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Dランド編

3 永い愛

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 都内に入り、茉希が探してくれた鮨屋に向かうと……
「おい、茉希……確かに俺は鮨屋を探してくれって言ったよ?」
「うん、ここだよ?」
「ダメじゃないか、ここのお店のお寿司は回ってないじゃないか」
「へぇ~回ってないお鮨屋さんもあるんだ」
「え~なんかつまんなそう……」
「タケシ達は寿司に何を求めているのさ」
「俺さ回転寿司しか行った事ないんだよ」
「アタシに任せておいて!」
「う~ん、じゃあお願いするよ、茉希はある意味慣れてるんだろうし」
「オッケー!」


 確かに美味しかった、カウンターのお寿司って何もかもが違うんだな……そしてお会計を聞いてヤエと俺の顔面が蒼白になった。
「アナタ、コレは流石にないわよ……美味しかったけど……」
「うん、そうだねちょっと反省してる、美味しかったけどね」
「あ~食べた食べた! 茉希ありがとね! 美味しいお店を探してくれて」
「本当だよね! これでビールが飲めればなぁ、ってダメだけどね」
「取り敢えず今日はもうホテルに帰って休もうか」
「そうね、もう取り返しがつかないしね」
 ヤエに小声で
「大丈夫?」
「今回は予算に余裕があるから、余程のことがない限りは大丈夫」
「そっか」
「それよりもアナタ、私が言うのも変だけどヒエの事お願いね」
「うん、わかってる」
 そしてホテルに着くと、茉希がチェックインをしてくれた。ツインルームにダブルルーム……部屋割りはもちろんだ。
 そしてこのホテル凄い、最上階がフロントで部屋は下の階だった。それもルームキーがないと移動不可。外に出るのも一方通行、出たらまた最上階へ行き部屋に戻らなければならないという、ややこしい仕様だった。そして……明日の打ち合わせをするとそれぞれの部屋へ向かった。

「結構良い部屋ね、健?」
「そうだな、風呂場はと……おお、本当だトイレは別だ」
「去年の旅行で泊まったホテルとは全然違うのね」
「うん」
「私、お風呂入りたい。ちょっと疲れてるの」
「あいよ、そう思って入浴剤持って来たから」
「本当に! 気がきく……って今日はやめようかな、私の本音につきあってね」
「お湯溜めてくるよ」
 ヒエの雰囲気がちょっと変わった、顔つきもいつもと違って見える。
「うん」
 お風呂場でちょっと熱めのお湯を出すと、ヒエの元に戻る。
「テレビでも見るか? すっげユーチューブも見れるんだって!」
「今日はそう言うの良いから……」
「私ね前にも言ったけど」
「知ってるよ」
「本当に好きなんだよ、怖いくらいにね。誰にも渡したくないヤエと茉希にも……嫌な女だよね」
 ヒエの手が俺の手を握ると指を俺の指に絡ませて来る。
「私の事を愛してくれるのはちゃんとわかってる……でもいくら抱かれても不安ってあるのよ」
「だから今日は、私遠慮なんかしない今日と明日の夜は、私だけの健になって……独占させて」
 誘うように指を絡ませ続けるヒエ、部屋には浴槽にお湯が溜まっていく音だけだった。
 静かに時間が流れていく……顔をのぞくとヒエの表情は戸惑っているようにも見える。
「もっと見て本当の私を……」
 ヒエの目は真剣そのものだ、暫く見つめ合う。
「お風呂良いかな、健?」
 浴槽を確認すると、入浴剤を入れてヒエを促す。俺の目の前で服を脱ぎ産まれたままの姿になるヒエ、いつもと違うヒエに押し倒される。
「何処にも行かないでね……」
 何処にもいく事はない事を告げると、安心したように浴室に向かっていった。シャワーの音が聞こえる……音が止まり少し時間が過ぎると。
 入れ替わるように風呂へと向かう。鼓動が早くなっているのが分かる。ヒエ……抑えきれない衝動にかられる、さっき見たヒエの裸体の美しさを見た時から俺はもう。
 部屋に戻るとベッドに腰をかけているヒエが待っていた。
「健……私もうこんなに……」
 ……そこから先は何度も果てる度、ヒエに哀願され続けた。
「私だけを見て……アナタが欲しいアナタさえ居てくれれば、私を……」

「愛して」
 
 まるで俺を何年も待っていたかのように求めてくるヒエが愛おしく。そして、今この時だけ俺にはヒエだけだった。それが通じたのか、満足そうな顔をすると俺の激しい律動をヒエが一番奥深い所まで導く。俺の背に手を回し痛くなるほど抱きしめられると、同時に果てた……
 本当は誰よりも優しいヒエ、強がったり皆んなを揶揄い悪態をつくが全ては裏返しだった。
 誰よりも激しく俺を求めて、果てたヒエの寝息が聞こえる。ヒエの乱れた髪を整えると、目尻に涙が溜まっている。起こさないように優しく拭き取り。
 また明日からは今まで通りかな。俺はヒエを抱きしめて眠りについた。
「おやすみヒエ、愛してるよ」


 電話が鳴っている、画面を見ると茉希からだ。まだ朝六時なのにどうした?
「おはよう茉希、体調悪くなったか?」
「おはよ、全然元気だよ! ヤエは未だ寝てる、それよりも朝食のことなんだけど」
「朝食?」
「このホテル、バイキングじゃないんだよ。それでアタシが予約しておいたんだ八時に」
「手回しいいね、さすが茉希だね」
「それで! 昨夜はお楽しみだったんでしょう? ちゃんと身支度してきてね! 部屋まで迎えにいくから!」
「了解だよ、それじゃ」
「ちゃんと髭は剃ってね!」
 そうして電話を切ると、ヒエが起きて来た。
「なんの電話だったの?」
「朝食の話! それよりヒエ、体大丈夫か?」
「うん、ねぇ……まだ時間あるよね?」
 黙ってヒエを抱きしめた……


 ドアをノックされる、茉希とヤエが迎えに来てくれたらしい。
「ヒエ様朝食だよ! 二人がドアの向こうでお待ちだ」
「行こう! 健!」
 

 エレベーターに乗り込むと。
「どうしたのかしら、お腹がとても空いているの私」
「アタシもだよ」
「完全に安定期をすぎてるからじゃないか? 赤ちゃんのためにも栄養つけないとね」
「ねぇ茉希、朝食はどんなのが出るの?」
「メニューには二つあったけど、もう予約済み!」
「ちなみに?」
「アタシらの体のことも考えて鯛茶漬けのセットにしてみました!」
「へぇ~、ヤエもちょっと気になるんじゃないか?」
「そうね! 昨日、茉希とメニュー見てたらもう」
「美味しいといいな!」

 そしてレストランへと向かうと、すぐに席に案内された。定食はセットだけど飲み物とかはセルフで飲み放題か。
「みんな何が飲みたい? 俺とってくるよ」
「アタシとヤエは取り敢えずオレンジで」
「私は牛乳おねがいね!」
「オッケー」
 三人分のドリンクを持って行くと、もう朝食が来ていた。
「はっや、もう来たの?」
「予約しておいてよかったっしょ!」
「凄い……美味しそう」
「さっさと座ってよ! 皆んなでいただきましょう!」
 凄いな……鯛のお刺身に、出汁をかけて食べるのか……あっヤエの目つきが変わった。
「こんな朝食は特別な時だけだよヤエ?」
「でも何か閃きそうなのよ!」
「そっかそれじゃ期待してるよ!」
 それにしても凄い食欲だな二人とも、ご飯おかわりしてるよ。
「あんまり食べ過ぎるなよ? 結構歩くことになるからさ」
「だったら余計に食べておかないとねっヤエ?」
「そうね、アナタ今日の予定は?」
「取り敢えず食べ終わったら、支度して八丁堀駅に向かうけど」
「どうだ? 頑張れそうか?」

「「もちろん!」」

 二人の元気な返事を聞いて、今日は楽しい一日になりそうな気がして来たのだった。
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