黎明が紡ぐ夜の物語

のどか

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恐れはない

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最後の戦いが始まる。
これに勝てば父さんたちがはじめた戦いがようやく終わりを迎える。
傲慢で怠惰で強欲で民を苦しめるしか脳のない王に挑んだ“聖戦”。
それが、今日、この城を落とせば、この城の玉座に居座っている男を引きずりだせば終る。
ようやく負の連鎖を断ち切れる。
暗くて深い夜の闇が晴れる。夜明けが来る。時代が変わる。
その時代の変わり目をひとめみようとする人が集まる。
王城前の広場が怖いくらいの熱気と声に包まれていた。
蓄積された怒りを、不満を、嘆きを、発散させるように激しく空気が震える。
暴君を、革命という名の反乱軍を、戦いを恐れて隠れるように生きてきた人たちが、ここ数十年ですっかり寂れた広場を埋め尽くす。
剣や槍――それぞれの武器を手にしたあたしたちと、声を武器にする民衆が入り混じる。
それは今まで感じたことのない異様さだった。

「なんだ。珍しく緊張してんのか?」

落ちてきた声は驚くほどに普段通りだった。
いつも通り過ぎて逆に違和感を覚えるくらいに変わらなかった。

「するべきことは変わらない。お前はいつもどおり俺の背中を守ってりゃいい」

それなのにポンポンと頭にのせられる手は信じられないくらいに優しい。
気持ち悪いくらいに甘く優しくて、だけど嬉しくて幸せでもうちょっと撫でていて欲しいと思うくらいだった。
どうかしたのか?って聞かないといけないと思うのにただの女の子に戻りそうになる自分を抑えつけるのに精一杯で思考も唇も声帯もなにひとつ動かせそうになかった。
あたしが自分を繋ぎ止めるのに必死になっている間に頭が軽くなる。
大きな手が離れて、それを追いかけるように顔をあげたら、もう、アンタはあたしなんか見てなかった。
その姿に安心して、だけどちょっと残念で、ムカついて、そのモヤモヤした感情に助けられたように剣に手をやる。

ニヤリ。

全てを見透かしたようにアンタの口の端が釣り上がった。
やられたなんて思う暇もなくあたしの中のスイッチも切り替わる。
動きを鈍らせるように全身に絡みついていた異様な空気はもう全く気にならなかった。
感じるのはいつもの心地よい緊張にアンタの静かな視線と凛とした空気。
アンタの背中を預けられるようになるまで、一番近くにいられるようになるまで、死ぬ気で這いあがってきた。
女だと侮るやつをなぎ倒し、女を武器にしたと嘲るやつを踏みつけ、ここまで来たんだ。
アンタに歯向かうやつは、アンタの前に立ちふさがるやつは全部あたしがたたき斬ってやる。
あたしは、アンタの剣だ。牙だ。右腕だ。
アンタはあたしが、守る…!!

「行くぞ。」

力強い声に促されて遠ざかる大きな背中を追いかけて足を踏み出した。



恐れはない
(アンタの言うとおりだ)
(あたしは、ただ)
(アンタの背中を追いかけてアンタの為に剣を振ればいい)
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