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第3章~あなたの愛に完全幸福します~
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しおりを挟む王女を任せるとの言葉を賜ってから会っていない王に呼び出されてリヒトは顔を顰めた。
いい予感が全くしない。
そう思っても断わることなどできはしないのだからリヒトは重たい足を引きずって謁見の間に向かった。
そこには王と宰相、何故かジェロージアがいた。
リヒトはますます嫌な予感が胸を締めつけ、脳内で警鐘が鳴り響くのを感じた。
出来ることなら今すぐまわれ右をして帰りたい。
「急に呼びだしてすまなかったな」
「いえ」
「今日はそなたに確認したいことがあって呼んだのだ」
「なんでしょうか?」
あぁ、答えたくない。絶対、碌な事を聞かれない。
「そなた、将来を約束している者はいるか?」
「……はい?」
「いるのか?」
「いえ、今のところそのような方はいませんが」
だからどうしたというのだろう。
そんな顔をしていたリヒトの宰相がニヤリと笑い、王はあからさまに表情を緩ませた。
「そなた王女と結婚する気はないか?」
告げられた言葉の意味が理解できずにリヒトはまじまじと王を見た。
ニコニコと笑っている王の表情からすると先程自分の耳が拾った言葉に間違いはないようだ。
自分と同じようにその言葉を聞いていただろうジェロージアを見ると彼は特に気にした風でもなく平然としていた。どうやらこの件にもまた一枚噛んでいるらしい。
「……その件に関しては既にジェロージア殿のお名前が挙がっていたと思うのですが」
ヒクリと頬を引き攣らせたままなんとか言葉を紡ぐ。
そんなリヒトの様子に宰相は心なしかげっそりした顔で口を開いた。
「王女殿下はこの国の次代を担うお方。その方を支えるにふさわしい者をぎりぎりまで吟味するのは当然。
ジェロージア殿の了解も頂いています。」
もっともらしいことを言っているが実際はめちゃくちゃだ。
リヒトは夜の闇の一員である時点で王女にはふさわしくない。
ましてやリヒトは王女ではなく夜の闇の次代のボスを支える役を既に担っている。
ふたりの関係はコインの表と裏の様なものだ。
背中合わせに向き合うことはあっても、真正面から向かい合うことはない。今の状態が異常なのだ。
「侯爵には既に手紙をやった」
信じられないという顔をするリヒトに気付かず、王はまたもや爆弾を投下した。
リヒトはその言葉に頭を抱えたくなった。なんて面倒なことをしてくれたんだ。
またセイラが暴走してむちゃをしでかしたらどうしてくれる。
そう思うも相手は一応この国で一番偉い人物なので睨みつける訳も行かずにリヒトは視線を落として文句をぐっと呑みこんだ。
「お言葉ですが、夜の闇に生きる私などが王女殿下にふさわしいとはおもいません」
「そなたは養い子だろう。正式な後継なわけでもない。ならば問題ない」
血の繋がり。またしてもぶち当たったそれにいい加減うんざりする。
だからなんだ。そんな葛藤とっくの昔に乗り越えてる。
その上で自分はあの場所を選んだんだ。王だろうがなんだろうが誰にも文句を言わせる気はない。
「それでも私が生きるのは夜の闇です。昼の世界で生きようとは思いません。
それに」
一度言葉を区切ってリヒトは切なげに顔を歪めた。
結婚しないでと泣く姿を見た。自分のことが好きだと笑う顔を見た。
待っていてもいいかと泣きそうな顔で尋ねながら、それでも最後は笑って見送ってくれた。
「待たせている人がいます。私が出す答えを待っていてくれている人がいます。
……王女殿下のお相手は私には務まりません。どうかご容赦を」
「そう、か。ならばまだ答えを出すな。
王女のことも考えよ。せめてそなたがここを去る日まで」
しつこいなと思いながらもそれ以上の折衷案は出ないだろうとリヒトは是と頷いてその場を辞した。
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