではない、この場を乗り切るための方策があるかのような、そんな余裕を思わせる。

 同じ違和感を、リトラも抱いたのだろう。気味の悪い態度は黙らせるに限る。彼が手を突き出すと同時、再び細身の人影が動き出す。

「さあ、どうしましょう。どうしたらいいんでしょう――」

 それをひらりと躱しながら、リタは背後に目配せをして――。
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