氷結の毒華は王弟公爵に囲われる

本編

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　サイナスがクルルフォーン家に入って、明らかに仕事の量もそれに関わる時間も減った。

　ジェフの時にも思ったが、エヴァンス家の使用人を一番上に据えると、先読みに長けているので、至れり尽くせりと言った事になる。

　お茶を頼もうと顔を上げると、お茶を渡される事も有るし、インクは常に有る為、補充する事も無い。資料のいる書類で有ればその資料も揃えられており、不要になれば片付けられている始末だ。

　リラが来るとなると庭師に花を頼み、屋敷に飾り、リラと被らないような菓子を作ったり、エドワルドに花言葉の助言や、エドワルドが取り替えていた元のシーツの回収すらもされている状態だ。

　匂いが残らないように配慮をしている為、ランドールは取り替えたシーツの存在すら気付きもしなかったようだが、サイナスは直ぐに気付いたようだった。

　だからと言って、サイナスは口にも態度にも、何一つ出さなかったが、同行していたのであろうランドールは気不味そうにしていて、サイナスにプロ意識が無さ過ぎだと、冷たく駄目出しを食らっていた程だった。


「エヴァンス家の使用人達は凄いと実感していたが、サイナスは別格だな……。さすが凄腕のエヴァンス家使用人達が認める執事、と言った所か。至れり尽くせり過ぎて、慣れると他の執事では、物足りなくなってしまいそうだ」


　エドワルドは、エヴァンス家の夕食で、サイナスの話題を出す。


「ああ、一応、他の使用人達の立場だけで無く、主人側の立場も体験させられているからね。侍従だけでなく、侍女の仕事も学んでいるし、主人側も奥方が嫁いで来たり、令嬢がいる場合が有るから、男性だけでなく、女性の苦労として、窮屈なドレスで茶会の参加や、通常メイクに掛かる時間等も、女装して体験させられるし、将来赤子を扱う事にもなるだろうからと、産婆の助手や、薬学や医師の真似事まで出来る、エリート中のエリートだからね。その分給料は、新米でも、土地持ち子爵と変わらないか、それより上にもなるだろうけど、その価値は充分有るからね」


　他領の執事からすれば、とんでもない高給取りで、エヴァンス家の執事達が貰う一年分の給料を稼ぐには、一生働いて手に入るかどうかと言った金額である。が、エヴァンス家はそれを平気で支払う資金もあるし、エヴァンス家の執事には、それだけの能力が有ると自負している。

　そして、その言葉にエドワルドも納得出来る程に、エヴァンス家の執事は優秀だったのだ。


「……引き抜き交渉しては駄目かな？」

「サイナスが納得するようなら構わないよ。ただし、エドワルド殿は特例だからね？リラの嫁ぎ先だから、交渉出来る権利は与えるけど、他の王族や、他領には絶対出さないし、絶対渡さないでね。只でさえエヴァンス家の執事になれる人材は少ないのに、他に回してたら、エヴァンス領の損失分が大きくなる。欲しければ自分で育成すれば良いんだ。ウチで出来るんだから、他で出来ない訳は無い。ただし、物になるには数百年は掛かると思うけど、ウチはそうやって人材育成したんだし、他も頑張れば良いんだよ」


　ジーンは笑顔で言い切った。