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学院編
第七話 生徒会長の初仕事
しおりを挟む僕が生徒会長になると頷いたため、あれよという間に引き継ぎが始まった。といっても、僕がしたのは記録魔法で行事のことが刻まれた薄めのノートと、記憶魔法での行事の流れや日程について、アクシデントの対応といった簡単なものだった。
けど他のみんなはそうじゃなかったみたいで、唸りながら分厚い書類と共に先輩の指導を受けている。ヴィンセントとレイムダルはすでに引き継ぎが終わっているようで、僕にお茶とお菓子を出してくれた。
なにか手伝いはできないものか。
「あのね、レイムダル。僕もアレクセイ達の手伝いをなにかしてあげたいんだけど。できることはある?」
「いいえ、会長はどっしりと構えていてください。この学院の会長はそういうものです。」
「そういう、ものなんだ。」
「でも一つ貴方が行うべき最初の仕事がありますよ。」
「あるの!?教えて!」
「んふ、かわょ。ん゛ん゛!
新たな生徒会長としての挨拶です。休日明けに今年度の生徒会のお披露目を行うので、その際に生徒会長の言葉として貴方に代表していただきますので、そのおつもりで。」
一瞬レイムダルの顔がにまっと緩んだ気がするけど、それ以上に重大な仕事に僕の思考は持っていかれた。
そうだ。ゲームでもアレクセイがゲームの序盤で生徒会長として挨拶をしていた。僕がやらないといけないんだ。緊張で手が震えてきた。
「…うう、なんて言えばいいかな。僕が生徒会長で嫌って思う人いっぱいいるよね。ブーイングされたらどうしよう。」
「そんな人いませんよ。アレクセイを見てそんなことが言えるのは、アレクセイと同じくらいの身分のものか大馬鹿か、ですね。」
ん?そういえば、身分が高すぎない方がいいって会長は言っていたけれど、僕はアレクセイの婚約者だから、今はほぼアレクセイと同じくらいの身分なんじゃないだろうか。それにアレクセイの怖い顔を見て進言できる人、いないんじゃないか?
そう疑問を持ってしまったけれど、頷いた手前、撤回はできそうにない。
そして休みが明けた今日、新生徒会の紹介と意気込みの発表のため、学院の全校生徒が集められた。まずは前生徒会のメンバーが呼ばれて、学院長から謝礼の言葉が送られる。その後にカイウス会長からの会長としての最後の言葉。生徒会室で出逢った時の印象とは打って変わって、涼しげで物静かな雰囲気だった。
割れんばかりの拍手から会長の人望が伺える。そんな人の次代が僕だなんて。俯いていると、太ももに置いていた手に僕よりも大きな手が乗せられる。アレクセイだ。無意識に僕は手に力が入っていたみたいで、元から血色の悪い手が、さらに白くなっていた。
「大丈夫だよ、セイン。あんなに練習したじゃないか。」
そうだ、大丈夫。歩き方もお辞儀の仕方もアレクセイにちゃんと教わった。
生徒会長の宣誓の言葉も練習したし、奉書紙に包んできてる。でも緊張するものはするんだ。だって、セインも僕も、大きな場所で、沢山の人に注目されることなんて経験がなかったんだから。
そして新たな生徒会のメンバーが紹介されて、次々と壇上へと向かっていく。後ろにいたアインズ、ヴィンセント、レイムダルも一番前にいたエルンも、もう壇上で待っている。
そしてアレクセイの名前が呼ばれて立ち上がる。
僕は最後に呼ばれるんだね。アレクセイは先に行くんだろうな。なんだか寂しくて、無意識にアレクセイの制服の袖を握ってしまった。
「ぁ。」
僕の方に振り返るアレクセイ。
少し騒がしくなる周囲。
まずい。やってしまった。
すぐに手を離すが、アレクセイはニコリと笑みを浮かべているだけで、そこから動かない。どうして。
「生徒会長、セイン・ゴースティ」
僕の名前が呼ばれた。
今度は静寂に包まれる。
やっぱり僕じゃなくてアレクセイの方が会長に相応しいのに、婚約者が選ばれてみんな困惑しているんだろうな。
立たずにいる僕にアレクセイが手を差し伸べてくれる。
「何を臆しているんだ。君は私の婚約者なんだ。恐れることはなにもないよ。それに、足の悪い婚約者を置いていく程、私は薄情者ではないよ。さ、行こう。皆が待っている。」
後遺症の残る右側に立ってくれて、杖をつきながら壇上を目指す。手伝ってくれるにはありがたいけれど、近い。腰を抱き、右手を支えるのは、舞踏会みたいだ。だいぶ恥ずかしい。しかも、壇上のみんなの視線も怖い。アレクセイを射殺さんばかりに睨んでいたり、笑顔なのに目が笑っていない。
羞恥に晒されながら、なんとか壇上に到着する。
さあ、第一印象が大事だ。ゲームでは悪役だったから、なるべく好印象になるように笑顔、笑顔…。
「みなさん初めまして、生徒会長になったセイン・ゴースティでしゅ。」
あ。
「あ、噛んだ。」
誰かが、そう言った。
途端に広がる波紋。ざわざわと、「噛んだ?」「噛んだよな。」「だよね。」と言っているのが聞こえる。
後ろにいるアレクセイ達は黙っていてくれているけど、衣擦れの音で動揺している雰囲気はわかる。
ああ、やっぱり僕はダメなんだ。会長みたいな立派な祝辞は読めないし、掴みには失敗するし、僕には生徒会長は務まりはしないんだ。
やっぱりあの時なるって言わなければよかった。
どうしよう、どうしよう。まずは謝らないと。
ダメだ。思考がまとまらない。助けて、お姉ちゃん。
「ぅっ…うう…、ふぅ……。」
だめ、こんな時に泣いちゃだめ。余計悪目立ちする。泣き虫のダメ生徒会長って言われちゃう。僕がだめって思われるのはいいけど、みんなはすごい人達だ。みんなまで馬鹿にされちゃう。それに、僕を会長に推薦してくれたカイウス会長も悪く言われちゃう。泣かない、泣かない。
「んっ…ぅう、ふぇ…。」
ダメだ。焦るほどに涙が止まらない。
「ごめ、ごめんなさい……。ひぅ、ぅう、ごめんなさい。」
僕ができることは、ただひたすらに謝ること。もう練習した宣誓なんて、紙の存在ごと頭からすっぽ抜けた。
目元を擦る布の音と、僕の嗚咽だけが聞こえる。いつの間にか全員黙っていた。五分くらい経っただろうか。やっと気持ちが落ち着いて、生徒達の反応がなくて、恐る恐る目を向ける。
「…ふぇ?」
何故かみんな顔が赤い。前屈みになっている人もいる。あと天を仰いで、両手を合わせている人もいる。なに?なにがおきてるの?僕なにかしたの?
涙も引っ込んで困惑していると、後ろから肩を掴まれる。
「ひゃあっ!」
「大丈夫。私だよ、セイン。」
「っ…アレクセイ。ごめんなさい、僕。」
「セイン、そう自分を卑下しないで。掴みはバッチリだ。後は私に任せて。
…生徒諸君。私はこの度生徒会副会長となったアレクセイ・ヴィ・ルクサンドロスだ。
この度私の婚約者、セイン・ゴースティが生徒会長になった。私の可愛いセインは、私の所為で辛い思いをした。社交会にも出られず、同年代の友もいない。こうした大勢の場では緊張してしまう。
無論、私も未だ多くの人の前では緊張のあまり、セインの笑顔を脳裏で考え落ち着かせている。
我々は生徒会として至らない点が多いだろう。だから、君たちにも手伝ってほしい。学院が良くあるために、君たちが有意義な学生生活を送れるよう。その手伝いを我々にさせてくれ。
セイン、そうだね?」
「う、うん。そうです。あの、至らない僕ですが、どうぞよろしくおねがいします。」
もうほとんどアレクセイの言葉なんだけれど、促されて、うんうんと頷いて、頭を下げる。
そしたら割れんばかりの拍手が会場を包む。
なんとか僕たち生徒会の挨拶を終えることができた。
後に『セイン生徒会長を見守る会』なるファンクラブが発足され、他の生徒会メンバーが一桁の会員になっていることを僕はまだ知らない。
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