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後日談
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ヘンリーは父親に、エヴァンス侯爵子息の嫁に嫁いだアシュリーが、こちらに来る事を教え、更には今日の会談に関しては、釘をさしていた。
「私達が謝罪をしに行くから、絶対に母上を来させないで下さいね。エヴァンス侯爵子息が面会を許可したのは、爵位を継いだ私達夫婦のみです。もし母上がエヴァンス侯爵子息夫人と会えば、マディソンの事を助けろだの何だのと言うに決まってます。これ以上家の恥を晒さないように、父上は母上を部屋に閉じ込めた上で、きちんと見張っていて下さい」
そんな事を言ってウォール邸を出たヘンリーの耳に『母親が来ている』と言われたら、普段あまり表情を出さない貴族でも、苦虫を噛み潰したような顔にもなるだろう。
「……何をやっているんだ?父上は……」
思わず父親に対して、恨み言を口にするのも仕方の無い事だ。
因みにそんな父親は今頃、閉じ込めていた筈の妻と、ウォール家所有の馬車が姿を消している事に漸く気付き、顔を青ざめさせていたりする。
「大変申し訳有りませんが、大至急ウォール邸に居る前当主に連絡を入れて、迎えに来させたいので、少々時間を頂けないでしょうか?勿論、母の理不尽な要求は、無視して下さって結構です。弟が罪人になった事がショックで病んだ憐れな病人なので、病人の戯言と聞き流して頂けると有り難いのですが」
ヘンリーは母親を咄嗟に精神異常の病人に仕立て上げたが、代々国の中枢を担う事でも有名な上位貴族に、田舎の領地経営に四苦八苦するような辺境の貴族が楯突こうとしてる時点で、頭がイカれているのではないかと疑われても仕方が無いだろう。
「ああ、それはさぞ大変でしょうね。連絡はこちらの方で……と言いたい所ですが、ここはネイルの邸だから、連絡はネイルに任せましょう。ただ、前伯爵夫人は私の妻に会わせろと押し掛けて来ているそうだから、騒がれたままでは迷惑になるし、話ぐらいは聞こうと思います。ネイル、夫人をこの部屋に連れてきてくれないか?」
「その方が良いだろうな。勿論夫人との話し合いには私も立ち会わせて貰う」
ネイルは対応待ちの執事に前ウォール伯爵夫人をここに連れて来るように言い、ジーンはアシュリーに声を掛ける。
「私が対応するから、アーシュは席を外していても構わないよ?」
「いいえ、わたくしもこちらに居ますわ。元はと言えばゴート家とウォール家の問題なのに、ジーン様に丸投げするのは間違っていますもの」
決意を秘めた瞳でジーンを見返すアシュリーに、ジーンは優しい笑みを浮かべる。
「私としては、丸投げされても構わないのだけどね。まぁ、何を言って来ようが、相手は病人なのだから、耳を貸さなくても良いよ。アーシュは被害者だし、悪いのはあんな息子に育てた親にも責任が有るから。謝罪に来ただけなら赦せるけど、そうでは無いのなら、早目にお帰り頂こう」
ジーンの笑顔での有無を言わせぬ威圧に、ヘンリーは格の違いを見せ付けられたような気になった。
「私達が謝罪をしに行くから、絶対に母上を来させないで下さいね。エヴァンス侯爵子息が面会を許可したのは、爵位を継いだ私達夫婦のみです。もし母上がエヴァンス侯爵子息夫人と会えば、マディソンの事を助けろだの何だのと言うに決まってます。これ以上家の恥を晒さないように、父上は母上を部屋に閉じ込めた上で、きちんと見張っていて下さい」
そんな事を言ってウォール邸を出たヘンリーの耳に『母親が来ている』と言われたら、普段あまり表情を出さない貴族でも、苦虫を噛み潰したような顔にもなるだろう。
「……何をやっているんだ?父上は……」
思わず父親に対して、恨み言を口にするのも仕方の無い事だ。
因みにそんな父親は今頃、閉じ込めていた筈の妻と、ウォール家所有の馬車が姿を消している事に漸く気付き、顔を青ざめさせていたりする。
「大変申し訳有りませんが、大至急ウォール邸に居る前当主に連絡を入れて、迎えに来させたいので、少々時間を頂けないでしょうか?勿論、母の理不尽な要求は、無視して下さって結構です。弟が罪人になった事がショックで病んだ憐れな病人なので、病人の戯言と聞き流して頂けると有り難いのですが」
ヘンリーは母親を咄嗟に精神異常の病人に仕立て上げたが、代々国の中枢を担う事でも有名な上位貴族に、田舎の領地経営に四苦八苦するような辺境の貴族が楯突こうとしてる時点で、頭がイカれているのではないかと疑われても仕方が無いだろう。
「ああ、それはさぞ大変でしょうね。連絡はこちらの方で……と言いたい所ですが、ここはネイルの邸だから、連絡はネイルに任せましょう。ただ、前伯爵夫人は私の妻に会わせろと押し掛けて来ているそうだから、騒がれたままでは迷惑になるし、話ぐらいは聞こうと思います。ネイル、夫人をこの部屋に連れてきてくれないか?」
「その方が良いだろうな。勿論夫人との話し合いには私も立ち会わせて貰う」
ネイルは対応待ちの執事に前ウォール伯爵夫人をここに連れて来るように言い、ジーンはアシュリーに声を掛ける。
「私が対応するから、アーシュは席を外していても構わないよ?」
「いいえ、わたくしもこちらに居ますわ。元はと言えばゴート家とウォール家の問題なのに、ジーン様に丸投げするのは間違っていますもの」
決意を秘めた瞳でジーンを見返すアシュリーに、ジーンは優しい笑みを浮かべる。
「私としては、丸投げされても構わないのだけどね。まぁ、何を言って来ようが、相手は病人なのだから、耳を貸さなくても良いよ。アーシュは被害者だし、悪いのはあんな息子に育てた親にも責任が有るから。謝罪に来ただけなら赦せるけど、そうでは無いのなら、早目にお帰り頂こう」
ジーンの笑顔での有無を言わせぬ威圧に、ヘンリーは格の違いを見せ付けられたような気になった。
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