赤き翼の万能屋―万能少女と死霊術師―

文海マヤ

文字の大きさ
122 / 161
終章『赤き翼』編

第二十八話「突破口」-1

しおりを挟む
 【夕暮れの街】に戻ってからの時間は、どう過ごすべきなのか。

 僕は列車に揺られている間に、その使い道を決めていた。というよりも、決めなければ動きようがなかったというのが正しいが。

 何しろ、リタの力抜きで【愛奴】やリトラを倒さなければならないのだ。とにかく、その方策を見つけなければ、僕に未来はない。

 なので、【イットウ】にリタとオレリアを送り届けた僕は、その足で万能屋のギルドを訪れることにした。

 大陸でも最大の勢力を誇る、万能屋ギルド【憐憫鳥】。千人以上の所属人数を誇るここであれば、【赤翼】ほどではないにしても、戦力になる万能屋、あるいは、戦闘屋が見つかるのではないかと考えたのだ。

 家から持ち出してこられた資産は、リタを雇うのと、宿泊費等で底をついていたが、その辺りは、とりあえずここを凌いでからどうにかしようと、そんな楽観も引き連れて向かうことにした。

 【憐憫鳥】の集会所は、【イットウ】を出て通りを抜けた先、出店や大道芸人の集まる広場の奥にある。

 石造りの大きな建物は、【病の街】で見た混凝土の建物と比べても、遜色ない。むしろ、豪奢な装飾や調度品が用意されているせいで、より立派にすら見える。

 そんな集会所に足を踏み入れれば、あちこちのテーブルで万能屋と依頼人が話しているのが見える。これは期待できるぞ、と、ひとまず僕は、依頼の貼り出されている掲示板に向かって――。

「……なんだ、こりゃ」

 思わず、凍りついた。
 掲示板いっぱいに貼り出されているのは――僕の名前だったのだ。

『スペクター家壊滅の手がかりを握っている可能性があります。心当たりがある方は、受付まで。 ―スペクター門下 リトラ・カンバール―』

 やられた、と思った。

 僕の思考など、完全に読み切られていたのだ。リタが動けなくなった今、次の助っ人を探しに来る可能性は、決して低くないと見積もったのだろう。

 そして、それは見事に正解。僕は何も知らず、ノコノコと現れたわけだ。

 僕は顔を隠し、どうにか露見する前に集会所を後にすることができた。無事に【イットウ】まで帰り着くこともできたが、事はそう、単純な話ではない。

「お、おかえり。代わりの護衛は見つかった?」

 昼食の準備をしていたオレリアが、扉の開く音に気が付き、顔を上げる。
 僕は手近な椅子に腰を下ろして、ゆるゆると首を振った。取り繕いたかったが、その気力もない。


「……駄目だ。万能屋ギルドにはもう、手が回っていた。僕の首には、賞金がかかっていたよ」

「なるほど、そいつは、やりづらくなるね」


 ああ、と頷く。これでは、準備を整えるために買い出しに行くのも命懸けだ。

 恐らく、ある程度の規模のギルドには皆、僕のことは知れ渡っているのだろう。ならば、街を歩く万能屋のほとんどが、敵だと考えることもできる。


「……ぶっちゃけ、お手上げだよ。まさか、戦力の拡充どころか、補充すら封じられるなんて」

「それでも、陸の月が終わるまでここに隠れてる気はないわけ? それで、相手方の計画は台無しになるんでしょ?」

「……いや」僕はわざとらしく、眉を寄せた。
「むしろ、そうしたら連中は、手段を選ばずに来るだろう。そうなった時に出る被害の方が、僕は恐ろしい」


 結局、【病の街】の第三医療棟から消えた人々は、見つかっていない。

 それに、【大陵墓】には無数の遺骨も眠っている。それらが全てリトラの手に落ちているのなら、奴はとんでもない大軍勢を率いていると言っても過言ではないだろう。

 その手勢を率いて、ある種無差別に、無感動に、不適当に、草の根を分けてでも僕を探し出そうとする可能性が高い。

「……それに、家族の魂を人質に取られてるからな。僕に、戦わないって選択肢は無いよ」

 親父が敗北した理由がそれであるのなら、リトラは僕にも同じ手を仕掛けてくるつもりなのだろう。手出しをできなくして、僕からロザリオを奪い取るつもりだと考えるのが、一番筋が通る。

「……今、あんたがやらないといけないことをまとめるとすると」

 オレリアは、横合いの棚からグラスをいくつか取り出す。そこに水差しを傾けながら、さらに続けた。

「ひとつめ、まずは【愛奴】の対処。護衛は続けてるだろうから、どうにかしてあいつを退けないことには、物事は前に進まないだろうね」

 いくら不調だったとはいえ、一度はリタも下したほどの実力者だ。
 真っ当に戦ったのでは、勝ち目は無いだろう。どうにか、方策を練る必要がある。


「ふたつめ、家族の魂を人質に取られてるってこと。この辺りは、あんたの専門になるだろけど」

「……そっちも、ぶっちゃけ手詰まりだ。浮遊霊ならいざ知らず、誰かと契約を結んだ霊の主導権を奪うなんて、簡単なことじゃない」


 この辺りは、【病の街】でも話したことがあったかもしれない。

 エミリーと戦った時にはリッチの主導権を奪えたが、むしろあれは、彼女のコンディションがあったからこそできた、特例中の特例だ。

 それに、今回の相手はリトラ――死霊術の腕前だけなら、親父に次ぐ使い手だ。いくら僕が術を使えるようになったと言っても、流石に太刀打ちできる相手ではない。

 しかし、それでも手が無いわけではない。

「――リトラを殺すこと。それが現状、唯一解決できそうな手段だな」

 契約者が死ねば、縛られた魂は解放される。

 僕はぼんやりと、初めてこの【イットウ】でリタと話した時のことを思い返していた。殺しておいたほうがいいと勧める彼女に、僕は臆病とも取れる方針を示したのだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。 異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。 一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。 娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。 そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。 異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。 娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。 そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。 3人と1匹の冒険が、今始まる。 ※小説家になろうでも投稿しています ※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!  よろしくお願いします!

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

商人でいこう!

八神
ファンタジー
「ようこそ。異世界『バルガルド』へ」

処理中です...