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~後日談・番外編~
はじまりの記憶ー2ー
しおりを挟む唇を引き結んでぎゅうっと身体を縮こまらせたところにもう一度声がした。
「……誰か―――この家の娘か?」
慎重な声だった。
警戒と何かが混じった少し強張ったような声に自然とルナの体にも力が入る。
「……俺は“夜の闇”を継ぐものだ。
この家の者には危害を加えない。」
それでも耳に飛び込んできた単語に転がるようにして外に飛び出した。
それが唯一、父様たちにつながる言葉だったから。
「……お前、ひとりか?」
「は、い」
危うく地面にぶつかりそうだった私を抱きとめたのは知らない少年だった。
少年が小さく安堵の息を吐いたのを聞きながら震える声で返事を返す。
聞きたいことも聞かなければならないことも沢山あった。
だけど、それよりもはやく父様たちに会いたかった。
「ボス!!こっちの生存者はゼロ、だ……」
そんなルナの希望を打ち砕いたのは剣を片手に駆けこんできた少年だった。
少年の言葉に思考が止まる。
私を抱きとめて床に降ろした少年がギロリと彼を睨んだ。
少年も報告すべきボスの腕の中で小さく震える少女が居たことに気付くと自然と語尾がすぼまってバツの悪そうな顔をした。
けれど肝心な部分はハッキリと言ってしまったあとなので手遅れである。
部屋に降り立った気まずい沈黙を破ったのはルナの震えるか細い声だった。
「せいぞんしゃ、ぜろ…?
父様は?母様は?爺やは?
大丈夫でしょう?
きっと、どこかに隠れてるんでしょう?
そうか、逃げられたのね。はやく探さなきゃ」
「「……」」
よろよろと腕の中から抜け出そうとするルナに少年はぐっと眉を寄せた。
それでも彼女にかけてやれる言葉を少年たちはなにひとつ持っていなかった。
無言の答えが何よりもルナに現実をつきつける。
縋るような視線の先には眉を寄せて唇を噛む少年と同じく固く唇を引き結んでルナから目をそらす少年が居た。
「だって、迎えに来てくれるって言ったわ。
爺やは、私に嘘つかないもの。
父様と母様だって忙しくても、ぜったい、私の顔見に来るの。
夜中に、私が寝ちゃってても、優しく頭を撫でて、それで、それで……!!」
いやいやと首を振るルナを真っ直ぐに見詰めて少年は重たい口を開いた。
「……残念だが、ココにお前以外の生き残りはいない」
「うそ、嘘よ!!会わせて。父様たちに会わせて!!」
信じない。信じるもんか!!
そんなの絶対に嘘だ!!
絶対に、絶対に、嘘だ……!!
涙さえ出てこなかった。
あんなに怖かったのに。あんなに不安だったのに。あんなに、あんなに会いたかったのに。
父様も母様も爺やもちゃんといた。
綺麗な、とても綺麗な姿で眠っていた。
ルナは強張った笑顔でそっと青白い爺やの頬を撫でた。
「爺や?寝てるの……??
遅いから、私が来ちゃった」
「父様も母様も返事してくださらないの。何回呼んでも、応えてくれないの。
ねぇ、爺や。どうして、どうして……!」
ポタリ。ポタリ。
落ちてくるそれを拭うこともしないでルナは話続けた。
「いい子にするわ。お勉強も嫌がったりしない。
爺やの言うこと聞いて、今よりうんといい子になるわ」
胸の上で固く組まれた両手を握りしめてルナは叫んだ。
「だから、返して。
父様も母様も爺やも、執事のお兄さんたちもメイドのお姉さんたちも。
返して。連れて行かないで。
お願いだから、みんなを返して……!!」
見つけられた者たちはみんな眠っているだけのようにしか見えないのに、服を汚す赤が、体温を失った体が、ルナから希望の光を奪った。
何度呼んでも、ルナが泣き喚いても、誰もルナに応えてくれなかった。
困った顔をして頭を撫でてくれなかった。
しょうがないなと笑ってくれなかった。
もう大丈夫だよと抱きしめてくれなかった。
「もういい。もう、十分だ」
何が?
なにがもういいの?なにがもう十分なの?
分からなかった。なにひとつ。今自分の身に起こっていることも、目の前の光景の意味も、少年たちの言葉も。
赤く染まった世界で、冷たい手に縋りついて泣くことしかルナにはできなかった。
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◆◇◆◇◆◇◆
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よろしくお願いします。
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