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~番外編~
雪の果てに消えるー8ー
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泣き腫らした目のままそれでもどことなくスッキリした笑顔を携えて扉を開けたリヒトにノクトとルナは心の底から安心した。
本当は誰かに任せたくなんてなかった。
親である自分たちがちゃんと話を聞いて、不安を取り除いて、ここにいてもいいのだと安心を与えてやりたかった。
けれど、そんなつまらない親のプライドなんかよりもリヒトが安心できることの方が大切で、リヒトが笑顔でいられることの方がずっとずっと大切だと思ったからジオとニナに任せた。
「ボス、姉ちゃん、話があるんだ」
「あぁ」
「うん」
真剣なまるで何か重大な決意をしたような瞳にノクトとルナは静かに頷いた。
ジオとニナはどんな話をしたのだろう。
その話の中でリヒトはどんなことを考えて幾つの選択肢を見い出してどんな道を選ぶのだろう。
どれを選んでもいい。それがリヒトの為になって自分で選んだ道なら、それでいい。
だけど、その道の先には自分たちの姿もあってほしい。そう願うのは傲慢だろうか。
「俺、やっぱり寄宿舎のある学校に行こうと思う」
「それは、ここに居たくないってこと……?」
「違うよ!そうじゃないんだ。
俺、やりたいことができたんだ」
震える声で尋ねられたルナの言葉はすぐにリヒトの声で否定される。
けれど、その後に紡がれた力強い言葉にリヒトの本気を思い知らされた気がした。
「俺、ジオみたいになりたいんだ」
それまで苦しそうな、悲しそうな、何とも言えない顔でリヒトを見守っていたノクトの瞳が急に鋭さを取り戻して忌々しそうにジオを睨みつける。
『父親である俺を差し置いていい度胸だなテメェ。死ぬ覚悟はできてんだろうな。あ゛ぁ゛?』
目は口ほどにものを言う。
本来なら自分が向けられるはずだった愛息子の憧れを右腕にかっさらわれた父親からの視線に気づいてしまったジオは慌てて視線をそらす。
しかし今度は恨めしげなルナの視線とかちあってしまいジオは引き攣った表情で視線をリヒトに戻した。
相変わらず恐ろしい視線はグサグサと刺さるが、真っ向から受け止めるよりは随分とマシだ。
「俺もいつか、ジオみたいにボスと姉ちゃんを守れるようになりたい。
守ってもらうばっかりじゃなくて、俺もそっち側に行きたいんだ」
そう言いきったリヒトを見るノクトとルナの顔はとても複雑そうだった。
そんなことを考えなくてもいい。
まだもう少し、あともう少しの間だけでいいから、守らせてほしい。
この手の中で、安全な場所で笑っていてくれたら、それだけで自分たちは幸せなのだから。
成長を喜ばなければならないのに、寂しさが大きすぎて喉まで出かかった言葉をふたりは必死に飲み込む。
「ボスと姉ちゃんが大好きだよ。すっごく大好き。
血のつながりなんて、本当はきっと大したことじゃないっていうのも頭ではわかってるつもりなんだ。
だけど、俺まだやっぱり気になるし怖い。
たぶん、どんなにボスと姉ちゃんに好きだって言って貰っても、大丈夫だって言って貰ってもずっと怖いままな気がする。
だから、だからね。
俺、外に出て色んなものを見て触れて考えて、それで自分で守れるようになるよ。
ボスと姉ちゃんがくれた俺の居場所を、悪い人たちからも俺自身から守れるように強くなる。
俺は、ココにいたいから。ボスと姉ちゃんの子どもでずっといたいから」
「そんなこと言われちゃったら、嫌だなんて言えないじゃない」
「姉ちゃん」
「毎日手紙書いてね。お休みになったら絶対に帰って来てね」
「いや、それは多すぎだろ」
ジオのツッコミはルナの耳には届かない。
「三日に一回は連絡を寄こせ」
「だから多いっつーの!!月一で手紙が来たらマメな方だ」
「「……!?」」
鋭いツッコミにピシリと固まってしまってしまったノクトとルナにかわって、気分はすっかり兄と姉のふたりがパチパチと目を瞬いてどうしようと困っているリヒトに声をかける。
「リヒト、あのバカ夫婦はほっとけ。
だが、あれだ。長期休暇になったら一回は必ず顔を見せろ。
それから、手紙は3カ月に1回でいいから絶対に書いてこい。」
「慣れるまでは忙しくて時間がないでしょうし、慣れてからはリヒト様のやりたいことに時間を割けばいいです。
だけど困ったことがあったら、ひとりで抱え込まずにちゃんと連絡してきてくださいね。」
「うん」
目線をあわせてしっかりと釘をさすニナとくしゃりと頭を撫でるジオにリヒトは嬉しそうに笑って頷いた。
だけどそんなほのぼのした空気もほんの数秒だけで終わりを告げる。
復活したノクトががペン立てを投げてルナがジオからリヒトをひったくったからだ。
ちゃっかり避難して無傷なニナと頭にペン立てがクリーンヒットして悶えるジオを横目にリヒトは泣きだす5秒前のルナとどことなく複雑そうなノクトと向き合う。
「リヒト、絶対、絶っっっっ対!帰ってきてね!!」
「うん」
「お前の家はココだ。それにコイツと俺はお前の親だ。定期的にちゃんと連絡はいれろ」
「うん」
「うわぁああん、やっぱり寂しいよ!!やだやだ、行ってらっしゃいなんて言いたくないー!!」
「ちょ、姉ちゃん!?そんな子どもみたいに泣かないでよ」
「……」
「ボスも呆れてないで助けて!」
「親の説得もガキの仕事だ」
「説得って、納得してくれたんじゃないの!?」
雪の果てに消える
(雪のように降り積もった不安は、春の訪れとともに溶けて消える)
(だから、新しい世界でたくさんのものに触れながらその日を待とう)
(大好きな人たちを、優しいこの場所を、大事なものを守れるようになりたいから)
(強くなるために、行ってきます)
本当は誰かに任せたくなんてなかった。
親である自分たちがちゃんと話を聞いて、不安を取り除いて、ここにいてもいいのだと安心を与えてやりたかった。
けれど、そんなつまらない親のプライドなんかよりもリヒトが安心できることの方が大切で、リヒトが笑顔でいられることの方がずっとずっと大切だと思ったからジオとニナに任せた。
「ボス、姉ちゃん、話があるんだ」
「あぁ」
「うん」
真剣なまるで何か重大な決意をしたような瞳にノクトとルナは静かに頷いた。
ジオとニナはどんな話をしたのだろう。
その話の中でリヒトはどんなことを考えて幾つの選択肢を見い出してどんな道を選ぶのだろう。
どれを選んでもいい。それがリヒトの為になって自分で選んだ道なら、それでいい。
だけど、その道の先には自分たちの姿もあってほしい。そう願うのは傲慢だろうか。
「俺、やっぱり寄宿舎のある学校に行こうと思う」
「それは、ここに居たくないってこと……?」
「違うよ!そうじゃないんだ。
俺、やりたいことができたんだ」
震える声で尋ねられたルナの言葉はすぐにリヒトの声で否定される。
けれど、その後に紡がれた力強い言葉にリヒトの本気を思い知らされた気がした。
「俺、ジオみたいになりたいんだ」
それまで苦しそうな、悲しそうな、何とも言えない顔でリヒトを見守っていたノクトの瞳が急に鋭さを取り戻して忌々しそうにジオを睨みつける。
『父親である俺を差し置いていい度胸だなテメェ。死ぬ覚悟はできてんだろうな。あ゛ぁ゛?』
目は口ほどにものを言う。
本来なら自分が向けられるはずだった愛息子の憧れを右腕にかっさらわれた父親からの視線に気づいてしまったジオは慌てて視線をそらす。
しかし今度は恨めしげなルナの視線とかちあってしまいジオは引き攣った表情で視線をリヒトに戻した。
相変わらず恐ろしい視線はグサグサと刺さるが、真っ向から受け止めるよりは随分とマシだ。
「俺もいつか、ジオみたいにボスと姉ちゃんを守れるようになりたい。
守ってもらうばっかりじゃなくて、俺もそっち側に行きたいんだ」
そう言いきったリヒトを見るノクトとルナの顔はとても複雑そうだった。
そんなことを考えなくてもいい。
まだもう少し、あともう少しの間だけでいいから、守らせてほしい。
この手の中で、安全な場所で笑っていてくれたら、それだけで自分たちは幸せなのだから。
成長を喜ばなければならないのに、寂しさが大きすぎて喉まで出かかった言葉をふたりは必死に飲み込む。
「ボスと姉ちゃんが大好きだよ。すっごく大好き。
血のつながりなんて、本当はきっと大したことじゃないっていうのも頭ではわかってるつもりなんだ。
だけど、俺まだやっぱり気になるし怖い。
たぶん、どんなにボスと姉ちゃんに好きだって言って貰っても、大丈夫だって言って貰ってもずっと怖いままな気がする。
だから、だからね。
俺、外に出て色んなものを見て触れて考えて、それで自分で守れるようになるよ。
ボスと姉ちゃんがくれた俺の居場所を、悪い人たちからも俺自身から守れるように強くなる。
俺は、ココにいたいから。ボスと姉ちゃんの子どもでずっといたいから」
「そんなこと言われちゃったら、嫌だなんて言えないじゃない」
「姉ちゃん」
「毎日手紙書いてね。お休みになったら絶対に帰って来てね」
「いや、それは多すぎだろ」
ジオのツッコミはルナの耳には届かない。
「三日に一回は連絡を寄こせ」
「だから多いっつーの!!月一で手紙が来たらマメな方だ」
「「……!?」」
鋭いツッコミにピシリと固まってしまってしまったノクトとルナにかわって、気分はすっかり兄と姉のふたりがパチパチと目を瞬いてどうしようと困っているリヒトに声をかける。
「リヒト、あのバカ夫婦はほっとけ。
だが、あれだ。長期休暇になったら一回は必ず顔を見せろ。
それから、手紙は3カ月に1回でいいから絶対に書いてこい。」
「慣れるまでは忙しくて時間がないでしょうし、慣れてからはリヒト様のやりたいことに時間を割けばいいです。
だけど困ったことがあったら、ひとりで抱え込まずにちゃんと連絡してきてくださいね。」
「うん」
目線をあわせてしっかりと釘をさすニナとくしゃりと頭を撫でるジオにリヒトは嬉しそうに笑って頷いた。
だけどそんなほのぼのした空気もほんの数秒だけで終わりを告げる。
復活したノクトががペン立てを投げてルナがジオからリヒトをひったくったからだ。
ちゃっかり避難して無傷なニナと頭にペン立てがクリーンヒットして悶えるジオを横目にリヒトは泣きだす5秒前のルナとどことなく複雑そうなノクトと向き合う。
「リヒト、絶対、絶っっっっ対!帰ってきてね!!」
「うん」
「お前の家はココだ。それにコイツと俺はお前の親だ。定期的にちゃんと連絡はいれろ」
「うん」
「うわぁああん、やっぱり寂しいよ!!やだやだ、行ってらっしゃいなんて言いたくないー!!」
「ちょ、姉ちゃん!?そんな子どもみたいに泣かないでよ」
「……」
「ボスも呆れてないで助けて!」
「親の説得もガキの仕事だ」
「説得って、納得してくれたんじゃないの!?」
雪の果てに消える
(雪のように降り積もった不安は、春の訪れとともに溶けて消える)
(だから、新しい世界でたくさんのものに触れながらその日を待とう)
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