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第2章~守るために強くなると誓いました~
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ふわりと揺れる藍色を見つけたリヒトは息を呑んで懐かしいそれを追いかけた。
人の波に、色とりどりのドレスや装飾品に埋もれていくその色を視線だけで追うことに限界を感じた体は自然と動き出す。
「リヒト……?」
「ごめん!知り合い見つけた!」
「は?ちょ、待てよ!
………もう見つけたのかよ」
ジェロの慌てた声もその後に小さく吐き捨てられた言葉も聞くことなくリヒトは人の波を縫うようにその色を追いかける。
人の波を抜けて、テラスを抜けて、外へと続く階段を下りて、それでも深い藍色は止まることなく揺れ続けている。
見失いそうな背中をなんとか追い続けて辿りついたのは夜会の喧騒から遠く離れた庭園だった。
昼間とは全く違う印象を与えるそこに別世界に足を踏み入れたような高揚と恐怖を味わいながらリヒトは踊るように前を走る女性の手首を掴む。
それに観念したのか軽やかなステップを刻んでいた足が止まりゆっくりとリヒトを振りかえった。
雲間から差し込んだ月の光が静かにふたりを照らし、捕まえた彼女が求めていた人物だったことをリヒトに告げる。
「……捕まっちゃったか」
「センパイ……!」
「お久しぶりだね。リヒト君」
困った声を打ち消すように浮かべられた学生時代と寸分たがわぬ笑みに喉まで出かかっていたはずの文句が急速に勢いを失くしてひっこんでいく。
変わりに出てきた声は自分でも呆れるくらいに女々しくて情けないものだった。
それでもまた会えたことが嬉しくて、こうして話ができることが幸せでリヒトの表情は自然と綻ぶ。
「また会えて、よかった。急に居なくなったから、」
「心配、してくれたんだ?」
「当たり前じゃないですか!」
「嬉しいな」
リヒトは柔らかく瞳を細めて本当に嬉しそうにはにかむ彼女の姿に息を呑んだ。
昔から綺麗に笑う人だと思っていた。
だけど、こんな風に笑う姿を、こんな笑顔を見たことがあっただろうか。
あの頃と同じようで全く違う。長く会っていなかったからだろうか?
その違和感は久しぶりに帰った家で見つける弟妹の成長に気付いた時と似ているようでどこかが違う。
自分にとってこの人は頼りになるセンパイで、親元を遠く離れたあの場所で誰よりも安心をくれた人で――――…。
ぐるぐると果てのない思考に陥りそうになったリヒトを引き戻すように柔らかな笑い声が耳を擽った。
「ふふ、それにしても随分とカッコよくなったねぇ。
縁談とかすごいんじゃないの??」
「からかわないでくださいよ」
からかうように付け足された言葉に口を尖らせながらリヒトは内心ほっと息を吐く。
そうだ。これが俺とセンパイの間にあった距離だ。
この人の前でなら俺は気を抜いていられた。
それこそ家族とジオやニナと一緒にいるように、ごく自然に肩の力を抜いていられたんだ。
共に過ごした学生時代を思い出しながらリヒトはクスクス笑う彼女を小さく睨みつけた。
「変わらないね、君は。
膨れても可愛いだけだよ。リヒト君」
「さっき俺のことカッコよくなったって言ったじゃないですか」
「うん。だから可愛さも忘れない君はすごいと思うよ。
さぁ、そろそろナイト殿のところにお戻り」
「気持ち悪いこと言わないでください。あいつはただの腐れ縁です。
……それに俺はまだ、センパイと一緒にいたい、です」
余裕の笑みを浮かべてリヒトをからかっていた彼女の顔が驚きで彩られ、細い喉が大きく動く。
目を見開いて自分を凝視する彼女にリヒトは不安になる。
今まで一度だって彼女のこんな反応を見たことがなかったら余計になにかマズイことでも言ってしまったのだろうかと思わずにはいられなくなった。
「迷惑、ですか?」
「……本当にズルイよね。君」
「センパイ??」
「でも今夜は勘弁して。今度お茶を御馳走されてあげるからさ」
「っ、約束、ですよ」
「うん。というかリヒト君わかってる?私のお茶代、君持ちだよ??」
「もちろん。センパイのお好きなもの御馳走しますよ」
その言葉に信じられないものを見るような顔でリヒトを見つめる彼女はもっと驚くことになる。
なんならお迎えに伺いましょうかという言葉と共に悪戯っ子のような笑みを浮かべたリヒトのせいで。
人の波に、色とりどりのドレスや装飾品に埋もれていくその色を視線だけで追うことに限界を感じた体は自然と動き出す。
「リヒト……?」
「ごめん!知り合い見つけた!」
「は?ちょ、待てよ!
………もう見つけたのかよ」
ジェロの慌てた声もその後に小さく吐き捨てられた言葉も聞くことなくリヒトは人の波を縫うようにその色を追いかける。
人の波を抜けて、テラスを抜けて、外へと続く階段を下りて、それでも深い藍色は止まることなく揺れ続けている。
見失いそうな背中をなんとか追い続けて辿りついたのは夜会の喧騒から遠く離れた庭園だった。
昼間とは全く違う印象を与えるそこに別世界に足を踏み入れたような高揚と恐怖を味わいながらリヒトは踊るように前を走る女性の手首を掴む。
それに観念したのか軽やかなステップを刻んでいた足が止まりゆっくりとリヒトを振りかえった。
雲間から差し込んだ月の光が静かにふたりを照らし、捕まえた彼女が求めていた人物だったことをリヒトに告げる。
「……捕まっちゃったか」
「センパイ……!」
「お久しぶりだね。リヒト君」
困った声を打ち消すように浮かべられた学生時代と寸分たがわぬ笑みに喉まで出かかっていたはずの文句が急速に勢いを失くしてひっこんでいく。
変わりに出てきた声は自分でも呆れるくらいに女々しくて情けないものだった。
それでもまた会えたことが嬉しくて、こうして話ができることが幸せでリヒトの表情は自然と綻ぶ。
「また会えて、よかった。急に居なくなったから、」
「心配、してくれたんだ?」
「当たり前じゃないですか!」
「嬉しいな」
リヒトは柔らかく瞳を細めて本当に嬉しそうにはにかむ彼女の姿に息を呑んだ。
昔から綺麗に笑う人だと思っていた。
だけど、こんな風に笑う姿を、こんな笑顔を見たことがあっただろうか。
あの頃と同じようで全く違う。長く会っていなかったからだろうか?
その違和感は久しぶりに帰った家で見つける弟妹の成長に気付いた時と似ているようでどこかが違う。
自分にとってこの人は頼りになるセンパイで、親元を遠く離れたあの場所で誰よりも安心をくれた人で――――…。
ぐるぐると果てのない思考に陥りそうになったリヒトを引き戻すように柔らかな笑い声が耳を擽った。
「ふふ、それにしても随分とカッコよくなったねぇ。
縁談とかすごいんじゃないの??」
「からかわないでくださいよ」
からかうように付け足された言葉に口を尖らせながらリヒトは内心ほっと息を吐く。
そうだ。これが俺とセンパイの間にあった距離だ。
この人の前でなら俺は気を抜いていられた。
それこそ家族とジオやニナと一緒にいるように、ごく自然に肩の力を抜いていられたんだ。
共に過ごした学生時代を思い出しながらリヒトはクスクス笑う彼女を小さく睨みつけた。
「変わらないね、君は。
膨れても可愛いだけだよ。リヒト君」
「さっき俺のことカッコよくなったって言ったじゃないですか」
「うん。だから可愛さも忘れない君はすごいと思うよ。
さぁ、そろそろナイト殿のところにお戻り」
「気持ち悪いこと言わないでください。あいつはただの腐れ縁です。
……それに俺はまだ、センパイと一緒にいたい、です」
余裕の笑みを浮かべてリヒトをからかっていた彼女の顔が驚きで彩られ、細い喉が大きく動く。
目を見開いて自分を凝視する彼女にリヒトは不安になる。
今まで一度だって彼女のこんな反応を見たことがなかったら余計になにかマズイことでも言ってしまったのだろうかと思わずにはいられなくなった。
「迷惑、ですか?」
「……本当にズルイよね。君」
「センパイ??」
「でも今夜は勘弁して。今度お茶を御馳走されてあげるからさ」
「っ、約束、ですよ」
「うん。というかリヒト君わかってる?私のお茶代、君持ちだよ??」
「もちろん。センパイのお好きなもの御馳走しますよ」
その言葉に信じられないものを見るような顔でリヒトを見つめる彼女はもっと驚くことになる。
なんならお迎えに伺いましょうかという言葉と共に悪戯っ子のような笑みを浮かべたリヒトのせいで。
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