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~後日談・番外編~
仮面夫婦の優雅なるオウヴェルトゥーラ ー前ー
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昨日行われた絢爛豪華な夜会が嘘だったかのように穏やかな昼下がり、王妃のお気に入りの庭園でおおよそその場に似合わない声が空気を切り裂いた。
「はぁ!?」
ガチャン!
セルリアは少し前まで持つのも恐ろしいというかこんなものでお茶を呑むなんて馬鹿なんじゃないの?とさえ思っていた高価なティーカップを乱暴にソーサーに押し付けた。
目の前にはバツが悪そうにそぉっと目線をそらしながら精一杯体を縮こませるディアナの姿がある。
馬鹿だとは思っていた。
鈍いとも思っていた。
女らしさを母親のお腹の中に忘れて来たんじゃないかと疑ったことも度々あった。
だけど……!!
「あんた、ふざけんのもいい加減にしなさいよ?」
にっこりと目が全く笑ってない笑顔を向けられたディアナはますます体を小さくしながら弱々しく反論の声をあげる。
そこに革命軍の勝利の女神として恐れ敬われた凛々しさや威厳なんて欠片もない。
「だ、だって、あたしが淹れるよりレオが淹れるほうが美味しいし……」
「だってもクソもないわよ!!どこの世界にお茶も満足に淹れられない嫁がいるの!?
あんたはどこぞの貴族の箱入り娘か!!
否、このご時世貴族の娘でもよっぽどじゃない限りお茶くらい淹れられるわ!!」
「うぅっ」
「情けない声だしてんじゃねぇわよ!
だから、剣ばっかり振りまわしてないでたまには料理や裁縫も学びなさいって言ったでしょう!」
「学んだよ!
ちゃんと教えてもらったけど壊滅的だって匙投げられたんだよ!!
母さんたちに出禁くらってんだよ!
ナハトはなんでもできるように仕込んであるから大丈夫っておばさんに生温かい目で見られて厨房から追い出されたんだよ!!!」
「……」
涙目で吠えるディアナにセルリアはそう言えば……と記憶の最下層に埋もれたそれが蘇る。
『これは……』
『壊滅的ね。誰に似たのかしら……。
私もあの人もここまで不器用じゃなかったと思うんだけど』
『……』
『……大丈夫よディアナちゃん。
うちのナハトには基本なんでもできるように仕込んである……というか貴女のために自然とできるようになったというか……だから!!』
『よかったわねぇ。ディアナ。
だけど、料理はできなくても裁縫もできなくても、掃除くらいはできるようになりましょうね』
『……いいんですか、それで』
『『いいのよ!』』
コロコロ笑う叔母さんたちと開き直ったディアナに溜息をついたのはいつだったか。
ということはこの馬鹿はあの頃からちっとも進歩していないということか。
あれから流れたけして短くはない年月の中で成長したのは男勝りな部分だけで、本当に女性的な部分はカケラも成長していないというのか。
セルリアはズキズキと痛む頭と改めてボッロボロに引き裂かれたような感覚に陥る自尊心を抱えながら唇を尖らせて開き直った顔をするディアナを睨みつけた。
「ディアナ、今からでも遅くないわ。花嫁修業なさい。これは王妃命令よ!」
「はぁ!?王妃命令って、」
そんな無茶なと眉を下げるディアナにセルリアは真剣な顔で懇々と諭し続けた。
私の自尊心―――女のプライドの為にもせめてお茶くらいマトモに淹れられるようになってもらわなければ。
王妃様とお茶会
(ただでさえ色気もクソもないんだからナハトに見放されないうちにもっと女を磨きなさい!!)
(人が気にしてることを……!!
いいって言ったもん!色気がなくても料理ができなくてもあたしでいいって言ったもん!!)
(そんなの新婚のうちだけよ!現実を見ろ、現実を)
(!?)
(……本当にどうしてこんなのに負けたのかしら。
私の方が絶対イイ女なのに。信じられないわ)
「はぁ!?」
ガチャン!
セルリアは少し前まで持つのも恐ろしいというかこんなものでお茶を呑むなんて馬鹿なんじゃないの?とさえ思っていた高価なティーカップを乱暴にソーサーに押し付けた。
目の前にはバツが悪そうにそぉっと目線をそらしながら精一杯体を縮こませるディアナの姿がある。
馬鹿だとは思っていた。
鈍いとも思っていた。
女らしさを母親のお腹の中に忘れて来たんじゃないかと疑ったことも度々あった。
だけど……!!
「あんた、ふざけんのもいい加減にしなさいよ?」
にっこりと目が全く笑ってない笑顔を向けられたディアナはますます体を小さくしながら弱々しく反論の声をあげる。
そこに革命軍の勝利の女神として恐れ敬われた凛々しさや威厳なんて欠片もない。
「だ、だって、あたしが淹れるよりレオが淹れるほうが美味しいし……」
「だってもクソもないわよ!!どこの世界にお茶も満足に淹れられない嫁がいるの!?
あんたはどこぞの貴族の箱入り娘か!!
否、このご時世貴族の娘でもよっぽどじゃない限りお茶くらい淹れられるわ!!」
「うぅっ」
「情けない声だしてんじゃねぇわよ!
だから、剣ばっかり振りまわしてないでたまには料理や裁縫も学びなさいって言ったでしょう!」
「学んだよ!
ちゃんと教えてもらったけど壊滅的だって匙投げられたんだよ!!
母さんたちに出禁くらってんだよ!
ナハトはなんでもできるように仕込んであるから大丈夫っておばさんに生温かい目で見られて厨房から追い出されたんだよ!!!」
「……」
涙目で吠えるディアナにセルリアはそう言えば……と記憶の最下層に埋もれたそれが蘇る。
『これは……』
『壊滅的ね。誰に似たのかしら……。
私もあの人もここまで不器用じゃなかったと思うんだけど』
『……』
『……大丈夫よディアナちゃん。
うちのナハトには基本なんでもできるように仕込んである……というか貴女のために自然とできるようになったというか……だから!!』
『よかったわねぇ。ディアナ。
だけど、料理はできなくても裁縫もできなくても、掃除くらいはできるようになりましょうね』
『……いいんですか、それで』
『『いいのよ!』』
コロコロ笑う叔母さんたちと開き直ったディアナに溜息をついたのはいつだったか。
ということはこの馬鹿はあの頃からちっとも進歩していないということか。
あれから流れたけして短くはない年月の中で成長したのは男勝りな部分だけで、本当に女性的な部分はカケラも成長していないというのか。
セルリアはズキズキと痛む頭と改めてボッロボロに引き裂かれたような感覚に陥る自尊心を抱えながら唇を尖らせて開き直った顔をするディアナを睨みつけた。
「ディアナ、今からでも遅くないわ。花嫁修業なさい。これは王妃命令よ!」
「はぁ!?王妃命令って、」
そんな無茶なと眉を下げるディアナにセルリアは真剣な顔で懇々と諭し続けた。
私の自尊心―――女のプライドの為にもせめてお茶くらいマトモに淹れられるようになってもらわなければ。
王妃様とお茶会
(ただでさえ色気もクソもないんだからナハトに見放されないうちにもっと女を磨きなさい!!)
(人が気にしてることを……!!
いいって言ったもん!色気がなくても料理ができなくてもあたしでいいって言ったもん!!)
(そんなの新婚のうちだけよ!現実を見ろ、現実を)
(!?)
(……本当にどうしてこんなのに負けたのかしら。
私の方が絶対イイ女なのに。信じられないわ)
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