赤き翼の万能屋―万能少女と死霊術師―

文海マヤ

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四章『死別という病』編

第二十三話「Dance of the Necromancers」-2

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 回避には、ほんの半秒足りなかった。衝撃と、全身を打ち付けるような痛みが、僕を容赦なく襲う。 

「ふ、ふふふふふ、ふふ、ぼ、ぼぼ、ぼっちゃ、ま……」

 そんな僕を見て、エミリーは不気味に笑っている。虚ろに見開かれた目も相まって、まるで呪いの人形のようだ。

 彼女の腕が空を切れば、それに従うようにして、二体の戦士が交差する。まるで戦場に舞う指揮者のように、魔弾が、斬撃が、痛痒が、衝撃が。

 やはり、というか、彼女の死霊術――特に、リッチを扱う部分に関しては、疑うべくもない。まさか自分自身まで、リッチに変えて、エイヴァの毒を克服してしまうとは。

 自身を屍者に変える死霊術など、そう簡単なものではない。何か、副作用のようなものがあるのではないかと、そう、睨んでいるのだが――。

「……ん、待てよ? お前今、なんて言った?」

 僕は再び、不気味に揺れるエミリーを注視した。
 彼女はさっき、僕のことを『坊ちゃま』と呼んだ。
 というか、初めて現れたときからずっと、彼女はそう口にしている。

 つまり、彼女の中身には、どこから引っ張ってきたとも知れぬ悪霊ではなく、彼女自身の魂が入っているのだろう。

 ……ほんの数十分前まで、生きていた彼女の魂が?

「……ちょっと待て、それは、おかしいだろ……!?」

 違和感が、全身の血管を拡げていく。血が巡り、脳味噌が回り始める音がした。

 リッチを作るのには、かなりの時間が必要だ。それは、魔術師の体は抵抗力が強く、その身に悪霊の魂を封じ込め、馴染ませるのに時間がかかるから。

 つまり。
 本人の魂を用いれば、その辺りは省略できるのだ。

 しかし、生きた人間の魂を、そのままリッチの作成に用いることはできない。活きのいい魂は、死体に馴染みづらいのだ。

 ならば、この場合考えられる可能性は二つ。一つは、リトラが彼女を殺害し、その魂を利用してリッチを作ったということ。

 そして、もう一つは――。

「……っ! おい、エイヴァ!」

 僕は倒れているエイヴァに声をかける。彼女は治療の痛みに歯を食いしばりながら、僕の方に顔を向ける。


「なんだ少年、悪いが、私はまだ――」

「わかってる! けど、一瞬だけでいい。あいつらに隙を作ってくれ!」


 先程、傷ついた状況でも、彼女は毒薬術式を使えていた。

 なら、まだ真っ向からの戦闘は不可能だったとしても、エミリーの気を逸らすくらいは可能なのではないかと、そう、考えたのだ。

「何か、策があるのか? あいつを打ち倒すための」

 僕はそれに、力強く頷いた。

 頭の中に描けた画は、完成度で言えば五割にも満たないだろう。それでも、このまま真っ向勝負を続けていれば、僕が勝てる確率は限りなくゼロパーセントのままだ。

 ならば、やれることはなんでもやるしかない。そんな、泥臭い覚悟でしかなかった。

「仕方あるまい、一度だけだぞ」

 エイヴァは手探りで小瓶を取り出すと、それを敵に向かって投擲した。背中の傷のせいで遠投はできなかったのか、反射的に回避を試みた大剣使いの、手前数メートルのところに着地した。

 当たらなければ、大した脅威にはならないと判断したのだろう。大剣使いは、割れた瓶すらも厭わぬ様子で、そのままこちらに突っ込んできて――。

「……そこだ!」エイヴァが鋭く叫ぶ。

 それと同時に、彼の足下に広がった毒が、波打つようにして蠢き始める。
 何か、と警戒するよりも早く、毒液は無数の針状に変化した。

 普通の人間であれば、それなりに有効だろうが、毒が大した効果を発揮しない屍者にとっては、いいところが目潰しかそこらだ。

 しかし、それで十分。僕はロザリオを手に、思い切り地面を蹴った。
 加速する体。そのまま、大剣使いの脇をすり抜けた僕は、さらにもう一歩を踏み込む。

 僕の狙いは、勿論エミリー本体。
 難しいことは考えず、とにかく真っ直ぐ、彼女に向かっていく。

「――いけない、魔弾が来るぞ、少年!」

 エイヴァの声が響くのと、魔法陣が光を放つのはほとんど同時だった。
 それを合図に僕は立ち止まる。ただそれたけで、一歩先の地面に弾丸は突き刺さった。

「正確すぎるんだよ、お前の射撃は!」

 そして、武器がスリングショットである以上、連発はできない。再装填の時間があれば、僕の手は届きうる。

 虚ろなエミリーの目が、ぎょろりと見開かれる。杖も無くし、二体のリッチを突破された彼女に、抵抗する手段は無い。

 今だ、と体を思い切り前方に倒す。彼女の腰元を目がけて、全霊のタックル。いくら手練の死霊術師であれ、その体格は一般的な女性と変わらない。

 ならば、物を言うのは筋力だ。胴を目がけて突っ込んだ僕の肩は、確かにエミリーを吹き飛ばした。

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