赤き翼の万能屋―万能少女と死霊術師―

文海マヤ

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終章『赤き翼』編

第二十七話「過去と朦朧」-4

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「へえ、驚かないんだね。あんたが依頼してた【赤翼】は、本物じゃないって言ってるのに」

「そりゃあ、流石の僕でも気付いてるさ。おかしなことが多すぎる」


 『冒涜戦争』は十年以上前の話だ。その頃に名を馳せたにしては、リタは幼すぎる。

 本人は見た目を誤魔化してる、なんて言ってたが、流石に苦しい言い訳だとは思っていたし、この二週間強の共同生活で一度も、ボロが出ないというのも不自然だ。

 ラティーンや、エイヴァの発言からも、彼女が伝説上の【赤翼】とは別人であるということはわかっていたし、それに――。


「――いや、まあ、とにかくだ。リタはたぶん、伝説上のそれとは違うだけで、【赤翼】ではあるんだろ?」

「そう、正解。リタはあくまでも、初代【赤翼】から名前を引き継いだ二代目なのさ」


 わかりきった問題の答え合わせだった。だからだろうか、オレリアはさらりと、何ということは無いように言ってのけた。

「……答えは聞かずともわかるけど、今、初代はどこに?」

 僕は、そのまま聞き返す。聞かずともわかっているのであれば、聞かなければいいだろうに。
 それでも、ある種の手続きとして、必要なことだった。

「死んだよ」オレリアは、事も無げに。
「もう、何年も前の話になるね。【赤翼】は後進に託して、散っていった」

 そうか、と僕はそれだけを返した。何を言われても、僕はその本物の【赤翼】とやらに興味が沸かないのだ。

 いや、流石に興味がないとまでは言い過ぎか。ないわけではないが、どちらでもいい。だって、僕にとって、最高の万能屋が誰かなんて、言うまでもないのだから。


「……ふふ、やっぱりあんたが、リタに依頼を持ってきてくれてよかったねえ」

「なんだよ、急に。そりゃ、僕だって頼れる相手がいなかったから――」

「違う違う、そうじゃないって。あたしはね、この子のこと、心配してたんだ。【赤翼】を引き継ぐくらい優秀なのに、優秀が故に、友人を作るのが下手だったから」


 強すぎる、というのは毒にもなり得る。
 そういう意味では彼女――リタが適合できるような人間は、今まで現れなかったのだろう。


「でも、あんたはリタと友達になってくれただろ? それだけで、あたしとしちゃ、あんたの生存を願う理由になる」

「……友達、なんかじゃ。僕とリタは、ただの依頼人と万能屋との関係で……」

 これは逃げだった。もう、そんな言葉で括れるような間柄ではないと、自分にもわかっている。

 友達とは違う。恋人とも異なる。かといって、家族でなど、あるはずもない。そんな、僕らの関係は――。

「――じゃあ、仲間。あんたはリタにとって、先代【赤翼】の縁を介さずにできた、初めての仲間なんだよ」

 仲間。
 僕はその響きを、頭の奥底で何度もリフレインさせながら考える。

 その関係は、あと少しで消滅してもらうものなのだ。例え、どれだけ僕とリタが良い関係を築けていようと、それは変わらない。

 僕らは別れを控えている。
 そして、一度離れてしまったため曲線は、もう交わることがないのだろう。

 別れは、悲しいものだ。

 別離の痛みは、時に容易く人を変えてしまう――脳裏に、幼き日に見た好青年の面影を浮かべつつ、僕はぼんやりと、そんなことを思っていた。

 その時に、僕はその痛みに耐えられるのだろうか?
 その時に、リタはどれだけの痛みを感じるのだろうか――?


「まあ、それでも、あたしは止めないよ。止められないしね、あんたが本当に命をかけるつもりだって言うのなら、止めるべきじゃないとも思う」

「……オレリア」

「そもそも、リタが倒れてる今、本人の意思も聞けないわけだし。あんたを引き留めるかどうか、結局、その辺りも、あの子の判断だしね」


 苦笑した。リタと出会ってから、僕はことあるごとに、彼女ならば正しい判断を下してくれるだろうと、思考を止めることがあった。

 それを皮肉られているような、そんな気がしたのだ。

「あんたがもし、生きて帰ってこられたら、その時はまた、うちにご飯を食べに来なさいな。そのくらいは、お忙しいスペクター家の当主様でも、できるでしょ?」

 ああ、と僕は返した。
 叶わないことを半ば受け入れたような、そんな、気のない返事だったと思う。

 車窓から外を眺めれば、空がじわり、熱を帯びていくのが見えた。たった二日ぶりだというのに、その橙色が、どうにも懐かしく思えてしまう。

 沈まぬ太陽は、ここにあるけれど。
 永遠に続くものは、どこにもないのだと。

 それを無力な僕たちに伝えようとするかの如く――列車は、否応なしに進んでいく。後悔の傷を癒す時間も、心痛に備える暇も、くれないままで。

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