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終章『赤き翼』編
第二十八話「突破口」-1
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【夕暮れの街】に戻ってからの時間は、どう過ごすべきなのか。
僕は列車に揺られている間に、その使い道を決めていた。というよりも、決めなければ動きようがなかったというのが正しいが。
何しろ、リタの力抜きで【愛奴】やリトラを倒さなければならないのだ。とにかく、その方策を見つけなければ、僕に未来はない。
なので、【イットウ】にリタとオレリアを送り届けた僕は、その足で万能屋のギルドを訪れることにした。
大陸でも最大の勢力を誇る、万能屋ギルド【憐憫鳥】。千人以上の所属人数を誇るここであれば、【赤翼】ほどではないにしても、戦力になる万能屋、あるいは、戦闘屋が見つかるのではないかと考えたのだ。
家から持ち出してこられた資産は、リタを雇うのと、宿泊費等で底をついていたが、その辺りは、とりあえずここを凌いでからどうにかしようと、そんな楽観も引き連れて向かうことにした。
【憐憫鳥】の集会所は、【イットウ】を出て通りを抜けた先、出店や大道芸人の集まる広場の奥にある。
石造りの大きな建物は、【病の街】で見た混凝土の建物と比べても、遜色ない。むしろ、豪奢な装飾や調度品が用意されているせいで、より立派にすら見える。
そんな集会所に足を踏み入れれば、あちこちのテーブルで万能屋と依頼人が話しているのが見える。これは期待できるぞ、と、ひとまず僕は、依頼の貼り出されている掲示板に向かって――。
「……なんだ、こりゃ」
思わず、凍りついた。
掲示板いっぱいに貼り出されているのは――僕の名前だったのだ。
『スペクター家壊滅の手がかりを握っている可能性があります。心当たりがある方は、受付まで。 ―スペクター門下 リトラ・カンバール―』
やられた、と思った。
僕の思考など、完全に読み切られていたのだ。リタが動けなくなった今、次の助っ人を探しに来る可能性は、決して低くないと見積もったのだろう。
そして、それは見事に正解。僕は何も知らず、ノコノコと現れたわけだ。
僕は顔を隠し、どうにか露見する前に集会所を後にすることができた。無事に【イットウ】まで帰り着くこともできたが、事はそう、単純な話ではない。
「お、おかえり。代わりの護衛は見つかった?」
昼食の準備をしていたオレリアが、扉の開く音に気が付き、顔を上げる。
僕は手近な椅子に腰を下ろして、ゆるゆると首を振った。取り繕いたかったが、その気力もない。
「……駄目だ。万能屋ギルドにはもう、手が回っていた。僕の首には、賞金がかかっていたよ」
「なるほど、そいつは、やりづらくなるね」
ああ、と頷く。これでは、準備を整えるために買い出しに行くのも命懸けだ。
恐らく、ある程度の規模のギルドには皆、僕のことは知れ渡っているのだろう。ならば、街を歩く万能屋のほとんどが、敵だと考えることもできる。
「……ぶっちゃけ、お手上げだよ。まさか、戦力の拡充どころか、補充すら封じられるなんて」
「それでも、陸の月が終わるまでここに隠れてる気はないわけ? それで、相手方の計画は台無しになるんでしょ?」
「……いや」僕はわざとらしく、眉を寄せた。
「むしろ、そうしたら連中は、手段を選ばずに来るだろう。そうなった時に出る被害の方が、僕は恐ろしい」
結局、【病の街】の第三医療棟から消えた人々は、見つかっていない。
それに、【大陵墓】には無数の遺骨も眠っている。それらが全てリトラの手に落ちているのなら、奴はとんでもない大軍勢を率いていると言っても過言ではないだろう。
その手勢を率いて、ある種無差別に、無感動に、不適当に、草の根を分けてでも僕を探し出そうとする可能性が高い。
「……それに、家族の魂を人質に取られてるからな。僕に、戦わないって選択肢は無いよ」
親父が敗北した理由がそれであるのなら、リトラは僕にも同じ手を仕掛けてくるつもりなのだろう。手出しをできなくして、僕からロザリオを奪い取るつもりだと考えるのが、一番筋が通る。
「……今、あんたがやらないといけないことをまとめるとすると」
オレリアは、横合いの棚からグラスをいくつか取り出す。そこに水差しを傾けながら、さらに続けた。
「ひとつめ、まずは【愛奴】の対処。護衛は続けてるだろうから、どうにかしてあいつを退けないことには、物事は前に進まないだろうね」
いくら不調だったとはいえ、一度はリタも下したほどの実力者だ。
真っ当に戦ったのでは、勝ち目は無いだろう。どうにか、方策を練る必要がある。
「ふたつめ、家族の魂を人質に取られてるってこと。この辺りは、あんたの専門になるだろけど」
「……そっちも、ぶっちゃけ手詰まりだ。浮遊霊ならいざ知らず、誰かと契約を結んだ霊の主導権を奪うなんて、簡単なことじゃない」
この辺りは、【病の街】でも話したことがあったかもしれない。
エミリーと戦った時にはリッチの主導権を奪えたが、むしろあれは、彼女のコンディションがあったからこそできた、特例中の特例だ。
それに、今回の相手はリトラ――死霊術の腕前だけなら、親父に次ぐ使い手だ。いくら僕が術を使えるようになったと言っても、流石に太刀打ちできる相手ではない。
しかし、それでも手が無いわけではない。
「――リトラを殺すこと。それが現状、唯一解決できそうな手段だな」
契約者が死ねば、縛られた魂は解放される。
僕はぼんやりと、初めてこの【イットウ】でリタと話した時のことを思い返していた。殺しておいたほうがいいと勧める彼女に、僕は臆病とも取れる方針を示したのだ。
僕は列車に揺られている間に、その使い道を決めていた。というよりも、決めなければ動きようがなかったというのが正しいが。
何しろ、リタの力抜きで【愛奴】やリトラを倒さなければならないのだ。とにかく、その方策を見つけなければ、僕に未来はない。
なので、【イットウ】にリタとオレリアを送り届けた僕は、その足で万能屋のギルドを訪れることにした。
大陸でも最大の勢力を誇る、万能屋ギルド【憐憫鳥】。千人以上の所属人数を誇るここであれば、【赤翼】ほどではないにしても、戦力になる万能屋、あるいは、戦闘屋が見つかるのではないかと考えたのだ。
家から持ち出してこられた資産は、リタを雇うのと、宿泊費等で底をついていたが、その辺りは、とりあえずここを凌いでからどうにかしようと、そんな楽観も引き連れて向かうことにした。
【憐憫鳥】の集会所は、【イットウ】を出て通りを抜けた先、出店や大道芸人の集まる広場の奥にある。
石造りの大きな建物は、【病の街】で見た混凝土の建物と比べても、遜色ない。むしろ、豪奢な装飾や調度品が用意されているせいで、より立派にすら見える。
そんな集会所に足を踏み入れれば、あちこちのテーブルで万能屋と依頼人が話しているのが見える。これは期待できるぞ、と、ひとまず僕は、依頼の貼り出されている掲示板に向かって――。
「……なんだ、こりゃ」
思わず、凍りついた。
掲示板いっぱいに貼り出されているのは――僕の名前だったのだ。
『スペクター家壊滅の手がかりを握っている可能性があります。心当たりがある方は、受付まで。 ―スペクター門下 リトラ・カンバール―』
やられた、と思った。
僕の思考など、完全に読み切られていたのだ。リタが動けなくなった今、次の助っ人を探しに来る可能性は、決して低くないと見積もったのだろう。
そして、それは見事に正解。僕は何も知らず、ノコノコと現れたわけだ。
僕は顔を隠し、どうにか露見する前に集会所を後にすることができた。無事に【イットウ】まで帰り着くこともできたが、事はそう、単純な話ではない。
「お、おかえり。代わりの護衛は見つかった?」
昼食の準備をしていたオレリアが、扉の開く音に気が付き、顔を上げる。
僕は手近な椅子に腰を下ろして、ゆるゆると首を振った。取り繕いたかったが、その気力もない。
「……駄目だ。万能屋ギルドにはもう、手が回っていた。僕の首には、賞金がかかっていたよ」
「なるほど、そいつは、やりづらくなるね」
ああ、と頷く。これでは、準備を整えるために買い出しに行くのも命懸けだ。
恐らく、ある程度の規模のギルドには皆、僕のことは知れ渡っているのだろう。ならば、街を歩く万能屋のほとんどが、敵だと考えることもできる。
「……ぶっちゃけ、お手上げだよ。まさか、戦力の拡充どころか、補充すら封じられるなんて」
「それでも、陸の月が終わるまでここに隠れてる気はないわけ? それで、相手方の計画は台無しになるんでしょ?」
「……いや」僕はわざとらしく、眉を寄せた。
「むしろ、そうしたら連中は、手段を選ばずに来るだろう。そうなった時に出る被害の方が、僕は恐ろしい」
結局、【病の街】の第三医療棟から消えた人々は、見つかっていない。
それに、【大陵墓】には無数の遺骨も眠っている。それらが全てリトラの手に落ちているのなら、奴はとんでもない大軍勢を率いていると言っても過言ではないだろう。
その手勢を率いて、ある種無差別に、無感動に、不適当に、草の根を分けてでも僕を探し出そうとする可能性が高い。
「……それに、家族の魂を人質に取られてるからな。僕に、戦わないって選択肢は無いよ」
親父が敗北した理由がそれであるのなら、リトラは僕にも同じ手を仕掛けてくるつもりなのだろう。手出しをできなくして、僕からロザリオを奪い取るつもりだと考えるのが、一番筋が通る。
「……今、あんたがやらないといけないことをまとめるとすると」
オレリアは、横合いの棚からグラスをいくつか取り出す。そこに水差しを傾けながら、さらに続けた。
「ひとつめ、まずは【愛奴】の対処。護衛は続けてるだろうから、どうにかしてあいつを退けないことには、物事は前に進まないだろうね」
いくら不調だったとはいえ、一度はリタも下したほどの実力者だ。
真っ当に戦ったのでは、勝ち目は無いだろう。どうにか、方策を練る必要がある。
「ふたつめ、家族の魂を人質に取られてるってこと。この辺りは、あんたの専門になるだろけど」
「……そっちも、ぶっちゃけ手詰まりだ。浮遊霊ならいざ知らず、誰かと契約を結んだ霊の主導権を奪うなんて、簡単なことじゃない」
この辺りは、【病の街】でも話したことがあったかもしれない。
エミリーと戦った時にはリッチの主導権を奪えたが、むしろあれは、彼女のコンディションがあったからこそできた、特例中の特例だ。
それに、今回の相手はリトラ――死霊術の腕前だけなら、親父に次ぐ使い手だ。いくら僕が術を使えるようになったと言っても、流石に太刀打ちできる相手ではない。
しかし、それでも手が無いわけではない。
「――リトラを殺すこと。それが現状、唯一解決できそうな手段だな」
契約者が死ねば、縛られた魂は解放される。
僕はぼんやりと、初めてこの【イットウ】でリタと話した時のことを思い返していた。殺しておいたほうがいいと勧める彼女に、僕は臆病とも取れる方針を示したのだ。
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