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~後日談・番外編~
はじまりの記憶ー3ー
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涙はなかなかとまってくれなかった。
ルナを爺やから引きはがそうとした少年もボスと呼ばれた少年に止められてそれ以降はルナの好きなようにさせてくれた。
少年たちはずっと、ルナが疲れ果ててしまうまで付き合ってくれた。
ようやく涙も声も掠れてくるとルナを見つけてくれた少年が優しくルナのすぐ隣にしゃがみこんだ。
そして黙ってルナの手を握った。
慣れていないのだろう大きな手が力加減を確かめるようにルナの小さな手を包み込む。
その不器用さについさきほど失くしたばかりの優しさや温もりを感じてルナはまた涙を零した。
今度は静かに、ただ黙って涙を流した。
「……よく、頑張ったな。」
冷たくなった爺やの手からルナの手をやんわりと剥がしながら紡がれた言葉にルナは大きく目を見開いて顔を上げた。
ずっと欲しかった言葉だった。
あの真っ暗な闇の中で求めてやまない温もりだった。
欲しかった声ではないけれど。望んでいた温もりではないけれど。
だけど、ずっと、ずっと、欲しかった。
その言葉が、身体を包む温もりが、ずっと欲しかった。
この時はじめてルナは長くて恐ろしい夜が、一人ぼっちで恐怖に耐えなければならない時間が終わった気がした。
「もう大丈夫だ。なにも心配しなくていい」
じんわりと滲んだ視界に映る少年はぼやけてよく見えないのにとても優しい顔をしていると思った。
すっかり冷たくなった手を温めるように重ねられた大きな手は力を込めると応えるように握り返してくれる。
ポロポロと零れ落ちる滴を掬うようにゴツゴツした指が頬を滑る。
大きな手はそのままサラリと髪の中に埋め込まれそっと引き寄せられた。
コツンと少年の胸にルナの額がぶつかる。
そのままの振り払えば簡単に抜け出せる緩やかさで拘束されてルナは唇を噛んだ。
柔らかな拘束の中でルナは何も言えずにじっとしていた。
縋ることも振り払うこともしなかった。甘えることも拒絶することもできなかった。
少年もただ黙ってルナに胸を貸しながら時折なぐさめるようにぎこちない手つきでルナの髪を梳いた。
指が髪を滑る感触にどうしようもなくなって頭を少年に押し付ける。
一度ビクリとしたけれど少年はやっぱりルナを抱きしめながら優しく囁いた。
「大丈夫だ」
その声は不思議とよく知っている声に重なった。
『大丈夫ですよ』
全く違う声なのに。
少年の声よりもずっと年をとった深く穏やかな声なのに。
『ほらほら泣き止んで。可愛い顔がだいなしですぞ』
たくさんたくさん困らせて何度も何度も聞いた声なのに。
もう二度と聞けない声なのに。
『大丈夫ですよ。なんといってもルナ様は爺の自慢のお嬢様ですからな!
さぁ、笑って顔をお上げなさい。奥様のような立派なレディになるのでしょう?』
聞こえないはずの声が、最後の最後までルナに座り込んだままでいることを許さない。
優しくて優しくて、泣きたくなるくらいに優しくてルナに厳しかった爺や。
「は、い」
私は、爺やの自慢のお嬢様で、お父様とお母様の自慢の娘で、この家の唯一の生き残り。
だから、だから、
「だいじょうぶ、です」
笑わなきゃ。
もう、遅いかもしれないけど。
たくさん泣いちゃったけど。
だけど、だから、ちゃんと顔を上げて笑ってみせる。
一人ぼっちになっちゃっても、悲しくても、さみしくても、笑ってみせる。
それが、爺やの、お父様の、お母様の、教えだから。
「……」
なのにどうして。ちゃんと笑えているはずなのにどうして、そんな顔をするの?
顔を上げて笑って見せたルナを見て少年はぐっと眉間に皺を寄せた。
深い深いその溝にルナはまた泣きたくなった。
だけど、ルナが負けてしまうより先に溜息をついた少年が手を差し伸べるほうが早かった。
「……一緒に来るか?」
真っ赤に染まった世界で差し出された大きな手を握りしめた。
はじまりの記憶
(私とあなたの1番最初の記憶)
(あの時からずっとあなたは私のヒーローで王子様なんだよ)
(なんて言ったらどんな顔するかなぁ)
ルナを爺やから引きはがそうとした少年もボスと呼ばれた少年に止められてそれ以降はルナの好きなようにさせてくれた。
少年たちはずっと、ルナが疲れ果ててしまうまで付き合ってくれた。
ようやく涙も声も掠れてくるとルナを見つけてくれた少年が優しくルナのすぐ隣にしゃがみこんだ。
そして黙ってルナの手を握った。
慣れていないのだろう大きな手が力加減を確かめるようにルナの小さな手を包み込む。
その不器用さについさきほど失くしたばかりの優しさや温もりを感じてルナはまた涙を零した。
今度は静かに、ただ黙って涙を流した。
「……よく、頑張ったな。」
冷たくなった爺やの手からルナの手をやんわりと剥がしながら紡がれた言葉にルナは大きく目を見開いて顔を上げた。
ずっと欲しかった言葉だった。
あの真っ暗な闇の中で求めてやまない温もりだった。
欲しかった声ではないけれど。望んでいた温もりではないけれど。
だけど、ずっと、ずっと、欲しかった。
その言葉が、身体を包む温もりが、ずっと欲しかった。
この時はじめてルナは長くて恐ろしい夜が、一人ぼっちで恐怖に耐えなければならない時間が終わった気がした。
「もう大丈夫だ。なにも心配しなくていい」
じんわりと滲んだ視界に映る少年はぼやけてよく見えないのにとても優しい顔をしていると思った。
すっかり冷たくなった手を温めるように重ねられた大きな手は力を込めると応えるように握り返してくれる。
ポロポロと零れ落ちる滴を掬うようにゴツゴツした指が頬を滑る。
大きな手はそのままサラリと髪の中に埋め込まれそっと引き寄せられた。
コツンと少年の胸にルナの額がぶつかる。
そのままの振り払えば簡単に抜け出せる緩やかさで拘束されてルナは唇を噛んだ。
柔らかな拘束の中でルナは何も言えずにじっとしていた。
縋ることも振り払うこともしなかった。甘えることも拒絶することもできなかった。
少年もただ黙ってルナに胸を貸しながら時折なぐさめるようにぎこちない手つきでルナの髪を梳いた。
指が髪を滑る感触にどうしようもなくなって頭を少年に押し付ける。
一度ビクリとしたけれど少年はやっぱりルナを抱きしめながら優しく囁いた。
「大丈夫だ」
その声は不思議とよく知っている声に重なった。
『大丈夫ですよ』
全く違う声なのに。
少年の声よりもずっと年をとった深く穏やかな声なのに。
『ほらほら泣き止んで。可愛い顔がだいなしですぞ』
たくさんたくさん困らせて何度も何度も聞いた声なのに。
もう二度と聞けない声なのに。
『大丈夫ですよ。なんといってもルナ様は爺の自慢のお嬢様ですからな!
さぁ、笑って顔をお上げなさい。奥様のような立派なレディになるのでしょう?』
聞こえないはずの声が、最後の最後までルナに座り込んだままでいることを許さない。
優しくて優しくて、泣きたくなるくらいに優しくてルナに厳しかった爺や。
「は、い」
私は、爺やの自慢のお嬢様で、お父様とお母様の自慢の娘で、この家の唯一の生き残り。
だから、だから、
「だいじょうぶ、です」
笑わなきゃ。
もう、遅いかもしれないけど。
たくさん泣いちゃったけど。
だけど、だから、ちゃんと顔を上げて笑ってみせる。
一人ぼっちになっちゃっても、悲しくても、さみしくても、笑ってみせる。
それが、爺やの、お父様の、お母様の、教えだから。
「……」
なのにどうして。ちゃんと笑えているはずなのにどうして、そんな顔をするの?
顔を上げて笑って見せたルナを見て少年はぐっと眉間に皺を寄せた。
深い深いその溝にルナはまた泣きたくなった。
だけど、ルナが負けてしまうより先に溜息をついた少年が手を差し伸べるほうが早かった。
「……一緒に来るか?」
真っ赤に染まった世界で差し出された大きな手を握りしめた。
はじまりの記憶
(私とあなたの1番最初の記憶)
(あの時からずっとあなたは私のヒーローで王子様なんだよ)
(なんて言ったらどんな顔するかなぁ)
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