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~後日談・番外編~
仮面夫婦の華麗なるマスカレードー後ー
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大勢の人に囲まれながら彼にしっかりと守られているあの子をぼんやりと眺める。
私が同じ状況になったら隣の男は彼と同じように私を守ってくれるだろうか。
チラリと視線を滑らせた顔は相変わらず気味悪いくらいに綺麗な笑顔を浮かべている。
真っ直ぐに見据える先には彼とあの子。
「本心か?それとも女の意地か?」
「さぁ?」
お互い正面を見据えたままの、視線を絡めないままの会話。
そこにあのふたりのように温かい空気なんて流れたりしない。
なのに相手の不機嫌さだけはしっかりと伝わってくるのだから手に負えない。
全く本当にどうして私はこんな所に座ってるのかしら。
「……あなたこそどうなの。欲しくて堪らなかったんでしょう」
あの子が。
小さく零れ落ちた言葉は喧騒に呑まれて消えた。
それでもすぐ隣に座っている男にはしっかり聞こえたように嘲笑が返ってきた。
「隣の芝は青く見えるとはよく言ったものだ。
―――ディアナが欲しかった訳じゃない。アレが珍しく執着していたものが欲しかった」
「……どういうこと?」
思わず眉を寄せて隣を凝視する。
涼しい顔で前を見据えていた男がゆっくりと振り向いて私を見る。
「さぁな」
ニヤリ。
珍しく底意地の悪さを全面に押し出した笑みを浮かべて、その瞳の奥にものすごく似合わない色を揺らめかせた男は私の反応を待たずに視線を正面にもどした。
思わず射すくめられてしまうような瞳が逸らされてホッとしながら戻した視線が捕えるのはやっぱり幸せそうに笑うあの子と彼の姿だった。
「本当にヤな夫婦。鈍感でいつだってお互いのことしか眼中にないの」
「……目が届かない所に押しやって正解だったな」
「そう、ね。あなた性格最悪だもの。近くにいたら苛めるでしょ」
「お前には言われたくないな。昔から事あるごとにディアナに噛みついていただろう」
「だってムカつくんだもの。ちょっとくらい意地悪したっていいでしょ」
いい子過ぎて、綺麗過ぎてムカつく。
いつもあの人をひとり占めしててムカつく。
女としてなら負けてない自信があるのに、いつだって私の上をいくあの子がムカつく。
なのに、本当に嫌いになれないから余計にムカつく。
「フン。それなら大事な幼馴染たちのために精々しっかり俺を見張っておくことだな」
終わってしまった恋に未練がないと言えば嘘になるけれど、だけど。
私には貴方くらい底意地の悪い人のほうがいいのかもしれない。
なんて、思わなくもないから――――。
「もちろん、そのつもりよ」
もう少し貴方と同じ笑顔の仮面をつけて側にいてあげる。
性格の悪い貴方と私、どっちが先にこの仮面を脱ぎすてるか。
仮面夫婦の華麗なるマスカレード
(仮面を脱いだその先にある冷たさは)
(貴方がくれる精一杯の――)
(そう信じてもいいですか?)
私が同じ状況になったら隣の男は彼と同じように私を守ってくれるだろうか。
チラリと視線を滑らせた顔は相変わらず気味悪いくらいに綺麗な笑顔を浮かべている。
真っ直ぐに見据える先には彼とあの子。
「本心か?それとも女の意地か?」
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お互い正面を見据えたままの、視線を絡めないままの会話。
そこにあのふたりのように温かい空気なんて流れたりしない。
なのに相手の不機嫌さだけはしっかりと伝わってくるのだから手に負えない。
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あの子が。
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それでもすぐ隣に座っている男にはしっかり聞こえたように嘲笑が返ってきた。
「隣の芝は青く見えるとはよく言ったものだ。
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「……どういうこと?」
思わず眉を寄せて隣を凝視する。
涼しい顔で前を見据えていた男がゆっくりと振り向いて私を見る。
「さぁな」
ニヤリ。
珍しく底意地の悪さを全面に押し出した笑みを浮かべて、その瞳の奥にものすごく似合わない色を揺らめかせた男は私の反応を待たずに視線を正面にもどした。
思わず射すくめられてしまうような瞳が逸らされてホッとしながら戻した視線が捕えるのはやっぱり幸せそうに笑うあの子と彼の姿だった。
「本当にヤな夫婦。鈍感でいつだってお互いのことしか眼中にないの」
「……目が届かない所に押しやって正解だったな」
「そう、ね。あなた性格最悪だもの。近くにいたら苛めるでしょ」
「お前には言われたくないな。昔から事あるごとにディアナに噛みついていただろう」
「だってムカつくんだもの。ちょっとくらい意地悪したっていいでしょ」
いい子過ぎて、綺麗過ぎてムカつく。
いつもあの人をひとり占めしててムカつく。
女としてなら負けてない自信があるのに、いつだって私の上をいくあの子がムカつく。
なのに、本当に嫌いになれないから余計にムカつく。
「フン。それなら大事な幼馴染たちのために精々しっかり俺を見張っておくことだな」
終わってしまった恋に未練がないと言えば嘘になるけれど、だけど。
私には貴方くらい底意地の悪い人のほうがいいのかもしれない。
なんて、思わなくもないから――――。
「もちろん、そのつもりよ」
もう少し貴方と同じ笑顔の仮面をつけて側にいてあげる。
性格の悪い貴方と私、どっちが先にこの仮面を脱ぎすてるか。
仮面夫婦の華麗なるマスカレード
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(貴方がくれる精一杯の――)
(そう信じてもいいですか?)
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