氷結の毒華は王弟公爵に囲われる

カザハナ

文字の大きさ
658 / 806
後日談

59

しおりを挟む
 アレクシス夫妻が長蛇の列に挨拶へと向かい、暫く経った頃、一組の貴族がエドワルドの用意した特別席の方へと近付いて来る。


「ジルギリス殿、ジーン殿、お久し振りです。挨拶が遅れて申し訳ありません」

「ネイル君、久し振りだね。忙しい時期なのに、態々会いに来てくれて有難う」

「いえ、こちらも一度は挨拶をして置きたかったので、有り難かったです」


 見た目は優男と言っても良い、アシュリーの元婚約者よりも格好良いと言える男性で、過去にそんな突拍子も無い事をしたようには見えないし、学者と言うにはかなり若い。

 アシュリーが内心首を傾げていると、その男性とバッチリと目が合ってしまい、向こうから話し掛けて来た。


「君が噂のジーン殿の花嫁だね?初めまして、私はネイル=グリマードと申します。以後お見知り置きを」

「初めまして、わたくしアシュリー=セイルと申します。こちらこそ、以後お見知り置きをお願い致します」


 アシュリーはネイルと名乗った男性の名前に、何か引っ掛かりを覚えた。

(……?ネイル=グリマード、ネイル=グリマード……?どこかで見た、よ、うな……)

 頭の中で思考を巡らせていると、ふと、エヴァンス家の図書室が思い浮かび、その中に置かれていた本を思い出した。


「『肥沃な土壌で無くても育つ食物』と言う題の本を、エヴァンス家の図書室で見た事が有ります。その著者が、ネイル=グリマードと言う方でした。わたくし、ゴート領にいた時にこの本と出会っていたならば、その食物となる植物を取り寄せて、試してみたかったと思った事が有ります。ゴート領は植物の育ちが悪い土地でしたので、もう少し収穫量が増えれば、領民達も豊かになるのにと、歴代ゴート家の血を継ぐ当主が気に掛けていた事なのです」


 エヴァンス家の図書室でその本を見付けた時、アシュリーは故郷に思いを馳せはしたが、もうあの地に戻れない事は、アシュリー自身が充分理解していた。

 アシュリーはもう、ゴート家の娘では無い。

 あの地に役立つ本を見付けたとしても、どうしようもない事だった。

 だから、手に取りはしたが、本を開く事は出来ずにそのまま元の場所に戻したのだ。

(まさか、あの時の本の著者に会えるだなんて……)

 アシュリーは心の中で自嘲した時、ジーンがアシュリーに優しげな笑顔で伝える。


「だからこそ彼が適任だと思い、ゴート領だった領地の後任領主を彼にして欲しいと陛下に頼んだんだよ。彼は侯爵の次男だけど、植物の品種改良や土壌改良に力を入れていて、数々の功績を残してるから、伯爵位を授与される事になっているけれど、領地がまだ未定状態だったから、丁度良いなと思っていたんだ。彼も肥沃な土地よりも痩せた土地の方が研究のし甲斐が有ると言っていたし、彼となら元々交流が有るから、彼の領地に遊びに行く事も出来るしね。それに、継承する事や、住む事は出来ないけれど、アーシュにとっての故郷である事に変わりは無いし、そんな大切な場所を、どうでもいい相手に任せる事は出来ない。何より、アーシュの憂いを少しでも取り除くのは、他の誰でも無い、私の役目だと思っているからね」


 ジーンの言葉が、アシュリーの心に強く響く。


「っっ!!……ジーン様っ!」


 アシュリーは泣きそうになるのを必死で堪えながら、ジーンに選ばれて良かったと、心の奥底から思ったのだった。
しおりを挟む
感想 2,443

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

処理中です...