赤き翼の万能屋―万能少女と死霊術師―

文海マヤ

文字の大きさ
86 / 161
四章『死別という病』編

第二十話「第一医療棟」-5

しおりを挟む
 ――スペクター家の警備は、そこに代々仕える執事衆によって為されていた。

 その多くが代々、家に仕えてきた信頼できる家系のものであり、全員が親父から死霊術の指南を受けている。

 人数にして数十人。けれど、大陸でも有数の死霊術師集団であり、当主が出向くまでもない仕事には、代理として彼らが向かうこともあった。

 そして、そのトップであったのが目の前にいるダグラスだ。死霊術の腕前は、恐らく、親父とリトラに次ぐ三番手。となれば、それはこの大陸で三番目の使い手ということになる。

 そんな彼らに守られた当家の守りは、盤石と呼べるはずだった――少なくとも、あの日までは。

「……あの日、執事衆の多くが親父を裏切り、リトラの側についた! あれさえなければ、親父も、兄貴も、妹も……っ!」

 ――そう、スペクター家の破滅は、執事衆の裏切りから始まった。

 大陸一の死霊術師、シド・スペクターを倒すべく、リトラは、まず執事たちの買収から始めたようだった。

 金、力、あるいはもっと他のもので、館を取り囲めるだけの人数を懐柔した彼は、逃げ場を失ったスペクター一家を襲撃することにしたのだ。

 そうして、結果は――もう、話すまでもない。

 僕が屋敷に戻ったとき、残っていたのは炎上する館と、家族と使用人たちの遺体。そして、対峙する親父とリトラの姿だけだったのだから。

「……お前たちが裏切らなければ、邸宅に住まう皆が死ぬこともなかった! 僕が、こんな目に遭うことも……!」

 指先に、思わず力が籠もる。
 ウィスプに人を殺せる力はない。

 親父ほどの使い手ならまだしも、僕では彼を怯ませるのがせいぜいだろう。ならば、その隙に組み撃って、頭蓋を砕いてやる。それが駄目なら、首をへし折ったっていい。

 このクソジジイを、ぶち殺せるなら――!

「はい、はい。落ち着け少年、別に私は殺し合いをさせるために、ここに連れてきたわけじゃないぞ」

 僕らの間に、エイヴァが割って入る。

 彼女は右手を僕に向けて突き出して、制そうとしているようだった。感情に任せて飛びかかりたいのを抑えて、僕は彼女を睨みつけた。


「退けよ、エイヴァ。別にお前がどう考えていたかなんて、僕の知ったこっちゃない」

「そうかい、少年。けれど、彼は私の患者だ。危害を加えるのなら、容赦はできないな」


 彼女から僅かに、殺気のようなものを感じた。よく観察してみれば、エイヴァの片手はポケットに差し込まれているのが見えた。

 僕が要求を飲まなければ、毒薬術式を使うつもりなのだろう。


「患者、か。お前は、こいつがスペクター家を滅ぼした連中の片棒を担いでたとしても、同じことを――」

「――言うね。最初に言っただろう、この世の全てが私の患者なのだと。そこには、業も咎も区別などない」


 時間にして、ほんの数秒。僕と彼女は睨み合った。
 先に矛を収めることになったのは、僕の方だ。霊符を懐に仕舞い、構えを解く。


「……卑怯だ。僕じゃ、あんたと相討つこともできやしない、こうなったら、譲らなきゃいけないに決まってる」

「そうだろう、そう思ったから割って入ったんだ。世の中というのは、その程度には不公平なものだよ」

「そいつを信用してるのか? もしかすると、リトラのスパイって可能性もあるんだぜ」

「彼がスパイであるのなら」
 エイヴァは、部屋の中を指し示しながら。
「ここにある、一千の遺体は既に、連中の手に渡っていただろう。ダグラスがここに残り、番人をしているからこそ、この第一医療棟は平穏を保っているのだ」


 彼女は、正しいことを言っているように思えた。
 ダグラスは味方で、彼の助力があってこそ、ここまで彼女らは抵抗することができた。

 リトラに唆された執事衆、その中でも、ダグラスだけは家を裏切らず、正しい心を持ち続けてくれていた――。

「――いや、やっぱり駄目だ」

 僕は、自分の頭に浮かんだ考えを、首を振って振り払った。

「ダグラス、お前がどれだけ正しい行いを積んでいようと、僕はお前を許せない。執事長としての役割を果たせなかった、お前を――」

 僕の言葉を、ダグラスは黙して聞いていた。憤ることも、言い返すこともなく。ただ、年齢相応に肩を萎ませながら、俯くばかりだ。

「……そう、ですな。私はお坊ちゃまに、合わせる顔などありませんでした」

 彼は、そう零すと、よろよろと頼りない足取りでロッキングチェアに戻り、脱力するようにして腰を下ろした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。 異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。 一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。 娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。 そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。 異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。 娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。 そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。 3人と1匹の冒険が、今始まる。 ※小説家になろうでも投稿しています ※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!  よろしくお願いします!

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

商人でいこう!

八神
ファンタジー
「ようこそ。異世界『バルガルド』へ」

処理中です...