赤き翼の万能屋―万能少女と死霊術師―

文海マヤ

文字の大きさ
75 / 161
四章『死別という病』編

第十八話「新たな街へ」-2

しおりを挟む
「それでも、何もかもがわからないってわけじゃないわ。少なくとも、戦い方はわかるもの」

 僕は静かに頷いた。あの細身の影は、ナイフを用いて素早い攻撃を仕掛けて来ていた。

 そこに搦め手は存在しない――少なくとも、偽イアンの使った虚を突くような攻撃ではなく、純粋な身体能力によるものに見えた。

「――100%、身体能力だけってわけでもないけどね」

 リタは、何かに気が付いているようだった。実際に刃を交えた彼女の方が、端から見ていた僕よりも解像度は高いだろう。


「まあ、お前のことだ。負けることは無いだろうと思ってるけどさ……」

「勿論よ、というか狙われてるのはあんたなんだから、自分のことだけ考えてなさい」

「はいはい……というか、僕らは良いにしても、マキナとラティーンは大丈夫なのか?」


 僕らは、【壁の街】に二人を残してきていた。
 危篤のラティーンを連れながら、リトラ一派の襲撃をしのぐのは困難である、といった判断からだったが、やはりそこにはリスクも存在する。

 リトラは街の中にもその手を伸ばしていたのだ。
 となれば、二人を人質にしてこちらを強請ってくる――そんな汚い手も、あいつなら取りかねない。

 ドラコは街の中に入れず、今、あの二人を守る戦力は存在しない。これはかなり、危険な状況なのではないだろうか?

 しかし、リタの反応はあっさりとしたものだった。

「そっちは心配いらないわ、マキナは優秀な結界術師だもの。戦うことこそできなくても、あの子が本気になれば、私だって締め出されるかもしれないわ」

 ラティーンが担ぎ込まれた病院、その周囲を囲むように強固な結界を張っているとのことだった。

 彼女は消耗するが、数日は保つだろう――というのが、リタの弁。どうあれ、毒の回りを考えれば残り時間は少ないのだから、可及的速やかに動かなければいけないのは変わらないようだ。

 ならば、僕たちが気にかけるべきは、やはり自分たち自身ということか。


「……そうだな、あんまり人のことも言ってられないか。前回は、この列車に乗っているときに襲われた訳だしな」

「そうね、あれは有翼人だったけど……今襲われたら、流石に私もあんたも相当キツいわよ」

「わかってるさ、今の状況で油断できるほど、呑気じゃない」


 相手の出方がわからない以上、できることは備えることだけだ。しかし、互いに傷を負っているこの状況で、四六時中気を張り続けているというのもまた、不可能である。

 故に、どこかで必ず、隙を晒すことにはなってしまう――それが致命的なものでないことを願うばかりだ。

 僕が気合いを入れ直すために一つ伸びを打てば、再び窓枠が鳴き、塗り潰されていた車窓に夜の情景が戻ってきた。
 トンネルを抜けたのだろうか、そう考えていた僕の目に、仄かな明かりが飛び込んでくる。

「……停車駅ね、私たちの目的地は、まだまだ先だけど」

 そう口にするリタの、紙背に隠した言葉を読み取る。

「ああ、わかってる。もしかすると、乗ってくる可能性もあるわけだ……」

 二人で揃って、車内に入ってくる乗客たちに目を向ける。下り線であること、そして、時間帯も相まってか、そこまでの人数はいなかった。

 しかし、油断はできない。その中にリトラの手下が紛れている可能性も、否定することはできないのだから。

 最後の一人までが列車に収まるのを見届けて、僕とリタは息を吐いた。


「ふう、怪しそうな奴は見当たらなかったな。そっちは?」

「私も、特に気になる連中は乗ってこなかったわね……とはいえ、気は抜けないけど」


 変装や、擬態の可能性もある。突然、車内で本性を表す可能性だって、無くはないのだ。

「まあ、そうなったらそうなったで、その時ね。ここはひとまず――」

 ――と、リタがそう口にしようとした、その時だった。

「――なんだよ嬢ちゃん、俺たちに難癖つけようってのか?」

 粗暴な言葉が、僕らの間に割り込んでくる。

 見れば、ボックス席を出たところの廊下。数人の人影が立っているのが見えた。見るからに乱暴そうな風体――明るい色の短髪と、横を刈り上げた長髪の、体格のいい二人組みだ――男たちと、彼らに囲まれるようにして、一人の少女が立ち尽くしていた。

 少女は白いローブに身を包んだ小柄なシルエットで、フードを被っており見えないが、長い髪を後ろに流しているようだ。年の頃は……恐らく、僕らと同じくらいだろうか?


「ご、ごめんなさい……でも、ここは私の席で、予約してて……」

「だからよお、何度も言ってるよなァ?」


 男のうち一人が、少女に顔を寄せるようにして威圧する。見るからに陳腐な脅しではあったが、彼女を萎縮させるには十分なようで、その白い肌がさらに血の気を失った。


「俺たちゃ、足を伸ばして座りてえんだよ、だから、俺らの一般席とお嬢ちゃんのボックス席を交換してくれって話!」

「わ、私も薬の材料を持ち帰らなきゃいけなくて、荷物が多くて、その……」

「あ? 何か言ったかよ?」


 見ていられなかった。
 まったく、こんな絵に描いたようなチンピラが本当にいるというのか。

 ちらりとリタに視線を向ければ、彼女も静かに頷く。どうやら同意見のようだった。慎重に行かなければいけない道行きとは言え、困っている人間を捨て置くことはできない。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。 異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。 一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。 娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。 そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。 異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。 娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。 そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。 3人と1匹の冒険が、今始まる。 ※小説家になろうでも投稿しています ※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!  よろしくお願いします!

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...