黎明が紡ぐ夜の物語

のどか

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~後日談・番外編~

とある女の独白ー1ー

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貴方がいればよかった。
本当にただそれだけでよかったの。
たとえ戦火の渦が勢いを増して近づいてこようとも、貴方といられるなら怖くなんてなかった。
貴方が私の世界のすべてだった。











全てが狂い始めたのは革命軍に完全に押し負けている国からの使者が来たことだった。
貴方に王位継承権がある。否、王位につかねばならない。
偉そうにそう言ったのは今の王の背後で好き勝手をやっていた大臣だった。
ジャンも私も激しく抵抗した。
けれどある日、ジャンは私を強く抱きしめて私のお腹に宿った私たちの宝物を優しく撫でて泣きそう顔で「     」といった。
何度も何度も貴方の瞳から零れる冷たい雫に振られながら私はただ呆然とあなたの言葉を聞き続けた。
もう何度も聞いた「愛している」も「ありがとう」も「ごめんなさい」も、一生分の言葉が諦めたように笑う彼の唇から零れ落ちた。
涙の雨と共に落ちてくる唇は縋るように小さく震えて彼自身がそれを望んでいないのは一目瞭然だったのに。
それでも何かを決めてしまったような炎が穏やかな瞳の奥に灯っているのを私は見過ごすことができなかった。
見ないふりをしていたら、気付かないふりをしていたら、あるいは全てを理解した上で泣いて縋れば貴方は私の願いを聞いてくれたのかしら。
革命軍を称える声の中で、悪政を布いた王の首をこれ見よがしに晒した広場で、あなたと私もそれを嫌悪し、たまりにたまった怒りをぶちまけて、苦しかった生活の鬱憤をぶつけるかのように彼らにまじって口汚く罵っていたのかしら。
いいえ。きっとそんなことできないわ。
できるわけないわ。
なんの罪もない、ただ先代の落し種として認知さえしてもらえなかったあの人に全ての責任を押し付けて罵るだなんて。
そんなこと絶対にできない。
民衆の怒りを集中させる為に何の罪もないあの人の首が晒される。
私はあの人が残してくれた宝を守るので精一杯であの人の首を酷く穏やかな顔で―――全てを諦めたような顔で―――晒される貴方を抱くことさえできないの。
ジャン、愛しい人。どうして。
どうして、私は泣いて縋って止められなかったの?
どうして嘘だとすぐにわかる言葉に微笑んで送り出してしまったの?
貴方の姿が見えなくなるのと同時に座りこんで咽び泣いたくせに。
こうなることを知っていた癖に。
ジャン、私の唯ひとりの旦那様。私はこれからどうすればいいの?
貴方の残した宝を守りたいのに、それよりも貴方に全ての責任を押し付け高笑いしている連中に刺し違えてでも復讐してやりたいとも思うの。
ジャン、愛しい人。私のただひとりの旦那様。私はどうすればいいですか?


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