赤き翼の万能屋―万能少女と死霊術師―

文海マヤ

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四章『死別という病』編

第二十三話「Dance of the Necromancers」-3

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 受け身も取れず、彼女は地面を転がる。後方に控えた魔弾の射手が受け止めるまで、おおよそ数メートル。その間に僕も、バックステップで後退する。

 エミリーが立ち上がるまで、おおよそ数十秒はかかるだろう。その間は、リッチも動くことができない。この隙に、僕は体勢を立て直す。

「……おい、少年、今のは」
 エイヴァが厳しい顔で眉を寄せる。

「ああ、結構上手く行ったな。ぶっちゃけ、魔弾を避けられるかは賭けだったけどさ」

 得意気な声が混ざったのは、僕の計画通りにことが進んでいるからだったが、一方でエイヴァの表面は曇ったままだ。

「そうじゃない、あの程度の体当たりでは。死霊術師は倒せないだろう。あれだけのリスクを冒して、君は――」

 何しかったのか、か。言いたいことはわかるぜ、確かに、攻撃としてはいまひとつだろう。僕には格闘の心得もない。これで致命傷を与えることは難しい。

 しかし、僕が狙ったのは――別の部分だ。

「掴んだぜ、エイヴァ」
 僕は、手にした確信を口にした。


「掴んだ? 君は、何を言っている……?」

「いや、気になってたんだよ。どうしてあいつが、あんなに早くリッチになることができたのか。そして、あいつを操る者は、一体どこにいるのか」


 屍者である以上、術者が存在する。誰かが彼女を作り上げ、誰かが彼女を操っているはずだ。
 その正体が、ずっと気になっていたが――。


「――あいつ、死体なんかじゃないんだよ」


 僕は、手のひらに視線を落としつつ、そう呟いた。

 先程、タックルをした時の感覚。心拍、体温、何もかもがエミリーの体には残っていた。
 つまり、彼女は自分の魂を死霊術で操り、生きた体を動かしているのだ。

「できるのか、そんなことが?」

 驚きを声色に浮かべる彼女に、僕は曖昧に首を振った。

「いや、わからない。でも、あいつから死霊術の形跡を追おうとしても追えないから、術者はあいつで間違いない」

 大陸一の死霊術師集団、スペクター家。

 そこに属する執事衆の中でも、最もリッチの扱いに長けている彼女であれば、あるいは、そんな離れ業でもやってのけるのかもしれない。

「そんなの、絶対にどこかで無理が出るはずだ。生きている魂を、死者の霊魂と同じ術で縛るんだから、どこかに綻びが生まれる……っ!」

 その言葉を裏付けるように、霊視で覗いた彼女の魂はひどく揺らいでいた。あれでは術も長持ちしない、いくばくもしないうちに彼女は再び、動けなくなるだろう。

 それに、術の対価として何を持っていかれるかもわかったものではない。それだけの危険な賭けをしてでも、彼女は僕たちの前に立ち塞がったのだ。


「……それで、彼女の魂が揺らいでいれば、どうにかなる算段があるのかい?」

「いや、ない。自分の魂でもなければ、生者の魂を操ることなんて、僕たちには」

「それじゃあ、結局、打つ手は……」

「魂そのものは無理でも、リッチとしてのあいつなら話は別だ」


 僕はエミリーの杖を指し示す。そこに刻まれているのは、【骸使い】謹製の術式たち。つまり、そのどれもがリッチを操るのに最適化された死霊術だ。

 だから――その中にはあるはずなのだ。作り出したリッチの主導権を握るための術式が。

「こいつを使って、エミリーの主導権をあいつ自身から奪う。これしか、今の僕には思い付かない……!」

 作戦を口にし終える頃、ようやくエミリーが立ち上がった。

 彼女は顔色一つ変えず、再び手を閃かせる。それに従い突っ込んでくる大剣使いの一撃は、脅威的だ。

 しかし、単調。横に飛んで、しゃがんで、時には前に距離を詰めて、僕は自分でも驚くほど軽やかに攻撃を躱していく。

 こんなに動けたのか、と考えている暇もない。回避後の死んだ体勢を、魔弾が虎視眈々と狙っている。

 しかし、射撃武器であるのなら、その射線を切ってしまえばいい。僕は大剣使いに密着するようにして、杖に力を込めた。

 今のエミリーに、リッチを細かく操ることは出来ない。ならば、この超至近距離にいる僕を上手く捌くこともできないはずだ……!

「いくぞ、術式詠唱略――『我に従え、輩よホロウ・ホロウズ』っ!」

 杖に、僕の魂の力が満ちていく。魔力の光とは違う、眩い光。

 それが、目の前にいる大剣のリッチを包んだかと思えば――元の持ち主、エミリーの魂との綱引きが始まる。 

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