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1巻
1-2
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どうしたんだろう? いつもならわたしが残業してもなにも言わないのに。もっとも、チーフが部下にだけ残業させるなんてことは滅多になく、いつも付き合ってくれている。
「へえ、チーフ、今夜は残れないってことは接待が入ってるんですか? それともデートですか?」
同じ一班の間下くんが興味津々で声をかける。けれど、チーフはそれに「ああ」とニコリともせずに答えて席を立つ。先ほど内線が鳴っていたから部長からの呼び出しかな。
あの言い方では特定できないけど、やっぱりデートかも。いつも厳しいチーフが認める彼女は、きっと仕事ができる素敵な人なんだろうな。隣りに立って歩く姿もお似合いの女性のはずだ。
いつかわたしも誰かと一緒に並んで歩いても、恥ずかしくない女性になりたいな。せめてお礼の食事ぐらい素直に受けられるぐらいに――痩せたいよ。
だけど、とりあえず今は仕事だ。わたしは仕事を頼むため皆川さんの席へ向かった。
「それじゃ皆川さん、悪いけどこの書類の打ち込みを頼んでもいいかな?」
急ぎの仕事はそのまま自分で、その代わりに一班の仕事でも難しくない数字の入力をお願いする。
「やだ、それ一班の仕事でしょ? わたしだってやらなきゃいけない仕事があるから無理です」
その言い方にカチンときてしまった。さっきから仕事なんかしてないくせに! わたしが今からやる仕事は、二班の仕事だ。さっきの黒田くんとの会話もチーフとの話も聞こえていたはずなのに。
「爪を磨いてる暇があればできると思うから」
「ひどいっ! どうしてそんなこと言うんですかっ!」
彼女の声が、急に大きくなる。その声を聞いて二班の男性社員が何人か駆けつけてきた。皆川さんの取り巻き連中ばかり……嫌な予感。
「なに? 細井、おまえゆりちゃんを苛めたのか?」
「え?」
ちょっと待って。
「細井さんがぁ……わたしも仕事があるのに、無理矢理自分の仕事を押しつけてくるんですぅ」
甘えた声……それだけで男性達が自分に味方してくれることを知っているんだ。
「酷いな、細井そのくらい自分でやれよ。おまえ、仕事ぐらいしか取り柄ないだろ?」
「でも、二班の急ぎの仕事を受けてるから、わたしも余裕がなくて……」
「だからと言って、ゆりちゃんに押しつけることないじゃないか!」
いや、チーフ命令で、言われたとおり皆川さんに頼んだだけなのに。
さっきわたしに仕事を振ってきた黒田くんはもういないけれど、わたし達の会話を聞いていた一班の営業は数人残っていた。だけど彼らは、にやにや笑ってこっちを見ているだけ。
あ、ダメだ……また泣きそう。逆らえばもっと酷いこと言われるのは確実だろうな。
「わかりました。自分でやります!」
「わかればいいんだよ。少しぐらい余分に仕事したほうが痩せるよ?」
わめきたいほど腹も立つけれども、これ以上なにか口にすると泣き出しそうだった。だからぐっと堪え、『金輪際、あんた達の急ぎの仕事は受けないから覚悟してよね』と、心の中でだけ悪態をついた。
「細井さん、どうせデートの予定とかないでしょ? だからずーっと仕事してればいいのよ。本城さんや黒田くんだって仕事のことがなきゃ、あなたになんて話しかけたりしないんだから!」
皆川さんはわたしの耳元で、他の人には聞こえないほど小さな声でそう言った。
やめてよ、仕事のことまで引き合いに出さないで。頑張っていれば、いつか皆もわたしのことを認めてくれると思っていたのに。結局は可愛い子の味方なんだ……馬鹿らしい! 悔しい……いつか見返してやりたい!
もしわたしが痩せたら……周りの反応は変わるだろうか?
もし痩せられない時は会社を辞めるくらいの覚悟でやってやろうじゃないのよ!
ダイエット――絶対やってやるんだから!!
その後のわたしは、誰ともしゃべらず仕事に没頭した。その結果、時間内にすべての仕事を終わらせることができたのだった。
『はあ? 痩せなかったら会社辞めんの、チャーコ?』
その日の夜、保育所時代からの親友、風間一子ことイッコに決意のほどを電話で伝えた。彼女とは昔からぽっちゃりさん同士で気が合って、今でもずっと付き合いが続いている。
「いや、だからそのぐらいの覚悟で頑張ろうかと……」
ダイエットをはじめることをイッコに連絡したのは、彼女が健康相談専門のくすりやさんに勤めている健康指導のプロだからだ。なによりも彼女は一昨年、見事にダイエットを成功させているのだ。
『仕事大好きなチャーコがそんなこと言い出すなんて、よっぽどだよね』
「うん、本気だよ。だから助けてほしいの。だってイッコが一番わたしの体質を理解してくれてるでしょ?」
彼女の実施したダイエット方法は、スタイルを良くするというよりも健康のための体質改善。太った原因を考えて、食事や運動、睡眠などの生活習慣を変えていくものらしい。ダイエットは身体に負担をかけるから、不健康なままでは失敗する。まずは体質改善からはじめたほうがいいらしい。実際イッコは体質を変えて体調を崩さないまま、きれいに十キロ近く痩せた。その後リバウンドもなく、以前よりも健康で肌もきれいになっている。
『やる気になったのは嬉しいけど、大丈夫なの? 途中でやめたりしない?』
そんな素晴らしいダイエット方法があると知りながら、なぜやらなかったのか……それは少々お金がかかるからだ。天然の滋養強壮剤や漢方生薬、体質に合わせたサプリメントを使って、ダイエットに耐えられる、元気で痩せやすい身体づくりをする。それらを全部きっちり行うと、月々かなりの金額になってしまうらしい。
イッコが痩せた時、わたしも同じ方法を! と飛びつきかけた。だけどちょうどその頃、兄が結婚し、わたしはひとり暮らしをはじめたばかりだった。今まで実家で気楽に暮らしてきたのに、なにもかも自分でやることになり、金銭的にも精神、体力的にも余裕がなくなってしまったのだ。思えばあのあたりから急激に体重が増えたように思う……実家で毎日食べていたお母さんのご飯はバランスの取れたありがたいものだったんだよね。
「週末の夜にでも時間取れない? 今は決算前で仕事が忙しくて、平日は無理そうなんだ」
『いいわよ、わたしも今週は珍しく日曜に休みをもらえたの。土曜は遅くなっても大丈夫よ』
「それじゃ、『あずまや』に行かない? もしかすると遅くなっちゃうかもしれないから」
『いいよ。コータの店も……久しぶりだし』
少しだけイッコの声のトーンが下がる。『あずまや』というのは、わたし達ふたりの幼馴染、東浩太が親の代からやっている居酒屋だ。コータとわたしは親がいとこ同士だから、はとこにあたるのかな? 身内の店だという気安さがある上に、料理がとても美味しくて居心地がいいので、すっかり行きつけのお店になっている。コータは人懐っこい性格で友達も多いから、結構溜まり場みたいにもなっていた。
「ひとりで大丈夫? 仕事が終わったらすぐに行くけど」
『コータのところだから、ひとりでも大丈夫だよ。カウンターに座ってるし』
大丈夫かな? イッコひとりで。いつもはわたしと一緒じゃないとコータの店には行かないようにしてるのに。子供の頃から引っ込み思案でおとなしかったイッコ。彼女は昔からコータのことが好きだった。でも小学生の頃、告白を拒否されて以来、想いを口にはしていない。ダイエットに成功してきれいになった時も、てっきり告白するもんだと思ってたけど……やっぱりしなかったんだよね。
わかってるんだ。ダイエットしてスタイルがよくなったからと言って、すべてが解決するわけじゃないって。つまりは自己満足にすぎないのだから。それに、スタイルが変わったぐらいで相手の気持ちが変わっても嬉しくないものね。
ただ、自分に自信が持てるようになれば、一歩踏み出す勇気が湧いてくると思う。
仮にもし、わたしみたいなおでぶを好きになってくれる奇特な人がいたとする。大人の付き合いなのだから、関係を続けていけば当然のごとくえっちをすることになるだろう。だけど今のわたしには、たとえ彼氏でも男性に裸を晒すなんてこと、怖くてとてもできやしない。いくら相手がこの体型でいいと言ってくれても、自分が許せない。だから、男の人と付き合おうとは思えないのだ。
でも、もしダイエットに成功して、痩せて自分のカラダに少しでも自信が持てたら……その時は食事したりお付き合いしたり、キスとかその先も大丈夫になるかなって思う。
そのためにも、とりあえずは体重を落とすこと。目標はせめて学生時代の体重……つまり二十キロダイエットだ。
「それでさ、イッコ。今すごくやる気満々で、すぐにでもダイエットをはじめたいんだけど……なにをすればいい? 甘いものや間食もやめるし、できるだけ身体を動かそうとは思ってるけど」
土曜までまだ五日もある。それまでなんて待てないよ。
『うーん、たくさんありすぎて電話で説明するのは難しいよ。食事法や生活習慣で気を付けてほしいことは山ほどあるの。どうして自分は太ってしまったのか、今までダイエットに失敗した原因はなんなのか、まずはそれをちゃんと知っておかないと同じ失敗を繰り返すからね』
「わたしさ、お腹が空きすぎると貧血みたいになって、手が震えてさ……結局我慢できなくて食べちゃうんだよね」
『それってもしかして低血糖症状を起こしているのかもしれないわ。空腹時に起きる貧血みたいなものなんだけど、手が震えたり目眩がしたりするの。食べると血糖値が上がって症状がなくなるから、身体は食べさせようとするの。その症状はちょっとしんどいわよ……長く空腹にならないように気を付けないとね』
「わたしって、そんな体質だったんだ……」
『原因に合わせて食事内容や体質改善の方法を工夫するの。それに、運動もせずに楽に痩せようなんて考えは甘いわよ。覚悟はできてる? 中途半端にやるなら、やめておいたほうがいいと思うわ』
「やるよ……今回は本当に本気だよ。とにかくこのまま痩せられないのなら、会社を辞めるぐらいのつもりなんだ。絶対に痩せるって、決心したんだから!」
生半可な決心じゃ無理だってわかっている。何度も失敗してきたのだから。
『ねえ、そこまでする理由を聞いてもいい?』
「もう嫌なの。好きな人ができても付き合うどころか告白すら……ううん、側にいることさえ恥ずかしくてできないなんて。せめて、隣に並んでも平気になりたい。少しでも自分に自信が持てるようになりたい」
『チャーコはすごくいい子だよ。それはわたしが保証する。だからそこまで自分を卑下しないで』
「今の自分が許せないの……友達といる時の自分は嫌いじゃないし、バレーをしてる時の自分も好きだった。仕事をしてる自分も好きになれた。だけど、おでぶなままじゃ恋はできないの」
『そうね。自分を好きにならないと恋愛なんてできないわよね……でも、痩せても変わらないこともあるわよ?』
「それもわかってる。でも、やるって決めたから。そのために必要なことは全部続けてみせる!」
思わず力んで宣言したけれど、イッコの声が聞こえてこない。もしかして呆れられちゃった?
『わかったわ。それだけ決心が固いなら今がはじめ時ね。きっと、恋愛が一番ダイエットに効くと思うわ。これはわたしの個人的な感想だけど……。わたしも応援するから頑張ってね!』
「ありがとう、イッコ」
『いいのよ、これはわたしの仕事でもあるんだから。本当なら今日からはじめられるよう、指導したいけど、それは土曜にね。それまで無理しないようにやれる?』
「うん、無理しないように頑張る!」
『実を言うと、ダイエットの原理ってすっごく単純で簡単なのよ』
「もう、なに言ってるのよ。ダイエットがそんなに簡単なわけないじゃない」
『ホントよ。だって代謝カロリーよりも摂取カロリーを下げれば、その差の分だけ痩せるんだから』
「あ……なるほど、確かにそうだ。じゃあ、どうして失敗しちゃうの?」
『摂取カロリーを減らし続けると、身体がそれに合わせて燃費を下げる。つまりどんどん代謝が悪くなっていくのよ。そうすると少ない食事でも体重が減らなくなってしまうってわけ。代謝が落ちたままでは痩せにくいから、運動して代謝を上げないとダメなの。あと、急激に体重が減りすぎると身体が危険だと感じて防衛機能が作動して、リバウンドしやすくなるから気を付けてね』
「身に覚えがありすぎて、怖いよ」
『運動すると代謝は上がるけど、普段運動していない人が無理すると疲れてしまうでしょ。そうするとまた身体は食べることで体力を補おうとするから、それも気を付けなきゃだね』
「確かに疲れると食べたくなる……怖いなあ」
『だからうちのくすりやでは、生薬入りの滋養強壮剤を飲みながらのダイエットを推奨しているの。疲れもとれるし血行がよくなって代謝も免疫力も上がるから、食事を減らしてもダイエットの成功率がアップするのよ。わたしもその方法で頑張ったわ』
「確かにイッコはいつも飲んでたよね。それじゃ、お腹が空いてなくても、つい甘いものを食べたくなるのはなぜなの?」
『ストレスが溜まった時、甘いものを食べると気分がよくなるってことを身体が知っているからなのよ。それは中毒に近いもので、我慢し過ぎると反動で過食してしまうの。だから、低カロリーのものでも満足するようにきちんと食べながら、痩せやすい身体を作るのよ』
「食べて……痩せる?」
『そうよ、太りにくい低糖質なものを、しっかり食べるの。我慢するやり方は絶対にダメ。間食してもいいからある程度の満腹感を得られる食事法でやらないと失敗するわ。甘いものも、週に一度ご褒美として食べるのはいいと思うわ。後はゆっくりよく噛んで食べることと、栄養バランスも大切よ』
「間食してもいいの? だったらわたしにもできそう!」
『糖質の取り過ぎはもちろんダメよ。後でダイエットレシピの資料をメールするけど、糖質っていうのは炭水化物も含まれているの。その中で一番マシなのは蕎麦かな? おすすめしないのは、ラーメンとパスタよ。パンとご飯なら、ご飯のほうがお腹の持ちもいいわ』
「ラーメンにパスタにパン、それって好きなものばかりだよ! じゃあ、食べていいのはなんなの?」
『タンパク質は身体を作る成分だから、しっかり取らないといけないわね。タンパク質はお肉や魚以外に大豆や納豆、それから牛乳にチーズからも取れるわ。もちろん野菜やカルシウム、ミネラルも必要よ。チャーコにあった、美味しくて満足できる低カロリーのレシピを探そうね』
そのあたりは、ネットや本などいろんなもので探せそうだ。
『あと寝不足はダイエットの敵だからよく寝ること。それと運動だけど、わたしは苦手だったからジムに通ったの。チャーコは運動得意だから大丈夫だろうけど、毎日できそう?』
「それなんだけど、平日はなかなか時間がとれないんだよね。ジムって高いの?」
『わたしの通ってるジムはそんなに高くはないけど、チャーコの家からだとちょっと遠いよね。移動の時にエレベーターに乗らず階段を使うとか、通勤時に一駅歩くとかだったら毎日できない?』
「わかった、できるだけ歩くのと、その食事療法をやってみるね」
『それじゃ、あとは食べ方だけど……』
イッコの指導はそのまま夜遅くまで続いた……とにかく明日から本気で頑張るんだから!
3 無理は禁物
翌日から決死のダイエット作戦を開始した。
決死っていうのはちょっと大袈裟かもしれないけど、痩せられなかったら会社を辞めるとまでイッコに言ったのだ。そのぐらいのつもりでやらなきゃ意味がないと思う。そんな情熱が空回りしてしまって……早く痩せたい気持ちが抑え切れなかった。少しでも痩せて今の状況から、早く抜け出したかった。
昨夜は、なかなか寝つけなかったので、野菜スープを大量に作ってみた。コンソメ少しと、ベーコンやら玉ねぎなど冷蔵庫に残っていた野菜を色々入れたので結構なボリュームになった。作りすぎた分は冷凍して、朝はそれと常備しているヨーグルトにゆでたまごと野菜サラダ。お昼用としてポットに野菜スープを入れ、お弁当箱にはゆでたまごやハムなど冷蔵庫にある糖質以外のものを詰め込んだ。それから帰りには、キャベツや納豆、鶏の胸肉、白身魚などを買い込んだのだった。そして夜は、具だくさんのお味噌汁にキャベツと玉子だけのお好み焼き風というメニュー。これはイッコのオススメで結構美味しかった。明日のお弁当用には、鶏胸肉の塩麹漬けを仕込んで準備は完璧だ。
お米を食べなくても、工夫次第で結構美味しく食べられる上に、タンパク質は意外とお腹の持ちがいい。
だけど準備に手がかかるため、朝がせわしなかった。早起きしたけど、ウォーキングは行けずじまい。それと腹八分目っていうのはかなり辛い。イッコに言わせると、理想は六分目だそうだけど、そんなの絶対無理! わたしの場合はいままでの暴食でかなり胃が拡張してしまってるから、胃を小さくしなきゃダメらしい。そのため、イッコに教えてもらった食べ方に変えた。
『ゆっくりと噛んで食べることで満腹感が脳にきちんと伝わるのよ。チャーコは早食いでしょ? だから満腹感が伝わるのが遅いの。おかずとご飯は別々に、汁物は最初に呑みきってね』
その通りやってみて驚き! 噛む回数が増えてゆっくり食べられた。少ない食事で満足が得られるのだ。
ダイエットをはじめてみたら、自分が今まで食べてた物のカロリーと栄養素がとんでもないことにも気付いた。ついつい面倒くさくて、昼食は菓子パン三個とか食べていたわたし。でも菓子パンって、一個五〇〇キロカロリー以上あるものが多い。一食で一五〇〇キロカロリーを超えてしまう。それって成人女性の一日の摂取カロリーに近いよね? おまけに炭水化物ばかりで栄養バランスも悪い。
忙しくてつい食べたくなったりしたけど、なんとか我慢して乗り切れた。おかげさまで初日から一キロマイナス。元の体重があるからだろうけど、それでも嬉しくてしょうがなかった。
決算期で仕事が忙しいこともあって、夜にも運動する時間は取れなかった。でもそのぶん階段を使ったり、帰りに少し歩いたりした。
『運動する時には、姿勢とか歩き方とかにも気を付けてね。きれいに立つ時には、無意識に身体の筋肉を使ってるんだって』
イッコのアドバイスに従ってみると、違いは歴然だった。しかも翌朝起きたら、身体のあちこちが痛かった。運動不足だったんだね、わたし。
ダイエット開始二日目。今朝も、出勤時に階段を使ってフロアに向かおうとしていた。わたしの所属する営業部のフロアは十五階だからそこまで上がるのは大変だけど、頑張る!
「もう、甘やかさないんだから」
「なにを甘やかさないんだ?」
「え? あ、チーフ……おはようございます」
うしろから声をかけてきたのは楢澤チーフだった。
「おはよう。歩くのはいいことだが、いきなり無理するなよ」
「は、はい」
確かに、少し無謀だったかもしれない。脚はもうガクガクだ。だけどチーフもここにいるってことは……毎日エレベーターを使わずに上がってたの?
「無理そうだったら、途中からエレベーターを使えばいい。徐々に階数を増やすほうがいいぞ」
そう言ってチーフは、ポンとわたしの頭を叩いて先に階段を上がっていった。
「あ、ありがとうございます」
そっか、毎日少しずつ増やせばいいんだ。もしかして、チーフってこういう運動とか詳しいのかな? 元水泳選手だけあって素敵な筋肉をしていそうだと、引き締まったチーフのうしろ姿に思わず見惚れていた。
結局今日は十階で限界がきて、そこからはエレベーターを使った。
「おはよう、細井さん。あれ、どうして十階から?」
乗り込んだエレベーターには本城さんがいた。もしかして今日は朝からすごくついてるかも!
「おはようございます。階段で上がろうと頑張ったんですけど……今日は十階でギブアップでした」
「そうなんだ、僕も最近運動不足だから、明日から歩いて上ってみようかな?」
「ほ、本城さんも? あの、――」
よかったら一緒に歩きませんか? と言おうとした瞬間。開いたエレベーターの向かいのガラス窓に映った不釣り合いなふたりの姿に、その言葉は引っ込んでしまった。
「ん? どうかした?」
「いえ、なんでもないです……今日もお仕事頑張りましょうね」
にっこり笑ってそう言うと、更衣室へ駆け込んだ。
ダメダメ、まだ一緒になんて口にするのはおこがましいよ。全然変わってないんだから……やっぱりゆっくりなんてやってられないよ、イッコ!
そうして焦った結果……無理をするなというイッコの言いつけを守らず、三食とも主食どころか、脂も肉も抜くという無謀なことをしてしまった。そしたらなんと二日目でまた一キロ、三日目でもう一キロ、トータルで三キロも減っていた。す、すごくない? この調子で続ければ、ひと月以内にマイナス十キロも夢じゃない!? と計算してしまう。
四日目もまた一キロ減っていて、思わず目を疑った。急激に痩せるのはよくないってイッコが言ってたけど、嬉しくてしょうがなかった。だからわたしは失念していたんだ。イッコにあれほど無理しちゃダメだと言われていた理由を。
「よしよし、もっと頑張るぞ!!」
四日目の今日は帰りに三駅分歩いたら、さすがにヘロヘロだった。でも、痩せていくのが嬉しくて、明日からはもっと歩こうと考えていた。
そろそろ我慢するのがきつくなってきたけど、この調子でいけば週末までにマイナス五キロだから、まずはそこまで頑張りたかった。
「ああ、なっちゃった」
五日目の土曜日の朝、トイレでがっくりうなだれる。
数日前から少し浮腫んできていたので、そろそろ生理だなと思っていたら案の定。体重は、水分を我慢していたので五日で五キロ減を達成したけれど……朝は怠くて起きられなかった。お弁当も作れなくて、いっそのことお昼を抜いてしまっても平気な感じだ。わたしの場合、生理前はやたら食べたくなるけど、生理がくると食欲はなくなるほうなのだ。
決算期で多忙のため朝から休日出勤し、わたしも営業部の皆も忙しく走り回っていた。
「細井さん、これやっといてくれる? 急ぎなんだ」
「あ、俺もこれお願い」
「ちょっと、ぼーっとしてないでそこ早くどいてくださいよ!」
ダメだ……今日はちょっとヤバイ……かも。
朝から体調は最悪だった。もともと量が多く、血圧も低いほうだから気を付けなきゃならなかったのに……
決算前で午後になっても仕事は途切れず、お昼もまともに食べられないまま忙しく動いていた。
ああ、だけどさっきから目眩はするし、顔も手足も冷たくなって、冷や汗まで止まらない。でもこの書類は四時までだって村井くんが言ってた。これ、追加の資料もいるかな? 倉庫に取りに行かなきゃ……
「あ――」
立ち上がった途端、天井が回る。目の前は真っ暗で……もしかしてこれって立ちくらみ? ずっと健康体で、朝礼や体育祭でも倒れたりしたことなんかなかった。
――なのに、立っていられなくて身体が床に沈んでいくのがわかる。
「細井さん?」
「千夜子くん!」
男性社員の誰かの声と、それに重なるようにわたしの下の名前を呼ぶ声が間近で聞こえた。
片方の声は、きっとチーフだ。わたしを『千夜子くん』て呼ぶのはあの人だけだから。
でもチーフの席は随分向こうのはずなのに……そんなことを考えていたら、意識はどんどん遠のいていった。
「ん……あっ」
気が付くと、応接室のソファに寝かされていた。頭がくらくらしてまぶたが重い。
「千夜子くん、目が覚めたのか? どうだ、気分は悪くないか?」
「は、はい。大丈夫です」
目を開けると心配そうな楢澤チーフの顔があった。えっと……どうやってここまで?
「あの、わたしを……」
誰が運んでくれたの? と聞こうとした瞬間、思いっきりチーフに怒鳴られた。
「馬鹿野郎っ! なんて無茶するんだ、おまえはっ! 真っ青な顔してぶっ倒れやがって……まさか、無理なダイエットをしてるんじゃないだろうな?」
「い、いえ、そんな無茶したつもりは……ただその、ちょっと……」
「なんだ?」
言っていいのだろうか? 男の人に生理だって。
「あ、アレの日でして……」
そこまで言うとああ、と頷かれてしまった。わかったのかな? やっぱり奥さんがいた人だから、そういうのにも慣れてるのかな?
「ま、まあ女性の身体が周期的に不調になることはわかっているつもりだ。ならば、そんな時ぐらい体調に合わせろ。いくら忙しいからって、無理して倒れては元も子もないだろう」
ようやく口調も元に戻ったチーフは苦い顔をしながら腕を組んだ。
「すみません。あ、あの、今何時ですか?」
「五時過ぎだ」
「ええ? あ、書類! 村井くんが四時までにって……」
「あれは村井の仕事だ。あいつか、本来の担当である皆川にやらせればいい。おまえが無理することはない」
「でも、わたしは仕事ぐらいしか取り柄がないから……」
実はお昼過ぎ頃に、また嫌みを言われたのだ。本城さんに頼まれた書類を急いで作ってたら、村井くんが『オレもオレも』って……彼は二班だけど皆川さんに頼んだら間に合わないと言って、いつもわたしに仕事を回してくる。その時も『細井さんは仕事しか取り柄がないんだからやってよ』と言われた。
「とにかく今日はもう帰って休むんだ。残っている仕事は皆に割り振って終わらせたから大丈夫だ。それと身体がついていかないのなら、ダイエットもやめるべきだ。健康を損なってまでやることじゃないだろう?」
「はい……すみません、ご迷惑をおかけしました」
仕事に支障をきたしたのは、わたしの責任だ。社会人でお給料をもらっているのだから、やってはいけないことだった。だけど……いまさらダイエットはやめられないよ。
「とにかく今日は送っていくから、支度しなさい」
「はい?」
送っていくって、嘘……楢澤チーフがそんなこと言い出すなんて!
「へえ、チーフ、今夜は残れないってことは接待が入ってるんですか? それともデートですか?」
同じ一班の間下くんが興味津々で声をかける。けれど、チーフはそれに「ああ」とニコリともせずに答えて席を立つ。先ほど内線が鳴っていたから部長からの呼び出しかな。
あの言い方では特定できないけど、やっぱりデートかも。いつも厳しいチーフが認める彼女は、きっと仕事ができる素敵な人なんだろうな。隣りに立って歩く姿もお似合いの女性のはずだ。
いつかわたしも誰かと一緒に並んで歩いても、恥ずかしくない女性になりたいな。せめてお礼の食事ぐらい素直に受けられるぐらいに――痩せたいよ。
だけど、とりあえず今は仕事だ。わたしは仕事を頼むため皆川さんの席へ向かった。
「それじゃ皆川さん、悪いけどこの書類の打ち込みを頼んでもいいかな?」
急ぎの仕事はそのまま自分で、その代わりに一班の仕事でも難しくない数字の入力をお願いする。
「やだ、それ一班の仕事でしょ? わたしだってやらなきゃいけない仕事があるから無理です」
その言い方にカチンときてしまった。さっきから仕事なんかしてないくせに! わたしが今からやる仕事は、二班の仕事だ。さっきの黒田くんとの会話もチーフとの話も聞こえていたはずなのに。
「爪を磨いてる暇があればできると思うから」
「ひどいっ! どうしてそんなこと言うんですかっ!」
彼女の声が、急に大きくなる。その声を聞いて二班の男性社員が何人か駆けつけてきた。皆川さんの取り巻き連中ばかり……嫌な予感。
「なに? 細井、おまえゆりちゃんを苛めたのか?」
「え?」
ちょっと待って。
「細井さんがぁ……わたしも仕事があるのに、無理矢理自分の仕事を押しつけてくるんですぅ」
甘えた声……それだけで男性達が自分に味方してくれることを知っているんだ。
「酷いな、細井そのくらい自分でやれよ。おまえ、仕事ぐらいしか取り柄ないだろ?」
「でも、二班の急ぎの仕事を受けてるから、わたしも余裕がなくて……」
「だからと言って、ゆりちゃんに押しつけることないじゃないか!」
いや、チーフ命令で、言われたとおり皆川さんに頼んだだけなのに。
さっきわたしに仕事を振ってきた黒田くんはもういないけれど、わたし達の会話を聞いていた一班の営業は数人残っていた。だけど彼らは、にやにや笑ってこっちを見ているだけ。
あ、ダメだ……また泣きそう。逆らえばもっと酷いこと言われるのは確実だろうな。
「わかりました。自分でやります!」
「わかればいいんだよ。少しぐらい余分に仕事したほうが痩せるよ?」
わめきたいほど腹も立つけれども、これ以上なにか口にすると泣き出しそうだった。だからぐっと堪え、『金輪際、あんた達の急ぎの仕事は受けないから覚悟してよね』と、心の中でだけ悪態をついた。
「細井さん、どうせデートの予定とかないでしょ? だからずーっと仕事してればいいのよ。本城さんや黒田くんだって仕事のことがなきゃ、あなたになんて話しかけたりしないんだから!」
皆川さんはわたしの耳元で、他の人には聞こえないほど小さな声でそう言った。
やめてよ、仕事のことまで引き合いに出さないで。頑張っていれば、いつか皆もわたしのことを認めてくれると思っていたのに。結局は可愛い子の味方なんだ……馬鹿らしい! 悔しい……いつか見返してやりたい!
もしわたしが痩せたら……周りの反応は変わるだろうか?
もし痩せられない時は会社を辞めるくらいの覚悟でやってやろうじゃないのよ!
ダイエット――絶対やってやるんだから!!
その後のわたしは、誰ともしゃべらず仕事に没頭した。その結果、時間内にすべての仕事を終わらせることができたのだった。
『はあ? 痩せなかったら会社辞めんの、チャーコ?』
その日の夜、保育所時代からの親友、風間一子ことイッコに決意のほどを電話で伝えた。彼女とは昔からぽっちゃりさん同士で気が合って、今でもずっと付き合いが続いている。
「いや、だからそのぐらいの覚悟で頑張ろうかと……」
ダイエットをはじめることをイッコに連絡したのは、彼女が健康相談専門のくすりやさんに勤めている健康指導のプロだからだ。なによりも彼女は一昨年、見事にダイエットを成功させているのだ。
『仕事大好きなチャーコがそんなこと言い出すなんて、よっぽどだよね』
「うん、本気だよ。だから助けてほしいの。だってイッコが一番わたしの体質を理解してくれてるでしょ?」
彼女の実施したダイエット方法は、スタイルを良くするというよりも健康のための体質改善。太った原因を考えて、食事や運動、睡眠などの生活習慣を変えていくものらしい。ダイエットは身体に負担をかけるから、不健康なままでは失敗する。まずは体質改善からはじめたほうがいいらしい。実際イッコは体質を変えて体調を崩さないまま、きれいに十キロ近く痩せた。その後リバウンドもなく、以前よりも健康で肌もきれいになっている。
『やる気になったのは嬉しいけど、大丈夫なの? 途中でやめたりしない?』
そんな素晴らしいダイエット方法があると知りながら、なぜやらなかったのか……それは少々お金がかかるからだ。天然の滋養強壮剤や漢方生薬、体質に合わせたサプリメントを使って、ダイエットに耐えられる、元気で痩せやすい身体づくりをする。それらを全部きっちり行うと、月々かなりの金額になってしまうらしい。
イッコが痩せた時、わたしも同じ方法を! と飛びつきかけた。だけどちょうどその頃、兄が結婚し、わたしはひとり暮らしをはじめたばかりだった。今まで実家で気楽に暮らしてきたのに、なにもかも自分でやることになり、金銭的にも精神、体力的にも余裕がなくなってしまったのだ。思えばあのあたりから急激に体重が増えたように思う……実家で毎日食べていたお母さんのご飯はバランスの取れたありがたいものだったんだよね。
「週末の夜にでも時間取れない? 今は決算前で仕事が忙しくて、平日は無理そうなんだ」
『いいわよ、わたしも今週は珍しく日曜に休みをもらえたの。土曜は遅くなっても大丈夫よ』
「それじゃ、『あずまや』に行かない? もしかすると遅くなっちゃうかもしれないから」
『いいよ。コータの店も……久しぶりだし』
少しだけイッコの声のトーンが下がる。『あずまや』というのは、わたし達ふたりの幼馴染、東浩太が親の代からやっている居酒屋だ。コータとわたしは親がいとこ同士だから、はとこにあたるのかな? 身内の店だという気安さがある上に、料理がとても美味しくて居心地がいいので、すっかり行きつけのお店になっている。コータは人懐っこい性格で友達も多いから、結構溜まり場みたいにもなっていた。
「ひとりで大丈夫? 仕事が終わったらすぐに行くけど」
『コータのところだから、ひとりでも大丈夫だよ。カウンターに座ってるし』
大丈夫かな? イッコひとりで。いつもはわたしと一緒じゃないとコータの店には行かないようにしてるのに。子供の頃から引っ込み思案でおとなしかったイッコ。彼女は昔からコータのことが好きだった。でも小学生の頃、告白を拒否されて以来、想いを口にはしていない。ダイエットに成功してきれいになった時も、てっきり告白するもんだと思ってたけど……やっぱりしなかったんだよね。
わかってるんだ。ダイエットしてスタイルがよくなったからと言って、すべてが解決するわけじゃないって。つまりは自己満足にすぎないのだから。それに、スタイルが変わったぐらいで相手の気持ちが変わっても嬉しくないものね。
ただ、自分に自信が持てるようになれば、一歩踏み出す勇気が湧いてくると思う。
仮にもし、わたしみたいなおでぶを好きになってくれる奇特な人がいたとする。大人の付き合いなのだから、関係を続けていけば当然のごとくえっちをすることになるだろう。だけど今のわたしには、たとえ彼氏でも男性に裸を晒すなんてこと、怖くてとてもできやしない。いくら相手がこの体型でいいと言ってくれても、自分が許せない。だから、男の人と付き合おうとは思えないのだ。
でも、もしダイエットに成功して、痩せて自分のカラダに少しでも自信が持てたら……その時は食事したりお付き合いしたり、キスとかその先も大丈夫になるかなって思う。
そのためにも、とりあえずは体重を落とすこと。目標はせめて学生時代の体重……つまり二十キロダイエットだ。
「それでさ、イッコ。今すごくやる気満々で、すぐにでもダイエットをはじめたいんだけど……なにをすればいい? 甘いものや間食もやめるし、できるだけ身体を動かそうとは思ってるけど」
土曜までまだ五日もある。それまでなんて待てないよ。
『うーん、たくさんありすぎて電話で説明するのは難しいよ。食事法や生活習慣で気を付けてほしいことは山ほどあるの。どうして自分は太ってしまったのか、今までダイエットに失敗した原因はなんなのか、まずはそれをちゃんと知っておかないと同じ失敗を繰り返すからね』
「わたしさ、お腹が空きすぎると貧血みたいになって、手が震えてさ……結局我慢できなくて食べちゃうんだよね」
『それってもしかして低血糖症状を起こしているのかもしれないわ。空腹時に起きる貧血みたいなものなんだけど、手が震えたり目眩がしたりするの。食べると血糖値が上がって症状がなくなるから、身体は食べさせようとするの。その症状はちょっとしんどいわよ……長く空腹にならないように気を付けないとね』
「わたしって、そんな体質だったんだ……」
『原因に合わせて食事内容や体質改善の方法を工夫するの。それに、運動もせずに楽に痩せようなんて考えは甘いわよ。覚悟はできてる? 中途半端にやるなら、やめておいたほうがいいと思うわ』
「やるよ……今回は本当に本気だよ。とにかくこのまま痩せられないのなら、会社を辞めるぐらいのつもりなんだ。絶対に痩せるって、決心したんだから!」
生半可な決心じゃ無理だってわかっている。何度も失敗してきたのだから。
『ねえ、そこまでする理由を聞いてもいい?』
「もう嫌なの。好きな人ができても付き合うどころか告白すら……ううん、側にいることさえ恥ずかしくてできないなんて。せめて、隣に並んでも平気になりたい。少しでも自分に自信が持てるようになりたい」
『チャーコはすごくいい子だよ。それはわたしが保証する。だからそこまで自分を卑下しないで』
「今の自分が許せないの……友達といる時の自分は嫌いじゃないし、バレーをしてる時の自分も好きだった。仕事をしてる自分も好きになれた。だけど、おでぶなままじゃ恋はできないの」
『そうね。自分を好きにならないと恋愛なんてできないわよね……でも、痩せても変わらないこともあるわよ?』
「それもわかってる。でも、やるって決めたから。そのために必要なことは全部続けてみせる!」
思わず力んで宣言したけれど、イッコの声が聞こえてこない。もしかして呆れられちゃった?
『わかったわ。それだけ決心が固いなら今がはじめ時ね。きっと、恋愛が一番ダイエットに効くと思うわ。これはわたしの個人的な感想だけど……。わたしも応援するから頑張ってね!』
「ありがとう、イッコ」
『いいのよ、これはわたしの仕事でもあるんだから。本当なら今日からはじめられるよう、指導したいけど、それは土曜にね。それまで無理しないようにやれる?』
「うん、無理しないように頑張る!」
『実を言うと、ダイエットの原理ってすっごく単純で簡単なのよ』
「もう、なに言ってるのよ。ダイエットがそんなに簡単なわけないじゃない」
『ホントよ。だって代謝カロリーよりも摂取カロリーを下げれば、その差の分だけ痩せるんだから』
「あ……なるほど、確かにそうだ。じゃあ、どうして失敗しちゃうの?」
『摂取カロリーを減らし続けると、身体がそれに合わせて燃費を下げる。つまりどんどん代謝が悪くなっていくのよ。そうすると少ない食事でも体重が減らなくなってしまうってわけ。代謝が落ちたままでは痩せにくいから、運動して代謝を上げないとダメなの。あと、急激に体重が減りすぎると身体が危険だと感じて防衛機能が作動して、リバウンドしやすくなるから気を付けてね』
「身に覚えがありすぎて、怖いよ」
『運動すると代謝は上がるけど、普段運動していない人が無理すると疲れてしまうでしょ。そうするとまた身体は食べることで体力を補おうとするから、それも気を付けなきゃだね』
「確かに疲れると食べたくなる……怖いなあ」
『だからうちのくすりやでは、生薬入りの滋養強壮剤を飲みながらのダイエットを推奨しているの。疲れもとれるし血行がよくなって代謝も免疫力も上がるから、食事を減らしてもダイエットの成功率がアップするのよ。わたしもその方法で頑張ったわ』
「確かにイッコはいつも飲んでたよね。それじゃ、お腹が空いてなくても、つい甘いものを食べたくなるのはなぜなの?」
『ストレスが溜まった時、甘いものを食べると気分がよくなるってことを身体が知っているからなのよ。それは中毒に近いもので、我慢し過ぎると反動で過食してしまうの。だから、低カロリーのものでも満足するようにきちんと食べながら、痩せやすい身体を作るのよ』
「食べて……痩せる?」
『そうよ、太りにくい低糖質なものを、しっかり食べるの。我慢するやり方は絶対にダメ。間食してもいいからある程度の満腹感を得られる食事法でやらないと失敗するわ。甘いものも、週に一度ご褒美として食べるのはいいと思うわ。後はゆっくりよく噛んで食べることと、栄養バランスも大切よ』
「間食してもいいの? だったらわたしにもできそう!」
『糖質の取り過ぎはもちろんダメよ。後でダイエットレシピの資料をメールするけど、糖質っていうのは炭水化物も含まれているの。その中で一番マシなのは蕎麦かな? おすすめしないのは、ラーメンとパスタよ。パンとご飯なら、ご飯のほうがお腹の持ちもいいわ』
「ラーメンにパスタにパン、それって好きなものばかりだよ! じゃあ、食べていいのはなんなの?」
『タンパク質は身体を作る成分だから、しっかり取らないといけないわね。タンパク質はお肉や魚以外に大豆や納豆、それから牛乳にチーズからも取れるわ。もちろん野菜やカルシウム、ミネラルも必要よ。チャーコにあった、美味しくて満足できる低カロリーのレシピを探そうね』
そのあたりは、ネットや本などいろんなもので探せそうだ。
『あと寝不足はダイエットの敵だからよく寝ること。それと運動だけど、わたしは苦手だったからジムに通ったの。チャーコは運動得意だから大丈夫だろうけど、毎日できそう?』
「それなんだけど、平日はなかなか時間がとれないんだよね。ジムって高いの?」
『わたしの通ってるジムはそんなに高くはないけど、チャーコの家からだとちょっと遠いよね。移動の時にエレベーターに乗らず階段を使うとか、通勤時に一駅歩くとかだったら毎日できない?』
「わかった、できるだけ歩くのと、その食事療法をやってみるね」
『それじゃ、あとは食べ方だけど……』
イッコの指導はそのまま夜遅くまで続いた……とにかく明日から本気で頑張るんだから!
3 無理は禁物
翌日から決死のダイエット作戦を開始した。
決死っていうのはちょっと大袈裟かもしれないけど、痩せられなかったら会社を辞めるとまでイッコに言ったのだ。そのぐらいのつもりでやらなきゃ意味がないと思う。そんな情熱が空回りしてしまって……早く痩せたい気持ちが抑え切れなかった。少しでも痩せて今の状況から、早く抜け出したかった。
昨夜は、なかなか寝つけなかったので、野菜スープを大量に作ってみた。コンソメ少しと、ベーコンやら玉ねぎなど冷蔵庫に残っていた野菜を色々入れたので結構なボリュームになった。作りすぎた分は冷凍して、朝はそれと常備しているヨーグルトにゆでたまごと野菜サラダ。お昼用としてポットに野菜スープを入れ、お弁当箱にはゆでたまごやハムなど冷蔵庫にある糖質以外のものを詰め込んだ。それから帰りには、キャベツや納豆、鶏の胸肉、白身魚などを買い込んだのだった。そして夜は、具だくさんのお味噌汁にキャベツと玉子だけのお好み焼き風というメニュー。これはイッコのオススメで結構美味しかった。明日のお弁当用には、鶏胸肉の塩麹漬けを仕込んで準備は完璧だ。
お米を食べなくても、工夫次第で結構美味しく食べられる上に、タンパク質は意外とお腹の持ちがいい。
だけど準備に手がかかるため、朝がせわしなかった。早起きしたけど、ウォーキングは行けずじまい。それと腹八分目っていうのはかなり辛い。イッコに言わせると、理想は六分目だそうだけど、そんなの絶対無理! わたしの場合はいままでの暴食でかなり胃が拡張してしまってるから、胃を小さくしなきゃダメらしい。そのため、イッコに教えてもらった食べ方に変えた。
『ゆっくりと噛んで食べることで満腹感が脳にきちんと伝わるのよ。チャーコは早食いでしょ? だから満腹感が伝わるのが遅いの。おかずとご飯は別々に、汁物は最初に呑みきってね』
その通りやってみて驚き! 噛む回数が増えてゆっくり食べられた。少ない食事で満足が得られるのだ。
ダイエットをはじめてみたら、自分が今まで食べてた物のカロリーと栄養素がとんでもないことにも気付いた。ついつい面倒くさくて、昼食は菓子パン三個とか食べていたわたし。でも菓子パンって、一個五〇〇キロカロリー以上あるものが多い。一食で一五〇〇キロカロリーを超えてしまう。それって成人女性の一日の摂取カロリーに近いよね? おまけに炭水化物ばかりで栄養バランスも悪い。
忙しくてつい食べたくなったりしたけど、なんとか我慢して乗り切れた。おかげさまで初日から一キロマイナス。元の体重があるからだろうけど、それでも嬉しくてしょうがなかった。
決算期で仕事が忙しいこともあって、夜にも運動する時間は取れなかった。でもそのぶん階段を使ったり、帰りに少し歩いたりした。
『運動する時には、姿勢とか歩き方とかにも気を付けてね。きれいに立つ時には、無意識に身体の筋肉を使ってるんだって』
イッコのアドバイスに従ってみると、違いは歴然だった。しかも翌朝起きたら、身体のあちこちが痛かった。運動不足だったんだね、わたし。
ダイエット開始二日目。今朝も、出勤時に階段を使ってフロアに向かおうとしていた。わたしの所属する営業部のフロアは十五階だからそこまで上がるのは大変だけど、頑張る!
「もう、甘やかさないんだから」
「なにを甘やかさないんだ?」
「え? あ、チーフ……おはようございます」
うしろから声をかけてきたのは楢澤チーフだった。
「おはよう。歩くのはいいことだが、いきなり無理するなよ」
「は、はい」
確かに、少し無謀だったかもしれない。脚はもうガクガクだ。だけどチーフもここにいるってことは……毎日エレベーターを使わずに上がってたの?
「無理そうだったら、途中からエレベーターを使えばいい。徐々に階数を増やすほうがいいぞ」
そう言ってチーフは、ポンとわたしの頭を叩いて先に階段を上がっていった。
「あ、ありがとうございます」
そっか、毎日少しずつ増やせばいいんだ。もしかして、チーフってこういう運動とか詳しいのかな? 元水泳選手だけあって素敵な筋肉をしていそうだと、引き締まったチーフのうしろ姿に思わず見惚れていた。
結局今日は十階で限界がきて、そこからはエレベーターを使った。
「おはよう、細井さん。あれ、どうして十階から?」
乗り込んだエレベーターには本城さんがいた。もしかして今日は朝からすごくついてるかも!
「おはようございます。階段で上がろうと頑張ったんですけど……今日は十階でギブアップでした」
「そうなんだ、僕も最近運動不足だから、明日から歩いて上ってみようかな?」
「ほ、本城さんも? あの、――」
よかったら一緒に歩きませんか? と言おうとした瞬間。開いたエレベーターの向かいのガラス窓に映った不釣り合いなふたりの姿に、その言葉は引っ込んでしまった。
「ん? どうかした?」
「いえ、なんでもないです……今日もお仕事頑張りましょうね」
にっこり笑ってそう言うと、更衣室へ駆け込んだ。
ダメダメ、まだ一緒になんて口にするのはおこがましいよ。全然変わってないんだから……やっぱりゆっくりなんてやってられないよ、イッコ!
そうして焦った結果……無理をするなというイッコの言いつけを守らず、三食とも主食どころか、脂も肉も抜くという無謀なことをしてしまった。そしたらなんと二日目でまた一キロ、三日目でもう一キロ、トータルで三キロも減っていた。す、すごくない? この調子で続ければ、ひと月以内にマイナス十キロも夢じゃない!? と計算してしまう。
四日目もまた一キロ減っていて、思わず目を疑った。急激に痩せるのはよくないってイッコが言ってたけど、嬉しくてしょうがなかった。だからわたしは失念していたんだ。イッコにあれほど無理しちゃダメだと言われていた理由を。
「よしよし、もっと頑張るぞ!!」
四日目の今日は帰りに三駅分歩いたら、さすがにヘロヘロだった。でも、痩せていくのが嬉しくて、明日からはもっと歩こうと考えていた。
そろそろ我慢するのがきつくなってきたけど、この調子でいけば週末までにマイナス五キロだから、まずはそこまで頑張りたかった。
「ああ、なっちゃった」
五日目の土曜日の朝、トイレでがっくりうなだれる。
数日前から少し浮腫んできていたので、そろそろ生理だなと思っていたら案の定。体重は、水分を我慢していたので五日で五キロ減を達成したけれど……朝は怠くて起きられなかった。お弁当も作れなくて、いっそのことお昼を抜いてしまっても平気な感じだ。わたしの場合、生理前はやたら食べたくなるけど、生理がくると食欲はなくなるほうなのだ。
決算期で多忙のため朝から休日出勤し、わたしも営業部の皆も忙しく走り回っていた。
「細井さん、これやっといてくれる? 急ぎなんだ」
「あ、俺もこれお願い」
「ちょっと、ぼーっとしてないでそこ早くどいてくださいよ!」
ダメだ……今日はちょっとヤバイ……かも。
朝から体調は最悪だった。もともと量が多く、血圧も低いほうだから気を付けなきゃならなかったのに……
決算前で午後になっても仕事は途切れず、お昼もまともに食べられないまま忙しく動いていた。
ああ、だけどさっきから目眩はするし、顔も手足も冷たくなって、冷や汗まで止まらない。でもこの書類は四時までだって村井くんが言ってた。これ、追加の資料もいるかな? 倉庫に取りに行かなきゃ……
「あ――」
立ち上がった途端、天井が回る。目の前は真っ暗で……もしかしてこれって立ちくらみ? ずっと健康体で、朝礼や体育祭でも倒れたりしたことなんかなかった。
――なのに、立っていられなくて身体が床に沈んでいくのがわかる。
「細井さん?」
「千夜子くん!」
男性社員の誰かの声と、それに重なるようにわたしの下の名前を呼ぶ声が間近で聞こえた。
片方の声は、きっとチーフだ。わたしを『千夜子くん』て呼ぶのはあの人だけだから。
でもチーフの席は随分向こうのはずなのに……そんなことを考えていたら、意識はどんどん遠のいていった。
「ん……あっ」
気が付くと、応接室のソファに寝かされていた。頭がくらくらしてまぶたが重い。
「千夜子くん、目が覚めたのか? どうだ、気分は悪くないか?」
「は、はい。大丈夫です」
目を開けると心配そうな楢澤チーフの顔があった。えっと……どうやってここまで?
「あの、わたしを……」
誰が運んでくれたの? と聞こうとした瞬間、思いっきりチーフに怒鳴られた。
「馬鹿野郎っ! なんて無茶するんだ、おまえはっ! 真っ青な顔してぶっ倒れやがって……まさか、無理なダイエットをしてるんじゃないだろうな?」
「い、いえ、そんな無茶したつもりは……ただその、ちょっと……」
「なんだ?」
言っていいのだろうか? 男の人に生理だって。
「あ、アレの日でして……」
そこまで言うとああ、と頷かれてしまった。わかったのかな? やっぱり奥さんがいた人だから、そういうのにも慣れてるのかな?
「ま、まあ女性の身体が周期的に不調になることはわかっているつもりだ。ならば、そんな時ぐらい体調に合わせろ。いくら忙しいからって、無理して倒れては元も子もないだろう」
ようやく口調も元に戻ったチーフは苦い顔をしながら腕を組んだ。
「すみません。あ、あの、今何時ですか?」
「五時過ぎだ」
「ええ? あ、書類! 村井くんが四時までにって……」
「あれは村井の仕事だ。あいつか、本来の担当である皆川にやらせればいい。おまえが無理することはない」
「でも、わたしは仕事ぐらいしか取り柄がないから……」
実はお昼過ぎ頃に、また嫌みを言われたのだ。本城さんに頼まれた書類を急いで作ってたら、村井くんが『オレもオレも』って……彼は二班だけど皆川さんに頼んだら間に合わないと言って、いつもわたしに仕事を回してくる。その時も『細井さんは仕事しか取り柄がないんだからやってよ』と言われた。
「とにかく今日はもう帰って休むんだ。残っている仕事は皆に割り振って終わらせたから大丈夫だ。それと身体がついていかないのなら、ダイエットもやめるべきだ。健康を損なってまでやることじゃないだろう?」
「はい……すみません、ご迷惑をおかけしました」
仕事に支障をきたしたのは、わたしの責任だ。社会人でお給料をもらっているのだから、やってはいけないことだった。だけど……いまさらダイエットはやめられないよ。
「とにかく今日は送っていくから、支度しなさい」
「はい?」
送っていくって、嘘……楢澤チーフがそんなこと言い出すなんて!
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